バイオハザード編Ⅰ 失われし休日と崩れゆくゾンビの概念
前回から数日後です。
用語解説は鋭意製作中で、そのうち割り込み投稿で2章のラストに入れます。
あのクソ姉貴に理不尽にも討伐者分隊、探索者の分隊にブチ込まれて1ヶ月ほどが経った。
隊の異常者共に振り回され、何度か心が折れそうになったが、俺のご近所での尊厳を守るという目的のためにかろうじて勤務を続けられている。
そして今日は5日ぶりの休日。
今日は特に何の用もないので、朝飯をプルファに与えた後再びベッドに戻り、ひたすらにラノベを読んで過ごしていた。
はー、働くようになると休日のありがたみがよく分かるなー。
プルファも絵本を与えたら1時間/冊くらいは大人しくしてるし、助かるわー。
読んでないラノベもそこそこ溜まってるし、今日はひたすら読み続けよっと。
『ジリリリリリリリンッ、ジリリリリリリリンッ』
溜まっていた一冊目を読み終え、二冊目に入ろうと思ったタイミングで電話がかかってきた。
誰だ俺の至福の時間を邪魔する阿呆は。
今か真凛だったらスルーだな。
ベッドから精一杯机の上のスマホに腕を伸ばして画面を見ると、そこには副隊長の文字が。
なんか嫌な予感がするなぁ。
「…はいこちら小鳥遊」
「小鳥遊隊員、休日にすみません、草薙です。もう知ってはいると思いますが緊急事態なので至急拠点まで…」
副隊長がだいぶ焦ったように言った。
緊急事態。それだけでもう面倒ごとであることは確定している。
申し訳ないが今日は休日。俺の都合を優先させてもらおう。
「あーちょっと電波がー」
「はい?ちょっ、小鳥遊隊員⁈」
『ピッ』
俺は迷わず電話を切り、スマホを置いて再びラノベを開…
『ジリリリリリリリンッ、ジリリリリリリリンッ』
…こうとすると、また電話が鳴った。
副隊長からの電話かと思いきやその相手は真凛。
でもまぁ、要件は同じだろうな。
『ピッ、シャッ』
もうこれ以上邪魔されたくもないので、俺は電源まで切ってスマホをクッションまで投げ飛ばした。
〜A few minutes later 〜
「はー、まさか本編で語られなかったこいつら過去が読めるとは。この小説本編で伏線があんまり回収されないから結構モヤってたんだよなぁー」
小説のスピンオフやら番外編やらはあまり読んでこなかったので素通りしていたのだが、もっと早く読んでおくんだった。
魔王軍幹部のリッチーと悪魔の馴れ初めがこんなだったとは。
この人の小説のことだし、まともな馴れ初めじゃねぇだろうなと思ってはいたが、予想以上だった。
BOOK-OFで買って良かったー。
『ピーンポーン』
当たりの作品を引いた余韻に浸っていると、部屋の静寂をインターホンが打ち消した。
この前Amazonesで頼んだ漫画が届いたのだろうか。
「はーい、宅配ですかー?」
『我が名は真凛!探索者の分隊随一の狙撃手にして、電撃操作を操りし者!』
「知らない人ですねお引き取りくださいー」
インターホンの向こうにいたのはただの野生の不審者だったので、俺は再び通話速攻で切って、ベッドに戻った。
「(コラ麻義ー!開けろー!待って麻義お願い開けてぇぇ!ギャアァ!来てる!もうそこまで来てるってぇぇぇぇ‼︎)」
インターホンを切ったことに気づいたのか、真凛がドンドンとドアを叩いた。
来てる…って何が?
まさか、俺の平穏を脅かす非常事態とやらが、ココまで来てるってのか⁈
嫌な予感を感じつつ窓の外を見ると、そこには予想を凌駕する光景が広がっていた。
道路をヨタヨタと歩き回る緑色っぽい人型の影。
逃げ惑う人々。
逃げきれずに追いつかれて噛まれた人は、それらと同じ様相になる。
リアルとフィクションの境界が希薄になっているとは思っていたが、まさかここまでとは。
昨日も普通に歩いたうちの前の道路。
そこは、老若男女問わずトップクラスの知名度を持つモンスター、ゾンビが、大量に闊歩していた。
「(麻義ぃ‼︎麻義さぁん‼︎お願いぃ!開けてぇぇぇ‼︎)」
流石にこの状況で見捨てる訳にもいかないので、俺は軽く急いで玄関へと向かった。
「っはー。あなた、焦らさないでさっさと開けなさいよね。マジで死ぬかと思ったわ」
ドアを開けるやいなや飛び込むように家に上がり込んだ真凛は、勝手にリビングのソファに座ってくつろいでいた。
「お前一応人んちなんだから、少しは遠慮しろよな。で、外のアレは何なのか、お前はどうしてここにいるのか、なぜうちの場所を知っていたのか、洗いざらい話してもらおうか」
「質問が多いわね。まぁもっともな質問よね、教えてあげましょう」
相変わらず謎に偉そうな真凛が一から語り出した。
真凛の話によると、昨日の深夜頃から県内でゾンビ化するウイルスが蔓延しているそうだ。
研究者の人が解析したところ、それはこの世界のウイルスではないようで、案の定異界門から来たものらしい。
「んで、そのゾンビ化しちゃった人たちを回収するために私たち討伐者が駆り出されてるって訳」
なるほど。そりゃあ緊急事態だわな。
プルファを単独で行かせるのはまだ不安だし、面倒臭いが行かねぇわけにはいかねぇかぁ。
「…ん?回収?駆逐じゃなくて?」
「それね。で、ここからが重要なんだけど…」
ここで真凛がゾンビの定義をぶっ壊すようなことを言い出した。
というのも真凛が言うにはあのゾンビたち、なんとまだ生きている。
生きてる状態で思考回路がイカれ、人を襲う本能のようなものだけで動いているらしい。
つまり、厳密にはアレはゾンビでは無く、理性を失ったただの緑色っぽい病人だそうだ。
「へぇ、じゃあまだ助けられるんだな。そいつは良かった…ん?それってむしろただのゾンビものより状況悪くないか?」
「気づいたようね。そうよ。あれがまだ人間である以上倫理的にも法的にも倒したら殺人ってことになるのよ。だから討伐者って言っても討伐はできない。無力化してSuRe本部の人とか事後処理部隊の人とかに引き渡すしかないのよねー」
マジですか。
あの数を無力化しつつ殺さないって、相当難易度上がるぞ。
「そりゃあまた超極ムズ案件だな。てかお前電撃しか使えないんだし、何もできねぇんじゃねぇか?」
「あなた電気の利便性を甘く見てるわね。私くらいになると、気絶させる程度の電撃を広範囲にぶつけるのもお茶の子さいさいなのよ」
なるほど。
そういえば、俺も前にこいつに気絶させられたことあったわ。
「まぁでも、それでも手が足りないからあなたを呼びに来たんだけどね。萌樹さんがいた時ここに来たことがあったから、私が遣わされたって訳よ。説明はこれでいい?」
「あぁ、絶望的な状況だってことはよく分かったよ」
正直マジで行きたくない。
ドローン通販使えばここから出ずに過ごせるだろうし、行くにしても長丁場はほぼ確だろう。
終わりの見えない戦いとか一番嫌いなんだけどなぁ。
「ってことで行くわよ麻義。あとできればプルちゃんも」
真凛がいつになく真面目な表情で立ち上がった。
「しゃあない。まあ強敵ってわけでも無いし、俺もああなるってことはねぇだろ。んじゃ、早速いくか。行くぞプルファー」
「キュゥイ!」
そう俺はプルファを呼びつつ、玄関へ…
「…あ、でも俺あっちまで行く乗り物無い!」
ほうきはこの前黒たちに預けてから、まだ帰ってきていない。
だから最近は経費を使って電車で拠点まで行っていたのだが、今は電車は止まっているだろう。
行きたくても行きようがない。
いや行きたくはないけれども。
「問題ない。超想定内だ。ちゃんと預かって参りましたよ」
真凛はドヤ顔で格納術式に手を突っ込み、それ取り出した。
「おぉぉぉぉ‼︎」
真凛が俺に差し出したそれは、修理を依頼していた俺のほうきだった。
この前折れたところは跡も残らず修復され、心なしか全体的に新しくなった気がする。
「今朝修理が終わったらしくてね。私のシミウスフラブス号もおんなじタイミングで改良できたらしいから、まとめて預かっておいたのよ。あ、そっちも多少改良されたらしいわよ?」
「ゲッ、マジか…」
あの爆速ほうきを魔改造して作り出した白黒コンビが改良したと聞くと、少し怖気付く。
でもまぁ、使わないと分からないし、思い切って乗らないと。
「よし、これで残念ながらいけない理由がなくなったな。さっさと行って、なる早で片付けるか」
「ようやく行く気になったようね。それじゃあ、レディ・パーフェクトリー。準備は完全に整った!行くよ二人とも!」
「はいはい」
「キュゥイ!」
俺たちはゾンビ蠢く街中の上空を飛び、拠点へと向かった。




