集結編Ⅳ 仁義系ヤクザと生臭系聖職者
切りが悪くて結構長くなりました。集結編ラスト&多分第2章本編最終回です。
『カチャッ』
真凛が駆け寄る足音を聞きつつ、俺は拠点の裏口のドアを閉じた。
「ねぇ、何で閉じたの?」
ドアの前についた真凛が尋ねた。
「いや、何だあのメンツ。現段階で異常者まみれのこの隊なのに、その中でもやばいぞ」
ドアの向こうはいつになく人口密度が高かった。
副隊長の他にいつのまにか刻、咲楽、毘彩も来ていて、千歳含む対大型種班と思しき連中もいた。
しかしその、対大型種班の連中が異常だった。
一人は貧相な体のくせに上裸に隊服を羽織っただけのタバコを吸っているおっさん。
一人は右目に眼帯、左腕に包帯を巻いた、ロングコートを着て黄色っぽい髪の少女。
そして一人は、金髪黒目に黒スーツ、色眼鏡、そして左目にでっかい切り傷が縦に走った、めちゃくちゃ目つきの悪くてごつい男だった。
もう大概の人種には動じない自信があった俺だが、これは無理な気がする。
絶対関わるなと俺の勘が言っている。
「すまん真凛、どれかは分からんが回復役の人にプルファの治療頼んでおいてくれ。俺は仮病の持病で早退する」
「何よ仮病の持病って。それと、プルちゃんの治療くらい責任持ってあんたが頼みなさいよね。多分これからも世話になるんだし」
こいつ、こんな時だけ正論言いやがって!
「いやあれは無理!絶対に関わってはいけない奴だって!」
「どないしたんや、兄ちゃん」
真凜と言い合いながら俺がドアを指さすと、金髪のごっつい男がそのドアを開き、俺に尋ねた。
「へっ、いや、何でもない…です」
「そうか、ほなさっさと入んな」
「は、はいっ」
豆腐…いや、飲むヨーグルト程度のメンタルしかない俺は当然ここまできて逃げることなどできず、おとなしくついていった。
しっかし、そんな俺を見てケタケタ笑ってるこのバカは後でどうしてくれようか。
「巫吉夜だ。よろしくな坊主」
半裸のおっさんが言った。
この歳にもなって坊主って久々に言われたわ
「宝寿院メイズ」
眼帯×包帯の厨二少女が言った。
自己紹介ってもう一言くらいあるもんじゃない?
そして…
「お控ェなすって!私、手前生国は甲州勝沼、虎鉄組の頭を担います若い者、稼業探索者の分隊末席。姓は仙石、名は虎鉄の八代目。人呼んで、不壊のコガネと発します!以後よろしゅうお頼み申します!」
どう見てもヤのつく人にしか見えない虎鉄と言った男性は、腰を落とし、ドスの効いた大声で仁義を切った。
リアルでこれ初めて見たわぁ…
「えーっと、俺は、手前生国は市川大門、家の留守を担ってました若い者、稼業探索者の分隊新人。姓は小鳥遊、名は麻義。人呼んで、神速の終幕の麻義と発します。以後よろしゅう」
とっさに自己紹介を真似てしまったが、やっちまったかこれ。
虎鉄の眼力がさらに強まった気がする。
「はっはっは!坊主ノリいいな。気に入ったよ!」
半裸のおっさん、もとい吉夜が言った。
ノリが良いとかではなく頭が回らなくて条件反射しただけなんですけど。
「コガネー‼︎」
仁義を切る体制から戻った虎鉄に白が飛びついた。
マジかこいつ嘘だろ。
「おぅ久しぶりやなお嬢。元気しとったか?」
「ハクは元気だよ!コガネは元気?」
「おう、おかげさんでな」
白が虎鉄の両手を掴んで上下にブンブンと振っている。
虎鉄は相変わらず強面だが、少し微笑んでいる感じがする。
「…なぁ、これはギャップ系のキャラということでいいのか?」
もう何となく確信しているが、一応近くにいた真凛に尋ねた。
「さすが分かってるじゃない。そうよ、なんか白は虎鉄にすごい懐いてるのよ。っていうか虎鉄は妙に子供と近所のマダムと爺様婆様に人気があって…あっ、これってネタバレじゃない!ごめん今のは忘れて?」
思った通りだった。やっぱりそっちかー。
「忘れろと言われて忘れられるかよ。てかあのなりで良い人系かよ、またベタだな」
「王道と言ってあげてよ。サブカルが爆発的な成長を遂げて、数多の変な題材の漫画やラノベが出ている今、結局王道ってのは一周回って大事だと思うのよ」
真凛が無駄に偉そうに言った。
「お前はどういう立場なんだよ。その道の専門家みたいなこと言いやがって」
「そりゃあ私の叡智は9割サブカルでできてるからね。専門家と言っても差し支えないと思うわ」
「9割って、廃人極まりすぎだろ」
「廃人はやめて。ていうか私が言うセリフを的確に返してくるあなたも相当なもんだと思うわよ」
「同列扱いすんな。俺は昔バカみたいに勉強してたからサブカル知識が占める割合はそんなに多くない」
「でも最近はアニメとかゲームとかしてなかったんでしょ?萌樹さんから聞いたわよ?」
「また奴か、あいつほんとろくなことしねぇな!」
「…あの、そろそろ本題に入ったほうがいいのでは…」
また言い合いに発展した俺たちの間に副隊長が割って入った。
こいつと会話し出すとどうもこうなるんだよなー。
「本題?…あ!そうだプルファ!」
最後までそれなりに戦えていたからあんまり心配していなかったのだが、放置は普通にまずいだろ。
やべぇ、さっきの爆速ほうきとかのせいで完全に忘れてた。
「え、何?私のプルちゃんがどうかしたの⁈」
それまでこっちのことは気にもとめていなかった刻が急に話に入ってきた。
「お前のじゃねぇ俺のだ。今は休憩室で寝かしてるんだけど、さっきの任務でプルファがでかい蜘蛛にタックルされて木に叩きつけられてダメージ負ったんだよ」
「でかい蜘蛛?それってどのくらいの大きさの?」
「トラックくらい。ついでに走る速さもトラックくらい」
「はぁ⁈超重症じゃん!!何で忘れてんのそんな大事なこと!!ちょっと吉夜仕事!!あとあんたは呆けてないでさっさとプルちゃん連れてきなさい、このダメ飼い主!!」
刻が急に慌て出し、吉夜を呼びつけた。
ダメ飼い主とか普段なら言い返すところだが、これに関してはぐうの音も出ない。
「えぇ何、怪我人?俺帰ってきたばっかだよ?ちょっと休ませてくれてもよくない?」
そう言いつつも吉夜は気だるそうに立ち上がり、刻に引っ張られてきた。
まさかとは思ったが、やっぱりこのおっさんが全国有数の回復役、つまり聖職者だったのか。
あの水の駄女神の信者だろうか。
「良くない!いいから大人しく従いなさい!」
どんな世界になっても、若い女子はおっさんに優しくないらしい。
いや、こいつは誰に対してもこんなもんか。
ってこんな悠長に見てる場合じゃない。
俺もさっさとプルファ持ってこないと。
「プルファさんならこちらです」
多少急ぎつつ休憩室まで向かおうとドアノブに手をかけると、横ではすでに式神さんがプルファを持ってた。
さすが仕事が早い。
「えっと、吉夜さん。こいつが怪我人…というか患畜です。治せますか?」
半裸のおっさんに敬意はないが、年上っぽい人には敬語を使っておこう。
「えー何この可愛いの。坊主のペット?…まぁ治せるよ。こいつが動物でも魔物でも妖怪でも」
マジですか。
いや副隊長も言ってたし、アニメとかじゃこういう人が意外と凄かったりするからできるんだろうけど。
でもこの飲んだくれてそうなおっさんが聖職者の上澄みとかそろそろ現実終わってるぞ?
「んじゃ治癒かけるから、ちょっと待っててな」
そう言うと吉夜はプルファに手を乗せ、詠唱を始めた。
すると傷口が淡く光だし、徐々に腫れが引いていった。
クソ姉貴も神聖術を使えたので正直見慣れた光景だが、やっぱりこうして見てみると神々しいものを感じる。
それが例え半裸のおっさんによるものだとしても………そう考えると神々しさ感じなくなってきたな。
このくらいのダメージなら全快に2分くらいはかかるだろうか。
その間眺めていてもしょうがないし、報告書のためにそろそろパソコン立ちあげとくか。
そう思って俺は自分のデスクの方に…
「ん。終わったぞ」
…ようとしたが、パソコンの電源を押す間もなく治療は終わっていた。
「はっ?え、もう終わったんですか」
「おぅ。今はただ寝てるだけだから、あと30分もすれば起きるだろうよ」
プルファを見るとすっかり傷はなくなっていて、今ではすっかり気持ちよさそうに眠っている。
「んじゃ、俺は報告書やるから」
やっぱりこのおっさんがあの一瞬で治したということに信じられず呆然としていると、なんでもなかったかのように吉夜が仕事に戻っていった。
「あっ、ありがとうございました」
「いいよいいよ仕事だし。坊主も怪我したら遠慮なく言えよな」
なんだろうこの人、優秀な上に人間ができてる。
半裸なのにその見た目のマイナスが霞むくらいだ。
うちの班の勝手すぎる馬鹿どもとは大違いだな。
「この人はなんて人間ができている人だろう。私たちとは大違いだ。とか思わなかった?」
真凜が不機嫌そうに尋ねた。
なんでどいつもこいつもそう俺の思考をピンポイントに当てられるんだよ
「…まぁ、近しいことは思ったかな。つか俺の思ったことを当ててくるのはやめてもらおうか。そんで?それがどうかしました?」
「やめる気は無いわ。それで、確かに吉夜は上っ面はいいかもしれないけど、人間ができてるってのは完全に間違いよ」
再び席について一服を始めた吉夜を真凜が指さした。
しかし当の本人は気にもとめずに煙を吹いている。
「は?まさかまた変人なのか?でも第一印象から最悪だったお前よりはマシだよな?」
待ってくれ。
現段階でヤバいやつしかいないのに、これ以上俺の平穏を脅かしそうなやつを出すのやめてくれ。
「あんた後で意識が残る程度に全身しびれさせてやるから。…ねぇ吉夜。あなた今月あといくら残ってる?ちなみに私はあと10万弱くらいなんだけど」
急に真凜がそんなことを尋ねた。
本日は3月7日。
討伐者の給料は普通に月給制なので、こいつは給料の7~8割をたった7日で使い切ったことになる。
「は?お前どんだけ金遣い荒いん…」
「俺はあと2万くらいだよ」
「…はい?」
繰り返すが本日は3月7日。
月の割と初めの方である。
何があったらそうなるんだろうか。
「…一応聞きますけど、清貧のためも兼ねて収入の大半を募金しているとかですか?」
募金であってくれ募金であってくれ募金であってくれ募金であってくれ募金であってくれ。
「いや普通にパチ」
はいダメでしたー。
「希望をかけるだけ無駄でしょ。だって半裸のおっさんだよ?やばいって一目見りゃ分かるでしょ」
刻が呆れたように言った。
いやヤバい奴だとは思ったけどさ、希望は持たせてくれよ。
「ていうか麻義、吉夜たちと会ったこと無かったんだ。もう入ってからそこそこ経ったし、どっかであってるもんだと思ってた」
「そうなんですよ、対大型種班の皆様は基本的に日中の勤務ですからね。あまり麻義隊員の勤務時間と重ならないんですよ」
副隊長が刻に応えた。
確かに俺もそれは違和感を持っていたが、そういうことだったのか。
「そういえば、ここまで皆そろうのも久しぶりね。ていうか麻義は初めてなんじゃない?」
確かに、そもそも吉夜達以外にも黒達とも今日初めてあったんだし、隊員全員集結してるの見るのは初めてかも…
…ん?全員?
「あの愚姉はいいとして、そういえば俺隊長に会ったことねぇな。本部務めとかなのか?」
俺の一言に、退院の皆が「隊長?」とでもいいたげな表情になった。
え?俺なんか変なこと言った?
「…あ、あー隊長ね?あの人普段ここまで辿り着けなくていないから、もういないものとみなしてたわ。あんたも気にしない方がいいよ」
しばらくして、思い出したように刻が言った。
「待て、なんだ辿り着けないって。とんでもない山奥にでも住んでんのかよ」
ここ山梨県は、周りにほぼ山しか無いような県で、山奥の集落みたいなとこはいくらでもある。
そこに住んでいるならまぁ…
「…いや、彼女、空賀隊長は絶望的な方向音痴で、先々月くらいから未だに拠点まで辿り着けてないんですよ」
「あー副隊長!ネタバレはやめて!楽しみが減る!」
類は友を呼ぶという言葉がある。
王道的変人まみれの隊の隊長も、やはりよく聞く感じの欠陥をお持ちだった。
「なんつーか、カオス空間ってこういうことを言うんだろうなー」
キャラが濃すぎる隊員達が騒ぐ様を眺めながら、俺は傍でそうボヤいた。
拝啓、親愛なるクソ姉貴よ。
アンタに強制的に送られた隊に入って数日、そろそろ慣れてきたかと思いましたが、
「だからネタバレは禁忌なのよ分かる?!人の心とかないんか?!」
「あの、これはあくまでも説明であってネタバレでは…」
「隊長も滅多に来ないけど、毘彩もあんまり来ないよね。もっと真面目に働きなさいよ給料泥棒」
「お前にだけは言われたくないわ遅刻魔。それに、俺は適当にふらついた先で仕事してんだから給料泥棒とは言わせねぇぜ?」
「ねぇねぇコガネ、遊ぼー」
「いいですぜお嬢。何しやしょう」
「何、遊ぶの?私も遊ぶのだ!」
「白、麻義さんのほうきの修理があるからそっちを先に…」
「ノワールもやろー?」
「よろこんで」
「ちょっ、ノワールまで…」
「スーッ、フー…。メイズ、お前もやってくりゃいいじゃねえか、歳も近ぇんだし」
「いい、群れるのは性にあわない」
「いいじゃないですか。私は見たいですよ、その貴女の余裕のある表情が年下への敗北でひきつる様を」
『…………………』
改めてこの、平穏から程遠いカオスを見ると、また引きこもり生活に戻りたいと強く思います。
新章始める前に用語解説挟みます。




