目的の為には悪役令嬢も利用する。
その後アンドリッサと別れ、私達はようやく目的の場所へと辿り着いた。
「あの態度は何なんだ!お姉様は身を挺して助けてあげたのに!」
「ダメよ、ライオネル。公爵令嬢の悪口は謹んで」
永遠にアンドリッサの態度に文句を垂れている弟の唇に、ちょいと指を当てる。
「さぁ、そろそろ気分を切り替えて。お母様のお祝いのプレゼントを選びましょう」
「……はい、マーガレットお姉様」
ほんのりと染まった頬が可愛いなと思いながら、私達は気を取り直してオートクチュールの扉を開いた。ぱっと明るい店内は、まるで貴族のパーラーのように美しく、調度品や絵画などがセンスよく配置されている。
トルソーに着せられた数店のドレスやスーツ、帽子やタイなどの小物に至るまで、ごちゃごちゃと並び立てられているのではなく、一点一点がまるで命を吹き込まれたかのようにいきいきとした輝きを放っていた。
「いらっしゃいませ。まぁ、これはこれはフォーサス侯爵家のお子様方ではないですか」
「こんにちは、マダム。今日は、母に贈るストールをオーダーしたくて」
「わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」
小柄で優しげな雰囲気のマダムが、こちらを見るなりにこやかに頭を下げた。この店は母が何度か屋敷に呼んでいたけれど、さほど贅沢を好まない為頻度は多くない。それでもすぐに気付く辺り、さすが人気店の店主だけはあると内心感心した。
「再来週に間に合うようにお願いしたいのですが、難しいでしょうか」
「いえいえ、とんでもございません。必ずご満足いただける品を仕立ててご覧にいれましょう」
あっさりと快諾され、私とライオネルは顔を見合わせた。
「先ほどコンドルセ家の従者の方がいらっしゃって、フォーサス様をどうか丁重にと。だからというわけではありませんが、より一層の誠意を込めたいと気合が入りますわ」
「コンドルセ……?まさかアンドリッサ様が?」
驚きと共にその名前を出すと、マダムは優しく何度も頷いていた。
「ほらね?ライオネル。あの方は、きっと根は悪い方ではないのよ」
「お姉様は、なぜコンドルセ公爵令嬢を知っていたの?家同士の付き合いも大してないし、お茶会にだって呼んだことも呼ばれたこともないよね?」
不思議そうに首を傾げる彼に向かって、曖昧に笑って誤魔化した。なんせ前世……いや前前世は私がアンドリッサだったのだから、知らないことなど一つもない。
多少の違いはあれど、大体の性格は変わっていないと今日分かったことだし、これからは積極的に付き合っていきたい。三年後に迫る火災を阻止する為に。
「とにかく、素敵なプレゼントになりそうで良かったわ。ねぇ、ライオネル?」
「うん、そうだね!」
二人で目を見合わせながら微笑むと、早速生地選びに取り掛かった。
母に無事ストールをプレゼントすることが出来、想像以上に喜ぶ姿を見てこちらの方が幸せな気持ちになれた。それから数日後、今日は我が屋敷にアンドリッサがやってくる日だ。
先日のお礼を兼ねてぜひお茶会を、という旨の手紙を認めると、ポストマンではなく使者が直接返事を届けに来たので驚いた。なぜだかあまり関係のないことがうだうだと書き連なっていたけれど、要約すると「うん、行くよ」という内容。素直ではない彼女らしいと思いながら、手紙を手に思わず噴き出したのだった。
「ようこそ、コンドルセ公爵令嬢。遠路はるばるご足労くださりありがとうございます」
「別に、大した距離ではないわ」
波打つドレープが美しいヴァイオレットのドレスを見に纏った彼女は、とても同い年には見えなかった。私もそれなりに厳しい淑女教育を受けているつもりだけれど、やはり王族に近しいコンドルセ公爵家にはとても及ばないのだとしみじみ感じた。
「どうぞ、こちらへ。我がフォーサス家のオランジェリーを、ぜひご覧いただきたいです」
天候にも恵まれた、母拘りの場所でお茶会を開こうという話になり、母娘揃って入念に準備を整えた。それに、アンドリッサがどんなテーブルメイクや花の種類を好むのか、当たり前のように私の頭に染み込んでいる。
「どうかされましたか?」
「分かったわ。私を懐柔して、コンドルセをいいように操ろうという魂胆ね」
「まさか。一介の侯爵令嬢がそんな恐ろしい真似をするはずがないです」
特に女性から嫌厭されるアンドリッサからしてみれば、突然こんなことを言い出す私を信用出来ないのだろう。彼女の性格は確かに捻じ曲がっているけれど、根は悪い子ではない。
私は手にしていたフォークを置くと、視線をまっすぐ前に向ける。
「手紙にもしたためましたが、もう一度きちんとお礼を言わせてください。先日は、オートクチュールに口利きをしてくださり本当にありがとうございました。コンドルセ公爵令嬢のおかげで、母に素晴らしい贈り物をすることが出来ました」
私が彼女を助けようと思ったのも打算あってのことだったので、少し罪悪感に苛まれていた。




