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パンツを脱ぎたまえ! 【パンツォヌゥゲ異世界物語】  作者: ゆむ
第三章 助けてほしい救世主
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08 脱落

 一方そのころ。


『メシア』は楓と幸一の方針に嫌気が差し、別行動をとると一方的に言って森の奥へと向かって行った。

 だが、『イナミネA』と『カエデ』には大した影響が無い。寧ろチームワークを乱す者たちがいなくなったお陰で、動きがスムーズになっている。


 しかし、『メシア』はそうはいかない。

 今までは三十人で分担していたのが、六人になるのだ。索敵も薬草探しも戦闘も現在位置の確認も全部自分たちでやらなければならない。

 もともとは優喜の方針なのだが、役割分担を明確にし、各人を専門に特化させて鍛えることで全体的なレベルを短期間のうちに向上させるという手法は、楓と幸一もしっかりと引き継いでいる。

 メシアの六人は槍や斧などの武器を扱えるようになっているし、魔力も比較的高い。だから、主に戦闘方面で能力を伸ばしているのだが、相変わらず薬草の見分けはつかないし、位置や方角、時間を確認する技術も持っていない。

 端的に言うと、彼らは帰りの方角は分からないし、森の中で食料を調達することもできない。


 勇み足で北東へと向かって行った『メシア』は見つけた魔物を倒し、どんどんと先に進んでいく。現在地は王都より十数キロの地点。一帯には深い森が広がっている。

 特に問題なく数匹の魚獣をまとめて倒した六人は調子に乗っていた。


「俺らだけで全然余裕じゃん。あいつらビビりすぎなんだって。」


 田中宗一郎が軽口を叩く。


「そうだな、僕たちと違って力の弱い人もいるからな。慎重にならざるを得ないんだろう。」


 清水司は相変わらず的外れだ。最近はマシになってきたとは言え、この男は客観的に物を考える能力が著しく低い。


「足を引っ張る奴らがいなかったら、もっと楽に行けるんだって。碓氷とかだって勝手にやってるんだから文句言われる筋合いなんて無いっての。」



 西村力也も加わって言いたい放題言っているが、「みんな一緒に」「全員で協力し合うべき」と言っていたのは他でもない、司をはじめとした『メシア』だったはずだ。

 尚、優喜はそれを真っ向から否定している。

 優喜もめぐみも楓も幸一も、自分たちと一緒に行動する上でのルールは提示しているが、行動を共にすることそのものは強制していない。


 昼食後も『メシア』は町へ戻ろうとしなかった。野宿のための荷物は持ってきていないのにどうするつもりなのかと思ったが、結局のところ誰も何も考えていないだけだった。

 夕食を食べることも無く、寝床を確保できることも無く、森の中ひとかたまりになって夜明けを待つ。


「なあ、町に戻ろうぜ。腹減ったよ。」


 中邑一之進が朝から疲れた顔で言う。


「戻ってどうするんだよ!」


 力也が大声を上げる。朝からうるさい奴だ。


「どうって、飯食って寝るんだろ?」

「いや、少し休んでいこう。みんな疲れているだろう? 一晩中立っていたんだ。」


『メシア』はどうにも纏まりが無い。その上、リーダーの判断がオカシイ。


「休んだら町に着くのが遅くなるだけだろう? さっさと行こうぜ。」


 一之進はそう言って西へと歩き出すと、牧田健もそれに続く。


「疲れたっつってんだろ!」


 声を荒らげるのは力也。ちなみに、『あらげる』ではない。『あららげる』だ。



「俺より凄ぇ元気じゃねえか。休む必要ねえだろ……」


 健は呆れて苦笑いする。


「ごめん、ちょっと待ってくんね? ちょい野糞してくるわ。」


 宗一郎が小走りにその場を離れると、それを機に、それぞれに小用を足したり水魔法で顔を洗ったりしはじめる。


「お待たせ―、すっきりしたわ。」

「じゃあ行こうぜ。」


 宗一郎が戻ってくると、一之進と健が再び動き出す。それに榎原敬も加わると、司と力也もついて行かざるを得ない。さすがに意地張って二人だけで休むようなことはしないようだ。


 二時間ほど経ったころ、最後尾を歩く力也が突然悲鳴を上げた。

 振り向いてみると、六本足の巨大な狼に食いつかれている。以前に優喜が襲われたのと同じ種類だろうが、『メシア』はそんなことは知らない。

 司は槍を振るって狼の脇腹に突き刺すが、もう一匹の狼がその横手から現れ、司の右腕に食いつき、そのままの勢いで押し倒す。

 恐らく一匹目のために詠唱したのだろう、敬が放ったウォータービームは的を変更して司を襲った狼の頭を貫く。

 宗一郎、一之進、健は周囲の警戒、索敵に当たっている。

 だが、彼らをあざ笑うかのように三匹目の狼が現れ、健の首筋に噛み付いた。。

 悲鳴を上げることすらできずに、健は崩れ落ちる。


「くっそ! 何匹いやがる!」


 宗一郎が振り廻した斧が三匹目の頭に命中し、骨を叩き割って中身をぶち撒ける。

 その間に敬が一匹目に止めを刺していた。


 腕と肩を噛まれた司は自分で治療魔法を使って傷を癒す。が、内臓まで食いちぎられた力也と、頸椎および頸動脈に傷を受けた健はもはや助からないだろう。内臓や動脈、神経の損傷を治療するにはレベル五から六の治療魔法が必要だが、彼らにその用意は無い。

『メシア』手持ちの治療魔法は最大レベル三。筋肉や静脈の傷は治せるが、骨折や内臓損傷には効果が無い。王都の神殿に行けばレベル六の魔法治療を受けることができるが、今から二人を担いで王都に向かうにしても、最短最速で半日は掛かる。とても間に合わないだろう。


「榎原、中邑。牧田を頼む。」


 司はそう言って力也を担ぎ上げようとする。まさか、ここから王都まで運ぼうと言うのだろうか。

 しかし、敬と一之進は司の言葉をそう解釈していなかった。


「ごめん、俺たちじゃ助けられない。」


 そう言って敬は健の頭部を撃ち抜いた。一之進もそれを止めるのではなく、目を閉じて合掌している。


「なに、して、るんだ?」


 司が呆然としながら、振り絞るように声を出す。


「西村も楽にしてやれよ。」


 宗一郎が司に声を掛ける。


「何を言っているんだ。早く手当てをしないと!」


 司は何かもう往生際が悪すぎる。


「もう、手遅れだろ。手当てするなら、今すぐやらなきゃ助からねえよ!」

「だから町に運んで」

「それのどこが今すぐだよ! 運ぶんじゃなくて、手当てする必要があるんだろ? 運ばなきゃならない時点で手遅れなんだって! 現実見ろよ!」


 一之進が悲痛な声で叫ぶ。彼だって助けたくないわけでは無かろう。


「村田が金貨何十枚も出して治療の魔紋書買ってた意味が分かったわ。今更だけどな。金の無駄なんて言って莫迦にして、そのおかげで仲間の一人も助けられんねぇんだ。」


 敬が吐き捨てるように言う。

 本当に今更である。後悔先に立たずとは、正にこのような状況のことだ。


「とにかく、町に戻ろうぜ。ここでグダグダしてたって何にもならないし。」


 一之進が改めて西に向かって歩き出す。宗一郎と敬が続き、司が一人遅れる。


「ここに置いて行くなんてできない。」


 司はどうにも諦めが悪い。少年漫画では諦めないことは美徳なのだが、これは違うだろう。現実を見ていないだけだ。

 ただ黙々と歩いて行くが、それから一時間もしないうちに力也の呼吸も心拍も停止していた。


 徐々に体温を失っていく力也の亡骸を地面に横たえ、司は涙を落とす。


「行くぞ…… 清水。」


 俯き、動こうとしない司に一之進が声を掛ける。


「わかった。」


 その後、休みなしで歩き続けて『メシア』の四人は閉門ギリギリに王都に辿り着いていた。というか、四人の姿を見つけた門番の兵士が待ってくれていなければ間に合っていないのだが。

 四人とも肉体的にも精神的にも疲労困憊の様相である。以前の迷子騒ぎの時とは比較にならないほど疲れ切っているようだ。


「やっと、着いた……」


 宗一郎は安堵の表情を浮かべる。


「飯、食おうぜ。」


 敬が虚ろな目で言う。


「そうだな。早く行かねえと屋台閉まっちまう。」



 四人は最後の力を振り絞るように歩いて行った。

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