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パンツを脱ぎたまえ! 【パンツォヌゥゲ異世界物語】  作者: ゆむ
第三章 助けてほしい救世主
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09 雨が降って地が崩れる

 ようやく『カエデ』が本拠としている家にたどり着いた司がドアノッカーを何度か叩く。


「どちら様ですか?」


 しばらくして中から声があった。声の主は奥田友恵である。


「メシアの清水だ。今帰った。開けてくれ。」

「今日はもう遅いので、お引き取りいただけますか?」


 友恵から返ってきたのは、あまりに無情な言葉だった。


「おい! 入れてくれよ!」

「すまん、急ぎで話があるんだけど、いいか?」


 声を荒らげる司を一之進が制止して言う。


「明日じゃダメなの?」

「できれば今の方が良い。」


 少ししてドアが開けられ、メシアの四人が中に入る。


「何で入れてくれないんだ。」


 司が不満そうに言う。


「いや、そんな事より大事な話があるだろ。えっとだな……」

「牧田と西村が死んだ。」


 一之進が言葉を躊躇っている間に、敬が端的に言った。


「は?」


 楓も幸一も、あまりの唐突さに理解が追いついていないようだ。


「二人とも死んだんだよ。言葉通り、文字通りの意味で。つまり、命を落とした。」

「それで?」


 問う幸一の声はわずかに上擦っている。


「色々あったけど、冥福くらい祈ってやって欲しい。」


 敬の声は暗い。


「で、やられた場所とか相手とかの話はカエデ的にも重要だろ? 地図あるか?」


 一之進に言われて、楓は荷物を取りに行く。



「場所は、風呂よりちょっと北を半日くらい東に行ったあたりだ。この地図だとこの辺か?」

「この辺からずっと森なんでしょ? もうちょっと手前じゃない?」

「時間は、正確には分からんけど、日の出から一時間くらいだと思う。」

「もうちょっと遅いかもな。森のかなり奥にいたから、多分、明るくなるの日の出より後だろ。」


 宗一郎が補足訂正する。


「まあ、時間はそこまで正確じゃなくても構わんけど。今日の朝で良いんだな? で、どんな奴だ?」


 幸一が話を促す。


「ああ、アレだよ、狼。六本足の、前に碓氷も何か言ってたよね。」

「あの化物マジでヤバイんだ。襲われるまで全く気付かなかった。」


 敬と宗一郎が答える。


「優喜様もそんなこと言ってたね。不意打ちされたって。」

「って言うか、攻撃されるまで全ッ然分からんかったんだ。ちゃんと警戒してたんだぜ? それでも不意打ちされたんだ。」

「いや、お前らのことだから油断しまくってたんだろ?」

「確かに、一匹目は油断してた。っていうか、周りを警戒なんて全くしてなかったよ。それで、西村がやられた。で、二匹目が清水に行ってそれを榎原がブッ殺して、俺と牧田と田中は他にいないか周りを見てたんだよ。俺たち、他にいないか探してたんだぜ? そしたら、いきなり牧田がやられた。」

「いきなり?」

「いつ、どこから、どうやって攻撃されたのか全く分かんねえ。警戒してたのに、防御もできないで首を噛み切られてたんだ。」

「そんなすぐ近くにいるのに全く気付かなかったの?」


 楓の言葉に非難の色は無い。単純に疑問なのだろう。


「ワープしてるって可能性もあるんじゃないか?」

「いや、いくらなんでもワープとか無いだろ。」

「でも足跡も見当たらなかったぜ? 俺が見落としていただけかも知れないけどよ。」


 宗一郎が目を伏したまま言う。


「とにかく、ヤバイんだよ。こっちから見つけられねえヤツなんだって。どこにどれくらいいるか分かんねえけど……」


 語彙が貧困な感じの発言は敬のものだ。


「こっちから見つけられないんじゃ、対処のしようがないぞ。」


 幸一は眉根を寄せて、呟くように言う。


「先制攻撃される前提で、なんとか致命傷を避けるしかないんじゃないかな。陣形を崩さないようにして、手とか槍で首とかお腹とか守りながら歩く感じ? 鎧とか揃えるのも無理があるでしょ。」

「あとは治療用の魔紋書だよ。レベル四とか五とか持っていれば牧田も西村も死ななかったはずだし……」

「レベル四は一つあるけど、レベル五はお金足りないよ。優喜様にお願いしてみる?」


 レベル五の治療魔法の魔紋書は金貨八十四枚もするのだ。そう簡単に買えるものではない。ちなみに受注生産らしい。


「でも優喜様はダンジョン監視に行ってるからなあ。そういえば、その優喜様は攻撃くらう直前に気付いたって言ってたよな。優喜様が特別なのか? 狼の能力にバラツキがあるからなのか?」

「そこは分かんないし、今ここで考えても意味ないと思うよ。」


 楓は空想の域を出ないことは考えるだけ時間の無駄だと断じる。


「ハンター組合にも報告した方が良いよな。一発目の攻撃を防げないなら、ちょっと強いくらいじゃどうにもならないだろ。」

「めんどくせーけど、今から行くか。中邑、ちょい疲れてるとこ悪いけど、一緒にきてくれるか?」

「ああ、仕方ないな。」


 溜息をつきつつ、幸一と一之進が連れ立って出て行く。



「で、清水たちはどうするの?」


 幸一と一之進を見送って、楓が切り出す。


「どうって?」

「私たちとは一緒にやれないんでしょ?」


 楓の言葉には明らかに棘がある。


「荷物、そこに纏めてあるから。」


 楓がリビングの一角を指す先には、メシアの私物、教科書や制服が積まれている。

 それを眺める司は黙り込んでいる。


「昨日、自分で言ったこと忘れてないよね。メシアはメシアでやるんでしょ? ここはもう清水たちの帰ってくるところじゃないよ?」


 楓は有耶無耶に過去の経緯を無かったことにするなど、認めるつもりはないのだろう。


「反省してる……」


 司は絞り出すように言う。


「反省? 何を?」

「何って……」

「何をどう反省したの?」

「だから、僕たちだけじゃ何もできなかったって。」

「それは、後悔だよね? 反省と後悔は違うんだよ?」


 司は黙り込む。

 楓は大きく溜息をついて、「で?」と司を促す。


「何も言うこと無いなら出て行ってもらえる?」


 司は目を見開き、顔を上げた。何か懇願するような表情をしているが、言葉は出ない。


「もう、一緒にやっていけないのはこっちもだよ。何も言ってくれないんだったら、これ以上は本当に無理。だって、お話になってないんだもの。」

「僕たち、仲間だろ……?」


 やっと出てきた言葉がそれなのか…… 楓じゃなくても呆れるよそれは。お粗末にも程がある。


「仲間としてやっていけないって言ったの、清水たちだよね。自分で言ったことに責任持ってもらえる?」


 楓は厳しいけれど、優喜と違って相手を叩き潰すための言葉は避けている。

 これはどう考えても、ちゃんと答えられない司たちが悪いだろう。


「なあ、良いか?」


 軽く挙手をして発言許可を求めたのは宗一郎だ。


「前、碓氷に俺たちは考えが足りないって言われてさ、凄ぇショックだったんだ。あれも考えていない、これも考えていないって具体的に言われて、返す言葉も無くて……」


 宗一郎は大きく息を吐き、司と敬を見て、言葉を続ける。


「今回は、考えていたつもりだったんだ。少なくとも、前よりは考えてた。今回は帰って来ただろ? いや、二人帰ってこれなかったけど、そういう意味では前より悪くなってるかも知れないけど、少なくとも、同じヘマはしてないだろ?」

「いや、二度も森で迷子になられても本気で困るんだけど。」


 楓は苦笑いしながら言う。


「槍とかもそれなりに頑張ってたしさ、魚の化物も六人でちゃんと勝ててたんだ。でも、足りなかった。全然考えが足りていなかった。アレしておけば、こうしていれば、って後悔ばっかりで。牧田も西村も死んじまって……」


目を伏せがちに話す宗一郎。


「どうしたら良いんだ? 開き直るつもりじゃないんだ。だけど、できないんだ。ちゃんと考えろって言われても、それができないんだ。自分では考えているつもりでも全然足りてないんだ。」

「考えが足りないんじゃなくて、我慢が足りないんじゃないか?」


 横から声を掛けたのは小野寺雅美だ。

 こっちの世界に来てから、こいつが教師らしい発言したの初めて見たぞ!


「みんな、自分と違う意見とか、自分の意見を否定する人の話なんて聞きたくないものだ。誰だってそんな不愉快なことはしたくないだろう。だがな、それじゃあ考えが偏る。視野が狭いままに間違っていることにも気付かなくなるんだ。だから、嫌でも我慢して、自分とは違う意見を言う人の話を聞かなきゃならないんだ。」


 なんてことだ! こいつ、ちゃんとしたこと言えるじゃないか! まるで先生みたいだぞ!


「っていうかさ、失敗しても、後悔しても何とかなる範囲を越えちゃうからマズいんだよ。俺もさ、村田とか堀川のやり方って、すっげえまどろっこしいっていうかチマチマしてるって思ったりするけどさ。」

「ちょっと、なにそれ。」


 韮澤駿の言い分に、楓が口をとがらせる。


「いや、聞けって。それがダメなんて言ったこと無いじゃん。イライラすることはあっても、止めろなんて言えないって。だって、それで何かあっても責任なんて取れるわけないじゃん。無理だよ。もっと良い方法なんて何も出せないし。物凄い勢いでガンガン行ける優喜様が異常なんだって。あっち見ちゃダメなんだよ。俺たちは凡人なんだからさ、チマチマやるしかないんだって。チマチマなんてやってらんねーって言ったって、それしかできないんだから仕方ないじゃん。」


 駿の言っていることって、要するに点滴穿石ってことだよな。こいつは穿石メンバーにいたこと無かったと思ったけど。

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