集う勇者たちの章
三国志の時代に関索として転生した俺。勝負の末に鮑三娘と結婚することになる。父である関羽の元に向かう旅の途中、鮑三娘の幼馴染、白が住む村に立ち寄るが、一月後に村が山賊に襲われることを知り、鮑三娘と共に村人のために戦うことを決意する。
一緒に戦う仲間を集めるため、募兵している街にやってきた俺は、一緒に戦うから嫁にしてくれという王桃王悦姉妹に出会う。更に仲間を集めるため、2人と出会った店で、他に力を貸してくれるものはいないか、と呼びかけた。
「もう一度問う! 我らと共に戦い、天下に義を示すものはおるか!」
「ここにいるぞ!」
店の奥のテーブルから、自信に満ちた名乗り声が響いた。
一人の若者が椅子から立ち上がり、酒の盃を持ったままこちらにやってきた。なかなかの体躯だ。細身に見えるが、近くで見るとよく鍛えられた立派な肉体をしている。
「あっしで良ければ、力になりますぜ」
「一緒に戦ってくれるか」
「ダンナがあんまり一生懸命だったからね。見てたらほっとけなくなっちまって。つい勢いで名乗り出ちまったんでさ。それにこの乱世に、金でもなく地位でもなく、ただ民のために戦う男がいるんだ。ほっといたらバチがあたるってもんだ」
「ありがとう、俺は関索。君は?」
「あっしは馬岱と申します」
「馬岱か。恩に着る。共に戦おう」
名乗りあった後に違和感を覚える。あれ? 馬岱? 何か聞いたことがある名だ。それにさっきの「ここにいるぞ!」という名乗り。頭の中で一気に記憶がつながる。
「馬岱!? 今、馬岱って言った? もしかしてあの西涼の雄、馬超(後に蜀の劉備に仕え、五虎将としてその名を轟かせる名将)のいとこの馬岱さん!?」
「おや、あっしの事をご存じで」
「知ってるも知らないも! そりゃあなた、超有名人じゃないですか! 諸葛孔明亡き後、蜀の主導権を握ろうとする魏延の「俺を殺せるものはおるか!」の声に「ここにいるぞ!」と言って切り殺すシーンは三国志の屈指の名シーンの一つですよ!」
「改まってそう言われると照れますねえ。しかし、魏延なんて人、斬ったっけかなあ? 確かに数えきれないほどの人間を斬りやしたけど、魏延なんて人は斬った覚えがありませんぜ」
「あ、そっか。あれは諸葛孔明が死んだ後だから、今はまだ斬ってなかったんだ。俺の間違いだ、ゴメンゴメン。しかし感激だなあ。この時代にきて初めて有名な武将に会ったよ。せっかく三国志の時代に来たんだから、やっぱり有名武将には会ってみたかったからね!」
改めて馬岱を見る。これが本物の馬岱か。身長は俺と同じ位か、少し大きいくらいか。灰色がかった瞳。彫りの深い顔立ちに、高い鼻。なるほど、歴史通り純粋な漢民族ではなく、異民族の血が混じっているようだ。興奮を隠しきれない俺に、馬岱は若干の困惑の表情を見せた。
「何だかよくわかりやせんが、まあいいでしょう。あっしは放浪の旅の途中でして。馬超様が、諸国を巡って見聞を広めて強くなってこいって言うもんで、色んな国で戦に参加したりしてるんでさ。なにしろ馬超様が反乱を起こそうとしている相手が超大物でね。山賊団の一つや二つぶっ潰せないようではとてもそいつには勝てやしねえ。というわけで、ダンナの山賊退治、修行の一環として、お手伝いさせていただきます」
「そう言ってもらうと助かるよ。馬岱が味方になってくれるなら百人力だ。ところで、反乱を起こそうしてる相手ってもしかして、曹操のこと?」
「驚いたな。まだ大っぴらにしてる話じゃないはずなんですけどね。ダンナは何でもご存じだ。いったいダンナは何者なんですかい?」
「俺? 俺は――」
未来から来た男さ、と言いかけて、口をつぐんだ。
「ただの歴史マニアだよ」
「そしてアタシ達姉妹の旦那様!」
横から王悦が俺の腕に抱きついて口を挟む。
「ま、腕っぷしと義に厚い男なのは間違いなさそうだ。ダンナのこと気に入りましたよ。あっしの力、ぜひダンナのお役に立たせてください」
そう言うと馬岱は持っていた盃の酒を飲み干した。
「アタシ達もがんばるよ!」
「関索様、私も妻として、姉として、精一杯力を尽くしましょう」
王悦と王桃もそう言ってくれた。
「ありがとう、みんな。俺も持てる限りの力で戦う。これだけの力が集まれば、きっと勝てる。早速村に向かおう。実際に村を見てもらって、山賊と戦うための策を話し合いたい」
仲間が集まった。人数は少ないかもしれないが皆が一騎当千の猛者たちだ。これで山賊と対等に渡り合える戦力になったはずだ。俺と、王桃王悦、そして馬岱の4人が店を出ようとしたところで、
「待て」
と低い声がした。声の方を見ると、出口近くのテーブルに縮こまって座り酒を飲んでいる白髪頭の初老の老人だった。
「どうしましたか、何か御用で。もしかしてご老人、あっしらと一緒に戦ってくれるんですかい」
馬岱が聞いた。
「そうじゃない。山賊と戦うなど、やめておけ、お前ら全員殺されるぞ」
「おじいちゃん、それ、アタシ達じゃ山賊に勝てないって言いたいわけ?」
王悦がムッとした顔で食って掛かる。
「ああそうだ。娘っ子が二人と、大きな戦も経験したことがない若造が2人。とても張勲に勝てるとは思えん。あの男は仮にも袁術(三国志の群雄の一人。成の建国を宣言し、皇帝を名乗った)のもとで大将軍まで上り詰めた男。お前たちと百姓で勝てる相手ではない。命を、粗末にするな」
静かだが、凄みのある声だった。
「爺さん、あんた、元兵士か」
俺の問いかけに老人は低い声で答える。
「そうだ。昔、黄巾の連中や、董卓とその手下共とやりあった」
「爺さんの言う通り、厳しい戦いになるのはわかっている。だが、村にはもう逃げ場はないんだ。今年の食料を山賊に全て差し出さなければ、村の人間は皆殺しにされてしまう。俺達には、死ぬか、戦うかしか道は残されていない」
「殺されるぞ。お前も、仲間も」
「それでもやらなきゃならない。だが、むざむざ死に行くつもりはない。勝つための策がある」
老人は深いため息をついた後、やれやれと頭を横に振った。
「わかった、そこまで言うのなら勝手にしろ。だが、俺も行く」
「一緒に戦ってくれるのか?」
「バカ言え、ワシは戦わん。ただ、お前たちが張勲山賊団に負けた後、逃げる手助けくらいはできる。負け戦だとしても、死人が少ないにこしたことはない」
そう言うと老人は横に置いた大きな包みを持ってゆっくりと立ち上がった。大きい。背を丸めて座っていたからわからなかったが、かなりの長身だ。185センチ、いや、もっとか。分厚い筋肉に覆われた体は傷だらけで、生き抜いて来た戦場の過酷さを物語っている。この爺さん、只者ではない。
「爺さん、あんたは一体……。名は何だ?」
「名、か。ワシは死人だ。死人に名はない。ジジイでも爺さんでも好きに呼ぶがいい」
次章、ブチ切れの鮑三娘ちゃん
次回投稿は4月28日の18時位を予定しています。
4月28日追記:体調をくずしてしまったため、次回投稿を延期させていただきます。申し訳ありません。