story.07 単細胞の考え
「準備は整ったかしら。……なんか一人増えたわね」
森へ戻ればエルシアが既にそこにいて、つい先ほど仲間になったリュウを見てぼそりと呟いた。素っ気ない態度だったが、リュウは特に気にせずにハルに会った時と同じ笑顔を浮かべる。
「おう!格闘家のリュウってんだ。よろしくな」
「……ついてきて。村へ案内するわ」
エルシアはリュウを一瞥したあと、こちらに背を向けて歩き出した。冷たい態度だったのにも関わらず、リュウはまた陽気に笑って一つ返事をした後、彼女の背をついていった。ハルと僧侶もそれに続く。
暫く木々の間を縫うようにして進み、やがて森が開けたところに小さな集落が見えた。しかし、火が放たれており、小屋は燃え崩れて瓦礫の山と化していた。想像以上の悲惨さに、ハルは呆気にとられて開いた口が塞がらない。
「…ね…ねぇエルちゃん……これ……」
「……心配ないわ。村の者はみな、地下に避難してるから。地下への入口はこっちよ」
村の側の茂みに入り、エルシアが手を地面に置くと地面に人ひとり通れるくらいの大きさの穴が開いた。中は底が見えない程深く、真っ暗だ。
「此処を通れば地下へ行けるわ」
「まずは村人に話を聞いて回った方が良さそうだな」
「え……もしかして此処に入るの……?」
ハルは僧侶と同じようにして穴を覗き込む。本当に真っ暗だ。風がひゅうひゅうと吹き抜ける音がして、それがまた恐怖を誘った。
「それ以外に地下へ行く方法ねぇんだから仕方ねぇだろ」
「う、嘘でしょ…梯子もないし、底見えないし暗いし怖いし、絶対む」
「はよ行け」
言い終わる前に僧侶に思いっきり背中を蹴られ、そのせいでバランスを崩して穴へ落下してしまった。耳元で風のゴオオオと言う凄まじい音が聞こえて、空がどんどん遠くなる。ハルは涙目になりながら、外で落ちていく自分を涼しい顔で見ているであろう彼に向かって思いっきり叫んだ。
「僧侶くんの、バカぁぁ―――――ッッッ!!!!」
◇
たった今、パーティメンバーを穴に蹴り落とすという暴挙に出た僧侶を、他のパーティメンバーであるエルフの娘と格闘家は冷めた目で見ていた。
「女の子を足蹴に……」
「サイッテー……」
「うるせぇ」
二人の非難に眉間に皺を寄せながら一言言い返し、僧侶は穴の淵に手をかけて後ろを振り返った。
「お前らもあのバカみてぇにもたもたしてねぇで早く来いよ」
「みんなー!植物のお陰で痛くないよー!」
「お前は黙って待ってろ」
下の方から元気に叫ぶハルの声に冷たく返してから、彼は穴へ飛び降りた。リュウもそれに続こうと穴の淵に手をかける。
「よっしゃ、じゃあ俺達も行くか」
「私は行かないわよ」
「え」
びっくりして固まるリュウを尻目に、エルシアは静かに続ける。
「……この穴は自動的に塞がるし、周囲に敵の気配はないけど……万が一のために此処で見張ってるわ。それに――――村のみんなに合わせる顔がないの」
彼女は翠の瞳を伏せて、憂い顔を浮かべた。リュウはそんな横顔を暫く無言で見つめたあと、ゆっくり口を開いた。
「あー……森に来る前にハルちゃんから全部聞いた。あれだろ?惚れた男に唆されて、まんまと村の宝石渡して奪われちまったんだろ?それはダメだわ~それは皆怒るわ~」
「あんたデリカシーって言葉知ってる?」
眉間に皺を寄せて怒りを含んだ口調でそう言ったエルシアだったが、次の瞬間ひょいと軽く横抱きにされて言葉を失った。
「なっ……!」
「過ぎたことなんか忘れちまえ。それよりもこれからのことだ。今からエルフの村救いに行くんだろ?全部終われば宝玉も村に戻る。そんなちっせーこと、いちいち気にすんなって!」
「……」
「俺なんか故郷の村にいた時、もっとヤバイこと色々して、毎回長老に拳骨食らわされてたからな~!」
またけらけらと笑うリュウに、エルシアは何も言えなくなってしまった。ただ、笑顔を浮かべる彼が、とても眩しく見えた。




