story.11 “奇襲”
地上へと出たハル、エルシア、リュウの三人は息を潜めて茂みの中で敵が来るのを待った。エルシアの話では、若くて青みがかった黒髪を持つ男とその仲間複数人が彼女を騙して宝玉を持ち去ったという。しかし、人間の男数人だけで百人はいたであろう村の戦士全員がやられてしまうとは考えられない。恐らく、裏で手を引いている者がいるだろう。
待機している間、エルシアは宝玉を奪って行った男のことを思い出していた。彼の名はルシファードといった。村長の孫なのに一族の伝統奥義『エルフの刻印』を開花することができず、負い目を感じていた時に優しく話を聞いてくれた。だから、彼だけは大丈夫なんだと、思い込んでしまったのだ。
自分が村の言いつけを守っていれば、みんな苦しまずに済んだのに。どうして、あんなことをしてしまったんだろう。
「(……今更、後悔したって遅い。今はあいつから宝玉を奪い返すことだけを考えなければ)」
エルシアは自分にそう言い聞かせ、辺りに細心の注意を払う。彼女たちエルフ族は、耳が良く、気配察知能力に優れていた。目を瞑りさまざまな音に耳を傾ける。すると、地の底から湧き上がってくるような水の音が聞こえた。
「(なに……!?)二人とも気をつけて!何かくるわ!」
「え!?」
彼女が立ち上がりそう叫んだ瞬間、地面が割れて大量の水が噴射し、ハルを宙へ放り投げた。
「ギャ―――!!何これぇぇぇ」
「ハルちゃん!」
ハルはそのままエルシアとリュウの視界に入らないところまでふっとばされてしまう。ハルを追い掛ける暇もなく、向こうの方から女の綺麗な透き通る声がした。
「奇襲を掛けるつもりだったのに、無下にしてしまってごめんなさいね」
「あんた……」
「ふふ。こんにちは、エルフのお嬢さん?私の名はアクティア。魔王様の命で、この『エルフの瞳』の土台を頂戴しにきた」
「っ宝玉を返せ!!」
激昂したエルシアは弓を構えて矢を放った。一直線に飛んでいく中でその矢は風の力を宿し、アクティアに迫る。しかし彼女にあたるすんでのところで、矢は剣によって弾かれてしまった。
「おいおい、いきなり矢ぁぶっ放すとはひでぇじゃねぇか、エルシア」
剣を片手にニヒルに笑うその男に、エルシアの心臓がどくりと強く波打った。彼こそがエルシアの恋い慕っていた男、ルシファードだった。放心するエルシアに、ルシファードは剣を振り翳した。リュウは咄嗟にエルシアを抱えて飛びのく。
「おいエル、しっかりしろ!何ぼうっとしてんだ!」
「ぼ…ぼうっとしてなんか」
「だったらちゃんとあいつを見ろ!」
リュウの言う通り、エルシアはルシファードのことを見れなくなっていた。俯いたままの彼女にまたルシファードはにやりと笑んでから、剣を振り回し畳みかけてきた。リュウはそれを持ち前の身体能力でひらりひらりと避けるが、背後からアクティアの水の弾が襲い掛かって来ていたのに気付かず、それらを全て食らってしまった。
「ぐ……痛って」
「リュウ…!」
「…!!エル、後ろだ!!」
地面に転がったリュウは、自分を心配して駆け寄って来たエルシアの背にルシファードが迫っているのに気が付き叫ぶ。しかしそれも虚しくエルシアはルシファードに蹴り飛ばされてしまった。彼女は木に打ちつけられ、その衝撃で額が切れてそこから一筋の血が流れる。リュウはそのまま気を失ってしまったらしいエルシアを抱きかかえ、ルシファードを強く睨んだ。彼は怯みもせずに両の手のひらを上に向け、大きな高笑いをあげる。
「はは、全くもってバカなガキだ。少し優しい声を掛けてやったら、簡単に信じちまってさぁ~。自業自得なのに襲い掛かって来やがって…ったく、この俺が恋人ごっこに付き合ってやったんだ。むしろ感謝して欲しいぐらいだね」
「―――おい。」
目を瞑ったままのエルシアを丁寧に地面に横たわらせ、リュウはゆらりと立ち上がる。そしてその赤い瞳に、嘲笑を浮かべるルシファードを映した。
「ぺらぺらとよく喋る口だな。小物っぽいからやめた方がいいぞ」
「(なんだこいつ…急に雰囲気が……)」
「あと、それ以上こいつのことを悪く言ってみろ」
普段よりも低いその声音は地響きのようで、ルシファードは少し怖気づいたのか一歩後ずさった。
ゆらめく瞳から、目が離せない。
「殺すぞ」
燃えるような赤い眼とは裏腹に、その一声は氷のような冷たさだった。




