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四章 サプライズ


      ∴      ∵


 次の日。篝さんはあのあとすぐに行った嘉川刑事に、任意同行で警察に連れて行かれたらしいです。勿論篝さんは最初否定していましたが、口論の事、何故休日の大学にいた事、さらにアリバイがない事を突きつけられ、篝さんはこの事実に首をうな垂れ、事件の全貌をポツポツと話しだす――はずでした。

 警察の予想では。

 なんとここで、篝さんのアリバイが証明されたのです。証人は売店のおばさんらしいです。篝さんが喫煙している場所と言うのは、一階の出入り口を出て左側で、この位置だと、篝さん自身は13号館に誰が出入りしているのか解りますが、中に誰か居るのか居ないのか、わからないそうです。つまり、例え中に人が居たとしても、中の人も外にいる篝さんのアリバイを証明することが出来ないのです。

 しかしその喫煙の位置は、ギリギリ大学の売店から見える位置だそうです。篝さん自身も、普段なら他の学生が行き交う中で喫煙しているわけで、売店から見えているという認識がなく、まさに偶然の悪戯と呼べるラッキーでした。そもそも大学の休日に売店が開いている事はないので、警察も最初は確認しなかったらしいのですが、売店のおばちゃんはたまたま仕入に関して休日出勤をしていたらしく、次の日、つまり篝さんを捕まえてから証言取れてしまった、というわけです。

 しかし、これでよかったのは篝さんだけで、最重要とは名ばかりの半ば犯人と決め付けていた警察は混乱しました。つまりこれで、犯人、容疑者と呼べる人間がいなくなってしまったのです。

 さて、今年のゴールデンウィークも残り二日。今日は深夜とデートしようか、それとも家でのんびり、または誰か友達でも誘って、と考えていたところ、インターホンの音が聞こえてきました。誰か訪ねてきたみたいです。私はインターホンを取ります。いきなり玄関を開けるという愚考はしてはいけません。今の世の中どんな人がいるか解らないのです。例え午前十一時と言っても油断は出来ません。こわいこわい。

『はい、どちら様ですか?』

「あ、燈莉? 俺だよ」

『俺? 誰ですか?』

「えー……深夜です」

『深夜? 今はまだ午前ですが?』

「これはイジメだな!」

 私は不承不承ながらも、玄関を開けてあげることにしました。勿論家には入れません。前に言った通り、深夜が我が家に入るのはまだ早いです。玄関までに行くのに若干スキップ気味ですが気にしてはいけません。気にしたら負けです。

「どうしたのですか、深夜」

 私は玄関を開け、ぼさっと突っ立っている深夜に尋ねました。

「いや、あのさ、昨日兎警部が言ってたこと」

「どちらですか?」

「えっと、ニーニーの方」

 昨日、兎警部は簡潔に簡単に簡易に簡素に、実にさらっと、言いました。

『君達が探しているニーニーちゃんだがネ、残念だガ、安西に殺されているかもしれなイ』

 彼はそう言いました。

『それは……どういう、事ですか?』

 私は、驚きと混乱、怒りがごちゃ混ぜになりながらも、必死に、言葉を紡ぎました。

『山に行ったト、言ったネ』

『……はい』

『君達が山に行った前日、町にあるコンビニの店員が目撃しているんだネ』

 コンビニとは、深夜と二人で行ったあのコンビニでしょう。しかし何故、安西さんは店員なんかに見られたのでしょうか。

『安西は山に登る時、コンビニに駐車をさせてもらっていたらしイ。これは店員からの証言が取れてるネ。店側モ、前もって言ってもらっていたシ、それにあまり人がいないところだからかナ、駐車場を一晩使わせるを了承していたらしいヨ』

 そう言われても、明確な答えになっていません。もしかしたら、だから、だからニーニーを車に運ぶ時、見られた?

『先に車を回そうにモ、山の近くには駅前のロータリーしかなイ。下手をすると駅員にみつかるかもしれないシ、ニーニーちゃんを隠す場所がないかラ、運んで行ったのだろうネ』

 しかし、それも危険な賭け。運んでいる姿を見られたら……いや、もしかしたら、

『もしかして、その時点では、ニーニーは生きていたのですか?』

 私の言葉を、兎警部は肯定します。

『その通りだネ! 店員も不審に思イ、安西に確認をしたらしイ。そしたラ、安西は山の中で倒れている子を見つけたかラ、これから病院に連れて行くと言っていたそうだヨ。頭から、少量ではあるが、血を流した少女を連れてネ。大学の先生と聞いていたらしいシ、いつも温厚な人だかラ、何の疑いもなく善意の行動だと思ったようダ』

 安西さんは、ニーニーを山で殺さなかった。それは、移動の際、怪しまれないようにするため。簡単に言ってしまえば、ですが。しかし、それでは、一つの疑問が。

『一つ、解らない事があるのですが』

『一つなのかネ?』

 意地の悪い聞き方。私は無視し、聞きます。

『何故ニーニーは、殺されているかもしれないと思ったのですか? 安西さんがその時点でニーニーを何処かに運んだということは、何か目的があって運んだ可能性が高いと思います。最初から殺すつもりなら、山で殺害し、山に隠したほうが、見つからないと思いますが』

 何故、兎警部はニーニーが死んでいると思ったのでしょうか。

『そうだネ? 恐らく安西とニーニーちゃんは偶然出会ったのだと思うヨ?

 そして、安西は彼女を殴るか何かしたんだろウ。しかし、ここで問題が起こル!』

 問題? 問題とは?

『それハ、本当にあの山に隠しテ、見つからないのかということサ』

『どういう、意味でしょう? 山に隠した方が、安全で安心で、確かだと思いますが』

『普通の場合ならネ? でも、二人は偶然出会っタ。しかも出会ったのは、夜も遅い真夜中ダ。もしニーニーちゃんが誰かに山に行くと言っていたラ? 理由は何でもいイ。星を見るとカ。そして、もしニーニーちゃんが帰って来なかった場合、普通最後に行った行き先を探すよネ? 警察に連絡が行き、大掛かりな捜索をされたラ? そうなった場合、もし埋めたとしてモ、見つかる可能性は高イ』

 だから、車で移動した。

 だから、死んでいるかもしれない。

 でもそれは、私の情報と齟齬が出る。

『あとネ、それだけじゃあないんダ。もちろン、今言った理由もあるけド、それだけだと弱イ。理由としテ、殺される根拠としては低イ。私が何よリ、安西に殺されると思った理由は―――ニーニーちゃんが締沢に似ていル、という点だ』

『え……?』

 誰と誰が、似ている?

『写真を見て確認したんだけド、昔も美人だったけド、ニーニーちゃんは大人っぽい顔立ちだネ。ニーニーちゃんと姉妹だと言われてモ、納得してしまうくらい面影があるんだヨ。まァ、他人のそら似ではあるだろうけどネ』

 私はまだ、締沢さんを見たことがないのですが、もし似ているとしたら、安西はどう思ったでしょう。

 バカにも、生き返ったのかと思うのかもしれません。

 愛ゆえに、愛するがゆえに、最愛の恋人が、帰ってきたと。

『警察でもニーニーちゃんの行方は捜索させてもらうヨ。安西の家かラ、倉庫など全てをネ。だかラ、君達は安心して日常に帰りたまエ』

 そして、そして私は日常に帰ってきたのでしょうか。

 ただ、今目の前に深夜がいること、これは、日常と言えるでしょう。

 日常とは?

 何も変わらない、平凡な日々か?

 何も意味のない、無駄な日々か?

 何も知る事ない、無知な日々か?

 何も起こらない、退屈な日々か?

 違います。

 人が作った道理だとしても、神が定めた摂理だとしても、私は、違うと言い切ります。

 変わらない平凡?

 何を馬鹿な、時の流れに置いて、変わらない事などあるわけがありません。

 意味のない無駄?

 意味を捉えるのは私。そして全ての人間。特定なんてできるわけないでしょう。

 知る事ない無知?

 知らないからこそ、私たちは読み覚え貯めていくのです。

 起こらない退屈?

 なんと、なんと傑作な! これほど面白い人生に、退屈など存在するのでしょうか!

 日常へ戻れ?

 私の日常は、深夜が居て、隣に私が居て、そして、その隣に――。

 そんな日常が、平凡だったり無駄だったり無知だったり退屈だったり、下らない言葉が当てはまると思っているのですか?

 馬鹿馬鹿しい。舐めてもらっては、困ります。

 「深夜、行きましょうか」

 「え? ど、何処へ?」

 私にとって日常とは、

「決まっているじゃないですか」

 素晴らしき、

「日常を、取り返しに行くんですよ」

 人生。

 「さあ、まずは犯人を捕まえましょうか」

 私は深夜の手を掴み、駅へと走り出しました。


      ∴      ∵

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