27.金打
誤字報告していただきありがとうございました。
それからの2人と1本は、仲良くダンジョンでの日々を過ごした。
リュートが桜華用にとカスタマイズをしていた『CC』が完成し、魔法陣として出力させて桜華が陣を覚えた。最近は桜華ちゃん作成の為にセーフエリアで毎日うんうん唸っている。
侑人の時のように読み込む情報がないので、一からの作成となる。とはいっても、人物イメージを専用画面に投影してカスタマイズするというものだ。
自身の性別に悩んでいた桜華は、一時期人体の仕組みから調べもしていた。…もちろんエッチな本の事ではなく、医学書や専門の書籍でだ。
今はその時の情報が十二分に活かされ、完全な女性の体として再現されようとしている。…その知識が無ければ、無性…または男の娘になっていたかもしれない。リュートの『CC』の作り込みはまだまだ甘いようだ。
…甘かろうが知識が無かろうが、左目の力で透視・コピー出来てしまうチートな少女もいるのだが。
☆
そのチー…リュートは、緋雨と共に第六層へやってきて狩りや採取を行っていた。
第六層は洞窟ではなく、太陽が輝く一面森林地帯のフロアとなっている。
構造上…明らかに有り得ない現象。
森林地帯となっている事は…百歩譲って理解出来たとしても、空の高さは第五層から第一層までが消滅していなければ成立しない。
第六層へやってきた当初、試しに空へ向かって小石を投げてみたが、何かにぶつかる事は無かった。
左目の力を使って見渡してみれば、森の広範囲が障壁らしきものに囲まれている事が確認出来た。遥か上空にも透明な壁らしきものがある事が確認出来た。
リュートは(そういうダンジョンと思うしかないか…)と無理矢理納得して、探索を行う事となった。
ビッグキャタピラーからドロップした糸を集め、スキルによる生地の作成と裁縫を行った。
それによってパンツ…ではなく、短パンをイメージして作る事が出来た。…いざ作成しようとした時、パンツを作るという事に抵抗があったのかもしれない。
そのデザインは簡素なもので、履き心地の方は…良いとは言えないが、やっとチラリズムを卒業する事となった。
生前の侑人にボタン付け程度の簡単な裁縫の経験はあっても、糸を生地にする技術も知識も無い。精々機織り作業の映像を見た事があるという程度だ。ジョブとスキル様様である。
生地の作成や裁縫はスキルによって行う事は可能だが、…熟練度にもよるが、品質は微妙なものとなる。生地の作成も裁縫も、手作業で行った方が良品質になりやすく、獲得できる熟練度も多い。…手間と時間を考えると、スキルに頼りがちになってしまうが。
故に、マギカネリアの衣類は大抵スキルで製造される。手作業で行うのはオーダーメイドの高級店くらいだ。
ちなみに、糸を集める為に通る第五層、そこにいる中ボスのオークロードは、緋雨の力で毎回瞬殺されている。
(あたし…強いわね!)
(オーバーキルだけどね。じゃない、過剰…攻撃? 力入れ過ぎ…かな)
(やり過ぎって事? 簡単に倒せるし、良い事だと思うけど?)
(それも一理あると言えばあるけどね。全力を把握しておくのは大事だと思うし。でも、技を出すのに私の体力を使う事になるし、…その体力は普通の人より多いけど、限界があるからさ。責めてるわけじゃないけど)
(確かに…。リュートには負担をかけてるわね…)
(それでいざ強い敵と戦う事になった時、簡単に倒せなかったらその後どうする?)
(倒せなかったら、………倒すまで頑張るわ!)
(あはは、頼もしいよ。それじゃ、この豚さん相手に手加減しながら練習しておくのはどう?)
(そうね…、一度やってみる。いくわよリュート!)
オークロードは食料からサンドバックへジョブチェンジ…させられていた。
☆
緋雨がリュートに救われ、桜華にリュートの話を聞いた翌日。緋雨は、自分を使って欲しい…共に戦いたいと申し出た。
リュートは緋雨を「使う」という行為はしたく無かったが、力になりたいという熱意に負け、相棒となったのだ。
『改めてよろしくね、緋雨』
(うん! よろしくりゅうと! …刀だと、こういう時に手を取り合えないのが寂しいわ)
『一方的に握る…って感じになるもんね。握手って儀式が意外と…大事…そうだ、儀式をしようか』
(儀式?)
『緋雨さえ良ければだけど、金打しようかなって』
『金打って?』
(金打は刀の刃や鍔同士を当てて誓いを立てる事…だったはずよ。…でもあたしお侍様じゃないし…)
『それを言ったら私だって武士じゃないし、女の子だし。本来の意味じゃなくて、よろしくって意味でやらないかなって思って。…当時の武士の人が聞けば怒るだろうけど』
(そう…ね…、本来そう簡単にする行為じゃないと思うから。…でも、やりたい…かな?)
『それじゃやろっか。相棒となるなら、私の姿も見せておいた方がいいと思うし、変身するよ』
(へんしん?)
『姿を変える事が出来るんだ。それで…そうだな、簪と角を合わせようかな?』
(…つの?)
『見てのお楽しみってところ? …それにしても、なんで…金打?なんて言葉知ってるの?』
『マンガでだったかな? 偏った知識は任せて』
任せたくはない…。
桜華に緋雨を横向きに持ってもらい、リュートが距離を取って『竜化』を使い、子竜の姿へと変わった。当然…と言っていいのか、その光景に簪がチリンチリンと鳴る。
「キュィ!」
ひと鳴きして片手を上げる小さな白竜。
(あ、りゅうとだわ)
『うん、リュートだね』
鳴き声と行動に妙な説得力が宿っていたらしい。
リュートがトテトテと桜華の持つ緋雨に近付き、小さな角を簪にちょんと当ててチリンと鳴らした。
本来、金打とは誓いを立てる事。…固い固い約束をする行為だ。現代に照らし合わせれば、誓約書を交わす…よりも重いものかもしれない。
思い付きの、…握手程度の感覚で提案したリュートではあったが、角と簪が触れ合う瞬間、(緋雨の力になろう)と誓いを立てていた。
一方の緋雨も、(…あたしがりゅうとを守る、あたしを助けてくれたりゅうとを、今度はあたしが助けていく)と誓いを立てていた。
双方誓いの内容は伝えなかったが、お互いの為にという想いを込めていた。
ちなみに、金打とは別に鞘当てという言葉がある。こちらは文字通り鞘を当てる事。相手の鞘に自分の鞘を当てる…簡単に言えば喧嘩を売るような行為だ。帯刀する機会があったら気をつけてほしい。
☆
儀式が終わり、リュートが『人化』を使って人の姿へと変身し、ついで感覚で侑人の姿を見せて緋雨をまた驚かせた。
再び少女の姿に戻ったリュートは、
『私、実はもう一段階変身が可能なんですよ』
某宇宙の帝王が言いそうな台詞を口にした。
その変身はリュートの種族でもある『竜人化』。満を持して本邦初公開…邦ではないが初公開である。…見せる機会を失っていたとも言う。
リュートが『竜人化』と口にすると姿が光に包まれ、そのシルエットの頭部分に小さな角らしき物が生え、腰付近がモコっと膨れた。
光が収まると、そこには変身を遂げたリュートの姿があった。変身前よりもその存在感は圧倒的に増しており、ステータスも上昇している。
人化時の少女の姿をベースに、頭には子竜の時よりも長めで後ろ側へ伸びた角があり、真っ白な髪の一房…前髪の一部が黒髪となっている。瞳に変化は無く青色のまま。口元には小さな牙が見えている。そして腰からは白い尾と白い翼…翼…着ていた服をビリビリッと破って翼が現れた。
『あぁ!? 桜華くんの服が!?』
…締まらない最終形態のお披露目となってしまった。『人化』の状態から『竜人化』を使っても、服は共用らしい。
本来人には存在しない尻尾、そして翼の存在。それらを動かそうと意識しても中々思うようにはいかなかった。
更に竜人という形態は人化状態よりも力が強く、易々と一張羅のダボシャツの腰部分を破ってしまった。…翼を広げるという行為だけで。
元は桜華の服であり借り物。『ごめんなさい…』と謝りはしたが、
『それはもうリュートの服と思ってくれていいよ、気にしないで…って言っても破れちゃったけどね』
と許された。
『竜人化』を使った事で、人の姿に竜の特徴を表したリュート。角や尾、そして翼が生えた事以外にも、局…見せたらアウトな場所を白い鱗がカバーしていた。下も上もである。
ダボシャツの胸元を伸ばして自身の体を覗いてみたリュートは、見られて困る心配がなくなった事に安堵…
『逆に恥ずかしい!』
出来なかった。その恥ずかしさはリュートの白い肌が赤くなる程。よっぽど恥ずかしかったらしい。
超マイクロビキニの様な、攻め過ぎたコスプレの様な形でピンポイントに隠している鱗。見えなければセーフだと言わんばかりだ。
(もっとこう、ちゃんと隠せなかったのかなぁ? 覆う感じに…脇の下の方から斜めにとか、こう…ん?)
こうだったらいいのになとイメージしていると、そのイメージの通りに白い鱗が現れて胸を覆った。呆気にとられたが、更に鱗で股を覆った姿をイメージすれば、想像した通りに隠す面積を増やす事が出来た。
腕や脛を守るようにイメージすると、その部分にも鱗が現れ、無くそうと意識すると鱗は全て消えた。自由度は高いらしい。
ただ、鱗が現れたり消えたりする際にモゾモゾとこそばゆいのが難点だった。腕や脛はいいが、デリケートなゾーンがモゾモゾされると…困ってしまう。
(これは…教育に良くないヤツや…)
桜華と緋雨には、鱗で覆った…見せられる状態の姿を見せ、恥ずかしい事と力が強くなり過ぎる事を伝えて、こっそり『竜人化』を封印した。
緊急時、力が必要な時は竜人の姿になるつもりだが、せめて…竜人化状態で着られるちゃんとした服が完成して、鱗の心配をせずに済むまではそっとしておいてあげてほしい。
☆
締まらない&恥ずかしいお披露目会が終わると、緋雨からリュートの名前の発音を直したいと提案された。
金打をした相棒として、ちゃんと呼びたいという可愛らしいお願いにほっこりしつつ、そのお願いに応えて何度も練習させ、しっかり修正させる事が出来た。
(ありがとリュート! 桜華もありがと!)
『どういたしまして。もう発音は完璧だね』
『頑張ったのは緋雨だよ』
(うん!)
その後、冒頭の様にリュートが改良していた『CC』が完成し、その複雑さが増した魔術を無理矢理魔法陣として出力し、桜華が陣を覚えて発動させる事が出来た。
桜華は第四層のセーフエリアで、覚えたての『CC』の説明を聞いて実際に使ってみたのだが、…思いの外のめり込んだ。時には食事も忘れて何日も没頭しそうになるその姿は、立派な廃ゲーマーのそれである。
イメージが投影された画面を実際に見て、『ここが…』『色も…』と細部が気になりだし、その調整が済むと『今度はこっちが…』の繰り返し。…気持ちはよく分かる。
桜華の真剣さに水を差せず、リュートはリュートで行動した。緋雨と共に第六層の森林地帯でアイテムを集める事3日、念願のパンツ…ではなく短パンをゲットしたのだった。
第五層ではオークロードをサンドバックに…もとい、緋雨が自分の力を把握する為の練習相手としていた。
オークロードを倒して第六層へ、素材集めをして第五層へ、オークロードを倒しては第六層への繰り返し。上級オーク肉と魔石が大漁祭りである。
オークロードとの対戦は緋雨の訓練であると共に、緋雨を振るうリュートの訓練でもあった。
緋雨を振るうリュートは、ステータスの開放具合でモンスターに与えるダメージが変わる。
一方で、緋雨という刀には「攻撃力」のような数値もステータスも無いのだが、緋雨の意思の強さによって与えるダメージが明らかに変わる。
試しとして、リュートと緋雨…お互いが全力を出してオークロードを攻撃した際には、中ボス部屋の壁を大きく削った。硬いはずのその壁の傷幅は20m、わざわざ左目の力を発動させて確認した深さは8m、ランク6に分類されるオークロードを一撃で両断した上でその深さだ。
ちなみに中ボス部屋の壁の傷が直るのに4日程かかっていた。
桜華が女体と睨めっこをしている間、食事がオーク肉から上級オーク肉(塩味)へランクアップし、果物や葉物野菜も収穫されて食卓に並ぶ様になった。リュートがチラリズムを卒業し、緋雨に不格好な鞘をプレゼントし、なんだかんだでダンジョン生活を満喫していた。鞘は第六層でゲットした木材や採掘でゲットした鉄鉱石を使用した、リュートのお手製…おスキル製である。
緋雨は(家が出来たわ!)と、簪を鳴らして喜びを表していた。
リュートが初めて作った刀の鞘。…不格好なそれを家と呼んで喜ぶ緋雨の声を聞いて、リュートは『製造』スキルの熟練度を上げようと決意した。『製造』は各生産系のジョブで得られるスキルで、例えば魔道具技師のジョブなら『製造(魔道具)』となる。
魔道具技師系のスキルを習得するきっかけとなったのは、侑人の経験したパソコンの組み立てといった作業が適用されている。…パソコンは魔道具扱いらしい。…さもありなん?
☆
そうして過ごして1週間、桜華が理想の…第二の自分を作り出す日がやってきた。
リュートよりも人体の構造に詳しかった桜華は、その分『クリエイト』でもう一人の自分を作成する為の消費魔力が少なく済んだ。
『クリエイト』と唱えた事で、桜華が画面上で弄り倒していた女体が自分の中に構築され、『CC』と唱えると光に包まれ、そのシルエットを変えていった。
腕と足は細くなり、腰はくびれ、髪が伸びてふわっとしているのが光に包まれている状態でも判別できる。
身長は少々縮んで胸が膨らみ、桜華から発せられていた光が弱まると、薄めのピンク色の髪が肩甲骨辺りまで伸びた…高校生くらいの…すっぽんぽんの女性が現れた。
リュートはそっと横を向いたが、ばっちり見てしまっていた。
リュートの行動を見た桜華は、自身の姿を確認して、
『はうっ!?』
可愛らしい悲鳴を上げた。
体の構造…男から女へと変わる事で服が消えると思っていなかった桜華は、可愛らしい声で悲鳴を上げ、手で体を隠しながらしゃがんだ。所作は完全に女性、既に中身は桜華ちゃんのようだ。
ただ、少し考えれば分かったはずなのだ。リュートが既に侑人へと姿を変える場面を見せていたのだから。ダボシャツ1枚を着ていた少女が、冒険者風の装備をしたおっさんへ変わる場面を…。
『竜人化』した時のリュートの服が人の姿の時のままだった、というイメージの方が残っていたのだろうか。だとすればリュートのせい…かもしれない。
桜華のイメージでは、男性の時に着ていた服のまま女性の体になるというものだった。『CC』でのキャラメイク画面でもすっぽんぽんだったのだが、それは作業のしやすさと細部まで凝る事が出来るからだろうという思い込みがあったせいだ。その思い込みがラッキースケベを生んでしまったのである。
出る所は出て締まる所は締まり、薄ピンク色のゆるふわヘアーをした、若干桜華に似た顔立ちの高校生くらいの女性。桜華の妹と言われれば、事情を知らない者は納得するだろう。
髪の色は、桜華が幼少期に母親から付けられていたウィッグをイメージしたもの。最初にイメージを投影したものはギャル感が強かったが、調整を終えた頃にはプリンセス風といった雰囲気になっていた。色と長さと髪質の調整に丸2日以上かけた力作だ。
もし自分が本当に女性で、そのまま成長していたらこうなっていただろうという妄想が現実となった。…出たのは喜びの声ではなく悲鳴だったが。
リュートはそっとバスタオルサイズの布を『異空間収納』から取り出し、桜華に渡した。自身の上着用にとスキルで作成していた布が、思わぬ形で役に立った。
桜華は赤くなりながら受け取った布を体に巻いて、風呂上りを思わせる格好になった。おっぱ…ドコとは言わないが、布が薄いため相変わらず直視出来ない。ただ、無いよりはマシだろう。
…『CC』で男の姿に戻れば解決するのだが、お互いいっぱいいっぱいらしい。
緋雨はと言うと、桜華ちゃんの姿にチリンチリンと反応を示し、その後は静かに…
(凄いわ…、男から女になったり、女から動物になったり…。髪の色も、黒くないのって珍しくないのかしら? リュートの持ってた、すま…スマホも凄かったし…。三百年先の国では、皆妖術が使えるのね…)
勘違いを加速させていた。リュートと共に戦闘に関してやこれからの話はしていたのだが…、「これまで」の話や常識についても早く話してあげて欲しい。
☆
桜華ちゃんの姿を堪能した桜華は、『CC』を使って男の姿に戻り、その時になって『…そうか、戻れば良かったんだ…』と解決策に思い至った。
いくらセーフエリアに居るとはいえ、ここはダンジョンの中。しかもこの第四層はすぐ近くに厄介なモンスターがいる場所なのだ。
リュートが大暴れして数を減らしていたキラーアントも日を追うごとに湧き、ちらほらと見かける事が増えてきている。リュートから話だけ聞いていた緋雨は、実際に見たキラーアントに、(あれが蟻の化け物ね!)と怖がるでもなく感想を漏らしていた。
出来立てほやほやだった桜華ちゃんにもステータスがある。リュートが『CC』を改良した時に付け加えた効果だ。…これが無いとマギカネリアでは生活し辛い。
しかし桜華ちゃんのステータスは低く、ゴブリン相手にも苦戦するだろう。まだレベル1のひよっこなのだから。
さすがに『神の宝珠』も、レベルやステータスの数値を操作する事は出来なかった。侑人も桜華ちゃんも、一から経験を積んで成長していくしかないのだ。
その為の第一歩として、リュートは鞘に納まっている緋雨と共に第六層へ向かった。…ビッグキャタピラーのドロップを求めて。
第一歩、…桜華ちゃん用のパンツ…は難易度が高いので、短パンを作る所から始める為に。




