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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第五章 『生誕』編

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16.左目のコントロール


 リュートは桜華に話せない事が1つあった。

 日本から召喚され、…当時はまだマギカネリアという名前の無かったその星に降り立つ前、桜華は女神アナスタシアと会っていた。


 桜華自身はその事を覚えていない。というのも、桜華は召喚されてからすぐさま戦闘に参加させられ、人や魔族の死に触れて魔力を暴走させる事となった。その結果、大きなクレーターを作るほどの自爆を引き起こして気を失い、目覚めた時には…召喚される時から自爆するまでの記憶を失っていた。


 その爆発は多くの魔族と…人族の命を奪った。召喚したはずの人族側はその後、腫物を扱うように桜華と接するようになる。また暴走を起こされては堪らないと、桜華本人に真実を伝える事は禁止された。その事が人族と桜華の関係を隔てる大きな溝となったのだった。


 桜華の記憶では、突然巨大なクレーターのある知らない場所に倒れていて、召喚された勇者であると説明を受ける所からマギカネリアでの生活が始まっている。

 勝手に召喚されて戦わされたと思っていた桜華。しかし桜華は拉致紛いに召喚されたわけではなかった。

 日本からマギカネリアに召喚されるその間に、女神アナスタシアと言葉を交わし、これから行く世界を救ってもらいたいという依頼をされ、桜華はそれを受けた上でマギカネリアに降り立っていた。依頼を断るならちゃんと日本に送り返すという女神の提案を聞いた上で、勇者として異世界召喚に応じていたのだ。


 物語の主人公を思い浮かべていたであろう桜華は、すぐに現実を突き付けられた。

 見知らぬ地で戦争の真っ最中、説明もそこそこに桜華を先導する騎士、盾になって命を散らす兵士、襲い来る魔族、足元に広がる死、死、死…。

 会って間もない先導してくれた騎士と並んで戦い、その騎士に実戦の中で手解きをされ、背中を合わせ…顔を引き攣らせながら魔族を討った。そして桜華の目の前で…魔力の暴走という自爆に巻き込んでしまい、その騎士を消し飛ばしてしまった。


リュートには桜華の忘れてしまった記憶が細部まで見えていた。


(無理矢理思い出させる必要はない、これは重過ぎるよな…。忘れていた方がいい記憶だってあるんだ)


 リュートは桜華の記憶が細部まで見えてはいたが、全てを覚えている訳ではない。

 それはいくつものモニターで倍速再生される動画を同時に見る感覚だった。到底覚え切れるものではない。

 それでも、優しい思い出、悲惨な光景、印象に強く残ったものはいくつかある。その中でも強烈に印象に残ったのは、魔族との戦争だった。


 モザイク無しの戦争の映像など、スプラッター映画よりたちが悪い。覚悟を決めて見ようとするならともかく、強制的に見させられたとなれば尚更だ。侑人の頃の精神力では耐えられなかっただろう。


 リュートが耐える事が出来たのは、種族によるメンタルの強さとステータスの恩恵、それと『状態異常耐性』のスキルが僅かながら働いたおかげだった。直接的なダメージというわけでは無かったが、『状態異常耐性』スキルが精神の保護の一助となっていた。

 リュートが卵の時に与えられた武器や防具といったご飯()()が、その特性や機能を継承させてリュートを守る結果に繋がっていた。



 桜華が召喚され、長く続いた旅が終わり、…裏切りに遭い、王女との逃亡生活が始まった。その王女ラクシスは、何度も桜華に対して申し訳なさそうな顔をしていた。それが召喚してしまった事に対してなのか、桜華に真実を伝えられないままいる事に対してなのか、リュートの見た桜華の記憶からは読み取れなかった。ただ、グルードの邪魔が無ければ2人は幸せに暮らしていただろう。


 リュートは桜華の寝顔を見つめながら、そんな事を考えていた。



『はい! では今から首輪を詳しく見ていこうと思います!』

『…元気だね?』

『元気ないバージョンの方がいい?』

『………、元気な方でお願い』

『おっけ~』


 ご飯を食べて喋るだけ喋って過ごしたその翌日、リュートのMPは7割まで回復していた。

 魔力暴走を起こしてから2日、MPの全快を待たずして左目のコントロールに踏み切った。

 胡坐を組んで座り、目を閉じてステータスを体に反映させ、魔力を左目に集めるように意識した。目を閉じていながらも、ぼんやりと周りの景色が見えてくる。


『お…、おぉ?』

『………(ゴクッ)』


 ピントの合っていない眼鏡をかけたような、ぼやけた視界のままコントロールが止まってしまった。


『ん~? 魔力が足りない? …濃度かな』


 独り言を呟きながら、魔力を追加で送り込んだり凝縮させてみたりと試した所、景色が鮮明に見えるようになった。

 暴走の時に『魔力操作』の熟練度が爆上がりしたお陰で、かなりスムーズに左目を発動させる事が可能となっている。


『多分…出来た…』

『おぉ…、金色になってるよ』


 ゆっくりと閉じていた目を開けたリュートの左目は、軽く明滅しているが金色に輝いていた。


『…落ち着いた状態なら、なんとかコントロール出来てる…気がするよ。…あぁ、リュート可愛い』

『ふふっ、どこ見てるのさ?』

『いや~、改めて見たくなって…あはは』


 リュート自身…いや、侑人自身こんなにも親バカになるとは思っていなかった。それだけリュートに愛しさを感じているのだろう。

 キラーアントに小突かれてブチギレ…ガチギレする程に。


 最初は明滅していた左目だったが、発動させ続けている内に安定性が増してきていた。


『それじゃ、その首輪を見せてもらうね?』

『…お願いするよ』


 桜華は自然と居住まいを正し、リュートを見つめた。自分を苦しめてきた呪い、首輪を外す小さな手掛かりでも見つかればいいな、と思いながら。


『………』

『………(ゴクッ)』


 本日二度目のゴクリをした桜華。見つめる先のリュートは桜華の首付近を見ており、その視線は何かを読んでいるように左右に動いていた。

 何かが見えているのは確かだろう。


『………ふむ、…解除方法が分かったよ』

『………ぇ、もう?』

『基本的には装着した人物にしか外せない物みたいだけど、緊急時の解除方法がちゃんと載ってたよ』

『…そっ…か、…そっか~』


 呪縛のネックレス

 (選択:ステータスの低下・魔術の使用制限)

 使用者:リーバ

 対象:オーカ・アカギ


 ダンジョン産のアイテム、呪いにかけたい対象の首にネックレスを装着させた後、使用者の魔力によって呪いが発動する。

 呪いが発動するとネックレスは首輪へと変化し、解除するには呪いを発動させた使用者が首輪に触れて魔力を流す必要がある。

 首輪を力尽くで外そうとすると警告として首に痛みが走り、更に力を込め続けると首輪から刃が出現し、対象に甚大なダメージを与える。

 呪いは「ステータスの低下」「魔術の使用制限」「移動範囲の制限」「武器の装備禁止」の4種類から選択可能。

 かけられる呪いは2種類まで可能だが、2種類選択すると1種類の時よりも各呪いの力は弱まる。

 2つ目の同系統のアイテムを同じ対象に装着させても効果を発揮しない。

 使用者が死亡すると魔力の繋がりが切れ、首輪がネックレスに戻り、使用者ではなくとも外す事が可能となる。

 緊急時の解除方法として、首輪の繋ぎ目部分に触れながら魔力を流せば解除可能。

 緊急解除用に流す魔力は属性を持たせたものを、火火火風火水水火、の順で1分以内に行う事。

 確認:□□□□□□□□

 また、解除の為の属性や手順は個別で異なっているので要確認。


『…と、書いてあるね。魔力を注ぎ込む量によって見える情報も増えるっぽい』

『無理矢理外そうとしなくて良かったぁ…。にしても、見え過ぎじゃない?』

『あはは、確かに。ちょっと疑問は残るけどね…。属性を持たせた魔力は使えるんだったよね?』

『それは多分大丈夫だと思う。…属性持った魔力のパターンかぁ、やってみようなんて思いもしなかったよ。外そうと思って引っ張るだけで激痛だったからね。首輪に向けて魔術なんか使ったら死ぬんじゃないかって…』

『確かに…』

『疑問は残るって言ってたけど、何か引っかかる?』

『うん、ちょっと試したい事が一つ、話し合いたい事が一つあるんだ』


 そう言うとリュートは左目の力を解除し、『鑑定』と言葉を発した。『鑑定』は商人のジョブレベルが上がると習得出来るスキルだ。

 豪商のジョブに関するスキルを持つリュートは、『鑑定』のスキルも持っていた。


 呪縛のネックレス

 ダンジョン産のアイテムで、呪いにかけたい対象の首にネックレスを装着させ、使用者の魔術によって呪いが発動する。

 呪いが発動するとネックレスは首輪へと変化し、解除するには呪いを発動させた使用者が首輪に触れて魔力を流す必要がある。

 呪いは「ステータスの低下」「魔術の使用制限」「移動範囲の制限」「武器の装備禁止」の4種類から選択可能。


『…うん、スキルの『鑑定』で見てみたけど、情報が半分以下だね。選択した呪いの種類も、使用者も対象も書いてないし…左目のチートっぷりがエグい』

『その分扱いが難しそうだし、暴走なんて苦労もしたけどね。俺『鑑定』持ってなかったからな~。商売して商人のジョブを上げるくらいなら、戦闘系のジョブを少しでも上げろって言われてたし。まぁ商人に限らず生産系全般だったけど』

『それも一理あるっちゃあるけどね~。まぁ、試したかったのは『鑑定』なんだ。左目の力とどれくらい差があるのかなって思って。結局リーバは呪いが弱まるって知らなかったから、呪いを2つかけたんだろうね。ある意味それで桜華くんが命拾いしたと』

『なるほどね…感謝はしないけど。それで、話し合いたい事って?』

『ん~、…宰相のリーバって、人族だったと思う?』

『………もしかして、人の姿をした別の種族だったんじゃないか…て事?』

『可能性の一つとしては…。ただ、その可能性は薄いとは思ってるけどね。首輪を左目で見た時に、「使用者が死亡すると魔力の繋がりが切れ、首輪がネックレスに戻り、使用者ではなくても外す事が可能となる」って書いてあるって言ったじゃん? って事は、リーバが生きてる可能性が出てくる』

『まさか…。でも、可能性は薄いんだっけ』

『うん、700年生きる種族なんて、ドラゴンかハイエルフ、あとは一部の魔族くらいじゃない? エルフとは友好的…全員じゃないかもしれないけど良好な関係だったみたいだし、そもそも『変化』や『人化』は使えないから除外。魔族だったら桜華くんが首輪を付けた時点で逃がしたりはしないハズ。そしてドラゴンだったら、そもそも首輪を付けるなんて手間はかけないと思う。ドラゴンとの力の差はそれくらいあったでしょ?』

『そうだね。少なくとも俺が竜の谷に行った時、『人化』を使えるレベルのドラゴン相手に勝てる気はしなかったかな。ドラゴンと一括りに言っても、その強さはピンキリだし。戦わずに済んだのはガルディアとシルヴィアのお陰だったけど…話が分かるドラゴンで良かったよ』

『あはは、おもてなしされてソワソワしてたもんね』

『ほんとそれ! 何か粗相でもして機嫌損ねたらどうしようって怖かった…』


 当時を思い出してブルっと体を震わせた桜華だった。


『それで話を戻すと、リーバは人族だった可能性が高い。私が師匠から教わってない種族の可能性もあるけど…』

『いや、その認識で合ってると思うよ。俺も知らない種族ならまぁ…お手上げだけど』

『まぁそれで話を進めるとしよう、どっちにしろ可能性の話だし。リーバが人族なら、既に死んでいて桜華くんの首輪が外せているはず。でも首輪は未だに効力を持ったまま桜華くんの首に装着されている。もしかしたら…リーバが実際には何歳まで生きたかは分からないけど、リーバが生きた年数分ここで過ごさないとネックレスに戻らない、…のかもしれない』

『ダンジョンの外は700年後だったとしても、俺はここでは半年しか過ごしてないから、俺の認識する時間ではまだリーバが生きていて…? ややこしい』

『まぁ、そんな説もあるって感じ。本題は、このダンジョンで700年後から来た俺…私が桜華くんと出会った事。首輪の外し方も分かって、…まぁダンジョンから出るのにどれくらい時間が必要かは分からないけど、脱出出来る確率は格段に上がったはず』

『そうだね、以前の力を取り戻せたら、攻略は断然楽になるはずだよ』

『うん、私も最強種の系列だしね。それで昨日の話に戻るけど、ダンジョンの中と外の時間の流れが等倍の可能性もあるって話したじゃん? リーバと首輪の関係でその説が濃厚になってきた気がするんだ』

『! 首輪が力を失ってないってことは、現時点でリーバはまだ生きている…?』

『憶測ではあるけど、卵を抱いた侑人が…どうやってかは謎だけどダンジョンに入ったことで、ダンジョンと外が繋がった。その繋がりでここと外の情報が更新され…るかどうかはダンジョンに詳しくないから分からないけど、更新されたと仮定する。それでも首輪が力を失ってないって事は、700年というのは関係無いんじゃないかと。もしくは、私が700年前にタイムスリップしてるのかもしれないね。…憶測だけど』

『なるほど。…やっと首輪が外せるって思って、全然そんな事考えて無かったよ』

『あはは、大きすぎる枷だったもんね。ただ…』

『うん?』

『仮に時間が等倍で流れていたとして、私がタイムスリップしてたとして、ダンジョンから出られたとして、…勇者オーカが再び人族のいる所に帰ってきたなんて物語は読んだ事が無いんだ』


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