22.〇分クッキング
評価いただきました。ありがとうございます!
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませリュート様」
ジャガーバルト家へ帰ってきたリュートは、アリアに用意してもらった昼食を食べ、家でゆっくり…
「さて、それじゃ始めるかぁ」
はしなかった。徹夜で上級ダンジョンに潜っていたというのに、まだ休まないようだ。
リュートは台所を借りて、買ってきた米と土鍋を『インベントリ』から取り出した。
「…精米からかぁ。精米機は何回か使ったことあるけど、中の仕組みなんて調べた事無かったな…。長期保存するならこの方がいいはずだけど、イメージで乗り切れるか?」
麻袋から掬い挙げた米は玄米のようだった。念の為アリアに精米を行える魔道具があるかと聞いたが、答えはノーだった。玄米の用途としては、粉にして小麦粉と混ぜ、クッキー等のおやつ用に使う。一般家庭で使う事は無く、玄米を使う店もとても少ないので、ウィンの店でも在庫・種類共に少なかったのだ。
リュートのうろ覚えの精米方法を魔術で再現してみようとしたが、魔法陣をいじっては米を粉々にしてしまったり、力加減とイメージのトライ&エラーが続いた。
いくら米が硬くとも、やり過ぎれば割れてしまい、加減し過ぎればいつまで経っても驚きの白さは見えてこない。日本に居た頃は当たり前だと思っていた知恵と技術に改めて有難みを感じた。
なんとか及第点と思える程度の精米を終え、黒くなっている米を取り除いた。斑点米と呼ばれたりするアイツである。
米を研いで土鍋に移して水を入れ、その土鍋を一旦『インベントリ』に収納してすぐに取り出した。米に水を吸わせる作業がスキルのお陰で一瞬で済んだ。
「時間調整で時短にはなるけど、う~ん…メモリの有難みを痛感するなぁ、いや『インベントリ』もかなり有難いけども。升も無いから米も目分量だけど…水は第一関節部分だっけ。…第一関節でいいんだっけ? …水嵩は良さそうに見えるけど、…テストって事にしよう。で、始めちょろちょろ…ぱっぱっぱ?」
リュートはうろ覚えながら炊飯を始めた。ちなみに『始めちょろちょろ中ぱっぱ』である。炊飯器がまだ普及していない時代のご飯の炊き方を表した言葉だ。
魔石を動力とした魔導コンロに土鍋を乗せ、「ちょろちょろ~…」と言いながら火力調節をする。スマホでタイマーをセットすると、茶碗を取り出したり簡単な箸を作ったり、少々床に落ちてしまった糠の掃除を行った。
手順を見ていたアリアは、独り言が多いなと思いながらも何が出来上がるのか興味津々だった。
精米の作業を見ては、使用する魔術の組み合わせと応用の広さに思考が停止しかけ、米を研いでいる場面では、(まだ水が白く濁っているのにいいのかしら?)と疑問に思ったり、『インベントリ』に収納して取り出した際には、消えた鍋に驚くと共に何をしたかったのかと首を捻った。
リュートは「時間が経つと音が鳴るので驚かないで下さいね」「何があっても鍋の蓋は開けてはいけません」とアリアに注意してその時を待った。
ピピッピピッと電子音が鳴り、アリアはビクッと体を震わせた。(音ってこれの事かしら?)と思いつつ、リュートの次なる行動を見守った。
「ぱっぱっぱ~…まだ早かったかな、ほんと炊飯器の便利さよ…」
アラームを止めてそう言ってから約1分待ち、そこから火を強めて沸騰させ、様子を見ながら火力調節を行う事15分。
「こんな…もんかなぁ? 初めてにしては上手く出来た…気がする」
匂いはそれらしい香りがしている。蒸らす時間に期待を高めつつ、主食となるオーク肉の野菜炒めをパパっと作った。
リュートが使用した調理器具に『洗浄』をかけると、汚れがよく落ちて使用前よりも綺麗になり、アリアが今日一番の驚きを見せた。
「…おぉ~! …ぉ~? …う~む…うん…」
土鍋の蓋を取り、広がる香りに満足し、しゃもじの代用の木べらで混ぜてみると硬さを感じ、茶碗に少量のご飯をよそって箸で食べてみると、「…不味くはない」という感想に落ち着いた。
野菜炒めと一緒に食べる分には恐らく問題無いだろうが、白米のみで食べてみると若干の硬さと味のちぐはぐさを感じるのだ。パサパサはしておらず、見た目と香りは日本の米と変わりなく思えた。見た目と香りだけは…。
リュートは舌に絶対の自信があるわけでもなく、お米マイスターというわけでもない。それでも感じ取れる違和感が確かにあった。
「ちぐはぐと言うか薄いと言うか…。まぁ、見直しの余地あり…かな? 一応見てみるか」
眼帯越しに『眼』を発動させ、茶碗によそわれたご飯をよく見てみれば、その一粒一粒に鑑定結果が表示された。予想外のウィンドウの大量出現に即座に力を弱め、最低限の表示をするように意識しながら改めてご飯を見た。
鑑定結果は、米一粒毎に状態の違いが見られ、品質ランク1~5の米が混ざった状態であった。よく言えばブレンド米である。
冷めないうちにご飯の入った土鍋を『インベントリ』に収納し、少々行儀が悪いが、箸にご飯を5粒並べて改めて情報を覗いた。
「品質…生産者…産地…収穫時期…、ん~…かさ増ししてるのかな」
(あんまり気は進まないけどちょっと見させてもらいますよ~っと)
リュートの『眼』はよく見え過ぎる。ダンジョンの詳細な情報も、動物や人のステータスや過去も。商店自慢の美容クリームでも一子相伝のレシピでも、材料や手順までをも知る事が出来る。出来てしまう。
自分自身に制限を設けているので普段はやらないが、今日はその制限を少しだけ緩めた。美味しいご飯の為に。
(麻袋にはジャポネス産、品質は上質…上質? 上質とは一体…。まぁいいや、失礼して…配合率はランク3が多いのか、ランク1から順に12%・26%・52%・5%・5%…、ランク4と5が少なすぎる)
(斑点米はほとんどランク1か。なんでわざわざ混ぜて売ってるんだろ…ブレンド米と呼ぶにはちょっとなぁ)
(あ~、背景はそうなってるのね。年貢としていい米が上に取られちゃってるのか…、それにしてもこれを上質と呼ぶには…。百姓さんを責められないけども)
(茶碗を…全体的に見れば…、見えた見えた。なるほど、水が少なかっ…あ~、この手だと小さいもんな。第一関節の差は迂闊だった…)
「リュート様、いかがされました?」
ご飯を一口食べた後、米粒を並べて睨めっこしていたリュートに、アリアが話しかけた。
「失敗…とまでは言わないんですけど、美味しくなる改良点を探していたんです」
「なるほど…。見ただけで分かるとは、ニホンの食事に対する想いと技術は凄いのですね」
「さすがに見ただけじゃ無理ですよ? ちょっと力を使いましたので」
「そ、そうでしたか、失礼いたしました。…私も一口いただいてもよろしいですか?」
「もちろんですよ。ただ、ちょっと硬いのと味にばらつきを感じますが」
「なるほど…、それも含めて頂戴いたします」
リュートが『インベントリ』から土鍋を取り出し、2口分程度のご飯を皿に入れてアリアに渡し、アリアはフォークでご飯を食べた。1口はそのまま、1口は塩を振りかけて。
「…この味で、改良点があるのですか?」
困ったように「あはは…」と笑うリュート。大味なものが多いマギカネリアからすれば、今回リュートが炊いたご飯でも美味しかった。確かに少々硬い気はするが、アリアにとってはその程度の問題だった。
炊いたご飯は大体5合程。リュートがある程度の量のご飯をボウルに取ると、残りは塩を付けておむすびにした。
土鍋と茶碗に『洗浄』をかけて綺麗にしてから『インベントリ』へ収納し、アリアに食材の使用許可をもらってオーク肉と野菜、タマネギ・人参・ピーマン・ネギをまな板の上に置いて切り始めた。
翻訳されてはいるが、マギ語で言えばタマネギはオニロンの皮、人参はキュロタスの根、ピーマンはニガキング、ネギはそのままネギと言う。テストには出ないので覚える必要はない。
サイコロ状に切ったオーク肉をフライパンで炒め、しっかりと味付けをしてから野菜を投入。フライパンを返しながら軽く塩とコショウをかけ、一旦お皿にあげた。
魔導コンロにフライパンを戻し、ご飯を入れて炒め、米が肉の脂でコーティングされた所で、皿にあげていた肉と野菜をフライパンへ戻した。
アリアは見逃すまいとリュートの行動を見続けている。リュートが侑人である事は知っているが、今現在は少女であるリュートの手際の良さに、どうしても(こんな小さな子が流れるように料理を…)と思ってしまっていた。
リュートの調理は続く。フライパンに卵を割って入れ、木べらでかき混ぜながらフライパンを返し、ステーキソースを少量入れて味見をし、刻んだネギを入れて塩・コショウで微調整をした。…リュートとしては、本来は醤油を使いたいのだが…無いのが悔やまれる。
「よし、アリアさん味見します?」
「は、はい!」
目と鼻に意識が集中していて、名前を呼ばれたアリアは思わずいい返事をしてしまった。大きな声が出てしまったのが恥ずかしかったのか、若干頬が赤い。
リュートがフライパンからスプーンですくいあげた炒飯と受け皿をアリアに手渡し、「熱いので気をつけて」と注意をした。
「ふ~っふ~っ、はむっはっ! はふい!」
ふ~ふ~が足りなかったようだ。熱いと注意を受けてはいたが、リュートが平然と味見をしていたところも見ていたので大丈夫と思ったのかもしれない。
リュートは口の中も強かった。侑人は猫舌だが。
「んっ…ふぅ、熱いけど、美味しいですねこれ」
「それは良かったです、まぁ男料理ですけどね。夕ご飯の一品にします? アラン兄さんの口に合うかは分かりませんが」
「よろしいのでしたらお願いします。きっとお好きですよ」
「ではその方向で。久々にちゃんと料理しましたけど、楽しかった~。キッチン台がもうちょっと低ければ作業がしや…すい…、侑人になればよかったのか…」
思いつくのが遅かった。炊飯前に気付けば、硬めのご飯にもならずに済んでいたかもしれない。
アリアは口元に手を当てクスクスと笑っていた。なんでもこなすと思っていた少女の少々抜けた所が、途端に可愛く見えたのだ。
リュートは頭を掻きながら「あはは~」と笑って、調理器具の汚れを『洗浄』で落とし、キッチンを借りた事に礼を言った。
「こちらこそ、良い物を見せていただきました。料理の幅が広がりそうです」
「お米は、精米といって…簡単に言えばコレを削らないといけないんですよ。それが結構手間がかかるので、簡単に出来そうな魔道具を考え中です」
「出来るのを楽しみにしています。これを粉にしてパン等の生地に混ぜて使うと聞いた事はありましたが、この工程はとても新鮮でした。その精米?や、こういった調理法は、ニホンの文化なのですか?」
「そう…ですね。あのままの状態を玄米と言って、そのまま調理する事もありますが、日本では精米したものをああやって炊いたものが主食として広く食べられています。種類もあって、他の国でもこうやって食べたりしますけどね。こっちの炒飯という料理は隣の国から伝わったものですし、アレンジはしてますけど」
話が少々盛り上がり、気付けば15時頃になろうとしていた。リュートは玄米の入った麻袋を『インベントリ』へひっくり返して入れ、ランク分けの作業を始めた。
その光景をポカーンと口を開けて見ていたアリアだったが、仕事を思い出して炒飯の味に合いそうな料理を考えながら、調理を開始した。
料理はなんとか夕食には間に合い、王城での仕事を終えたアランが帰宅し、晩飯の時間となった。炒飯は皿に移した後『インベントリ』内でゆ~~っくりと時を過ごしていたので、取り出せばほぼ出来たて状態だ。
アランはその炒飯にハフハフしながらがっついていた。おかわりもしていた。アランの口に合ったようである。
それを見ていたアリアは、食事の後で米の炊き方と炒飯のレシピをリュートに聞いてメモに取っていた。「ある程度材料は自由なので、自分なりの炒飯を見つけてください」というアドバイスには二重丸が付けられていた。
☆
『ただいまリュート』
『お帰りなさいミュア師匠』
「ライオネル家のエリオスから、手紙を預かってきたんだけど」
「おぉ、ありがとうございます」
ミュリアルがジャガーバルト家へやってきた。時刻は20時、夕ご飯から2時間以上経っている。昨日の夜アランに頼んだ手紙の返事を持ってきてくれたようだ。
リュートは宛がわれている部屋のソファーに座り、大きめの魔石片手に作業をしていた。
「すごく…大きい…」
「これくらい大きければ色々出来ますからね、長持ちしますし」
「じっくり見てもいい?」
「いいですよ」
魔石の話である。
「ん…いっぱい詰まってる。押し当てると動く、棒に突起と…回転? 力加減の調節と…」
「さすがミュア師匠、よく分かりますね」
「んふ~♪ …ハッ、でもこれをどうするの?」
「使ってみます? 気持ちいいですよ」
魔石の話である。
スケルトンロードの魔石に魔法陣を刻み込み、簡易精米機の鍵としたのだ。
「箱に土と…風の魔法陣…見た事ないのもある。こっちの袋に入ってるのは、ジャポネスの米?」
「そうです。この米をザルに入れて、ザルをこの木の箱に入れて、ガラスの蓋をします。そして箱の横に魔石を押し当てると」
「わ、反応した」
「まだ試作段階ですけどね。押し当てた魔石を右に回すと…」
「おぉ、ザルが回転してる…ガラスだから見えやすい。でもこんなガラスの蓋なんてどこで売ってたの?」
「箱も蓋もザルも自作ですよ」
「…リュートがどんどん人族離れしていく」
さすがユート先生とは言われなかった。
「あはは…、確かに…」
「?」
「あぁいや。…ともかく、これで中の様子を見ながら回す強さを調節するんです。押し当てている魔石を逆向きに回すと…」
「ん、突起のついた棒が出てきた。…棒が出てくる魔術?」
「ミュア師匠とやろうとしていた複合魔術です。名付けるなら木属性の魔術ですかね?」
「…さっきの見た事ない魔法陣が木属性?」
「そうです。再現出来たらステータスにその属性が適性として表示されて使えるので、その度に再現しようと複数の魔術を使って組み立てる必要はないんですよ」
「…私の師匠としての立場がもうない…」
「ミュア師匠はいつまでも私の師匠ですよ。魔術の勉強をしていたお陰でこうして戻ってこれましたしね。…当時は発動できませんでしたけど」
リュートが落ち込んでしまったミュリアルを励ますと、割とすぐに機嫌が良くなった。この師匠、チョロい。
「それに、ミュア師匠も出来るようになりますよ」
「…え?」
「木属性は割と複雑なので、まずは組み合わせやすいものからやっていきましょう。私は弟子ですけど、先生でもありますからね。教えられる事は教えます」
「ユート先生…ありがと」
「っと、その前にコレの続きをやりますか。左側に回して棒が出てきましたよね? 更に左に回してみてください」
「おぉ、回転して…棒の突起で米が暴れてる」
「突起はわざと角張らせて、米の表面を削りやすくしてるんです。どんどん白くなっていくでしょう?」
「ほんとだ…見てるとちょっと気持ちいいかも」
木の箱に魔石を押し当て、左側に回しながら蓋の中を覗き込むミュリアル。楽しそうでなによりである。
全体的に米が白くなったところでやめさせ、蓋を開けてザルごと米を取り出した。木の箱の内側には取れた糠がびっしりと付いている。
「ありがとうございました。こうして出来た米を白米と呼びます。これを水で煮てふっくらさせるんですけど、今日は時間が無いので…出来上がったものがこちらになります」
「おぉ!」
〇分クッキングのネタは驚かれはしたがウケなかった。リュートが『インベントリ』からおむすびを取り出しミュリアルに食べさせると、一口一口をしっかり味わっていた。
食べて欠けたおむすびを見ながらもぐもぐ…、「これがニホンの味…」と声を漏らしながらもぐもぐ…。
「本来ならもっと美味しいんですけどね」
「………、これでもすごく美味しいのに?」
「多分次回食べるおむすびは、コレより美味しいと思いますよ」
『インベントリ』内でランク分けされた米、ランク4と5の米を混ぜて次回提供する予定のリュートだった。ランク2と3は炒飯にする予定である。ランク1?…知らない米ですねぇ。
無駄にはしていない。斑点米が多すぎる為に、選別と削りの作業の末、粉となっているだけだ。
こうして夜は更けていき、就寝の時間となった。
☆
「ユート先生…、今日は…一緒に寝てもいい?」
一昨日一緒に眠る事が叶わなかったからか、おずおずと申し出たミュリアル。
少々上目遣いで枕を抱いて、枕で口元を隠すその姿に、否と言える者がいるだろうか。あざと可愛い…誰がこんな高等テクニックを教えたのだろうか。けしからんと褒めたい。
「…リュートの姿でなら、いいですよ?」
「ん! ありがと!」
昨日の朝の落ち込み具合も見ていたので、リュートは了承した。師匠に甘い弟子である。
2人でベッドに向かい合って寝転び、手を繋いで…すぐさまミュリアルは寝てしまった。
(そんなにこってり怒られてたのかな…。まぁ、言っちゃなんだけど…皆に見られたのが派手なパンツだったし、役の為って言ってはいたけ…いけない、寝よう)
思い出しかけたパンツのデザインを記憶の彼方へ追いやり、リュートも目を閉じ、王都に来て3日目にして…初めて眠りについたのだった。




