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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第四章 王都編

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18.はい! 頑張ってきます!


 武器を没収されたスケルトンクイーンは防戦一方だった。

 見守るだけになっているジンにとっては安心して見ていられるのだが、逆にクイーンを不憫に思ってしまってもいた。


(巻き上げを教えたのはあたしだけど、そのまま武器を取り上げるなんて思わなかったわ…)

(あはは、上手に飛んでいったもんね。試合ならともかく、命のやり取りをしていて武器を落とす方が悪いんだよ。それに奪われる事を想定されてない事もね)

(そもそも武器を手放させる技だし。もしあたしが誰かに奪われるような事があっても問題無いけど)

(…それは相手に同情しちゃいそうだなぁ。まぁ、緋雨を誰かに奪わせる気はないけど)

(そ、そんな事言われると、恥ずかしい…)


 緋雨の簪がチリンと鳴る。

 この少女と刀、戦闘中にイチャイチャしすぎである。


「もうすぐHPが3割を切ります!」

「了解! 気をつけて!」

「はい! ジンさんも油断しないでくださいね!」


 スケルトンクイーンはスタイルを変えず、盾を手放す事無くただただ守りに徹していた。

 確かに盾があれば攻撃を防ぎ、ダメージを軽減することが出来る。が、攻撃手段が無いのでジリ貧だ。

 クイーンには狙いがある…わけではない。言葉は発しないが(どうしようどうしよう!?)と、内心では焦りまくっているのだ。


 クイーンという名は付いているが、あくまでスケルトンクイーンは他のモンスターと同じ…ジョブを持ったモンスターだ。

 仮に、クイーンが盾を捨てて拳闘士スタイルで戦ったならば、ガクンと下がった攻撃力でダメージは期待出来ず、盾が無くなった事で防御力が下がり、消滅を早める事になっていただろう。盾を手放さないのは、それを本能的に理解していたからかもしれない。

 HPの割合をトリガーとして強化されるという情報も、リュートが『眼』を使ったから分かった事であって、クイーン本人には知識も自覚も、知る術も無かった。

 …が、


「ア˝ア˝ア˝アアァァァ!!」


 スケルトンクイーンのHPが3割を切り、クイーンは溢れてくる力に叫び声をあげた。

 風が吹き荒れるその中心で、クイーンの骨はその淡い赤さに輝きを持ち始め、背後には宙に浮いた抜き身の剣が2本出現した。その色は最初の剣よりも赤みを増している様に見える。

 クイーンは自身の変化を確認し、リュートに向かって一歩踏み出した。


「ア˝ァ…」


 新たに出現した2本の剣は自在に動かす事ができ、能力は5割程度上昇した。剣1本を手元に移動させて握り、戦闘スタイルが元に戻った。

 クイーンからは、武器を奪われ虚仮にされた、その事に対する怒気が漏れ出ていると思わせるように、湯気のようなものが立ち上っている。

 その姿を見たリュートは、


(…あの2本はスキル扱いかな? 1本目みたいに奪い取るのは多分無理か。もし剣を奪ってなかったら三刀流になってたり? …口に咥えたりしないよな?)


 …いつも通りだった。


「『サンクチュアリ』『オールアップ』、一応かけ直しておきました。ここからが本番みたいですしね」

「………」


 リュートが再発動した『サンクチュアリ』内に居ても尚、ジンは声を出せなかった。

 恐慌状態にさせられたスケルトンクイーンとの初遭遇、『サンクチュアリ』が発動しているのでジンの心は平静を取り戻していたのだが、落ち着いていた脳が判断してしまう。アレと戦ってはいけない…と。

 それでも自分が守らなければ、ここから出て戦わなければという思いが足を動かそうとするが、その一歩が出なかった。


「…ジンさんを不安にさせるのは本意ではないので、さっさとやっちゃいましょうかね」


 あまりにも軽い意気込みを伝えられ、ようやくジンがリュートの顔を見た。


 真剣ではあるが悲壮感はなく、真っ直ぐスケルトンクイーンを見つめている。

 何故そんなに余裕を持てるのか。怖くないのか。『サンクチュアリ』の外で感じるクイーンはどれほど恐ろしい存在なのか。

 聞きたい事はジンの口から出なかった。出てきたのはシンプルな応援の言葉だった。


「…頑張って」


 かすれた声、思っていたよりも小さなボリューム、簡素な言葉。自身の発した言葉の力の無さに、思わず俯いてしまうジン。


「はい! 頑張ってきます!」


 頼りない他人任せにするような…そうジン自身が思ってしまった応援に、元気よく応えたリュート。情けなさに俯いていたジンは、リュートの戦いを見守るために顔を上げる。

 リュートは左目の眼帯を外して『インベントリ』に仕舞い、ジンを守るようにクイーンに向かって3歩ほど前に進むと、緋雨を両手で握り中段に構えた。


(もう1段下げて、ジョブは剣聖に変えて…)

(下げる必要あるの?)

(必要はそこまで無いけど、ジンさんの見本になるかなって。それに友達を怖がらせてくれた礼はしないと…ねぇ?)

(…クイーンが強かった事が運の尽きなのかしら、惨い理由ね…)


 緋雨がクイーンに同情している内に、同情されている事など知る由もないクイーンがリュートに詰め寄った。リュートもそれに合わせるようにゆっくり前に出る。

 クイーンは大きく上昇した能力により、接近するスピードは先程までとは段違いだ。手にした新しい剣を振りかぶり、斬るよりも叩き潰すつもりでリュートを斬り付けた。

 キンッと小さな音がした次の瞬間、ドガァン!と大きな衝突音と共に、クイーンとリュートの居た場所に砂塵が舞う。膂力も明らかに上がっている。


「ア˝ア˝ァ!?」


 聞こえてきたのは…スケルトンクイーンの叫び。砂塵が晴れたそこには、緋雨を中段に構え続けているリュートと、対峙して警戒するクイーンの姿があった。


 何故無事なんだ、何故私の方がダメージを受けたんだ、確かに切った手応えは無かった、避けたのか、それとも自分の力がコントロール出来ず外したのか。

 クイーンは考えた後に、盾を捨てた。そして背後で浮いていた剣を左手に移動させ、しっかりと握った。


「………」


 リュートは声を出す事も無くそれを見つめている。


(足の並びはそんな感じなんだ、撞木足(しゅもくあし)とかじゃないの?)

(撞木足?は分からないけど、習ったのはこれだったからね。あそこでは基本、動き回って戦う方が多かったし、やる機会も無かったけど)

(撞木足は…そうね、足の裏をしっかり地面につけて戦うって感じかしら?)

(あ~…なるほどね。私達はベタ足って言ったりするよ)

(そうなの? ベタ足ね、覚えたわ!)

(あはは。ベタ足でも移動も回避も問題ないけど、なんだろ…身が引き締まるというか、気分の問題かな? まぁ本格的にはやってないんだけどね。学校に行ってた頃の剣道の授業で少しだけやったのを覚えてる程度だよ)

(学校…覚えてるわ! 大きな寺子屋ってリュートが言ってたやつね)

(正解。…他にいい言い回しが浮かばなかったんだよね~、子どもが大勢集まって勉強や運動をする所…)

(なんとなく理解出来てるから問題無いわ)

(ありがと。学校に行ってた頃は一週間のうちで月曜日が一番憂鬱だったよ)

(…いっしゅーかん? げつよーび?)

(え…、あれ? 7日毎に一括りにして一週間て言い方するんだけど、そういう呼び方してなかった? ってか、まだ説明してなかったっけ?)

(多分…? 少なくともあたしは知らなかったわ…。まだまだ知らない話が出てくると思うと、やっぱりリュートと話すのは面白いわね!)

(あはは、こっちとしても勉強になるからね。これからも期待に応えられるようにするよ)


 リュートは真剣な顔で、心の中で緋雨と世間話をしていた。

 

「ア˝ァ…」


 準備は整ったとでもいうかのように、「よし…」と意気込んだクイーン。まさか相手がこっそり雑談をしているとは思いもしないまま、再度リュートに向かっていった。…しばかれに。



 本来であれば、剣と盾を手に持ち、背後に出現した2本の剣を思いのまま動かすという、変則的な三刀流というスタイルで戦うはずだったであろうクイーン。しかし剣を1本奪われ、防御()を捨てた二刀流という形は、奇しくもクイーンを次のステージへと上げていた。


 リュートへの突きを放ち、弾かれるともう片方の剣で追撃を行い、後ろに下がらせた。

 上段からの振り下ろしを受け止めさせ、鍔迫り合いになっている所へもう1本を振り下ろして回避させた。

 攻撃の幅が広がり、技術が洗練されていき、どんどんリュートを攻め立てていくクイーン。

 自身が後ろに下がり、助走をつけて突進しながらの突き。剣2本を揃えての袈裟切り。流れるような連撃。剣1本を投擲し、操作して背後からの攻撃。そこへ正面からの追撃。


「ア˝ア˝ァァ!」

「………」


 しかしそれでも、怒涛の攻撃はリュートには届かなかった。


 力での押し合いなどせず、弾いて軌道をずらし、一定の距離をとったまま緋雨を構え続けている。

 ()れてきたクイーンの攻撃が大振りになってくると、リュートは胴や足を通り抜けざまに攻撃した。あくまで生死をかけた真剣勝負、剣道の試合でもないので足への攻撃を非難する事など誰もしない。

 頭部への…剣道で言うところの面は打っていない。緋雨のリーチとリュートの身長が足りないので仕方ない。


 攻めているはずなのに一向にダメージを与えられない事に、クイーンの苛立ちは大きくなっていく。


「ア˝ァ…ア˝ア˝ァァ!!」」


 大振りになった攻撃は再びいなされ、攻撃する為に振り下ろした腕に逆に攻撃を食らう。逆の手に持っていた剣で横薙ぎにしたが、既にリュートはそこにおらず、距離をとってまた中段に構えていた。

 クイーンは自分のHPが1割を切った事に改めて危機感を覚え、剣2本での防御に回った。


(そうだ、相手のように攻撃してきたところを逆に叩けばいい)

(攻撃するから反撃を食らうんだ、あの小さい人族の真似をすればいい)

(一撃でも当たりさえすれば小さな人族なんて簡単に倒せる、受け止めたらすぐにもう1本の剣で斬ればいい)


 そう思い至ったクイーンは、攻撃的な構えから守り主体の構えになり、リュートを待ち受けるようにした。


「………」

「………」

「………」


 反応しないリュート、攻撃を待つクイーン、戦いから目を離せないジン。2人と1匹の無言の時間が続き、


「…来ないなら、こっちから行くよ?」


 リュートがそう言うと中段の構えを解き、腰にある鞘に納刀して腰を落とした。

 クイーンは初めて見る構えだが、ジンには見覚えがあった。


「…シッ!」


 広範囲斬撃技の『宵』、それを凝縮させた単体への中・遠距離斬撃技『宵・凝(よい・ぎょう)』。ジャガーバルトで起こったスタンピード時、対オーガ戦で見せた技だ。

 クイーンは『察知』のスキルによって感じた危機感から両手の剣を交差させて、迫りくる見えない何かに備えた。


「…ガッ!? …ア˝ア˝ァァ!」

「知らんがな、そっちもしよった…おっと」


 『宵・凝』は不可視の斬撃である。突然クイーンの構えていた剣に衝撃があり、その瞬間から襲い掛かる揺らぎのようなものを確認できるようになった。よろめきはしたが、踏み止まって叫びながらその揺らぎと押し合いを始め、消し潰そうと力を込めるが中々押し返せない。

 狙っていた事が(ことごと)く上手くいかないクイーンの叫びは、「飛び道具なんて卑怯よ!」であった。自分も剣を投擲していた事を棚に上げての酷い言い草である。リュートも思わずツッコんでしまい、言葉遣いが悪かったと思い口元に手を当てた。


 スタンピード時、オーガは攻撃に耐え、『宵・凝』を防ぎ切った。オーガよりも戦闘力の数段高いスケルトンクイーンに、『宵・凝』を防げない道理はない。

 オーガは分類するとランク8のモンスターだ。オークキングもランク8、スケルトンキングはランク9、スケルトンキングの上位種になるクイーンはランク11相当、HPをトリガーに能力が上昇した状態はランク12相当だ。

 ちなみに、スケルトンクイーンというモンスターの情報を記した書物など無く、ランク11相当や12相当と格付けしたのは実際に武器を交えたリュートの憶測に過ぎない。その憶測は大体合っていたが。


 同ランクのモンスターでも、その強さはピンキリだ。表すなら8-や8+といった具合だろうか。

 もし今のリュートを分類するなら、手を出してはいけないモンスターの代表格、地竜や飛竜よりも上にランク付けされる上位竜…ドラゴンに匹敵する。

 制限をかけた状態でのオーガ戦の時はランク10程度、制限を2段下げた()()()()でランク14相当である。


 つまり、制限を緩めた…上がった戦闘力で放たれた『宵・凝』は、オーガ戦の比ではなかった。


「ア˝ァッ、ア˝ア˝アァァァ!!」


 力を入れても押し返せず、避けるにも攻撃が空間の揺らぎしか見えないので困難、大きく回避すれば隙を作ってしまう。

 押し合いをしている今でも、リュートからの追撃が来ないか注意を向けておかなければならない。

 クイーンの剣が壊れそうな気配は無く、ただ耐えるだけの時間が続く…と思われたその時、クイーンに迫る揺らぎの力が弱まった。いや、弱まり続けていく。

 斬撃に注いでいたリュートの力が尽きたと考え、チャンスだと思ったクイーンは更に力を込めて、目の前の揺らぎを消し潰す事に成功した。そしてそのままリュートへと突進し、上段からクロスするように左右に持つ剣を振り下ろした。


「ア˝ァ!!」

「………」


 攻撃を潰した事でクイーンのテンションが上がってしまい、受けに回っていたはずだった事を思い出したのは…中段に構え直していたリュートに反撃を食らった後だった。


 『宵・凝』が力を弱めたのは、単に斬撃の有効時間が切れただけであって、リュートに疲労の色は全く無い。そもそも『宵・凝』で倒すつもりも無かった。

 結局緋雨を中段に構えたままのリュートに、クイーンは突っ込んでいくしか取れる術はなかった。

 接近戦では攻撃を当てる事も出来なかったが、距離を取って受けの状態でいる事を選べば再び揺らぎに襲われ、その方が危険であるという判断だった。

 …ヤケクソとも言う。


「ア˝ァ…」

「………」


 リュートは『宵・凝』を放ってからは終始緋雨を中段に構え、これまで通り弾き、いなし、カウンターを入れてと繰り返した。

 クイーンに一撃も許す事なく、『宵・凝』を放って以降大技を使うでもなく、付かず離れずの距離を保ったまま、クイーンのHPを削り切った。

 仰向けに倒れたクイーンが消えていき、完全に消滅した後には魔石とドロップが残されていた。


「いや~、いい特訓になりました」


 ジンは耳を疑った。

 確かに攻撃は受けていないが、訓練と呼ぶには厳しすぎる相手。リュートが居なければ初撃で殺されていたと思える相手に特訓と言い切った事に、ジンは言葉が出なかった。


 ジンがクイーンの居た場所を見れば、これまでに見た事も無い輝きを持った大きめの魔石、そして抜き身の剣とインゴットと…小さな瓶があった。






 …骨と共に。


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