17.美人なスケルトン
おや? 中ボス部屋の様子が…。
第十層へ戻り、扉を開けた。
「「………」」
一旦扉を閉めた。
「…なんか、部屋の中の雰囲気が全然違ったんだけど…気のせい?」
「…いえ、同じ感想です。ジンさん心当たりあります?これ」
ボスや中ボスは、部屋へ入り扉を閉めると登場する。入る前なら「やっぱや~めた!」が可能だ。帰る為には、部屋を通るか最下層まで行くしか道はないが…。
行きのスケルトンロードと戦った時に部屋へ入った感覚とは全く違う、入る前でも分かる重い空気感。部屋の明るさも行きの時より暗く見えた。
「下の階層から中ボス部屋へ入るとこうなる…とか? 素通り出来る雰囲気…ではないでしょうし」
「…もしかしたらレアモンスターかもしれない」
「中ボスのレアときましたか…初体験です」
ダンジョンには稀にレアモンスターが湧く事がある。正確には、量産されストックされている最下層の更に下、異空間から補充される。
初級ダンジョンのスタンピードでも、普通は居ないはずのウルフの上位種やオークが出現していた。更にオークロードやオーガまで。
そういった変異種や上位種、果てはそれ以外の強力なモンスターが、この中ボスの部屋に現れるのかもしれない。
「レアドロップが期待できるかもしれませんね」
「ははっ、最初に気にするのがそこなんだね…」
頼もしい少女であった。
スケルトンロードの場合はリュートがソロでやる予定だったが、現段階では何が出てくるか分からない。
念の為に打ち合わせをし直して、取り巻きをジンが対処、中ボスはリュートとタイマンというスタイルで決定した。もちろんリュートに危険がありそうなら、ジンは割って入るつもりだ。
2人は準備を終えると、
「よ~し、それじゃ…行こうジンさん」
「了解」
改めて扉を開けて、部屋の中へと入っていった。
☆
「「………」」
扉が閉まり、警戒を続ける2人。部屋が徐々に明るくなった…そう錯覚するように、中ボス部屋に広がっていた闇が一カ所に集まり、重く暗く…その濃度を増していく。
凝縮された闇が形を成し始め、ロードよりも背の低い、通常のスケルトンサイズである170cm程度の中ボスが───
「『ストーンバレット』」
実態化する前に撃たれた。この少女、鬼畜か。
闇の塊に向かって撃たれた『ストーンバレット』だったが、何かに当たった雰囲気もなく、ダメージを受けた様子もなく、少々闇が散った程度の効果しか無かった。「ダメか…」と呟くリュート、正面を向いたままのジンは無言だった。
呆れてはいなかった、怒ってもいなかった。剣を構えて成り行きを見守る事以外考えなかった自分に対して、リュートの柔軟な行動は目から鱗が落ちた気分だった。
地球の人間がこの行動を見れば、ヒーローの変身シーンに攻撃をするようなリュートの行動に文句を言われそうだが。
何事も無かったかのように闇は輪郭を形成していき、闇が散った。すると部屋の中央にドレス姿の、…ドレスの上に鎧を着た、…淡く赤い骨の色をしたスケルトンが立っていた。
ナイトやロードと同じように剣と盾を持ってはいるが、見た目の豪華さはスケルトンロードの物と比べると天と地ほどの差がある。鎧もロードの物よりも性能は高そうだと見ただけで感じ取れる。
「………」
ジンの頬を汗が伝う。ロードと相対した時とは全く違うプレッシャー。軽口を叩く余裕などなく、無意識に守らなければと思い、リュートの前に立って赤いスケルトンを警戒した。…それしか出来なかった。
「ア˝ア˝アアアアァァァ!!」
「っ!?」
赤いスケルトンの発した叫びにジンの体が硬直した。その隙を突こうとするように重心を前へと移動する赤いスケルトン。向かってくるであろう予備動作を見たジンだったが、
「ア˝ァ」
「ぁ…」
次の瞬間には目の前へ…間合いへの接近を許してしまい、仄かに赤い剣を振り上げた体勢の赤いスケルトンに対して…小さく声をあげる事しか出来なかった。
赤いスケルトンの移動速度は速かったが、瞬間移動や転移をしたわけではない。ジンが委縮した事により思考が鈍り、目に映っていたハズの赤いスケルトンの接近を認識出来なかったのだ。
剣が振り下ろされ、ジンの左肩から右脇腹が斜めに切り裂かれる───
「っとぉ!」
事は無かった。
ギィン!と金属同士のぶつかる重い音が響く。
リュートが飛びながらジンの前に割り込み、刀で赤いスケルトンの一撃を受け止め、
「声帯も無いのに喋らないそこ!」
明らかにそれじゃないツッコミを入れながら、力任せに刀を振りきって吹き飛ばした。
「ア˝アァ!?」と驚いたような声を上げた赤いスケルトンは、中ボス部屋の端…壁にぶち当たって止まった。
ジンは、赤いスケルトンが壁に衝突した音と土煙を上げた光景を見て、自身に何が起こったのかを理解した。
理解して…目の前で自分を守ってくれた少女に対して、自身の無力さに打ちひしがれていた。
共に戦う、危険があれば割って入る、その考えがどれだけ意味の無い事だったのかと気付いた。自分が逆に助けられ、ただ足を引っ張るだけのお荷物にしかならないと自己嫌悪に陥った。
「ジンさん…」
リュートに対して「助かった」などと気軽に言えず、言葉に詰まってしまう。萎縮しているようにも見えず、重そうな攻撃を受け止め、更に弾き飛ばすという力技を見せたリュート。全く動けなかったジンは何と返事をすればいいのか分からなかった。
「居ましたね」
「…え?」
「噂してた美人なスケルトンですよ、スケルトンクイーンって名前みたいです。タイプは女王様が正解だったようですね」
絶望的なこの状況で最初は何を言われているのか理解できなかったジンだったが、徐々に頭が回り始めた。自己嫌悪は絶賛発動中だが。
リュートの調子は今までと変わらない。
「当初の予定通り、私が戦ってきますね。取り巻きもいませんし、ここで見ていて下さい」
ジンはリュートに言われて初めて、中ボスとして登場したスケルトンクイーン以外のスケルトンが湧いていない事に気付いた。
「『サンクチュアリ』、この光の中からは出ないでくださいね?」
ジンの返事を待たず、どんどん行動するリュート。結界魔術である『サンクチュアリ』、物理・魔術攻撃を防ぎ、怪我の痛みや状態異常も和らげてくれるものだ。
「この中なら状態異常もすぐ治まると思いますので。それじゃ行くよ、緋雨」
緋雨という言葉に、リュートの持つ刀に付いている飾りがリンと鳴る。
猛スピードで突進するリュートを、「ア˝ア˝アァァ!」と声をあげて待ち構えたクイーン。
通り抜けざまに一閃、クイーンはダメージを受けつつも振り返り、通り過ぎたリュートの背中に攻撃…しようとして逆に回り込まれ、背中を斜めに斬り上げられた。
「ア˝アァ!?」
「よく喋る女王様だなぁ」
ちなみにだが、高レベルの『意思疎通』スキルを持つリュートには、クイーンの言葉が通じている。
ジンが硬直した最初の叫びは「なんて事するのよ!」と、顕現前に『ストーンバレット』を打ち込まれた事への怒り。
声帯に文句をつけられて吹き飛ばされた時は「ちょぉっ!?」と、強すぎる力への驚き。
リュートを待ち構えていた時の雄叫びは「来なさいよこんちくしょぉ!」と、女王らしからぬ激おこっぷりを見せていた。
背中を斬り上げられた時は「痛ぁ!?」である。
(ダンジョンのモンスターでも意志を持つヤツもいるんだよなぁ…)
高ランクのモンスターには意志を持つ者もいる。が、周知されてはいない。調べられる者がいないのである。
危険な戦いに、わざわざ『意志疎通』のスキルを持った調教師…戦えない者を連れて行けば足手纏いなのだ。連れて行ったとしても、リュートほどの精度で理解出来る者は…そうはいない。それに、どうせ連れて行くなら『鑑定』のスキルを使える商人系のジョブを持つ者の方がまだ有用である。
しかし、少数ながらどちらもこれからのマギカネリアに増えていくかもしれない、リュートによるジョブ変更によって。
(あそこにも結構いたものね、意志持ってそうなモンスター。ってか、あたしをもっと使いなさいよ!)
(君は強すぎるんだよ緋雨、頼りにはしてるけど頼りきりにはなりたくないしね。いつもありがと)
(そ…そんな褒められたら、恥ずかしい…)
クイーンとの距離が空き、リュートの持つ刀の鍔に当たる部分に付いている簪がチリンと鳴る。
意志を持った刀、銘を『緋雨』。所持者との会話が可能だが、『意志疎通』のスキルではなく緋雨の力によるものである。
感情の高ぶりや返事をした時にはよく簪が鳴る。刀身が赤黒く変化するのは緋雨の技で、『宵』という。広範囲の斬撃技だ。
あまり緋雨を使わずに戦っているとたまに文句を言われる。
(でも、リュートだけで大丈夫?)
(問題無いよ、でもたまに力を借りると思うけどね)
(うん!任せて!)
リュートと緋雨による戦いは続いた。
☆
side:ジン
リュートちゃんがクイーンと…ドレス姿の赤いスケルトンと戦っているのを、俺は『サンクチュアリ』と唱えられた場所から見ている。
この場所の効果なのか、最初の時ほど威圧感は感じなくなったけど、まだ…正直に言って怖い。
クイーンの驚異的なスピード、ナイトやロードよりも優れた戦闘技術、俺が竦んでしまった能力、それに、
「ア˝ア˝ァァ!」
「ふっ!」
パワー。
ギィン!と音が響く。リュートちゃんの刀とクイーンの剣がぶつかり合うのは何度目だろう。
ぶつかり合うその度にリュートちゃんが様々な対応を見せる。受け流すとクイーンは体勢を崩し、弾いては斬りつけ、力任せに吹き飛ばしてもいた。
クイーンとの戦闘が始まって約10分、一度も攻撃を受ける事無く対処し続けるリュートちゃんから目が離せない。
俺1人だったら確実に最初の一撃で死んでいただろう。
「ふぅ、やっぱり強いですねぇ」
「…クイーンなんて聞いた事も、書物で見た事も無いからね」
「おぉ、新発見かもしれないですね!」
クイーンを刀で力任せに吹き飛ばし、俺の所まで戻ってきたリュートちゃんは余裕そうだった。
一体この子はどれだけ強いんだ…。そう思いはするけど、リュートちゃんからは…強さをあまり感じないというか、明らかにクイーンより弱く感じている。
なのに不思議と…負ける場面が想像出来ない。
「ごめんねリュートちゃん、力になるどころか…足手纏いに…」
「ごめんは無しですよ。アレは想定外ですからね。…強くなりたいなら私が力になりますし」
「え?」
「あと、クイーンの固定ドロップ…骨じゃありませんでしたよ」
「それは…朗報だけど、そんな場合かい?」
「おっと…お怒りのようですね。それじゃ行ってきます!」
「ア˝ア˝アアァァァ!!」
叫びながら向かってくるクイーン、そのクイーンより速いスピードで突っ込んでいくリュートちゃん。
…君に怖いものは無いのかい?
「リュートです!」
リュートちゃんはなぜか…自己紹介?しながらクイーンを両足で蹴り飛ばした。クイーンに名前でも聞かれ…るわけないか、本当に不思議な子だ。
☆
「名前はスケルトンクイーン! スケルトンキングの上位種扱いみたいです! ほっ!」
「スキルは相手に恐怖を植え付ける『フィアー』、シッ! それに『察知』、『再生』も持ってますね! ふっ!」
「HPが3割を切ると戦闘スタイルが変わるみたいです! え~っと、クイーンの能力が全体的に上がって剣2本…おっと! 読み辛い、二刀流かな?」
「固定ドロップは…スケルトンクイーンの剣! レアドロップはミスリルが10%! フルポーションが2%! あと0.1%の確率で…骨! なんでここに骨入れたぁぁ!」
「ア˝ア˝ァァ!?」
リュートちゃんがキレながらクイーンに八つ当た…攻撃を食らわせた。
ドロップ品と確率は別にクイーンのせいじゃ…ないんじゃないかなぁ?
俺はそう思いながらも、リュートちゃんから伝えられた情報を紙に書き記した。…情報は確かに大事だけど、これを持ち帰ってもリュートちゃん以外の誰が討伐出来るんだろう?
「ア˝ァ!」
「ふっ!」
クイーンの戦闘スタイルは多彩だ。モンスターと戦っているとはとても思えない…まるで熟練の戦士のよう。
力任せに剣を振ってくる事もあれば、牽制をするように突きを放つこともある。足捌きもそうだし、盾の使い方も上手い。…敵ながらその動きに感心させられる。
一番恐るべきなのは、そのクイーンを相手にしているリュートちゃんなんだけど…。
「………、───」
「…ァ───」
3m程度の距離を開けて対峙するリュートちゃんとクイーン。
その時キンッと、ぶつかり合う時よりも軽い金属音がしたと思ったら、クイーンの剣が弾き飛ばされていた。くるくると宙を舞い、リュートちゃんの後方に音を立てて落ちた。何だ今の…、気配…意を消した?
持っていた剣を飛ばされたクイーンでさえ、何が起こったのか分かっていない様子だ。
速さじゃない? …リュートちゃんの初動を見る事も感じる事も出来なかった。すごい技術だ…何年修行を積めばあんな事が出来るんだろう。
「おぉ、出来た」
…初めてやったらしい。俺の中の何かがガラガラと崩れていく。…いや、意識を切り替えよう。
リュートちゃんは…彼女は守るべき存在なんかじゃない。強者であり、見習うべき立派な1人の戦士だ。
「………(ニヤッ)」
「…ア˝ァ!?」
剣を弾き飛ばされてしまい、盾を構えて様子を見ていたクイーンに対して…ちょっと他の人に見せられないような悪い笑顔を浮かべたリュートちゃん。
弾き飛ばしたクイーンの剣を…マジックバッグへ入れてしまった。そりゃクイーンも声をあげるよ…。
…見習うべきと思ったのは早まったかなぁ。
本作ダイジェスト版(一章~二章8話)と、短編を1本投稿しています。
よければ見てやってください。
ダイジェスト版(一章~二章8話)↓
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短編『虚弱体質だったけど、いきなり丈夫になったようです』↓
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