10.まだ1日は終わらない
本日フライング投稿。
ミュリアルが美鈴を連れてジャガーバルトの家までやってきた。リュートもジンも玄関で待っていておかえりなさいと告げた。
「ただいま」
「夜分に失礼します」
「こんばんは、初めまして」
美鈴の挨拶が硬い。美鈴にとってはリュートもジンも初対面なので仕方ない。エリオスの家の前でミュリアルに意味深な質問はされたが、まさか眼帯少女が侑人だとは思っていなかった。
白髪に水色の瞳からは、日本人的要素が全く感じられない。背はミュリアルよりも低く、お人形のようだと思えていた。
「あ~、う~ん…『リンリ~ン♪』」
『リンリ~ン♪ …ってえええぇぇ!』
初めて会った時の再現、それだけで少女の正体が分かってしまった美鈴であった。
『お久しぶり、縮んじゃいました』
『おひ…えぇ~…、何から言えばいいのか…。可愛くなりましたね?』
『あはは、否定は出来ないね…。ともあれ、ただいまです美鈴さん』
『おかえりなさい、侑人さん』
ミュリアルと美鈴と共に4人でジャガーバルトの家へ入っていく。美鈴はミュリアルから受けた質問がこの事だったのかと思い、謎は解けたがどうすればいいのかと頭を抱えたい気分だった。
辺りはすっかり暗くなっている。夜空の星の輝きもよく見えるほどだ。
だが…まだ1日は終わらない。
☆
リビングにオーランド以外の全員が集合していた。オーランドは荷物であった魔石をリュートが回収したので、安心して街の宿に戻って休んでいる。
銀の盾とジン、ミュリアルに美鈴、アランとメイドのアリア、そしてリュート。皆で机を囲むように座り、自己紹介をして話が始まった。
まずはリュートが侑人へと姿を変えて、何も知らないジンと変身を初めて見るアランとアリアが驚き、スタンピードの話とリュートがジャガーバルト家の末の娘になった話をしてミュリアルが驚き、スキルと化したスマホを見せて美鈴が驚いた。
大まかな話を終えて侑人がリュートの姿に戻り、スタンピードの詳細…ギャバットの存在を伝えた。
実際にリュートがギャバットを『眼』で覗いた事で、ジャガーバルト領で予想していた事が事実と分かった。
研究棟で偶然会った時にただ眠らせた訳ではない、しっかり覗いて情報を得ていたのだ。
「まず彼は、ジャガーバルト領で恥をかかされたと思い、その原因である侑人に復讐をしようと刺客を送りました。その刺客は返り討ちにされて…侑人が倒した訳じゃないですが、まぁ失敗となりました。結果、刺客が成功の報告に戻ってこなかった、そこで彼は失敗したと気付きます」
ギャバットの目線で、時系列に沿って話していくリュート。
「それからも侑人の事を探していたようですが、侑人は別の場所に居たのでいくら街やその周辺を探しても見つかるわけがない。けど、ジャガーバルト領には確かにユートという冒険者がいます。容姿は全然違いますが、ユートという名前の冒険者がいるという情報は、ギャバットに伝えられました。結局、ギャバットは別人と勘違いしたままユートさんの事を監視させました」
皆の目が銀の盾のメンバーの1人であるユートに集まった。
「銀の盾は毎日侑人を探してくれていました。探す時に多少距離を取っていてもパーティーで行動していたので、相手も簡単に手を出せません。そこで彼は、ララちゃんに目を付けたんです」
ジャガーバルト領で起こったそもそもの発端、ヘルオン家の馬車がララを轢きそうになった事も話されている。
その場面は銀の盾も実際に見ていたので、リュートの話に相槌を打ったり兵士の様子の補足を入れたりしていた。
「そもそも恥をかいたのはララちゃんのせいだと思った彼は、侑人を探していた彼女を攫って隷属の魔術で奴隷にし、侑人を殺すように命令をしてダンジョンに置き去りにしたんです。出る事も禁止し、魔物寄せの香まで使って…」
「酷い…」
「なんでそんな事が出来るんだ…」
「…ユート先生、あいつやっぱり殺す?」
「あはは、気持ちは分かりますけどね…」
リュートは苦笑いしながらそう答え、
「殺しちゃったら、それ以上復讐出来ないじゃないですか」
師匠であるミュリアルより恐ろしい事を言い出した。
それだけリュートは怒っているのだと再認識した面々は思わず唾を飲み込んだ。どれだけ酷い復讐をするのだろうか…と。
「さすがユート先生」
若干一名褒める者も居たが。恋は盲目とでも言えばいいのだろうか…。ヤバいのは弟子だけではないのかもしれない。
「とは言っても既に復讐の種は蒔いてるんですけどね」
「「「「「………」」」」」
「…もしかして、彼が眠っていた時にかけていた魔術かい?」
「そうです。まぁ命に関わるものじゃないですけどね。強いて言えば…嫌がらせかな?」
「嫌がらせ…呪術?」
「正解です、さすがミュア師匠」
「………(ムフ~♪)」
ミュリアル、満足気である。話している内容は物騒だが。
「彼にかけたのは呪術による呪いと、『マーキング』という…何処に居るのかが分かる魔術です。ちなみに彼は今…、ヘルオン家の自室でメイドに体を拭いてもらってるところですね」
「うわぁ…」
美鈴ドン引きである。美鈴がギャバットに直接会った事などもちろん無いが、眠らせたギャバットをリュートがスマホで撮影しており、その容姿は一応画像で把握している。
加えて悪行も聞いていたが、それでもリュートの所業にドン引きしてしまったのであった。…メイドに身体を拭かせているギャバットに対してではない、それを把握しているリュートに対してのドン引きだ。
ちなみに、『マーキング』という魔術自体には周辺の状況を知れる機能は無い。スマホで撮られて状況を把握されてしまっていたのだ。…というより、ギルドでの騒動の時のようにスマホが見えない状態でギャバットを絶賛撮影中である。
おかげで見たくもないサービスシーンを見てしまう事となった。その代わり、予期せぬ成果もあったが。
「で、呪いの方は…」
「「「「「………」」」」」
「おならが出ます」
「………へ?」
「そうです」
「あ!いや! 違うし!? 今のへは違うから!」
狙っていたかのような速さでそうですと答えるリュートに、美鈴が顔を赤くして必死に否定した。結果的に日本の大女優に屁と言わせる鬼畜な所業であった。…一部のファンは喜ぶかもしれない。
「あはは、ごめんなさい。つい…」
「ついで出るにしてはタイミング早すぎません!?」
2人のやり取りにその場の空気が弛緩する。殺す、復讐、呪いといったワードのせいで自然と体が強張っていたと、その時になって自覚した面々。
呪いでおならが出る、それだけ聞けばかわいい復讐である。
リュートが美鈴を落ち着かせて、説明の続きを始めた。
「普段から呪いが発動する訳ではありません。彼のジョブは上級魔術士、割と恵まれたジョブを持っていますが…魔術を使おうとするとおならが出るという呪いです」
「っ…」
「くふっ…!」
「更に使う魔術が上位になるほど…大きなおならが出ます」
「「「ぶふぅ!」」」
アランとアリアも笑いそうになるのを我慢していたが、呪いによるおならにそんな仕様が付いていると聞いて、銀の盾もろとも吹き出してしまった。
「くっははっ、確かに、嫌がらせと言えるね、ははっ」
「そうでしょう? どんな場面でおならが出るのか、想像するだけで笑ってしまいそうですが。学園での魔術の授業中ですかね? それとも仲間と共に潜ったダンジョンで、ボスにトドメの一撃を入れる時ですかね?」
「絶対っ掛かりたくっないですねそのっ呪いっ」
例を出されて笑いを堪えながらも、トールがコメントした。自身も銀の盾の魔術師として冒険者をしていたので、より想像出来てしまっていた。
これからのギャバットの未来を思えば、可哀想だとも思える気持ちの方が勝つかもしれない。
「………、さて…」
リュートが立ち上がり、パンッと手を叩いて皆の注目を集める。
「話はこんなところにしましょうかね、もう結構遅い時間ですし。明日は一応自由時間としていますが、ジャガーバルト領へ帰る予定を2日後から3日後に変更したいのですが、よろしいですか? もちろん延長した分の宿泊費はこちらが負担します。ミュア師匠はどうします?」
「私は明日でも問題無い」
「学園に断りを入れなくていいんですか?」
「………大丈夫」
「その間は大丈夫じゃない時の大丈夫ですね…。迷惑をかけてますし、私も一緒に行きますよ」
「ん…一緒に行く」
表情の変化は見られないミュリアルだが、内心ではかなり喜んでいた。
「俺たちもそれで大丈夫ですよ。宿泊費を負担して貰ってありがとうございます」
「俺も問題無いよ、荷物も少ないしね」
「了解です、では一応3日後の朝に出発としておきましょう。オーランドさんにも伝えておいてもらっていいですか?」
「分かりました、伝えておきます」
「何かあって延びたらその時にまた話し合いましょうかね」
「あの!」
美鈴が元気よく手を挙げ、自然と皆の視線が集まった。
「私もジャガーバルト領に付いて行ってもいい…です…かね?」
「…私は歓迎しますよ?」
尻すぼみな美鈴の質問にリュートが代表して返事をし、皆を見回せば首を縦に振っていた。
「皆さんも歓迎のようです、一緒に行きましょう」
「ありがとうございます! このままだと謎が残ったまま話が終わっちゃいそうなので…」
「あはは、モヤモヤして眠れない?」
「ほんとそれですよ!」
ジャガーバルト領へ行くメンバーが1人増える事が決定し、おなら…ギャバットの話は終わった。
☆
ジンと銀の盾は街の方へと向かった。ジンは借りている宿へ、銀の盾は以前王都で活動していた時によく利用していた宿屋へと。銀の盾が向かう宿には、宿を紹介されたオーランドも泊まっている。
リュートとミュリアルは美鈴を送りにライオネル家へ向かっていた。
「侑…リュートちゃん、さっき話を打ち切る時、何かありました?」
「うん?」
「いやぁ…表情が強張ってた感じに見えたので、何かあって皆を帰したのかな~って」
「あぁなるほど。帰したのは本当に夜遅いからって理由もありましたよ? ってか、自分では変わってないつもりだったけど…よく表情の変化なんて分かりましたね?」
「割と注意して見ちゃうんですよ…表情とか癖とか。これも職業病みたいなものですから。役者全員がそうじゃないと思いますけど」
「説得力ありすぎ…さすが大女優」
「ただお芝居するだけじゃ生き残れないので!」
侑人と出会った当初から親しみやすいキャラクターをしている美鈴。この部分も芸能界で生き残ってこれた大きな要素の1つだ。
「まぁ、簡単に言えばギャバット関連ですね。聞きたいですか?」
「…やめておきます、リュートちゃんが怒ってる事は分かるから」
「…観察力エグっ」
一緒に歩いているミュリアルには、リュートが怒っているようには全く見えていなかった。微笑んで会話を楽しんでいるようにしか見えず、怒っていると言われても信じられない。
大女優の目は誤魔化せなかったが、これ以上聞くと後悔しそうだとブレーキがかかってしまった美鈴であった。
何より…ジャガーバルトとライオネルの家は距離が近いので、話が長くなると家の前で立ち話になってしまう。というより、もう着いてしまった。
「おかえりなさいミスズさん」
「ただいま帰りました、遅くに出掛けてすみません」
「いえ、無事ならいいんですよ。あちらの方々…」
門番の男が目を向けた先には、ミュリアルとリュート…小柄な少女2人の姿が映った。
このまま帰してもいいのか? 治安は悪くはないけどもう辺りは真っ暗だし…どうしよう? 思わずそんな事を考えてしまった門番に、美鈴が声を掛けた。
「大丈夫だと思いますよ? ご近所さんですし、ミュリアルさんはお強いですから。送ってもらってありがとうございました! おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
そうやりとりをして、リュートとミュリアルは門番の男に会釈をし、ジャガーバルト家へ帰っていった。
美鈴はライオネル家へ入っていき、門番の男はそれでも少女2人が心配だったので、見えなくなるまで2人を見守った。
門番の男からすればただの少女に見えるが、一方は一流の冒険者であるエルフ、一方はそのエルフの弟子であり、オーガを単独撃破可能な強者。
要らぬ心配である。




