8.ミュリアル
ミュリアル視点です。
時間は少々戻り、二章11話でミュリアルが侑人を探しに王都へ向かってからのお話となります。
side:ミュリアル
ユート先生が居なくなってもう10日以上経った。
最初の内はジャガーバルト領で先生の事を探し回った。他の冒険者もユート先生の事を探してくれていたけど、手掛かりっぽいものは一つも無かった。
ジャガーバルト領でユート先生の事を探してくれる人は沢山いる。ここでの捜索は皆に任せて、私は王都へ行く事に決めた。そこで情報を集める事にした。馬を飛ばしたから2日で着いた。
「王都の家にも出来るだけ顔を出してやってくれ。もしかしたらあっちの家にユート殿がやって来るかもしれんしな。こっちに戻ってきたら手紙も出す」
ラルフにそう言われたのもあって、ジャガーバルトの家に毎日顔を出した。エリオスの所に寄って、ミスズにも声をかけた。ユート先生が居なくなった事と王都で探している事を伝えた。夕方には一緒にジャガーバルト家で過ごす約束をした。心配でって言われたけど、ミスズもユート先生の事が心配なのかな?
王都の門番にユート先生の特徴を伝えて話を聞いたり、ギルドに顔を出してみたり、広すぎるけど王都内を探して歩いてみたりもした。結果は全く芳しくない。
ジャガーバルト領からもユート先生が戻ってきたって知らせは来ていない。
ユート先生…どこに行ったの? …元の世界に帰っちゃったの?
「ミュリアルさん、ちゃんと寝てます?」
「うん、問題無い」
「う~ん、問題無くないですよ? ゾン…酷い顔してますから」
「うん、問題無い」
「あちゃ~。…侑人さんが戻ってきた時、そんな顔で会ったら嫌われちゃうかもしれませんよ?」
「うん、問題…ある、どうしよう…」
え…、そんなに酷い顔してるの?私。そういえば話を聞く先々で皆心配そうな顔をしてた…気がする。
今はジャガーバルトの家でユート先生の事を考えてたところ。声をかけてきたのはミスズだったけど、アランもメイドのアリアも心配そうな顔をしてる。鏡で自分の顔を見たら、…皆がそんな顔をするのに納得した。
目の下にものすごいクマが出来てるし、髪もピョンピョン跳ねてるし、顔色も病人みたいに悪い…。
「アランさん、今日ミュリアルさんをお借りしていいですか? エリオス様の家へ連れて行きたいのですけど」
「ええ、その状態のミュリアルさんは見ていて心配でしたから…」
「ありがとうございます! ミュリアルさん、行きましょう?」
嫌われるかもしれないと言われてショックを受けていた私は、呆然としたままミスズに連れて行かれて…一爵であるエリオスの家に一泊する事になった。
説得されてご飯を食べ、髪を櫛で梳いてもらって、身体を拭いて服を着替えて、2人でベッドに入り込んだ。
「さぁミュリアルさん、女子会を始めましょう?」
「女子…会?」
地球では、仲の良い女性が集まってご飯を食べたり話をしたりする事を女子会と呼ぶらしい。
ミスズは元居た世界…ニホンでの事を沢山話してくれた。私も里での事や日記の事、ラルフ達とパーティーを組んだ事やユート先生との事を話した。
「私はユート先生って呼んで、ユート先生は私の事をミュア師匠って呼んでくれるようになった」
「教え合って学び合う素敵な関係ですね。…ミュリアルさんが侑人さんを探すのにすごく必死なのは師匠だからですか?」
「…そう、私が師匠だから」
「本当にそうですか?」
「え…、違うの? …ユート先生が先生だから?」
「先生としてなら、私が代わりに教える事も出来ますよ?」
思わずミスズの顔を見た。ミスズもユート先生と同じニホンからやって来た、教わる事は出来ると思う。けど───
「侑人さんじゃないとイヤ、そう思ってます?」
「…どうして分かったの? スキル?」
考えている事が分かるスキルかな。…聖女のジョブにそんなスキルあったかな?
「あはは、そんなスキルなんて私には無いですよ。ミュリアルさんを見てれば分かるってだけです」
「そう…?」
「ミュリアルさん、侑人さんの事好きですか?」
「? 好きだよ?」
「あ~…手強い…、私の事やジャガーバルト家の皆さんの事は?」
「好きだけど…?」
「では、もしも以前パーティーを組んでいたラルフさんが居なくなったとしたら、探しますか?」
「探す、領地が大変な事になるし、ミリアが心配するから」
「侑人さんを探す時みたいに、必死に探すと思います?」
「………」
探す…のかな? パーティーを組んでいた仲だし、見つからないと領が大変だろうし、多分色んな伝手を使って探すと思う。
うん、必死に探す…かな?
「侑人さんを探そうと思った時、今みたいに考えました? すぐにでも体が動いたんじゃないですか?」
「………」
そうだ…。夜に森へ入ろうとする私をラルフが止めてくれてた。効率なんて考えずにユート先生の行きそうな場所を探したり勘で歩き回ってた。
「ミュリアルさんの侑人さんに対する好きは、恋愛の好きなんじゃないですか?」
「………、恋…愛…」
恋愛…ミリアとラルフみたいな好き? 恋愛がよく分からない。
「ミスズ、恋愛の好きを教えて欲しい」
「ま、まさかの初恋…? 今までにこの人と結婚したい!って思ったりした事は?」
「ない…、私はユート先生と結婚したいの?」
「それは…ミュリアルさん次第ですよ。結婚まで考えなくても、ユートさんに褒めてもらいたいとか喜んでもらいたいとか、帰ってきたら心配したって文句を言いたいとか、そう思う事はありませんか?」
「………、ある」
ユート先生に褒められたい、褒めて喜んでいるユート先生を見たい、もっと沢山話を聞きたい。
私はミスズに手伝ってもらいながら、ユート先生への気持ちを確かめた。多分、これが好きって気持ち…だと思う、まだ確信が持てない。
好きって、何なんだろ?
☆
昨日は夜遅くまでミスズと話をした。
ミスズが言うには、ユート先生との出会いが吊り橋効果?というものだったんじゃないか…って言ってた。
聞き覚えの無い言葉だったからミスズに聞いてみたら、異性と一緒に吊り橋を渡る時のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いして好きなんだと思い込む現象…らしい。
私の場合は、ユート先生に会ってニホンゴに触れた時、確かにドキドキ…興奮してた。その興奮が、恋愛ではなく探し人が見つかったと勘違いしたのではないか、そうミスズが言っていた。驚いた時の興奮が本当は恋愛のドキドキだったのに、ニホンゴを話せる人物という方向に間違って認識していた可能性…ある、かも?
「侑人さんの為にやってきた事が、師匠だからじゃなくて好きだからに置き換えてみるとしっくりきません?」
「くる…気がする。好きってすごい」
今日は朝から外に出掛けて、ミスズと一緒にご飯を食べてる。話は昨日からずっとユート先生の…ううん、私の事。
魔術が使えるようにと手伝うのも、話をするのも褒められるのも、必死にユート先生を探していたのも、師匠だからじゃなく好きだからなんだろう。
ご飯を食べ終えてお店を出て、ミスズと一緒にジャガーバルトの家の方向に歩いていた時、
「───」
自分の中の魔力に反応が起こった。ユート先生の無事を祈って結んだミサンガ、その反応が無くなってしまった。
立ち止まってしまった私にミスズが話しかけてくれたけど、何も答えられなかった。私の異常を感じてか、手を握って家まで連れて行ってくれてるけど、すれ違う人の話声や目に映る情報は、考え事の波の前では雑音にもならなかった。
ミサンガの反応が無くなったという事は、ミサンガが千切れたか…その人物が死亡したか…。でもユート先生には魔力が無いから、死亡した事で反応が無くなる方の現象は起こらない…と思う。
ただミサンガが切れてしまっただけで、ユート先生は無事かもしれない。…無事じゃないかもしれない。ユート先生が死んだ時にミサンガが切れるかなんて、それを試す事なんて出来なかったから確実じゃない。
もしも、魔力が無くてもその反応が起こるとすれば…ユート先生は…、
「ミスズ…。ユート先生…帰ってこないかもしれない…」
ミスズはそんな事ないとかまだ分からないとかすごく励ましてくれた。
冒険者をやっていれば、知り合いが死ぬ事もある。長命種であるエルフだから、人族の死はよく見てきた。事故や不注意で命を落とした人から寿命で死んでいった人まで。
目の前で見たわけでもないユート先生の事で、自分の心がこんなにも痛むなんて思わなかった。まるで体がすり潰されるような感覚…。
好きって、すごく力が湧いて…すごく悲しくて…痛いものなんだと思った。
☆
ミサンガの反応が無くなった日から5日が経った。
あの日はなぜもっと探さなかったのか、やれる事がもっとあったんじゃないかと自分を責める事で終わってしまった。
ミスズを責める気は無い、ミスズは大事な事を教えてくれたから。
「…違う、こっちから戻せば指定が崩れる、順に通して…」
今私は、ユート先生の為になると思ってエリオスから借りていた『賢者の書』にあった魔術の一つを組みかえている。
思いついたんだ。ユート先生が戻ってこないなら、私が戻ればいいと。ユート先生が居なくなる前に…時間を超えて。
「昨日試した魔法陣の反応なら感触は悪くない。でも戻れた事を私が覚えてないと意味が無いから…」
ミスズに言われたから、ちゃんとご飯も睡眠も取ってる。ユート先生に会えても嫌われたらイヤだから…。昨日もちゃんと1時間寝た。
魔術の進捗は…まだまだ先は長い。手を付け始めたばかりで、例えるなら城を建てる為に木の選別をしている段階。…違うかな? そろそろ寝た方がいいかもしれない。
でもその前に、今日組み替えてみた魔法陣を試してから記録を付けないと。
本に載っているままの魔術を使えば、時間は巻き戻る。術者のMPを込める量によって戻る時間が変わる。エリオスから借りた『賢者の書』にはそう書いてあった。
時間が巻き戻った事を術者も認識出来ない無駄な魔術であるという事も載っていた。10秒時間を戻せば10秒前の魔術を使おうとしている自分のMPが減っている、そういう現象が起こるらしい。
このまま魔術を使えば、私は王都へ出掛ける前の…ジャガーバルト領にユート先生が居た時間へ戻れるだろう。…戻れたという認識もなく、何故かMPが減っている状態の私に。…何も知らないその時の私に。
…そもそもMPが足りなくて戻れないんだけど。
「干渉は世界…? なら術者個人に限定して…」
「あぁ、読めない。天界文字の辞書どこ…」
「MP依存から時間の指定にすれば…」
やる事はまだまだ沢山ある。全然先が見えないけど、時間なら沢山ある。成功させてユート先生と話したい事が沢山ある。
今日の魔法陣の改変を試す為に、研究棟を出た。
「ミュリアル先生、今日も研究ですか?」
…はぁ、なぜ彼は毎日ここに来るんだろ? 名前は…言ってた気がするけど忘れた。…忘れる前に覚えてない気がする…やっぱり聞いてないかも。作業中に名前を言われても困るし呼ばれても困る、魔法陣の構成がおかしくなったらどうするの。
顔を見てもパッと思い出せないけど、服装からすると学園の生徒。手伝うとか言ってるけど、生徒として学ぶ立場の彼が何を出来るというのだろう。飲み物の用意かゴミ捨て…? 要らない。
手伝うと言われても、改変を行っている『刻の魔術』は順調に進んでいるとはとても言えない。手探りな事だらけで正解に向かっているのかも自信が無い。それを手伝うらしい…正直イライラしている。
しかも彼は弟子にしてくれと言ってくる。ユート先生と同じ言葉なのに全然そんな気にならない。…私の弟子は一人だけ。
そう伝えて室内訓練場へ向かって歩いた。いや、歩こうとして…止まってしまった。
『こんばんはミュア師匠、ただいま帰りました』
「………」
聞こえてきたのは若い…幼い女の声、だけど喋ってる言葉はニホンゴだ。『ただいま』って言ってるし、ミュア師匠と呼ぶのは一人だけ…でも声色が全く違う。
期待は…多分している。期待に心臓がドクンドクン鳴ってる。何が起きているのかは見れば解決すると思う、けど怖い…。
それでもなんとか振り向いてみると、冒険者風の恰好をして眼帯をつけた少女と、確かジンという名前の高ランク冒険者。居たのはその2人だけ…。
『………、誰?』
結局振り向いても何も解決しなかった。
本日もう1話投稿します。




