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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第四章 王都編

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4.ジン


 変装を解いて少女の姿に戻り森の中を進むリュート、向かう先は中級ダンジョンである。

 トントンと軽い足取りはリュートにとって平常運転だが、見ようによってはパルクールをしている風にも見える。

 何も知らない者が見れば、片目に眼帯を付けた10歳程度の少女が猛スピードで森を進んでいる、と映るだろう。


(中級と上級はそんなに離れて無かったハズ)


 『眼』を発動させても、眼帯のお陰で金色になる変化を見られてしまう事は無い。…見られる心配以前に、周りに誰もいないが。

 眼帯をずらして集中すると、森の木々の向こう側に人のシルエットが見える。距離は1kmといった所だ。…眼帯をずらした事に意味は無い、ただの雰囲気である。


 王都に入る為に時間がかかる事を思えば急いだ方がいいだろう、そう思ったリュートは無駄にずらした眼帯を直し、速度を上げた。


(出入りしてる人が結構いるな、さすが中級ダンジョン)


 距離が近づいた事で、中級ダンジョン付近の様子がより見えるようになった。

 リュートが静かに木の枝に乗って見下ろすと、今日の収穫やフォーメーションについて話し合うパーティーが何組か目に入る。成果は上々のようでホクホク顔である。


(おつかれさまで~す)


 適当にそんな事を思いながら、ダンジョンのステータスを見ていく。


(モンスターの最大保有量は30,000、現在3,400くらい、…問題ないか? にしても、中級で3万か…)


 ジャガーバルト領でスタンピードが起こった時の…初級ダンジョンの数値など誰も知らないので、中級の現状を見てもなんとも言えない。

 少なくとも、現在最大保有量の1割程度しかモンスターがいない事は把握できたのでよしとした。


(それじゃ、上級も見てみますか。この先だったハズだし)


 王都から道沿いに森へ入り、歩いて10分程度進むと中級ダンジョンがある。上級ダンジョンはそこから更に20分進んだ先にある。

 距離は近いが、上級ダンジョンへ好き好んで潜る冒険者は少ない。いや、いないかもしれない。

 モンスターが強い分、倒せば経験値は多い。だが経験値より安全性の方が大事である。何より…ドロップが残念なのだ。


 中級ダンジョンにはオークやウルフ系のモンスターが出現し、ボスにはオークロードがいる。魔石とは別にオークは肉や武器を、ウルフは毛皮や牙をドロップし、王都の経済に大きく関わっている。

 オーク肉はもちろん食用として、毛皮は服や防具に使われ、牙は錬金術師や鍛冶師の手によってアクセサリーや武器等の素材となる。


 一方上級ダンジョンはと言えば、スケルトンばかりが出現する。中級ダンジョンのモンスターより魔石は良質だが、ドロップ品は骨。

 剣士タイプ、弓タイプ、魔術師タイプ等のスケルトンが現れるが、どのタイプもドロップするのは骨である。

 錬金術でも素材にならず、煮ても出汁は出ず、非常に硬い…ということもない。結果、骨はダンジョンに置き去りにして魔石だけを持ち帰る事になる。

 スケルトンの魔石よりも、中級ダンジョンで手に入る魔石とドロップ品を合わせた方が儲かるし喜ばれるのだ。わざわざ上級に潜る必要性が無ければ、無駄に行く者はいない。


(だ~れもいない…前に王都へ来た時ミュア師匠が言ってたけど、ほんとその通りだな)


 木の枝から降りて、上級ダンジョンの入り口真正面から情報を見たリュート。


(………おぅ)


 上級ダンジョンの人気が無くとも、モンスターは常にいる。ダンジョンの中で常に増えている。

 倒される機会が少なくても、日々モンスターは生産されてゆく。


(48,803/50,000…割とギリギリじゃん、溢れちゃう)


 1日にモンスターが何匹増えるのか、その数値もダンジョンのステータスには載っていた。


(1日当たり最大200、最低で20…か。帰って相談するか? 余裕はあんまり無いし、今から数を減らしてしまうか…?)


 何もせずに1日に20匹増え続ければ60日、放置すれば二カ月程で最大保有量を超えてしまう計算になる。最大なら6日、一週間も経たずにスタンピードが起こるかもしれない。

 リュートが(詳しく見てみるか…)と更に集中しようとしたところで、


「おや?」


 上級ダンジョンから出てきた一人の男と鉢合わせた。誰も居ないと高を括って、入り口真正面からダンジョンのステータスを見ていたせいである。


 優し気で美形な男。その男の恰好を見れば、軽装だが立派な造りをしている鎧を着ていて、腰に装備している剣は柄から鞘まで意匠が凝らされている。あくまで華美にならない、実用的な範囲内だが。


(服装に汚れもなさそうだし、『眼』で見なくても強そうな感じはするなぁ。ソロかな?)

「こんにちは」

「…こんにちは、ここは君みたいな子が来るにはまだ早いと思うよ? 恰好からすると冒険者かい?」

「あ~いえ、登録はしていません。この格好は動きやすかったのでしているだけで…」

「なるほど、確かに冒険者用の服って動きやすいからね。…ここが上級ダンジョンだと知っていて来たのかい?」

「はい、入口だけでもどんな場所か見てみたかったんです。人気は無いらしいですけど」

「ははっ、人気は無いね。モンスターはスケルトンばっかりだし、魔石狙いで狩られる事は無くはないけど…ドロップは骨ばっかりだし、疲れるだけだよ」


 肩をすくめながら苦笑いをする男。


「…そんな場所にどうして?」

「俺も普段は来ないんだけどね。知り合いの占星術師が、ここでいい出会いがあるって言うもんだからさ? なんとなく来てみたんだ」

「なんとも…独特な占いですね。そのいい出会いはありました?」

「さ~っぱり! スケルトンばっかりだったよ」

「探したらいるかもしれませんよ? 美人なスケルトンとか」

「美人な? ………ぶふっ!」


 頭蓋骨に直生えした金髪ウェーブに腰をくねらせ、口紅とチークを施して「うふん」と言いながら近付くスケルトンを想像した男は悪くないはずだ。誘導したリュートのせいである。



 美人なスケルトンのフレーズが気に入った男は、リュートを連れて馬に乗り、王都へ帰ろうとしていた。


「送っていくよ」


 と言われたリュートは断ろうかと思ったのだが、冒険者登録もしていない少女が上級ダンジョン入り口に残りたいと言うのも不自然だと考え、送ってもらうことにした。

 …まず見た目10歳程度の少女が1人で上級ダンジョン前にいる事自体不自然なのだ。何らかの事情を抱えていて自殺しようとしていた、男にそう思われても仕方ないだろう。


「じゃぁジンさんは最近ソロになったんですか?」

「そうそう、何というか…パーティーメンバーと合わなくてね」

「大事だと思いますよ? 方向性が違うのは人間なら当たり前だし、どちらかが我慢し続けてもどこかでダメになるから…と思います」

「ははっ、気を遣わなくていいよ、普通に話してくれリュートちゃん」

「あはは~、了解です」


 自己紹介を終えた二人は、ジンの乗って来ていた馬で移動していた。リュートがいるのはジンの前である。

 2人乗りをした馬が注目を集めながら進んでいく。…やけに見られている。


 ジンは王都の冒険者の中でも一番人気がある。気が利いて優しい上にルックスも良く、『王都冒険者版抱かれたい男』という非公式ランキングで3年連続1位なのだ。行っているのはギルドの受付嬢である。

 そんな事を全く知らないリュートは、


「今度こそ見つかるといいですね? 美人なスケルトン」

「ぐっ、止めてよ~笑っちゃう…」

「タイプはなんでしょうね、メイドタイプ…シスタータイプ?」

「ぐふっ!あはははは! 新種なのにドロップは骨なんでしょ?」

「そうですね、そこは譲れない所です」


 仲良く笑い声を上げながら、中級ダンジョンから王都へ戻る冒険者達の注目を浴びながら、2人は会話を楽しんだ。



「ジンさん、おかえりなさいませ」

「ただいま、客人を乗せているんだけどいいかな?」

「え、えぇ、大丈夫です。お通り下さい」

「ありがとう、ご苦労様」


 王都へ入る順番待ちをしている冒険者や商人の行列の横を通る。その列の中には銀の盾を乗せた馬車もいたが、ゴール目前で追い越す形となってしまった。


 順番を待つこともなくあっさりと、サクサクと王都の中へ入ったジンとリュート。馬に乗ったまま、貴族用の出入り口から。

 ジンのとった予想外の行動に驚いたリュートは、オーランドが御者を務める馬車が順番待ちをしていた事に気付かなかった。


「…もしかして、ジンさんって貴族様でしたか?」

「ははっ、違うよ? 冒険者でも上位ランクの人は、あっちを通っていいって許可が出るんだ」

「おお、初めて知りました。という事は、冒険者ランクの★は6か7なんですか?」

「そうだよ、6-7って言ったら通じるかい?」

「分かります、一流の更に上なんですね。ジンさんめちゃくちゃ強そうですし、もし戦闘ランクが7段階じゃなくて10段階だったら8とか9はあるんじゃないですか?」

「…へぇ、面白いね。どうしてそう思ったんだい?」

(あ~、警戒させたかな? 子どもがそんな事言えば不自然か、ちょっとうっかり…)

「ジンさんは強そうだな~って…勘です!」

「か…ははっ、そうかい? ありがとう」

(雰囲気からしてそこらの冒険者より強そうなんて、子どもに言われた所で信じないだろうけど)


 リュートが『眼』で見ずとも感じた雰囲気。いつから居たのかは分からないが、上級ダンジョンで戦っていたにしては汚れの無い服や鎧。そこからの推測だった。


 『眼』であれこれ見るつもりはリュートには無かった。他人のプライバシーを勝手に覗く行為だと思っているからだ。…悪人や敵対する者ならば話は別だが。


「7段階じゃ少ないと思うんですよ。今後とっても強い人が現れても、戦闘ランクは7が限界…他の冒険者の戦闘ランクを下げるわけにはいかないですし。冒険者ランクはともかく、戦闘ランクは7段階に拘らずに増やせばいいと思いません?」

「言われてみるとそうだね。7が最高だって…今までそうだったから思い込んでた…うん、面白い」

「実現するかは別の問題ですけどね? 戦闘ランク7以上を誰がどうやって見極めればいいのか~とか。そもそも何で戦闘ランクは7が最高なんでしょうね?」

「気にはなるけど調べようとまでは思わない絶妙な質問だね。今のランクもギルドが付ける目安みたいな所もあるからなぁ。それにしても物知りだね?」

「師匠のお陰です!」


 下手に話を変えずそのまま乗り切る事にしたリュート。会話はもちろん2人乗りの馬の上、王都に入った事で更に注目を集めていた。

 距離はあるが、所々でジンに対して「キャ~!」と黄色い声が上がっている。


「もうすぐ着くよリュートちゃん」

「ありがとうございます、本当に。わざわざここまで送っていただいて」

「どういたしまして、それに随分楽しませてもらったしね?」

「そうですか? スケルトンに感謝ですね」

「ははっ、美人のね」


 目的地に着くとジンが馬から降り、リュートが降りやすいように手を差し出した。少女に対してエスコートまで出来るイケメン。さすが抱かれたい男3年連続1位である。…リュート(侑人)に抱かれる気はないが。


 1人で難なく降りられるリュートだったが、差し出された手を無視するわけにもいかないので、礼を言いつつ手を握って馬から降りる。場所は冒険者ギルド正面であり、ギルドの扉や窓からは顔を覗かせて見ている者もいる。


「ジンさんはギルドに用事はないんですか?」

「魔石の換金くらいだから、今日じゃなくてもいいかなって思ってたけど…済ませておこうかな。まぁ、まずは馬を預けてくるよ」

「分かりました。それでは私は先に中で用事を済ませておきますね。あとで美味しいご飯屋さんの紹介お願いしますよ?」

「了解。…今でも君が払うって言ってる事に抵抗があるんだけど? 俺もそれなりに金は持ってるし」

「送っていただいた礼はちゃんとしたいので! お願いします!」

「分かった、分かったよ。(奢る事に元気一杯お願いするなんて…変な子だな)、また後でねリュートちゃん。もし何かあったら俺に言うんだよ?」

「それは…、何かある事がもう決まってる言い方じゃないですか?」

「ははっ、冒険者登録もしてない女の子に何かするやつなんていないさ。もしだよもし」


 そう怪しいフラグを言い残して、ジンは知り合いの経営する馬小屋へ馬を預けに向かった。

 そしてリュートは冒険者ギルドへと入っていく。用事を済ませて美味しい予定のご飯を…奢る為に。


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