1.王都へ
四章始まります。
宴会と説明会があってから2日後。リュートと銀の盾のメンバー、ジャック、ユート、スキップ、トール、ミランダを乗せた馬車が王都へと向かっていた。
昨日は旅の準備や荷物の確認、ギルドでの情報収集、侑人の生徒であるブロックへ正体を明かして再会を祝ったりと忙しかった。
そして翌日の今日、ミュリアルとの再会を第一目標にしつつ、諸々の用事を済ませる為に王都へ向かっているのだ。
リュートはフランソワの店で購入した子ども用の冒険者装備に身を包み、左目には眼帯をしている。眼帯はフランソワお手製の刺繍を施した可愛らしさ重視の一品である。
他にも眼帯が2種類と、特殊な魔術がかけられたモノクルや眼鏡も持っており、服装に合わせて使い分けるつもりである。どれも、うっかり左目を発動させてしまった時の対策品だ。…能力を抑える為の装備ではなく、ただ見た目を気にしての装備である。
眼鏡だけではなくモノクルも持っているのは、「格好良さそうだから」という…リュートの趣味だ。
ちなみに、ジャックとミランダはお付き合いが始まっている。付き合って2日目のあつあつかっぷるである。末永くもげ…幸せになってもらいたい。
リュートが想像していた通り、ジャックがミランダを意識して一人ギクシャクしていたのだが、
「私は一度命を落としました。今はこうしてリュートとして戻ってくる事が出来ましたが、普通は死んだらそれまでです。言いたい事、伝えたい事は伝えられる時に言っておくべきですよ?」
と説明会の後リュートにこっそり言われ、その日のうちに交際を申し込んで無事に付き合い始めたのである。
ジャック、盾職の割に攻める時は攻める男である。告白されたミランダはポンコツ化したそうだ。
シェリルが無理矢理フラグを折った事も説明されたジャックだが、「そういうものなんですか…」と納得した…ような雰囲気でとりあえず頷いたのだった。その後様々なフラグ話を聞かされたジャックは、「もうしませんから許してください!」と泣いたとか泣いていないとか。
☆
「しかし、告白するのはミランダからだと思ってたんだがな~」
「俺も思った。めでたいからどっちでもいいけどな!」
馬車の中は2人の仲を祝うムードでいっぱいだった。ミランダはモジモジしていて、リーダーであるジャックもさすがに照れている。
楽しそうな会話は、数日前に街が滅びる可能性があった事など全く感じさせない。
そして、あのスタンピードを無事に治めた主役は今、
「じゃぁ、いつもこの子と一緒に街を行き来してるんですね」
「そうだよ、俺がこの仕事を始めた時からずっと相棒なんだ」
「ヒヒィ~ン!」
「俺もそうだよ~って言ってますよ」
「そうか…そうか~。なんか…嬉しいなぁ」
御者を務めるオーランドと一緒に御者台でまったり話をしていた。
オーランドもスタンピードの時は街にいた。各所に戦えない者の集まる避難場所があり、その避難場所の1つで警護をしていた。慣れない剣を持ち、体を強張らせ、いつ来るともしれない脅威に何時間も耐えたのだ。
翌日の宴会にも参加し、前線で戦った者の武勇伝を聞きながら酒を飲んでいたが、最後は決まって「あの少女がいなければどうなっていたか」と誰もが口にしていた。
話を聞くだけでは全く現実味がなく、酒を飲んでいるのもあって「皆話を盛っているんだろう」とオーランドは思う事にした。剣の一振りで100匹のモンスターを倒す、『ファイア』の魔術で大爆発を引き起こす。それはまるで現代に現れた勇者のような人物だな、と。
実際オーランドは大爆発の火と煙は目撃していたし、建物が揺れる程の衝撃と音も聞いている。だがそれが『ファイア』だと言われれば信じられないものだ。
宴会の終わりには演説を聞き、領主であるラルフまでもが英雄と紹介した人物。更に領主の養女となったリュートに対して、初めはどう接すればいいのかと悩んだオーランド。
(まさか俺が、街の英雄であり、領主様の娘さんを運ぶことになるなんて…)
緊張するのも当然であった。
オーランドはガチガチになりながら自己紹介をし、御者台に乗って移動を始めたのだが…出発早々、御者台にリュートがやってきて隣に座ってきたため、心を落ち着かせる暇も無かった。
「ここに居ても、面白いものは何もないですよ?」
最初の内は敬語で話していたオーランドであったが、
「へぇ~、じゃぁオーランドさんはずっとジャガーバルト領にいたわけじゃないんですね」
「そうそう、御者の仕事であの街へ行った時に、いい雰囲気だな~と思って住む事にしたんだ」
「領主様が親しみやすいですしね?」
「そうなんだよ! 平民上がりと言うか、元々貴族の出じゃないからだろうな。な~んか居心地がいいんだよ」
話をするうちにすっかり馴染んでいた。
リュートが馬の気持ちを代弁したり、『ヒール』をかけて疲労を取ったり、オーランドにとっても嬉しいばかりだ。
『オールアップ』はかけていない。馬の方が平気であり、走るスピードをあげられたとしても、引いている馬車に乗っている人間が大丈夫ではないのだ。…主に尻が。
☆
「はっ! はっ! はっ!」
「せいっ! せいっ!」
初日の移動を終えた一行は今、野営の準備を行う者と素振り等の訓練をする組に分かれて行動している。
リュートが馬を回復しつつ進んだ為、予定より若干早く野営地へ着いていた。
通常、ジャガーバルトから王都へ旅をする時、今回の様に野営を挟むのが一般的である。
ちなみに、ラルフが所有する馬車ならば1日で宿屋まで辿り着ける。衝撃緩衝材が組み込まれているので、問題無く速度を上げて進めるからだ。…主に尻の話だ。
野営の準備のほとんどはリュート1人で事足りた。マジックバッグのように見せかけたただの鞄からスープ用の食材を、焚き火用の炎木を、鍋や食器を取り出した。火は魔術で用意できる。
リュートが鞄から取り出した(様に見せた)アイテムは、全てスキルによって収納されていたものだ。
『異空間収納』という名のスキルがある。
使用者のステータスにある魔力値で収納できる容量が変わり、異空間に収納するので重さは考慮する必要が無い。
スキルを得る事が出来るジョブは豪商。豪商は商人の2つ上に当たる最上位職である。
リュートは…そんな便利な『異空間収納』スキルを改造して、『インベントリ』と名付けて活用していた。利便性は格段に上がっている。
リュートが『インベントリ』からアイテムを取り出し、下準備を終え、今はオーランドに火の番をしてもらい、スープが出来上がるのを待つだけとなっている。
つまり、素振り組はオーランド以外…全員だ。
「はぁっはぁっ…ふっ! やっ!」
「疲れるのはいいです、真剣さを忘れないでください」
「「「「「はい!」」」」」
銀の盾の5人は、それぞれジョブの変更を体験していた。変更先は初期職である。
5人共今までのジョブレベルがカンストしており、「相談に乗りますよ?」というリュートの言葉に甘えて相談した結果、
「ステータスの底上げにもなりますし、やりたい事が見つかるまでそれぞれ初期職をやるがのいいでしょう。自分に合うスタイルが見つかったら、そのジョブの上位職へと進む方向で」
とのアドバイスをもらったのだった。
ジョブの変更に伴うステータスの低下が起こっているので、全員が体を動かす事に違和感を感じていた。足は重く、手にも力が入っていない、そんな感覚を覚えていた。能力値が約半分になっているのでその感想は合っている。
銀の盾の全員が絶好調とは程遠い…風邪でもひいたような体の重さで、素振りや正拳突きを真剣に繰り返していた。
何の為に?と問われれば、ジョブのレベルを上げる為である。
レベルというものは、2種類存在する。
先ほども言ったジョブのレベルと、ステータスを持った生物…人族や獣人族、魔獣や魔族といったマギカネリアに生きる全ての者が持つレベルである。
どちらもモンスターを倒した経験値でレベルが上がると思われそうなものだが、『ジョブに沿った攻撃やスキル』を使って『モンスターを倒し』、『経験値』を得ているのである。
スキルや攻撃によりジョブのレベルが上がり、モンスターを倒した経験値でその者のレベルが上がる。故に、素振りといった稽古も立派なジョブ経験値稼ぎとなる。
ただ、仮に剣士のジョブを持った者が適当に剣を振り回した場合と、真剣に取り組んだ場合では取得できるジョブ経験値は変わる。故にリュートは真剣さを求めているのだ。
「本当に、差が、出るんですかね…」
「ええ、間違いないですよ。自分で実証済みです」
ジャックが疑うのも無理はない。レベル経験値はステータス画面から確認出来るのだが、ジョブの経験値の項目はリュートの『眼』でなければ確認できないのだ。
最初にこの話をした時は、ラルフやニックでさえ疑ったほどである。
発見した当時のリュートも何故ジョブ経験値が見えない仕様なのかと思いはしたが。
「そうですね…、あと2回正拳突きをしてみてください。もちろん真剣に。目の前にモンスターがいると思って、守るべき人が後ろにいると思って」
「はい…、せいっ! せいっ! ぁ…」
ジャックの脳内に『ピコン♪』と音がした。前のジョブがカンストしてから久しく聞いていなかった、ジョブのレベルが上がったお知らせである。
「あ、上がりました! リュートさん!」
「おお、本当に2回で上がるとは…愛の力ですかねぇ?」
「「「うんうん」」」「~っ!?」
同意を求めるように振り返り悪ノリをする少女とノる3人、そして赤くなるミランダ。…それにしてもリュートの振り方が古い、おっさんか。………おっさん(侑人)だった。
「とまぁ、真剣に取り組むことで、得られる経験値に差が出ます。ただ真面目に拳を突いたり剣を振るだけではなく、敵と相対した時を思い浮かべたりする事でまた差が出ます。皆さん忘れずに取り組んでください」
「「「「「はい!」」」」」
リュートは先生の真似事をしていた。オーランドもいるので、バレないように小声だ。
ちなみに冒険者歴で言えば銀の盾のメンバーの方が先輩である。…ややこしい上下関係になってしまっていた。
☆
皆が順調にジョブ経験値を貯め、ジョブのレベルを上げ、食事の時間となった。時間で言えば17時頃である。
人数分のスープはまだ鍋の中。
今は串に刺さったオーク肉を皆が焚き火で焼いている所だ。もちろん肉を用意したのもリュートである。
「うわ~、スパイスと肉の焼ける匂いが…」
「まだだぞ? 今食ったら腹壊すからな?」
「分かってるんだけどさぁ。まさか野営でオークの肉が食えるとか思ってなかったから」
「まぁ…それには同意する」
注意をしていたジャックも、匂いに誘惑され腹を鳴らしていた。『異空間収納』改め『インベントリ』の便利さはさすがである。
マジックバッグから取り出している、そのように見せているだけで実際はバッグの中でスキルを発動している。
何故そんな手間を取っているのかと言えば、「スキルを持っていると知られればろくな事にならないから」という先輩方のアドバイスの結果だ。
リュートが『異空間収納』の改良を重ねた事で、収納したアイテムの時間経過の調整や、本来不可能な魔術の収納までもが可能となった。
『異空間収納』と言えば異世界モノにはよく登場するスキルだが、その原理の把握など簡単に出来るものではない。ましてや改良するとなると難しいどころではなかった。無限に収納出来る仕様に改造しようとした時には、危うくスキルに飲み込まれかけもした。
ちなみに収納した物の時間を完全に止める事は出来なかった。
「はぐっ、っあ~うめぇ」
「スープもおいしいです」
「1パーティーに1人、リュートちゃんが欲しくなるね」
「現実的に考えるならマジックバッグじゃないか? 高いけど」
『インベントリ』の中には旅の為の道具や荷物の他に、着替えの服やエリオスから貰ったリュート、日本から持ってきていた鞄など一式も収納している。リスト化されて見やすくなっているのも『異空間収納』にはない改良点である。
このリストのお陰で某青いタヌキのように「あれでもないこれでもない!」と荷物を撒き散らかす心配がないのだ。
「それでは順番に『洗浄』をかけますね」
「すっげぇさっぱりした…」
「これはすごい…」
「…なんということでしょう」
「やっぱり1パーティーに1人居て欲しいですね」
オリジナルの魔術である『洗浄』も大好評だった。魔術で汚れを落としているのではなく、魔術によって作られたミストにより洗い流しているのである。
そう聞けば簡単そうだが、水の細かさや清潔さ、速乾性も持たせた複合魔術だ。分類するならミリアの使った上級魔術、『ボルテクス』より複雑な魔術でMP消費も高い。高コスト過ぎて、『洗浄』の魔術が広まっても…使えるのはリュートの他に数人程度だろう。一般的な魔術師が使えば、一人綺麗にする前にMP枯渇に陥る…どころか発動しない可能性もある。
生活魔術というものはこの世界にはなく、再現しようと作り上げてみればこの通りである。ブラッシュアップの余地はあるかもしれないが。
そもそもオリジナル魔術を使う者が少ないこの世界。火や水といった適性の差はあるが、魔術を使用する者は書物にある魔法陣を暗記して発動させるのだ。
低コストで威力を保証された魔術をわざわざアレンジして使う者はいない。行うとすれば魔術を研究する学者くらいだろう。…それか、よほどの物好きかだ。
☆
食事を終えての就寝前、リュートとジャックが会話をしていた。
「…本当にいいんですか? リュートさん」
「大丈夫ですよ。私がやりますので寝てください」
「でも、なんか悪い気がして…1人でなんて」
「どうしてもと言うなら…、皆さんと交代でします?」
「そうですね、俺たちにもさせて下さい」
「それじゃ…3時間交代くらいでいいですかね? 順番はそちらで決めてもらえれば」
「ありがとうございます。順番はもう決めていたので、皆に伝えてきます」
「了解です」
睡眠をほとんど取らなくても問題無くなったリュートはここでも大活躍である。
こうして1日目の夜番をしながら夜が更けていった。




