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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第三章 スタンピード編

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11.ささやかな祝杯

宴会の前日、スタンピードが起こった日の夜からのお話となります。


 side:ミランダ


 あの戦いが終わり、その日の夜はパーティーメンバーでささやかな祝杯をあげた。


「あの子が居なかったらどうなってたんだろうな」

「あのオーガってモンスターと戦うのは俺たちになってたかもな。…それ以前にオークロードの問題があったけど」

「オークロードがなんとかなってたとしても、やっぱりオーガだな。ジャックとユートが防御に専念しても、あれはヤバいだろう…。俺でもあの速さは追いつかれるぞ」

「トールさんは、あの大きな爆発って再現できそうです?」

「無理無理、ミリア様の撃った『ボルテクス』の何発分だって話だよ。それなのに『ファイア』って聞こえたし、原理がさっぱりだ。強いて言えばあの黒い霧に何か──」


 たらればの話をしながら、あたしの家で皆がグラスを傾ける。

 本当ならお店で乾杯しようとしたんだけど、今日あんな事があったばっかりで、どの店もさすがに営業はしていなかった。文句は言えない。


 あたしが銀の盾に加入してもうすぐ3カ月、まだジャックさんと話す時は緊張しちゃうけど、大分馴染めている…と思う。


 母さんと父さんも別の部屋で談笑してる。その声を聞いてたら、改めてあの子が居なかったらどうなってしまっていたんだろうって考えちゃう。


「リュートちゃんでしたっけ、あの子の持ってた片刃の剣って東国の物ですかね?」

「あぁ、そうかもしれない。王都の武器屋で…もうちょっと刃の部分は長かった気がするけど、同じ形のやつを売ってたのを見た事がある。刀…って呼び方だったかな?」

「へぇ~。…その王都で売ってた刀でも、ゴブリンを一掃出来るんですかね…」

「………、無理じゃないか? あんなものがそこら中にあるなら、東国は化け物だらけの国って事になる。あの赤黒い刃を思い出すだけでも冷や汗が出そうだし」

「確かに…、普通に刃が鉄の色をしていたのも見ましたしね。スキルかな?」

「その可能性は高いかもね。…聞いた事もないけど。少なくとも、武器屋であんなすごい物を売ってるはずないよ。王城の宝物庫にあるって言われた方が信じられる」


 王都で見た刀でもこの盾より高かったしなと、盾を持ち上げながらジャックさんが言う。

 もしその王都の武器屋で売ってたっていう刀で、今日リュートちゃんが戦ってたような事ができるなら、あたしはもっと皆の…ううん、ジャックさんの役に立てると思ったのにな。


 そういえば…。


「ジャックさん、オークロードと戦う前に何か言おうとしてたのって何だったんです?」

「あ、あ~っと…、それはまた今度な?」

「は、はい…」


 顔を背けられてしまったので、それ以上は聞けなかった。


(何を言いかけたんだろう…もももしかしてこここ告白──、ダメよミランダ! 1杯とはいえ酔ってるのかもしれないわ! そんな都合のいい展開があるわけないんだから。でももしそうだったら──、いやいや、冷静になるのよミランダ。普通こ…告白する時はもっとこう…デートをして食事をして…デート………、キャー!!)


 一人で赤くなったり真顔になったりしてたのをジャックさん以外の3人に微笑ましそうに見られていた事に…あたしは気付けなかった。



 ささやかなお祝いの翌日、今日は領主様主催で宴会が行われてる。今は乾杯の音頭を取った領主様が家に戻り、街の皆が思い思いに盛り上がっている。

 ちなみに昨日の夜は皆ちゃんと宿に帰ったわ。お…お泊りなんてさすがにさせられないし。…いや、私が眠れなくなっちゃうってのが本音ね。


「よぉミランダ、飲んでるか?」

「えぇ程々にね? …なんだかローガンと話すの久しぶり? 同じ街にいるのに」

「そりゃお前がパーティー組んでるからじゃないか? 避けてた訳じゃないし、お前もだろ?」

「そうね、避ける理由なんて無いし。銀の盾の皆と一緒にいる事が多かったからな~…、最近はユートさんの捜索ばっかりしてたし」

「あのおっさんか。力も体力も無かったけど、真面目な人だったからな」

「そうね…、今どこにいるのかしら」

「っと、悪いな。しんみりさせるつもりじゃ無かったんだ。それじゃ他の連中の所に行ってくるよ。今は楽しもうぜ」

「えぇ、ありがと。いってらっしゃい」


 この街でずっと一緒に冒険者をしてた友人、ローガンとの話が終わり、ジョッキを傾けた。

 年齢も近く、たまに組んでクエストをする事もあったし、時には意見交換しながら共に成長してきた。恋仲になる事はなかったけど。


「ナンパされてたのか?」

「そんなんじゃないですよ、ユートさん」


 銀の盾でジャックさんと同じく盾役のユートさん、私の恩人と同じ名前のパーティーメンバーだ。


「ローガンはまぁ…友人ですかね。パーティーに入る前は、たまに一緒にクエストへ行ったりしてたんですよ」

「そうか」


 ユートさんは微笑みながらそう言うと、ジョッキに入ったエールを飲み干した。

 他の皆は一緒じゃないのかな?と思って聞こうとした時、辺りがザワザワし始めた。目を向けるとリュートちゃんが広場を歩いて通っていくのが見えた。


「…どこに行ってもあの子の話題ばっかりだったからな、酒の力があったとしてもなんだか…声をかけ辛いんだろう」

「そうかもしれないですね。…あれ?」

「どうした?」

「いえ、気のせい…だと思いますけど、あの困ったような笑顔に見覚えがある…ような?」

「…そうか?」


 ユートさんもリュートちゃんを見ているけどピンと来ていない感じみたい。どこで見たんだろ…昨日が初対面だし。


「思い出せないし、気のせいってことにします」

「そーゆーのは不意に思い出したりするしな、その時スッキリすればいいさ」

「ですね」


 あたし達は新しく注いだエールを片手に、乾杯して宴会の続きを楽しんだ。



 領主様の閉会の挨拶とリュートちゃんの演説が終わり、宴会の続きをする人や片づけを行う人の間をすり抜けて、あたし達銀の盾の5人は領主様の家へ向かった。


(呼ばれるなんて何があるんだろ…悪い事なんてした覚えもないけど)

「俺たちはなんで呼ばれたんだろうな? 昨日の事情聴取か?」

「さてな。行ってみないと分からないけど、悪い事じゃないだろう。もし事情を聞かれたとしても、正直に話せばいいだけさ」

「ま、そうだな」


 私の聞きたかった事はユートさんとジャックさんの会話で解決しちゃった。

 今日はあんまりジャックさんと話せてないな…。そう思いながら歩き、領主様の家に着くと部屋へ案内されて、


「よく来てくれた、楽にしてくれていいぞ? だがちょっとだけ待ってくれ、リュートがもうすぐ戻ってくる」


 と領主様自ら言われた。お茶を用意されて、宴会の直後に呼び出して悪いなと謝られ、最近の調子を聞かれたりした。事情を聞くというよりは世間話って感じかな?

 領主様の隣には奥様もいて、並んで座られている。その後ろにはシェリルさんとメイドさんがいて、詰問をするような雰囲気は全く感じない。…ほんと、なんで呼ばれたの?


「皆さんお待たせしました」

「おかえり、皆来たようだな」


 そこへリュートちゃん…と、リュートちゃんに手を引かれたララちゃん、ギルマス、フランソワさん…え?いっぱい来た。や、やっぱり何か怒られるのかな?


「まずは、銀の盾の皆に感謝する」

「!?頭を上げて下さい領主様!」


 突然頭を下げられて礼を言われて、すぐさまジャックさんが反応した。街のトップに頭を下げられるなんて思いもしなかったよ…。あたし以外の皆も緊張してるし。


「驚かせたか、すまんな」

「領主様にいきなり頭を下げられたらそうなりますよ」

「がははは、それもそうだな。まずは──」


 そこから事情を説明された。

 森での小さな異変でもちゃんと報告した事、ダンジョンの氾濫を抑えつつすぐ街へ知らせた事、昨日の戦い全般、それらの感謝だったみたい。


「異変はお前たちが報告しなくても他の誰かが知らせてくれたかもしれない。小さな出来事をいちいち報告しないって奴もいるだろう。が、実際にお前たちは知らせてくれた。それでいち早く警戒することが出来た。昨日の氾濫が始まった時の連携もそうだ。モンスターを抑えつつ街へ報告してくれた事で、こちらは一手も二手も早く戦う準備や指示を出す事もできた。…避難の指示はともかく、街からの脱出は結局誰も聞かずに全員残ったがな」


 領主様はそう言って笑った。


「お前たちにその気があれば、★5ランクへの推薦もするが…どうする?」

「え………」


 ニックさんの★5ランクへの推薦という言葉、確か2人のギルドマスターの承認が必要で…、世間では一流と呼ばれる冒険者のランク。…あたしも?


「え~…、それはまたでいいですか? 俺達がそのランクに相応しいのかって、仲間と相談したいので」

「かまわんよ、俺からはその準備があると伝えたかったからな」

「ありがとうございます」


 さすがジャックさん、冷静にニックさんへ返事をしていた。かっこいい…。


「それで今後の事だが…、ユート殿の捜索を再開するつもりかな?」

「そうですね。昨日あんな事がありましたけど、皆とも話して探す範囲を広げてみようかと」

「…だ、そうだぞ?」


 そう話を振られたのはリュートちゃん。黙っていたララちゃんは、「天使様?」とリュートちゃんに訪ねていた。


「天使じゃないよ? まぁ驚かすつもりはないので最初から伝えておきますけど、私がユートです」

「「「「「「………?」」」」」」


 ………ん?


「…本当なのん?」

「ええ、証拠も…証拠って言うのかな? 信じてもらう材料もあるので、見てもらえば早いかと」


 フランソワさんは信じてる…のかな。唐突で信憑性がなくて、証拠って言われても…。そう思っていた時、リュートちゃんの身体が光り始めた。

 無言で緊張するあたし達は、大きくなっていく光をただ見つめていた。徐々に弱まった光の後には、


「ただいま~」

「「「「「軽っ!?」」」」」


 手を振りながらの軽い挨拶にあたし達のツッコミが重なった。そこには確かにユートさんが立っていた。

 驚かすつもりはないって言ってたけど、驚きすぎてそれ以上言葉が出てこないよ? あたし達は再会を喜び損ねてしまった。


 さすがに領主様の家族やギルマスには伝えてあったみたいで驚いてはいなかった。…フランソワさんは驚いて目と口が大きく開いてたけど。

 ララちゃんも知らなかったみたいで、目の前の状況をうまく飲み込めていない様子。けどユートさんに「ただいまララちゃん」と声をかけられた途端、ボロボロと泣き出してしまった。泣きながらユートさんに抱き着き、頭を撫でられた所で…安心感からかな? 声をあげて号泣しちゃってた。


 あたし達はララちゃんもユートさんを探していたのを見てたから、その気持ちもよく分かる。見つかって良かったね? …やだ、もらい泣きしそう。


 …そっか、リュートちゃんが宴会の時していた困ったような笑顔、見た事があると思ったのはユートさんだったからか。納得してから、遅れてあたし達もユートさんの帰還を喜んだ。



 ララちゃんは病み上がりという事で、椅子に座らされている。離れると悲しそうな顔をするので、ユートさんはその隣に座っている。かわいい、子ども欲しいかも。


「思い出すのは辛いかもしれないけど、ララちゃんはどこまで覚えてるか話せる?」


 ユートさんの言葉に逡巡してからララちゃんが語ったのは、ユートさんを探している時に誰かに何らかの薬をかがされて意識が混濁した事、目隠しをされて馬で移動した事、おそらく馬車の中で隷属の魔術をかけられた事、出る事を禁じられたダンジョンでの事、ユートさんを殺せという命令…。小さな子になんて酷い…。

 しかも魔物寄せの香を炊くなんて、いくら初級ダンジョンのモンスターといっても危険過ぎない? …待って。


「え、もしかしてあの氾濫はそれが原因で?」


 だとしたら…それを行った誰かに街を滅ぼされそうになったの? 一体誰が…。


「大丈夫。ララちゃんは被害者であって、悪いのは香を炊いたやつだから。大丈夫」

「あっ…ご、ごめんなさい」

「は、はい…」


 言葉が足りなかった。ララちゃんの顔が青ざめていたのを、ユートさんが優しく落ち着かせていた。


「ふむ、まずは宣言しよう。ララには何の責任もない事を、領主として保証しよう。今回の氾濫…スタンピードと名付けるが、スタンピードの発生にララが気に病むことは何一つないぞ」

「あ、ありがとうございます…」

「…使いますね~?」

「いいだろう?」


 ユートさんと領主様の意味深そうな短いやりとりの後、ユートさんが言葉を続けた。


「結論から言えば、魔物寄せの香は原因であって原因ではありません。あれはきっかけです」

「…というと?」


 領主様が話の先を促し、ユートさんはこう言った。


「あのスタンピードでのモンスターは、最初からあのダンジョンに居たんです。オークロードも、オーガも。遅かれ早かれスタンピードは起こった、魔物寄せの香がスタンピードを早めた…そう考えています」


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