表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

ロベルトサイド

side ロベルト


「ブッハ!!な、何だよ!!」


いきなり冷水を浴びせられ飛び起きると、そこは俺の部屋でもなければさっきまで(、、、、、)ギルバルト殿下達と一緒に魔法学院のパーティーのことを話しあっていたんだよな?確か…。

いくら思い出そうとしても、俺の頭の中に霧が立ち込めてるみたい、記憶の断片部分しか思い出せない。


頭がズキズキする。


いや、あれ?おかしいぞ、俺の魔力が動かない?!

助け…て…く、れ…

殿下…みんな…

アルベルタ…


「う…ここは…どこだ?学院か?」


頭がぐらぐらする。

う…なんだこれ…安物ワインを飲んで悪酔いした時よりも酷い。まるで俺の頭の中を誰かが素手でグチャグチャにしてくれた感じだ。

しきりに何度も頭を振りながら周りを見渡すと、ぼんやりだった俺の視界が徐々にだがはっきりして来た。


なんだこの臭い?血生臭いとまではいかないが、酸が強すぎて鼻が曲がりそうな臭いだ。魔物の排泄物なのか?変な臭いがする。息をする度に口からも臭いが来て、思わず両手で鼻と口を塞いでいたがあまりの臭さに嘔吐した。


「うううぅえ…」


濃い緑色の軍服? さっきまで誰もこの部屋にはいなかったのに、一体いつの間に俺の側に来たんだ?

吐き気を押さえながらも、下から見上げた。

俺の目の前に現れたのは恋緑色の軍服を着た三人の将校達がいた。その中央には軍服姿の三番目の兄ランスナルトもいた。


「ランスナルト兄…さ」


なんでランスナルト兄さんが学院にいるんだ?

俺の言葉に兄さんの笑みが一層深くなった。

未だぼぉっとしている俺に華麗なる薔薇の笑顔を振りまくランスナルト兄さんから発せられる圧に、俺は疑問しか浮かばなかった。どうしてここまで兄さんが怒っているのかもわからないのだ。

ランスナルト兄さんの圧は息をするのも許されないほどの怒り。


「ようこそ、第三騎士団へ。ロベルトようやくお目覚めかい? 既に訓練は始まってるんだ。君はここで生き残れるといいな、行け!」


「に、兄…さん?「黙れ」

「え?」

「団長は貴様に口を開くことを許可しておらん」

「え?な、なんで?「黙れ!」


腹に鋭い蹴りを入れられ、胃液を吐いて這い蹲っている俺をじっと見下ろしているあの人は、本当に優しいラインナルト兄さんなのか?


「シャンゼ」

「は!」

「この子は、どうやら自分が置かれている状況がわかって居ないみたいだようね」


一歩一歩ゆっくりと俺に近づいてくる兄さんはさっきから笑顔のままだ。ここまでラインナルト兄さんが怖いのは初めてだ。一度だけ、長兄のローレンス兄さんが我が家で怒らせると一番怖いのは、母上でも父上でもない。ラインナルトだと言っていたのを思い出した。

俺の中のラインナルト兄さんは、いつも笑顔で魔術書を読んだり、庭の薔薇の世話をしたり、妹のロゼリアに刺繍を教えていたりと結構インドアタイプ。

なのに、今さっきラインナルト兄さんは『僕は第三騎士団団長ホーウェインス卿だよ』そう言っていた兄さんの目は氷の様に冷たく俺を見下ろしていた。

この世界での死の女神、ウラヴォロノフの様だった。ウラヴォロノフは死の女神だが、慈悲深く人を愛し過ぎた故に裏切られた怒りと悲しみに包まれ、死の女神になったと言われる。女神像でも一見優しく微笑んでいるが、その目は生きとし生けるもの全てを凍らせ、黄泉へと落とす死の女神。


優しい笑顔を顔に貼り付けたまま、言葉はさっきと変わらず優しいのに兄さんから発せられる圧が強すぎて、身体中から冷や汗が吹き出して来る。



シャンゼと呼ばれてるオーガみたいな厳つい顔の男から床に抑えられて、クソ身動きも出来ね。こいつ本当に人間か?


「シャンゼから逃げようとしても、無駄だからね。それに、ここでは君と僕は兄弟でも家族でも何でもない。なんせ君は平民だからね。お前が今だにこのホーウェインス卿の僕に兄弟の情とかそんな大層な事を言う口があるのなら、そんな下らない物なんか魔物に食わせるといい。まあ、君の方が先に食われるだろうがね。シャンゼもういいよ」

「は!」

薔薇の君と呼ばれていた兄さんが第三騎士団に入団していたなんて知らなかった。

だいたい第三騎士団(彼処)は一度踏み込んだら死を覚悟せよと言われている場所だろ? 俺とは全く無縁の場所だが…それにしても、どうしてこんなに俺の声が掠れてんだ?


「兄さ…」

「君は本当に覚えが悪いんだね、違うよ。さっきから言われているだろ?僕は第三騎士団団長ホーウェインス卿だよ。そして君はもう貴族でもないし、僕の弟でもない。わかっているだろうが、もちろん君には名乗る姓もないからね。ここは君がいた魔法学院と違って、お行儀の貴族の良い子ばかりじゃないんだ。団長の命令、直属の上司の命令や伝達報告を怠れば、すぐにお前だけじゃなく第三騎士団全員の命が危ぶまれる。君が好きそうなとこだろ? 何て言ったって脳筋のお前にとって血が騒ぐ様なとこ?だもんな。何しろ自分で考えずに他人に言われるがままに、寄ってたかってか弱い女性を追い詰め、暴力で床に這い蹲せたお前にぴったりのところだろ?」



憂い顔で吐息を吐くランスナルト兄さんの笑みが深くなる度に、俺の身体にかかる兄さんからの怒りの籠った圧が容赦無く遅いか掛かってくる。


「ちが「いつお前に口を開く事を許可した?訓練場の周りを僕が良いと言うまで走ってこい。全力だ」


違うそうじゃないんだと俺が言葉に出そうとしても、兄からの半端ない圧が俺の気道を軽く閉めていく。


「ぐっ…にい「聞こえなかったのか?シャンゼ、そいつを連れて行け。彼が走り切らなければ…そうだね、うーん。連帯責任にしよう」

「は!」


やっと絞り出した声で兄さんと呼ぼうとしても、それさえも兄さんに拒まれた。

このまま床の上で俯せ状態よりも、早く立って兄さん…いや団長命令に応えるしかない。

俺はふらふらと覚束無い足取りで訓練場だと言われるところまで兄さんとその部下の人達に付き添われ行った。が、これが学院の訓練場?

何故、凸凹道に障害物が模様の様に置かれてるんだ?

網の様な物の下をくぐるトレーニングやら、ゴツゴツした板の山を登る訓練やら、途中には泥池まで丁寧に設置してある。縄梯子を地面に置き捨ててあるし。


「…これ「早く位置に付け!」


もう訓練は始まってるんだ。命が惜しかったら、早く位置につけと兄さんの部下に背中を蹴られ、俺は魔力を身体中に満たし立ち上がった。


「何をしてる」

「うげ」


魔力を身体に纏わせて身体強化を施しただけなのに、俺は先ほど俺の背中を蹴ってきた兄さんの部下に蹴りを入れられた。


「誰が魔力に頼れと言った?ああん?」

「で、ですが…」

「誰が口を開けと言った?お前は自分の魔力が底をついたら、自分から大人しく魔物のエサにしてくださいというつもりか?お前の行動一つでこの第三騎士団の足を引っ張る事になるのは分かっているんだろうな。魔力に頼るな、自分の身体能力を磨け。俺たち第三騎士団は通称死の森と言われる場所に遠征に行く。そこでは魔法が阻害される。そこで生き残れるのは魔力に頼らず自身の能力を鍛え、他と密に連携をとり、対策を練る者だけがあの森から生きて帰って来れるんだ。お前の様に魔力頼りになった嘴の黄色いヒヨコには無理かもしれんがな。今のお前があの森に入れば、半刻もせずに魔物達の胃袋行きだろうよ。ここではどんなに魔力が高かろうとも、魔法は使うな。そうですよね?団長」


「ああ。あの森の魔物達は他の物の魔力を自分に取り込む」


今のお前が行けば、格好のいい餌として四肢をもがれるだろう。そうなりたくなければ、ここでのルールに従え。ここから逃げ出そうとしようものなら…迷う事なく斬ってやろう。安心しろ、お前の屍は森に捨ててやるからな。


冷視線で俺を見下ろしているのは、兄の仮面を被った誰かなのか? そいつが紡ぐ言葉がとてつもなく恐ろしく、歯の根が合わないほどにカチカチとさっきから鳴っている。


魔法も使わないで死の森へ行く? そんな自殺行為をこの人達はしているのか?

この日、俺が走りきったのは五周。他の人達は自分より重い人を背中におんぶし、鎧を着て走っている。嘘だろ?

こんな日が毎日続くのかよ。

俺が最後まで走りきれなかったから連帯責任として新人全員で飛竜の解体作業をさせられた。先輩達が獲って来た飛竜達はそれぞれA級ランクの物ばかり。捌いても捌いてもまだ山のように積まれた飛龍を見て、ため息しか出てこない。


「お、おい…これって…」

「マジかよ」

「腕だ…」

「こっちからは足だ」


竜の腹から人間の腕らしきものが数本出て来た時には、涙と胃液でぐちゃぐちゃになりながらも、死にたくないと本気で思った。

訓練について行くのにも必死になるしかなかった。少しでも権力を笠に甘えを見せれば、シャンゼ副官からの蹴りが炸裂。

俺が何をした? ただ我儘な女を成敗してやっただけだ。それがなぜ悪い?

クタクタになって少しでも休憩しようものなら、上官からの鞭が飛んでくる。


何でこんな事になったんだ…。


この夜俺は第三騎士団の宿舎の大部屋(四人部屋)に投げ込まれた。


初日は団長の終了の声がかかり、そのままその場に倒れこんだロベルト。口の中に土が入ろうが構わずに。何周走っても前後左右から飛んでくる石の礫を避けるも、顔や頭、足などに当たりあまりの痛みで蹲れば、上官からどやされる。遂には力尽き指一本動かすことが出来ずにいた。

次の日はまだ痛む体を引きずりながらも、昨日と同じ訓練場へと向かっていたロベルトの肩を叩き、今日はこっちの演習場なんだよと連れて来られたのは、昨日とは全く別の形状演習場だった。そこには見上げるほどの樹木が生い茂った森林と険しい崖、それらを縫う様に走る荒ぶる川。


「兄さ…「ガンマ、新人に教えてあげなさい」

「は〜い」

ガンマと呼ばれた男は顔は殿下に似ている優男だ。

「はぁい。ずっと同じ訓練だと人間慣れちゃうのよね〜。まあ私としては同じ訓練の方が楽なんだけど〜。まあ、頑張ってね〜。今日のここでの訓練は〜絶対に川に落ちない様に〜。一番高い崖の天辺になってる果実の収穫が今日のゴールよ〜。自分で獲った果実はそのまま食べてもいいよ…まあ食べられるならね、(本当にとってそれをすれば泣きを見るけどね。)まあ十人中二人は必ずバカやる奴がいるのよね。じゃあ、頑張ってねチャオ」


チャオって嘘だろ…

この三日に一度のペースで訓練場のコースが変えられる。一番キツかったのは、氷の魔物と戦う訓練だろう。魔法は使えないことが前提での狩に他の訓練生達は嬉しそうだったが、俺は早く終わらせて帰りたかった。

氷の崖を登り、氷河を渡り、(もちろん橋なんてあるわけない)氷の宝玉を持って帰って来るまでが訓練だった。

魔物は氷オーガに、氷角ウサギ、氷狼、もちろん熊もいた。

一番弱そうだと思ってた氷角ウサギが最も大きく凶暴で、俺たちは命からがら宝玉を持って帰ってきた。


こんな無茶苦茶な訓練が三月ほど過ぎた頃、一番新人の俺が所属する第三騎士団に北の死の森への氷角ウサギの討伐命令がでた。


「いいかお前達も今日から晴れて第三騎士団団員だ。今回の討伐対象となったのは、氷角ウサギだ。そこ!逃げようとするな!」


副団長のマーキュリーは今回の討伐対象の説明をしながら、逃げようとしている団員を次々と魔法で作った投網で捕まえている。


どこの漁民ですか?


「お前達も普段の角ウサギなら知ってるだろう。ライアン!逃げた罰だ。説明をしろ」


ライアンと呼ばれた団員は渋々とだが角ウサギについて説明し始めた。

「体は六本足の大型犬くらいの大きさですばしっこく、雑食である。性格自体は臆病で大人しく見た目も可愛いと言うことで、貴族の中にはこの角ウサギをペットにしているものが多いであります」


「ライアン逃げたら…どうなるかわかってるよな? まあ、一度逃げれるとこまで逃げてみればいい。その時には貴様は地獄を見るがな」

マーキュリーの言葉に顔を真っ青にしてコクコクと頷くライアンを見て、上官たちは満足そうだ。


先ほどのライアンの説明にもあったが、ここまでは確かに従来の角ウサギの注意事項ですみそうだが、今回のは氷角ウサギだと言うことを忘れないように!氷角ウサギの体長は小さな物は犬の大きさだが、大きな物になると馬と同等の大きさにもなる。遠目に見るだけならば氷角ウサギは愛玩動物だ。だが、間違っても安易に近づこうとするな。こいつらは見た目に対して、性格は凶暴だ。角には砦の壁面さえも陥没させるほどの硬さと鋭さがある。胴体は柔らかいが、危険を察知すると背中の体毛が鋭い棘となり、敵に向かって放たれる。この棘に毒がないだけまだマシ。だが、最近の調査でわかったことがある!この棘に刺さったら、痒さが止まらなくなる。足の爪には一番気をつけた方がいいだろう。角ウサギの足には猛毒がある。あのオーガでさえもこの毒を触っただけで数秒で棺桶行きだからな。では解散!」


鎧の下に着る服を配給するから取りに来いと言われ、名前を呼ばれるとそそくさと前に出て取りに行った。

周りを観察してるとこの一枚の服だけで毒や棘から身を守れるのかと話しているのが聞こえる。副団長からの説明で

今回配給された服一式は毒を解毒するマンドリガと言う蜘蛛の糸を使用していると言うことだった。


ただ、これはないだろうと思ったのが、討伐に行くのに遺書を書かされるのは何とも言えん。

先輩団員達は、これは通過儀礼だからと笑って居たが、その目は死んだ魚の眼だった。



夜になる度に思う事は学院に残して来た殿下達の事ばかり。

早くみんなに会いたい…

みんな?みんなって誰だ?


ギルバルトやエーミール、マイケルは大丈夫なのか?


みんなのことを考える度に見るのは、不思議な夢。

暗い部屋に俺とマイケル、エーミールが連れて来られて、アルベルタが手づからくれたオヤツ貰った。俺は甘いのが苦手だからか、それを食べるフリして袖の中に突っ込んだ。みんなはそれを美味しそうに食べてたが、いきなり苦しみ出した。最初に殿下が頭が割れるように痛いと叫びながら、呻いて居た。

次の瞬間、骨が割れる音が部屋中に響き渡ると、殿下は自分の頭を素手で引き裂いて笑ってた。

マイケルは喉が渇いたと水を飲み続け、最後には水瓶に頭を突っ込んだまま失神した。

エーミールは「これは一口食べれば、天にも昇る心地です」などと言いながら、備え付けの梯子を登りきり、そこから鳥になるんだと叫ぶと飛び降りた。

そんな俺たちの狂った光景をアルベルタは「なんてしょうがない人達」と微笑んでた。そんな友人達の姿が黒く燃え始めた。

その後に残ったのは大きな黒い石、すなわちそれは人間だった人物が宿していた魔力の塊。魔石担っていた。

悲惨な状況を目にしながら、それを嬉しそうに微笑む彼女が俺は恐ろしくなった。

赤子が這うように、俺は逃げた。


夢から醒めると、冷や汗をかいていたのか身体中が気持ち悪いほどにじっとりと湿っている。


「ハアハア…」


一体何だったんだろう。嫌な感じの夢を見たような気がするが、一体どんな夢だったのかを全く覚えていない。

ロベルトの精神は悲惨な光景の事を覚えていなかった。


ただ、毎晩のように悪夢にうなされていた。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ