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天文学者の話

 私の一目惚れ、なんて言ったらあなたは軽蔑するかしら?




 この国立天文台には世界的に有名な精度の良い観測機がある。

 それに憧れてここで働きたい、と言う天文学者は何人何十人何百人と居て、僕のその一人である。

 あの日も新聞で職員募集の広告を見て、一も二もなく飛びついた。

 僕の他にもたくさんの人が応募していて――中には有名な教授も居た――その中から僕が選ばれたのは本当に奇跡のようだった。

 夜通し書いて、推敲に推敲を重ねたあの論文が評価されたのだろうか。


「準備は順調かしら?」

「先生……。まだ起きてらしたんですね」

「何だか寝付けなくてね」


 二つのコーヒーを手に持ち、屋上に上がって来た若い女性。僕と変わらない年でこの観測所に勤め始め、数年で責任者になってしまった才女である。

 秘密だが僕の憧れの女性だ。もちろん、仕事相手として、だ。

 片方のコーヒーを受け取る。寒空の下、温かなコーヒーは嬉しかった。少しのミルクと砂糖が入っている。


「うん。バッチリ見えてる」


 望遠鏡を覗いた彼女が言う。

 今は夜空で煌々と輝く月に合わせている。


「明日のためにもバッチリですよ」

「本当は研究に集中したいんでしょうけど、ゴメンナサイね。こんなことに付き合わせちゃって」


 明日は一般の人を招いての観測会だ。毎年の恒例行事でみんな楽しみにしているらしい。

 正直に言えば、僕のことを見いだしてくれた彼女のために、早く一人前の天文学者になりたいのだが、一般の人に星の魅力を伝えるのも大事なことである。

 しばらくの間、彼女は楽しそうに月を眺めていた。時折望遠鏡を操作して調整している。僕のでは少し甘かったみたいだ。


「先生、一つ聞いて良いですか?」

「……どうかした?」

「なんで僕を選んでくれたのでしょうか? あの時は――今もですけど、ペーペーの若造ですし、望遠鏡もろくに調節できない。選ばれた理由がわからないんです」

「不安なんだね」


 うなずく。

 それこそ、面談の時には天文学会で少しは名の知れた人も居る。それでなくても僕はあの時一番の若造だったのではないだろうか。

 こんな僕が職員として勤め始め、迷惑しかかけた覚えがない。

 他の人を雇った方が確実に良かっただろう。


「うーん、と……。ぺーぺーの若造だったからかな」

「へ?」

「明日、何で普段星も見ないような人達を招待するんだと思う?」

「それは……少しでも星の魅力を伝えるためじゃないですか?」

「そう。それで星に興味を持つ人が増えれば良いなって、先行投資。種蒔きみたいなものよ。天文学者として芽が出て欲しい、ってね」


 彼女はいったい何の話をしているのだろうか。

 僕の真面目な質問に真剣に答えてくれていないようで、少しヤキモキする。


「あなたも同じなのよ」

「ど、どういうことですか?」

「既に天文学者として花が咲いた人よりも、せっかく出て来た芽を育てたい、って思ったのよ。私の先生が私にそうしてくれたみたいにね」


 そして最後に「あの論文、良かったわよ」と彼女は付け加えた。

 待っていてくれているのだ。僕がいつか花開くように。そんなことも言われなきゃわからないなんてやっぱり僕はダメな奴だ。

 それに比べて彼女は、この天文台の戦力アップのことだけを考えていたのではなく、天文学会全体のことを考えていたのだ。一人でも立派な天文学者が増えるように。

 やはり彼女は立派な人だ。少しでも近づけるように、明日の観測会は大成功にさせなくてはならない。

 少し甘いコーヒーを一気に飲み干した。

リゼロのあのエピソードの始まり方好きなんですよね。

天文学者の仕事についてはあんまり知りません。

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