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転校生が嫌な私と先生の話

「先生。今度、転校生が来るんでしょ?」


 プリントの問題も半分近くを解き終わり、スラスラと答えられなくなった辺りで私はそう問いかけた。

 もうそろそろ部活をしている生徒も帰らなければいけない時間になる。夕暮れの光が教室に差し込み、オレンジ色に頬を染めた先生がチラリとこちらを見た。


「そんなことより早く解け」

「ひどくない? 先生と私の中なんだから世間話くらい……」


 と、言いつつも問題に向き直る。この先生が怒ると怖いのは知っているし、もしも時間内にプリントが終わらなければ宿題とされてしまう。


「まったく……。何のために補修をしているか考えろ」

「私と先生が仲良くなるためじゃないの?」

「お前本気で言っているのか?」

「じょ、冗談だよ……」


 わざわざ放課後に時間を取ってもらって話をするだけの補修、なんて私が先生の立場でもお断りである。

 それがわかっているから、話はしつつも問題を解く手は止めない。

 でも私としては先生と仲良くなるためなら補修だろうと小テストだろうとどんと来いな気持ちである。

 少し考えればわかるレベルの問題だ。先生がわざわざ補修を受ける私一人のために作ってくれた問題を無駄にするわけがなかった。


「ここの問題はどうするの?」

「ん? ここはだな……」


 読んでいた小説から顔を上げて私の横に並ぶ。

 初めこそちゃんと私がプリントを終えるのを待ってくれていた先生だが、最近では暇潰しのための小説を持ち込んでいる。

 私に集中してくれていないようで残念だが、読んでいる小説から先生の人となりが想像できてこれはこれで面白い。

 わかりやすく教えてくれたお陰で躓いていた問題もすぐに終わる。


「なんだもう少しじゃないか」

「だからちょっとくらいお話しても良いでしょ?」

「……転校生の話か?」


 少し考えた後、私の話に乗ってくれる。

 こういうところは優しい先生だ。


「まだ先生方の間だけの話なんだが……どこで聞いたんだ?」

「もう噂になってるよ。男の子と女の子どっち?」

「女だよ。お前としちゃ男の方が良かったか?」


 イタズラっぽく笑いながら先生は言うがどっちでも良い。

 何なら男の子の方が先生を取られる心配がなくて安心かもしれない。


「まぁでも頭が良い女の方がお前にとっては都合が良いかもな」

「どうして? やっぱり先生も男だから?」

「違うわ。同性の方が勉強も教えてもらいやすいだろ? お前ら馬鹿ばっかりなんだから」


 教師としてはいかがな発言だが私も友達も実際に馬鹿だから反論のしようもない。

 その中で私が飛び抜けて馬鹿なわけではないが、なぜか補修はいつも私一人である。先生と二人きりになりたい私の気持ちがテストにも表れてしまっているのだろうか。

 そうなると転校生の頭が悪くても都合が悪い。せっかく週に一度、先生と二人で会える時間にお邪魔虫が入って来ては困る。

 そんなことを話している間にもプリントは終わる。


「はい、先生できたよ」

「ん。今日もお疲れ」


 これで今日も補修の時間は終わり。

 解放されたような、解放されてしまったような複雑な気持ちだ。


「転校生が来るのは来週くらいかな。楽しみにしとけよ」

「あー、うん。楽しみにしとく」


 楽しみなような楽しみじゃないような。

 どうか転校生が馬鹿じゃありませんように。

機能たまたま思いついて二日連続の更新と相成りました。

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