毒キノコを食べたかもしれない話
私と助手君は幻のマボロシタケを求めて山に分け入った。
マボロシタケとは滅多に見ることのできないめずらしいキノコで、その味たるや煮て良し、焼いて良し。なんなら生食も美味しいという無敵のキノコである。
このキノコを見つけることができたなら、キノコ界で自慢ができる。
「じゃあ先生、行きましょうか!」
山の麓で助手君と集合する。
山を歩き回るので私はもちろん、バッチリとした登山装備である。荷物こそあまり多くないが、服装は完全に揃えた。
対する助手君。登山装備ではあるものの、アイドルがテレビに出る時のようなかわいらしい格好である。
まったく、ここには私と助手君しか居ないというのだからもっとちゃんとした格好をすれば良いものを。キノコ相手に色気づいてどうするというのか。
「先生、この服どうでしょうか? 今日のために買ってみたんですけど……」
「なに? わざわざ買ったのであればもっと暖かい格好にするべきだ。ズボンもちゃんと長い方が良いんじゃないか? そんなタイツじゃ寒いだろう」
「いえ、それは大丈夫なんですけど……。すいません……」
やれやれ。やはりまだ助手君にはフィールドワークというものがわかっていないようだ。
しかしそれを教えるのが私の役目である。このマボロシタケを探す中で、フィールドワークというものがどういうものか、学んでくれると嬉しい。
と、山に入る前に心構えの確認。そしてマボロシタケについての情報も共有。
「そうそう。この山には毒キノコがたくさん生えているから気をつけるように。すぐに死ぬようなキノコはないがな」
それでも食べないに越したことはない。
しかし研究者としては、死なないのであればその毒を体感するためにも口にしてみたいものだ。
そんな話を済ませ、助手君と山に入る。
「はぁ……はぁ……。先生、これキツいですね」
「この程度で音を上げるんじゃないよ」
登り始めてしばらく経つ。早速、息を荒げている助手君だが、あまり運動はしないのだろうか。私は今でも時間があればフィールドワークをしているが、助手君にその様子はない。
これは一度休憩を挟まなければならないだろう。
幸いなことに、休ませてくれるような丁度良い大きさの石がある。
そこに二人並んで腰掛ける。
「いやぁ、フィールドワークは久しぶりなんで疲れますね」
「まったく……。こんな調子ではいつまで経っても助手君のままだぞ」
「私としてはそれでも……ぷぷっ! 構わないアハハは!」
急に笑い出す助手君。ただ事ではない。
良く見るとその手には小さなキノコが握られている。
「まさかそれを食べたのか!?」
「ぷぷぷっ! そうですよキャハハハハハ!」
見た目やその症状から言ってワライタケの類いだろう。
しかし何かある度に笑い出すのは、正直に言って怖い。しかし毒キノコを食べるとは何と羨ましいことだ。いかも毒キノコも恐れず口にする度胸。
これは万年助手君なんて呼び方も改めなければならない。
「うぅ……グスッ……。私はずっと先生と……ズビッ」
かと思えば今度は泣きだした。
これはナキダケの症状だ。次から次へとなんと羨ましいことだ。
「私は……先生のことが好きなんです!」
「へぇあ!?」
待て待て。私と助手君とでは干支を三周くらいする年の差が……ん? あの手に持っているのはきっとウソツキタケだ。
なるほど。それを食べたからきっと私のことが好きなんて冗談を言うようになったんだな。
「助手君、君はそのウソツキタケを食べたんだね?」
「……はい。食べました」
少し残念そうな表情を浮かべながらも、正直に話してくれる。
そんなにシュンとしなくとも怒りなんてしない。自分の身を以てキノコの効能を試そうとするのはとても良い心がけである。
これは私も何か食べてみたいものである。
「私は本当に先生のことが好きなんですけど……」
「ああわかってる。ウソツキタケは本当にすごいキノコだな」
「……違うんですけど」
「それよりも私も何か食べてみたいから一緒に探してくれないか?」
「はい。そういうところも大好きです」
「嘘だとわかっていても嬉しいねぇ」
こんな感じ好きよ




