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エルフの侍と宇宙の人の話

エルフ被りはランダムだから仕方ないのね。

侍だから=ござる、っていうのも安直すぎる。雑だし。

 三百年以上生きているがこんなことは初めてでござる。

 毎朝の修行場に現れたのは巨大な金属の塊。それだけでも驚くべきことでござるが、更に驚くべきは中から人が現れたのでござる。

 現れたのが本当に人かどうかは拙者には判断がつかぬ。

 前進ツルリとした光沢のある皮膚に、大きな目玉。ポツポツと楊枝で開けられたような鼻と、無理矢理引き裂いたような口。髪の毛どころか髭や鼻毛の一本も生えていない。


「と、とりあえず……何か着たらどうであろうか……」


 思わず声をかけてしまった。

 相手が恐ろしい魔物であったかもしれないのに。己の愚かさに歯がみしつつ、拙者はさりげなく愛刀に手をかける。

 村の鍛冶屋に頼んで、三日かけて打ってもらった自慢の刀でござる。

 拙者はこれまで、この相棒と共に数多もの魔物を屠ってきた。村の平和は拙者が守っているという自負もある。目の前のあいつがどんな存在であれ、村に危害を加えるようであれば一刀の下に切り伏せなければなるまい。


「余は、遠い遠い場所から来た」


 目の前のあいつは空を指さす。

 そういえば子供の頃、村の星見役のじじいから聞いたことがある。

 空の上には無限にも広がる世界があり、そこは宇宙と呼ぶのだそう。無限に広がっていれば、他にも人が暮らしているかもしれない。なんておとぎ話のような話である。

 しかしこうして目の前に現れたそいつは空の遠い遠い場所から来たと言っている。

 もしかしたら星見のじじいの言っていたことも間違っていなかったのでござるな。

 星見のじじの居ていたことが間違っていようと当たっていようと、目の前のそいつ――宇宙の人はわざわざこの地に何をしに来たのでござろうか。


「拙者で良ければ話は聞くが? なぜわざわざそんな場所から参られた」


 言葉の通じる相手で良かったが、まだ愛刀からは手を離さない。


「大したことはない。観光だと思ってくれれば良い」

「観光、でござるか」


 この森はどこまでも木々が広がっているだけだ。拙者の暮らす村もあるが、他には水場があるくらい。わざわざ見るような場所でもない。

 しかし敵意はなさそうで良かった。

 警戒していただけにドッと力が抜け、地面にへたり込んでしまう。


「どうかしたのか?」

「いやいや、気が抜けてしまっただけでござるよ」


 同時に腹の音が鳴る。

 朝稽古の後、飯を食べようと思った時にこの宇宙の人が現れたせいで、そういえば飯を食べ損なっていた。

 幸い、宇宙の人は今の音が何であるか気づいていないようだった。

 懐から取り出すのは果実を乾燥させた物と、豆を挽いて焼いた物。拙者の村での標準的な食事でござる。


「お主も食べるでござるか?」

「……いただこう」


 少し考えた後、宇宙の人は拙者の渡した飯を受け取った。


「うむ。これは中々うまいな」

「そうであろうそうであろう」


 拙者もわざわざこの飯が食いたくて朝の稽古をしている節もある。

 毎日の飯がうまいのは良いことである。


「さあ、どんどん食べるでござるよ」


 宇宙の人は拙者の差し出す飯を次から次へと口に運び、あっという間に飯はなくなってしまった。褒めてもらったのがうれしくてついつい拙者の食べる分まであげてしまったでござる。


「満足じゃ。褒めてつかわす」


 そうであれば拙者も飯をあげた甲斐があるというもの。しかし、


「お主はなんだか……偉そうでござるなぁ」

「何を言うか。余は王であるのだから当たり前じゃ」

「なんと! そうでござったか」


 宇宙の人は宇宙の王であった。知らず知らずの内に無礼を働いたのかもしれぬと、不安になるが、宇宙の王から何かされるような気配はなかった。


「……この後、村でも案内するでござるよ。飯もまだまだある」

「魅力的な提案じゃが、余もやることがある。後でこちらから伺おう」


 拙者の下心も見透かされてしまったか。

 ただ、王と知ってもこの宇宙の人に嫌な感じはないでござる。今のは純粋な拙者の好意だ。


「それでは、待っているでござるよ」


 拙者は後ろ髪を引かれつつも、宇宙の人の下を離れた。

 もっと満足してもらえるよう、飯の用意をしなくてはならない。




「この星の住人は甘いな。観光という言葉をすぐに信じて飯まで分けおった。その飯もうまかったし、すぐにでも我らの星とすべきである」

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