31話
「さーて、洗いざらい吐いてもらおうじゃないの。」
そういうと、ミリアは目の前の男ーレンヴィルに声をかける。レンヴィルは今、孤児院地下深くの暗い石部屋の中で拘束されていた。
手足は鎖で縛られ、木製の椅子に括り付けられている。
そんな状況でなお、憎しみのこもった眼でミリアを睨みつけていた。
「先に言っとくけど、怪しげな挙動をした瞬間手足落とすからね。どうせ生えてくるんだろうけど、お互い面倒なのは嫌でしょ?」
「黙れ。出来損ないが口を開くな…」
喋りかけるミリアを拒絶し、レンヴィルは体に力を込める。
(…!?…スキルが使えない…)
「あ、今スキル使おうとした?」
ミリアの目が煌々と光る。
その瞳は真っ直ぐにレンヴィルを捉えている。
「君の体を縛ってるそれ、うちのお姫様の特製のやつだから。」
「ちっ…アセリスの死に損ないが…」
「お、なんだ色々知ってそうじゃーん。…ってそんなことより!」
「…?」
「動こうとしたよね、今」
ミリアはゆらり、と体を前に出す。気づけば腰に備えていた短剣の1本がその手中に納まっている。
「1ペナだよ。」
ひゅるんっ、と空を裂く音がした次の瞬間、レンヴィルの右腕がぼとり、と床に落ちる。
「ーーーーーー!!!!!」
肩から先を切り落とされた男の、声にならない絶叫が部屋中に響き渡る。
「何から聞こうかなー。あ、そうだ。」
ミリアはそのまま近づき、レンヴィルの頭を鷲掴みにすると、顔を自分の方に近づける。
「何で、わざわざウチにちょっかいかけてまで、ハートを狙った?」
「……がっ……はっ…」
「王家だがなんだか知らないが、今の耀晶会に手を出すリスクくらい、リースに居ればそれなりにわかるはずだ。少なくとも、私たちはそうなるように動いてきた。」
「く…」
「だ?」
頭を掴まれ、痛みに体を悶えながら、なおレンヴィルは侮蔑するような眼差しで、ニヤリと笑みを浮かべた。
「クソ喰らえ…だ…」
「…あらー、こーれは長くなるぞー。」
ミリアが思わず舌を巻く。プライドだけ高そうな雰囲気で、しっかりと骨はありそうだ。
改めて気合を入れ直そうとミリアが自分を奮い立たせていると、廊下のほうから足音が聞こえてくる。
「ミリア団長、お取り込みのところ失礼致します!」
入ってきたのはギルドの事務員の1人だ。こうした後ろめたい部分は、本人の適性を見つつ、了承を経て一部の人材に協力してもらっている。
「報告いたします!尋問の末、赤髪の女が全部吐きました!」
視界の隅で青髪の男がガックリと肩を落としたのが見えた。
「あ…あの馬鹿…だから…あんな女、やめておけと俺は…」
ぶつぶつとうわ言を言いながら、レンヴィルは意識を失った。先の戦闘のダメージもまだ回復しきっていなかったのだろう。
「ふ…ぐふ…そ…そっか。報告ありがとう。すぐに向かうね」
思わぬ吉報とレンヴィルの失意に、流石のミリアも笑いを堪えながら、報告に来た事務員を労う。
手間が一つ片付いた。
気の重かった仕事があっけなく終わり、ミリアはどこか晴れ晴れとした気分で赤髪の女()のいる部屋に足を進めた。
・・・
「うぅ…ですぅ…なんて可哀想なんですぅ」
「可哀想なのは貴様の脳みそだ…愚図るな!裏切り者が!」
数刻後。
鉄製の鎖に縛られた2人の侵入者たちは、同じ部屋に付き合わされると即座にいがみ合いが始まった。
ひとまずギルドの初期メンバーがその部屋に集まったことを確認すると、ミリアは口を開いた。
「まずはみんな、お疲れ様。今回の事件に対応してくれたメンバーには頭が上がらない。カプレーはまだ寝てるみたいだけど、ひとまず命に別状はないみたい。」
「みんなお疲れ様だよー、よくできました!」
ミリアに続けて、レオナもそうみんなを労った。
レオナの放つ柔らかな雰囲気に場が包まれる。
「それじゃ、改めて吐いた内容を聞かせて貰おうか?アルドローヴァの尋問を担当したのはーー」
「はーい、はいはい。僕です。」
軽い口調で返事をしながら、ギルドメンバーの1人が手を挙げた。
やや恰幅がよく、目元の瓶底眼鏡が特徴的な彼は、その実力もさることながら、持ち前の知略と権謀でギルド全体を俯瞰する役割を担ってもらっている人物だった。
「あ、テパくんか。そりゃ納得。ごめんね、こんな忙しい時期に。」
因みにテパくんは通称で、その本名はテパランドウェールだ。歳は27。
元々王都で文官として働いていたが、色々あって無職になりかけているところをミリアが半ば強引にスカウトした。
現在彼には、冒険者業務の傍ら魔道具商会の運営にも参加してもらっている。
ギルド内でミリアの次に忙しい人間と言えば真っ先に彼の名が上がることだろう。
「いやいや。自分で言うのも何だけど、こういうの、割と僕適任だと思うし。」
「それはごもっとも。いきなりで悪いけど、報告お願いします。」
「うん。…聞いた内容は大きく2つ。一つ目が彼女の身分。2つ目がハートを狙った理由だ。」
テパくんが粛々と語りだす。
「1つ目、彼女は戴審庁という組織の一員だ。戴審庁ってのは昔リースにあった機関の名前らしい。役割は、その時代の国王を正しく、公正に決めること。」
「昔ってことは、今はもうないのかな?」
「うん、数十年前、先代の王が選出される前に、不正が発覚して解体されてる。組織の1人が精神魔法を使用して、王選の操作をしようとしたみたいだね。これは国の資料からも裏付けが取れた。」
丸い瓶底眼鏡をかけ直すと、テパくんは先ほどまで尋問をしていた女に視線を向けた。
するとアルドローヴァはサッと視線を逸らし、顔を地面に向けて黙りこくった。
…テパくんはいったいどんな尋問をしたのだろうか、と要らぬ思考が頭をよぎる。瓶底眼鏡の男性と、赤髪でやや幼い容姿の女兵士が、狭い部屋で2人きり。
「…薄い本が厚くなるな…」
思わずそう呟く。テパくんがきょとんとした顔でこちらを見る。
はっ、いかんいかん。
連日の激動で流石に脳が疲弊したのか、思わず古風な表現を使ってしまった。テパくんに話を続けるよう促す。
「資料によれば、不正を行った人物は、"「誠実」のアルドローヴァ"」
唐突に呼ばれ、アルドローヴァの肩がびくん、と震える。
「驚いた、君、結構歳いってるじゃないか。僕より少し下くらいにしか見えないのに…」
(…ロリババア要素まで……?)
前世の邪念が思考のノイズになる。
一度、真面目に話を整理しよう。奥底に眠る自我を退けると、改めてテパくんの話を頭の中でまとめる。
「つまり、表向きは解体されたと思われていた戴審庁は今でも暗躍していて、彼女はその組織の一員。レンヴィルと、エルくんが交戦したって言う男も同様かな?」
テパくんが頷く。心なしか、私が話を理解していて安心したように見える。うん、ごめんってば。
「で、じゃあ誰が彼らを飼ってるかって話なんだけど…これについては、ついぞ何一つ聞き出せなかった。"言わない"、じゃなくて"言えない"が近いかな?」
その説明にピンとくる。
それこそ、セリーシャの覇響がニュアンスとしては近いのかもしれない。目の前の女は、特定の情報を言えないよう何らかの魔術的措置が行われているのだろう。
「で、こっからは補足。彼女が起こした精神操作事件、まぁ失敗に終わったんだけど、ターゲットは西と、東の大諸侯。」
そこまで言うと、テパくんはこう付け加えた。
「どちらも、当時のアリスター家とは犬猿の仲だ。」
繋がった。
というか、よく半日足らずでここまで調べ上げたものだ。思わず感嘆の息が溢れる。
「ありがとう、テパくん。流石の腕前だ。」
「有り難きお言葉で。それじゃ、報告の二つ目。何故ハートを狙ってるのか。」
「簡単に言えば、彼らの狙いは__無尽蔵に魔力を生み出す"炉"を造ることだ。」
「そして、ハートはそのための"核"として狙われた。」
「炉の正式名称は"魔核融合炉"。ーー神話の時代の、御伽噺だよ。」




