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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川 翔己
第三章

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第三話 裏切リ者

「やぁやぁグッドモーニング、久しぶりの座学の時間で〜す。喜べマイスチューデンツ〜」

「要所要所に英語入れてくんのなんなんですか」

「テンションウザい」

「ドンマイ先生」

「んも〜みんなもっとノッてきてよ!若者のエネルギーはどこに置いてきちゃったの?!」

「アンタこそ年相応の落ち着きはどこに置いてきたんですか」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


ある日の授業。連日の先生への現場配属の影響で授業ができなかったが、その日は珍しく朝から現場の連絡がなかった。貴重な時間だ。先生がその時間を見逃すわけがなく、座学の授業を入れた。でも、授業開始後すぐのこと。

「柊さん、すみません。少しお時間よろしいでしょうか」

頭を下げながら眞部さんが入ってきた。先生はすごくいやな顔をしていたけど、電話での連絡じゃないということは現場の連絡ではないのだろう。

「葵」

そしてその直後に先生を下の名前で呼ぶある人が教室に現れた。

「みっ、御影様?!どうしてここまで」

「……えっ、だれ?」

「アタシが知ってるわけないでしょ」

「柳瀬知ってる?」

「知らない」

「あれ、先生どうしたのこんなところまで」

『先生?!』

突然教室に現れた、先生が先生と呼ぶ人。その人は五十代くらいの見た目だった。眞部さんはその人の存在を知っているようで、名前を呼びながら珍しく驚いていた。

「葵、少し話がある」

「え〜今僕大事な生徒との大切な授業中なの〜。先生に割く時間なんて今はないよ〜」

『は?!』

真剣な顔をして先生を呼んだ先生の先生。それなのに先生は俺たちの授業を優先した。驚いた俺たちはつい声を出した。

「ん?」

それに対して先生は首を傾げる。なんで分かってないんだこの人。

「いや、先生の先生が話あるって言ってんだからそっち行きなよ!」

「てか自分の先生に対してタメ口ってどうなの?」

「お前それ自分にも当てはまるの分かってないのかよ」

「あん?」

「まぁまぁふたりとも落ち着いて」

「……フッ、ハハハッ」

「えっ」

突然だれが笑い出したのかと思えば、それは先生の先生だった。驚きに動きが止まる俺たち。そんな俺たちに先生の先生は言った。

「ハハ、すまないね、随分といい子たちだなと思ってな。素直さはまるでちがうが、三人が話している様子は昔のお前たちに似ている部分がある」

「え〜?似てるかな〜?」

「いえ、似てないと思います」

「というか似てると思いたくないわね、こんなヤツに」

「ドンマイ先生」

「いいや、性格は段違いに良い。ただ、三人が話しているときの雰囲気が似ているんだよ」

「……雰囲気、ですか?」

「まぁ、今はいいだろう。葵。いいな」

「……ハイハイ分かリマシタヨー。ごめんねみんな、ちょっと待っててね〜」

「はーいっ!」

「いいからさっさと行きなさいよ」

「行ってらっしゃい」


***


先生、みんなの言う、御影様、もしくは施設長に連れて来られたのは、ただの会議室だった。会議室に、先生と僕と眞部が入る。先生はその入り口を閉めると鍵も閉めた。

「鍵まで閉める必要ある?」

先生にそう問うと、先生は纏う空気を変えた。

「葵、自分の持っている生徒たちは可愛いか」

「え?なに急に……いやまぁ、超可愛いけど」

「そうか。……ならその可愛い生徒たちを現在の問題から守ってやりたいだろう」

「なに言いたいのか分かんないけど、そりゃそうだよ」

「突然の誘拐事件。そして最近頻発している祟人の大量発生。おかしいと思わないか?」

「……あのさ、そういうのいいからさっさと本題入ってよ」

焦らしに焦らしまくる先生に対してついそう言ってしまった。先生は僕の目をまっすぐに見る。

「度重なる若い呪人の誘拐事件に、例に見ない異常な祟人大量発生事件。これはなにかあるのではないかと私は考えている」

「……で?なに、そのなにかって」

いやな予感はしていた。そしてそれは外れることなく命中してしまった。あぁ、そういや以前倉田が言っていた。違和感は仕事をするんだ、と。

「施設に住む呪人、もしくは眼人の中に内通者がいるという可能性だ」

「内通者ァ?」

なにをバカな、と思う反面、それに納得する自分もいる。正直、自分でもその可能性があると思っていたのだ。ただ、いやな予感はまだいらない仕事を続けるらしい。

「お前の可愛い生徒たちだが、怪しい点はないか?」

「……は?」

「眼人や呪人から提出されるすべての現場報告には私が目を通している。そこにはもちろん場所や日時も書かれてあるが、妙に一致するんだ」

「……なにが」

心臓がバクバクとその存在を主張する。鎮まれ、鎮まれ。

「三人の派遣される場所と、祟人が大量発生した場所だ」

「……はっ?」

「祟人は全国的に大量発生しているが、均等に発生しているわけではない。その発生には少し偏りがある。前回は近畿支部。その前は九州支部。その前は四国支部。さらにその前は関東本部。あるひとりの祟人を対処したあと、同じ場所で平均してふたり以上の祟人が出現している。それも決まって深夜から早朝にかけての時間だ。言いたいことは分かるな。お前の生徒の中に内通者、つまりは裏切り者がいる可能性がある」

「僕の生徒の中に内通者がいる可能性がある?なぁ、いくら先生でもその冗談はよくないんじゃねぇの」

「冗談ではない。私が一度でもお前に冗談を言ったことがあるか?」


***


第三話【 裏切リ者 】


***


先生はあれから教室に帰ってくることがなかった。その代わりに眞部さんが教室に入ってきて、今日の授業は休みになることが伝えられた。俺たちは教室を出て部屋に戻る。

「先生、なにかあったのかな」

「そうなんじゃない?」

「てか、先生の先生って、先生の先生してたのかな」

「……アンタなに言ってんのよ」

「なんて言うかさ、先生が俺たちくらいの頃、先生の先生が先生の先生してたのかなーって」

「そうなんだろ、だから先生はあの人のことを先生って言ったんだ」

「そっ、か……」

「……なんだよ」

「んー、なんか……あの人、すごく怖い顔してたんだよね」

「怖い顔?」

「そんなふうには見えなかったけどな」

「そう?見間違いかな」

その後俺たちは各自部屋に戻った。が、俺はどうせならこの時間を有効活用しようとトレーニングルームへ向かった。

「あれ、せんせ……」

そしてその道中、医務室でうなだれている先生を見つけた。雪さんは出ているのか医務室にはいない。ひとりでなにをしているのだろうか。

「ふざけんなよ……あの子たちの中にそんな裏切り者がいるわけねぇだろ……」

「……裏切り者?」

つい口に出してしまったその言葉が聞こえたのか、先生が振り返る。俺は咄嗟に身を隠した。見つからないうちに、と逃げるように去りながら必死に頭を働かせた。

裏切り者?裏切り者ってなんだ。だれが?先生はあの子たちって言っていた。それってつまり俺たちのこと?俺たちの中になんの裏切り者がいる。今起こっている問題といえば、呪人の誘拐事件と祟人の大量発生事件だ。まさかそれのことか?だが、たとえ俺たちの中に裏切り者がいたとしても、俺たちのような子どもができるようなことはないはずだ。でも……。


***


「俺でもあんな先生は見たことがない。……この中に内通者がいた場合、だれであっても、どんな理由があっても、ソイツは俺が殺す」

その翌日、俺はふたりにそう言った。先生の言っていた内容からして、俺たちの中に裏切り者がいる可能性がある、ということを先生の先生に告げられたのだろう。だがそれはあくまで可能性の話だ。いない可能性だってある。俺はそっちに賭けた。

「……内通者?」

瀧田が首を傾げながら言った。あまりピンときていないのだろう。

「でもそれ、柊から直接聞いた話じゃないんでしょ?勘違いだったらどうするのよ」

「そのときは俺が死ぬ」

「ちょ、ちょっと?!なに言ってんの柳瀬!ダメだよ!それなら柳瀬の代わりに俺が死ぬ!」

「……ふっ、お前は死ねないだろ、だから俺が殺してやる」

「え〜なにそれ柳瀬、ちょっとキュンとした〜」

「いやなんでだよ。……で、その柊は?」

「あ〜、俺今日先生の顔見てないかも」

「朝はいつもの調子に戻ってた。今日は昨日できなかった授業をするってよ」

そのとき、ポケットの中で息を潜めていた携帯電話が突然体を震わせた。

「はい、お疲れ様です」

『柳瀬さんお疲れ様です。本日授業の予定でしたが関東本部内で祟人が出たためそちらの対処をお願いします。柊さんには許可をいただいていますが、それぞれ体調がよろしければお願いいたします。瀧田くんと七森さんはいらっしゃいますでしょうか』

「はい、ここにいます。場所はどこですか」

『本部から北西に行ったあたりです。詳しいことはメールでお伝えしますのでよろしくお願いいたします』

「はい、すぐに向かいます」

電話を切ると三人で一斉に走り出した。のだが。

「ちょっと待って」

「は?」

瀧田が走り出した俺の腕を掴んだ。

「柳瀬はここにいて、俺たちが対処してくる」

「馬鹿か、そんなこと言ってる場合じゃないだろ」

「うん、そんなこと言ってる場合じゃない。だから素直に待ってて」

「俺も行く。お前たちに頼むんだったら眞部さんは俺じゃなくてお前たちどちらかに連絡をするはずだ。でも実際に連絡が来たのは俺だった。言いたいことは分かるな」

「分かる。でも俺たちのこと信じてくれてるんだよね?」

「お、お前……卑怯だぞ」

「あら、案外素直なのね」

「じゃ、行ってくる!」

「……ん、気をつけろよ」

「おうね!」

瀧田の言った通り、ふたりはすぐに対処を終えて戻ってきた。現場が施設の近くだったことと、凶暴化が進んで間もなくで対処しやすい状況だったことがその理由だったという。

「柳瀬も現場報告行く?」

「いや、現場に行ってすらいない俺が現場報告に行くのはおかしいだろ。俺は待ってる」

「分かった。七森行こ」

「ん」


***


柳瀬を施設に置いてふたりで現場に行く最中、俺は七森に聞いた。

「さっきの柳瀬のあれさ、本気だと思う?」

「あれって、内通者殺害宣言のこと?」

「うん……」

「……そうなんじゃない?アイツは冗談でそういうこと言う男じゃないわよ」

「じゃあ、そのあとに言った、勘違いだったら自分が死ぬっていうのも本当なのかな」

「さぁね、アイツなら可能性はありそうだけど……でもそのときはアンタが止めなさいよ。勝手に決めて勝手に死ぬなんて許さないんだから」

「もちろん止めるよ。……なぁ、七森は裏切り者じゃないよね」

突然に七森のことが気になって、心配になってそう聞いた。すると七森は眉を下げて言った。

「なぁに?心配性の次は探偵ごっこ?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……」

「安心しなさい、あたしはそんなんじゃない。アンタこそ大丈夫なんでしょうね」

「うん、大丈夫……」

「……ほんとに大丈夫なんでしょうね」

「だ、大丈夫だよ!大丈夫だよ……ハァ……」

「ま、柳瀬のことなら大丈夫でしょ。アイツがあたしたちに内通者の存在を知らせなければ、あたしたちは最後までその存在を知ることはなかった。柳瀬が内通者だった場合、そっちのほうが好都合なのよ。そうじゃないってことは大丈夫よ」

「……うん」

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