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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第二十話 仲間

「なぁ、ハル今の見た?ッヘヘ、すごくない?あー、今すぐ碧に自慢してぇ。なぁ、早く帰ろーぜ、早く帰って碧に自慢しようよ」

「待て柊、まずは自分の体を認識しろ、体の穴を塞げ、出血を止めろ」

「え〜?顔怖いよハル。そんな怒んなよ〜。あ、なぁ、碧の誕生日、明後日じゃない?誕生日パーティーでもしようぜー」

「時と場合を考えろ、今はそんな悠長なことを言っているヒマはない」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


その後、気を失った柊と対処済みの祟人は春園の力で北海道特設部まで運ばれた。春園は祟人の安置所での保管作業まで済ますと、柊を連れて関東本部に戻った。未だ出血の止まらない柊を医務室まで運び、治療のために鳴宮を呼ぶ。自己治癒能力はあるが、他己治癒能力のない光属性の春園は、その能力を手に入れている鳴宮に頼るほかなかった。

「腹部の損傷でこの出血量?」

「当たり所が悪かったんだろ。本人は傷に気付かないくらいハイになって気を失うし、私も他人に治癒能力を使うことができないからどうしようもなかった」

「そっか。よし、一応傷は塞いでおいたよ。でも残念ながら出血量のカバーはできない。葵の体の中で血液が増えて、体調や意識が安定的になるのを待つしかないね」

「助かった、ありがとう」

「いえいえ。青葉もそんなふうに素直にお礼の言葉が言えるんだね」

「言わなきゃよかった」

「そんなこと言わないでよ〜」

結局、柊が目を覚ましたのはそれから一週間後のことだった。


***


「青葉、なにか食べるかい?」

「……お前相変わらず食堂のおばさんに気に入られてんな」

「嬉しいことだね」

「人の前ではいい子ちゃんだもんな」

「そんなことないよ。それに青葉も人じゃないか」

「ハッ、言ってろ言ってろ」

「にしても葵起きないねぇ」

「ずいぶんとおねむだな」

「はは、おねむって。青葉も可愛らしいことを言うじゃないか」

「思ってもないこと言うんじゃねぇよ」

「ん……ってぇ……」

「あ、起きた」

「ん、ほんとだ」

すっかりふたりの集合場所となってしまった医務室。今までピクリとも動かなかった柊は、そのふたりの話し声で目を覚ました。

「おはよう葵、目を覚ましたところ悪いけど、調子はどうだい?」

「うぇ、あ、碧?なんでここに……てか、なぁ、これなに、外してよ」

体を起こした柊は、腹部に巻いてあった包帯に気付く。初めての包帯に違和感を覚えたのか、それに手をかける。

「葵、あまり触らないほうがいい。傷口が開くよ」

「あ?傷口?俺は怪我なんてしてねぇけど」

「おい」

「あ?あ、小指ちゃんじゃん。……あれ、なんで碧がここにいるの」

「やっと状況が理解できたか」

「え、いや、ひとつもできてないんだけど」

柊は春園を見た瞬間、おかしな状況になっていることにやっと気付いた。彼は今、なぜ自分がベッドの上にいて、その近くに鳴宮がいるのか理解できていない。

「お前は祟人を対処したあと、気を失ったんだよ。対処する際腹部に攻撃を受けたんだ。その包帯はポッカリと空いた穴を塞ぐためのものだ。動かすとコイツが言った通り傷口が開く」

「え、ちょっと待て、気を失った?僕が?」

「そうだ。気を失った。お前が」

「……どんぐらい」

「今日でちょうど一週間だ」

「……は?!碧の誕生日終わってんじゃん!」

「そこかよ!」

「え、なに、誕生日?」

「葵の誕生日祝う予定だったのに……クッソ俺が気を失わなければ……てかあのタイミングで祟人が出なければ……ッ」

「はは、気持ちだけで充分嬉しいよ。じゃあ来年頼もうかな。楽しみにしておくよ」

「……しょうがねえな!碧がそこまで楽しみにしてるなら祝ってやらなくもない!」

「はぁ……とにかく、柊は早くその傷治しとけよ。休んでる時間なんてないんだからね」

「はいはい!僕頑張って治しちゃうから小指ちゃんもテンション上げてこ!」

「はぁ……ほんとお前のそういうノリ苦手だわ」


***


そしてそれから数日後のことだ。

「これ、風属性いらなくないか」

「ん〜、まぁ必要だから呼ばれたんだろ」

「でもキミなら風がなくても飛べるし、この程度の祟人なら光属性ひとりいれば充分だと思うんだけど」

「じゃあ僕は戦いやすいように土俵を整えるよ、対処は頼むな」

「分かった。それじゃあここから半径百キロほど凍らせてくれるか」

「はぁ?百はいらないだろ、せめて五十」

「念のためだよ、大陸からこの距離だとそれだけ凍らせても大した影響はないさ」

「あーほんとめんどくさい。お前変なとこ心配性だよな」

「いいからさっさとしてくれないか、対処場としては好都合なんだ。変なところに移動されたら困る」

「へいへい風属性様よ」

場所は四国支部。ではあるが、四国からかなり離れた海上での現場だった。そこに呼ばれたのは光属性の柊と風属性の鳴宮。特に柊は四国支部から指名での要請があった。

対処は鳴宮、補助は柊と決まったところで、柊が半径百キロの海を一瞬にして凍らせた。対象は火属性。戦いやすいように地面を固体形状にする意味はもちろん、少しでも早く祟人の弱体化を狙うという意味もあった。

祟人は広がる氷の膜に火を放っていく。自分の身の危険を感じているのだろう。鳴宮の動きを見ようともしていなかった。

「好都合……。昇龍」

鳴宮は呪説を唱え、風を呼び起こす。するとその風は、祟人の心臓に向かって勢いよく突き進んで行った。風とはいえ、相当な勢いでそれが当たればダメージは大きい。衝撃により動けなくなった祟人は、勢いが弱まらない風によって空高くへ飛ばされる。が、次の瞬間ひどい勢いで下降し、地面に叩きつけられた。完全に動けなくなった祟人を、鳴宮は自分のもとまで浮かせて確実にナイフを刺す。これで対処は終了だ。

「ナイスー」

「うん葵、お疲れ。それじゃあ支部まで行こうか」

「ん」

「あれ、葵、気分悪い?」

「あ?なに言ってんだよ。こんくらい平気だっつの」

「あ、そ、そうだよね」

柊の異変を感じながらも、彼の瞬間移動を使って四国支部に移動したふたり。四国支部の安置所の前には、なぜかふたりが見慣れた人物が座っていた。

「あれ、青葉」

「ハル呼ばれてたっけ」

「呼ばれてない」

そこにいたのは春園だった。

「どうしたの、呼ばれてないのにこんなところまで」

「ソイツのせいだよ」

「ソイツ?葵のことかい?」

「おいクソガキ、お前体調悪いだろ」

「はぁ?なーに言ってんの小指ちゃん、絶好調だっつーの」

「いいから腹見せてみろよ」

「だーから、大丈夫だって」

「チッ、このクソガキが」

舌打ちをかました春園は柊のところまでズンズンと進み、勢いよく服を捲り上げた。

「ちょ、青葉……葵!き、傷が……」

青葉の予想通り、彼の腹部にはまだ傷が残っていた。今回の現場で少し動いた影響で傷口も少し開いている。

「痛いか」

「痛くない」

「痩せ我慢をするな。鳴宮、遺体の保管作業は私が代わりにやっておくからコイツの治療を頼む」

「分かった、任せたよ」

「ん。私も早めに行く」

「了解」


***


第二十話【 仲間 】


***


「んも〜無理しちゃだめだよ、いつもの調子で動いていたから完治していたのかと思っていたよ」

「うるせぇな、これくらい平気だっつの」

ここは関東本部の医務室。鳴宮が治療した柊は、その意思に反している状況がいやで仕方がなかったらしく、まだ完治していないのにも関わらずベッドから降りようとする。

「あーほら、動かない。キミのいつもの実力が百だとして、今は十にも満たないよ。そんな状態で動かれても困る。せめて半分、五十になってから現場に行って。特訓も禁止。先生にも言っておくから、こっそり動こうとしても無駄だからね」

「な、なんでそこまで!」

「だから、キミは今病み上がり。動いちゃいけない状態なんだってば」

「諦めろクソガキ、黙って完治するまで休んでな」

「お前のせいだからな……」

「失礼だな、仲間が助けてやったって言うのに」

「仲間?」

「私程度じゃ仲間だと言えないか?」

「は、いや、仲間って。前にも言ったけど仲間もクソもねぇだろ」

「……お前あれ本気で言ってたのか」

「は?」

「祟人を易々と対処できているのはお前ひとりのおかげじゃないんだからな」

「……へ」

「まぁまぁ青葉落ち着いて。葵は今までひとりで戦ってきたんだ。仲間意識がないのにも納得はいくだろ?」

「……お前はそれでいいのかよ」

「仕方ないよ、少しずつそれが芽生えてくれればいいさ。それに、戦闘時以外であったらすでに仲間意識はあるようだし」

「そんなもの感じたことないけど」

「だってさ、誕生日を覚えてくれていたうえに、祝う予定もしていたんだよ。会って半年しか経っていないのにそんなことを考えてくれていたんだ、これはもう仲間意識と呼んでもいいと思うけどな」

「はぁ……甘ちゃんかよ」


***


時は経ち、その一年後。再び同じ時期がやってきた。

「よっしゃ〜!今年こそ碧の誕生日パーティーするぞ〜!!」

「そもそも平和に迎えられるかが心配だ」

「そんなこと言うなって!じゃ、俺対処」

「ふざけんな私が対処だ」

「あ〜ん?小指ちゃんにあの祟人が対処できるっつの?」

「足りないオツムで考えろ、お前にあれは倒せないよ。お前風属性苦手だろ」

「……じゃんけん!」

「フッ、仕方ないな」

「じゃんけんほい!んぐあ!!」

「じゃ、補助は頼むよ」

鳴宮の誕生日前日。九州支部からの要請で、柊と春園は現場で祟人の対処に臨んでいた。じゃんけんで決まった役割は、勝った春園が対処、負けた柊が補助。対象は風属性だった。春園は体を浮かすと、勢いよく飛ばしてきた祟人の風をひょいと避けた。

「甘いね、光属性ナメんじゃないよ」

春園は対象に指を向けると、呪説を唱えた。

「根絶」

その指から鋭い風が出た。その風は対象をうしろまで吹き飛ばしてしまうほどの威力で、吹き飛ばされた先には無数の氷柱があった。祟人は風の勢いでその氷柱に突き刺さった。貫通した氷柱には、祟人の血がついている。

「よーし、対処完了」

衝撃と過剰出血で気を失った祟人に、春園はナイフを刺した。そこに柊がやってくる。

「お前相変わらずえげつねぇよな、対処の仕方」

「はいはい、早く戻るよ」

「おっしゃ!」

その日の現場はその一件で終了した。あとは鳴宮の誕生日を祝うだけ。計画は、日を越した瞬間に鳴宮の部屋に押し入り、夜更かしパーティーを開催するという単純なもの。柊の準備はバッチリだ。春園も一緒にどうかと誘いはしたものの、断られた。柊ひとりで成功させるしかない。去年の一件があった柊は、期待と緊張が入り混じった感覚を覚えた。

「三、二、一……。碧〜!誕生日おめでと〜!!って……あら?」

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