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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川 翔己
第一章

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第十九話 憶

「僕も暇じゃないんだよね。なんてったって光属性、みんなのアイドルみたいなもんなんだからさ」

「ハッ、よく言うわ。昔はあんなに惨めな顔をしていたくせに」

「ちょっと〜いつの話してんの?てか全然くたばらないね、ほんと図太い」

「減らず口は相変わらずだな葵。ここまで育ててやったのはだれだと思っている」

「少なくともアンタじゃないっつの。……死に際に昔の話なんてすんじゃねぇよ」

「ハハ、可愛いところもあるじゃないか」


***


「お前も人間なんだな、親しかった人間を殺せば気を病むのか」

「るせえよ……久しぶりだ、こんな感覚」

「落ち着くまで休めばいい。そんな精神状態で働かれては上も困るだろう。お前も少しは休暇が必要だよ」

「知ったような口聞いてんじゃねぇ……」

「今までがおかしかっただけさ、人を殺してもなんとも思わないなんて」

「そうならなければこっちが壊れる。……壊れるから」

柊の落ち込む姿を見るのはいつぶりだろうか、倉田は自分と柊との二杯分のコーヒーを用意しながら、うなだれている柊に声をかけ続ける。こうでもしなければ落ちるところまで落ちてしまう。

「彼女は今どうしている」

「……彼女って?」

「春園青葉さ。私もなかなか彼女の様子は見に行けないからね、お前に話を聞かないと彼女が今どうしているのか把握出来ない」

「……お前、知ってて言ってんの性格悪いよな」

「お前には言われたくないよ。お前の近くで十年以上働いているんだ。お前の性格の悪さが少し移ってしまったのかな」

「……」

春園青葉。彼女は、呪人やその関係者であれば絶対に知っていると言ってもいいほどの有名人だった。


***


第十九話【 憶 】


***


「おい、まずは三下から名乗れよ」

「言葉には気を付けなクソガキ、三下はお前のほうだろ」

「ふたりとも口を慎め。葵、この子は春園青葉だ。お前と同じ光属性だからな」

「ちょっと先生〜、この子って言うのやめてよ気持ち悪いな〜」

「青葉、口が悪い。コイツは柊葵だ。ふたりとも仲良くするように」

「コイツと仲良くするとか一生かけての課題だな」

「こっちだってお断りだよクソガキ」

「こんなチビなのに光属性とか大丈夫なわけ?小指ちゃんよぉ」

「お前らな……。それと、明日にはまた新しい呪人が来るから」

「え〜どんなヤツ?雑魚いの来たらウケんだけど」

「安心しろ、風属性だがランクはSだ」

今から二十年前。柊が十五歳だった頃の話だ。当時関東本部には柊と同い年の呪人はおらず、長い間、施設内で彼は同年代唯一の呪人であった。そんな柊のもとに異動してきたひとりの呪人。彼女は春園青葉という。九州支部鹿児島特設部から異動してきた春園は、光属性の柊に対して容赦がなかった。

「お前、現場で私の邪魔なんかしたらぶち殺してやるからね」

「言ってろよメスガキ。お前こそ俺の足引っ張るんじゃねえぞ」

「お前らなぁ……」

そしてその翌日。先生の言っていた通り、もうひとりの呪人が異動で関東本部にやって来た。

「鳴宮碧です。よろしく」

「胡散臭。詐欺師かよ」

「葵……」


***


「キミが噂の柊くんか、よろしくね」

「お前、属性は」

「おや、失礼。先生からは話をしたと聞いていたのだけれど、それを覚えるという脳はなかったようだね。風属性だよ、キミたちとはちがう一般的な三属性のうちのひとつだ」

「いちいち鼻につくなお前、テメェも現場で俺の足引っ張んなよ」

「はは、善処するよ」

「あーあ、同い年がクソガキと詐欺師って、私って運がないのな」

「あ?ザマァみろよメスガキ」

「あぁ、キミはたしか、春園青葉、とか言っていたかな」

「ハッ。あれ〜、私自己紹介したっけ〜」

「なんだ、見た目のわりに、考えや言葉遣いは幼稚だね。今までどういう教育を受けてきたのやら」

「ふぅん、私が受けてきた今までのそれを馬鹿にしてるんだ」

「いいや、馬鹿にしているのはキミの知性だけさ」

「ハッ、気持ち悪い」

三人の第一印象は共に最悪。彼らの担任も、この先どうなるやらと心配しかなかった。光属性がふたりに、Sランクの風属性がひとり。全員、現場に関しての心配はなかったが、特に光属性のふたりは混ぜると危険、水と油のような関係であった。

「早速だが葵、ふたりに施設内を案内してくれ。青葉には女子寮の場所しか教えていないから、よろしくな」

「はぁ〜?なーんで僕がコイツらの面倒を見ないといけないんだよ」

「じゃ、よろしく頼んだよ、柊くん」

「おい、早く行くぞクソガキ。チンタラしてんなノロマが」

「テメェら、あとでボコボコにしてやる」


***


「おーっしゃ終了〜。今回も呪説使わなかったな」

「これ、Sランクふたりもいらなくないか?」

「いいじゃん早く終わるんだし。早く報告までしてシャワー浴びようぜ、汗臭ぇ」

「葵、口が悪いよ」

数ヶ月後。彼らの担任の心配には至らなかった。現場能力が高い三人が集まれば、それだけ数多くの現場をこなしていく。三人が三人であったからこそ、呪人やその関係者は彼らに期待していた。

「ん、もう終わったのか」

「おーハル、もう終わり。報告も済んだ」

「青葉は今から暇かい?」

「え、暇だけどアンタたちのお守りなんて絶対いやだよ」

「そんなこと頼まないよ。せっかくだし一緒に食事でもどうかなって」

「悪いけどもう食べたよ、今何時だと思ってんの」

「まぁハルちゃん!僕たちを置いてひとりでご飯食べちゃうなんて!」

「お前のそういうノリ、たまについていけないわ」

「たまにじゃなくていつもな気がするけど」

「いいからさっさと汗流して来なよ、超臭いんだけど」

「ちょっと青葉、口が悪いよ」

「残念ながら僕は汗をかかないので臭いのは碧でーす」

「どこのプリンセスだよ、お前もアオイじゃねぇか」

「ちょっとふたりとも……」


***


「ったく、九月ってなんでこんなに祟人が多いんだよ」

「五月も九月も、精神的なグラつきが多くなる時期だからね、仕方ないよ」

「そういうもんに左右されるのかよ」

「以前授業で先生が話していたけど、覚えていないのかな」

「そういうムダな知識は入れない主義なんです〜」

「はいはい。つまり、そういった細かいことまで記憶しておくほど脳が発達していないと」

「お前なら躊躇なく殺せる」

「はは、光栄だね」

「今がその授業中だ。おい青葉、寝るな!」

「まったく、この素行不良にも呆れるね。あ"ッ、ちょ、青葉痛い痛い、許してって」

「なんだよ詐欺師、弁解の言葉でも並べたらいいじゃねぇの」

九月某日のとある授業中。この授業に限らず、彼らは全員授業を受ける気がなかった。唯一鳴宮だけが先生の授業の話を聞いているように思えるが、その鳴宮でさえも真面目に受けているわけではない。

「お前ら、もう少し真面目に授業を受けたらどうなんだ」

「でもさ〜先生、実際授業を受けても対処の実力が上がるわけでもないし、正直体術の授業やったほうがいいと思うんだけど」

「体術の授業だけでは効率のいい対処は学べない。知識がなければ窮地に立ったときの判断もできない」

「窮地に立つことなんてあると思う?ここにいるの一応全員Sクラスだけど」

「Sクラスだからといってすべての現場がうまくいくとは限らない。常に最悪の状況を想定して授業や特訓、現場に臨むことが、のちのち自分や仲間を助けることにも繋がるんだ」

「アホくせ、団体戦じゃあるまい。呪人と祟人の戦いなんて個人戦みたいなもんでしょ。仲間なんてへったくれもないよ」

「はぁ……まぁいい。とにかく仲間意識は大切にしろ。今日は一般体術の授業に切り替える」

「げ、マジか〜つまんね〜」


***


「葵と青葉に、指名要請がかかった。行ってくれるか」

「え〜いやですよ、なんで私がこのクソガキと一緒に現場?」

「青葉、文句を言うんじゃない」

「柊と私じゃなくてダブルアオイに行かせればいいじゃないですか〜」

「それをいうとお前も含めてトリプルブルーになるが……」

「なにそれウケる」

「青葉……」

「わーかった分かった、行きますから」

「頼んだぞ、場所は東北支部北海道特設部だ。Sランクの光属性ふたりに要請がかかるほど力の強い祟人だ。気を引き締めていけよ」

彼らの担任に言われ、柊と春園は北海道特設部に移動する。

「っしゃ〜じゃ、俺対処する」

「ふざけんな私が対処だ」

「あんだよ、小指ちゃんのくせに僕に指図すんの?」

「クソガキは黙って私の言うこと聞いていればいいんだよ」

「はいはい、小指ちゃんは僕のうしろに隠れてな」

「あ、コラ、クソガキ」

柊は、体の軽い春園の腰を掴み、自分のほうに抱き寄せた。うしろに隠れろと言ってはいるが、そうさせる気はさらさらない。柊は春園を抱きかかえたまま走り出した。

「おい、離せよバカ!」

「やなこった!今離したら転んで痛い目見るよ〜」

「クソッ、走るの遅い!飛べ!」

「あん?」

「いいから飛べ!」

「へいへい!」

春園に言われた通り、柊は体を浮かせる。春園は柊の体のうしろに手を回し、風を送った。

「うわっは!やべえ超速い!おっしゃ!対象まで残り百!小指ちゃん、ちゃんと捕まってろよ!!」

「はぁ?!お前この体勢のまま対処する気かよ!」

「振り落とされんな、よッ!」

「おまッ……!」

対象は水属性。対処用のナイフは柊が持っていた。柊は攻撃を仕掛けてきた祟人に物怖じすることなく突っ込んでいく。柊に放たれた氷の矢は、彼の目の前で動力を失い、そのまま地上に落ちていく。そのうちのひとつを柊が掴んだ。

「よいしょ、っと!」

そのままそれを祟人へ投げつける。が、力をつけている祟人が簡単にその攻撃を受けるはずもなく、さらに放たれた氷の矢とともに柊のもとに戻ってきた。

「おーっと、なかなか手強いな。仕方ねえから呪説でも使うか〜」

「は、お前まさか、この状態で呪説使うんじゃねぇだろうな。てかお前現場で呪説使うの初めてだろ……私お前の呪説知らないんだけど!」

柊にはもう、春園の言葉なんて聞こえていなかった。氷をすべて地上へ落とした柊は、無意識に春園を抱きかかえていた手を離した。途端、春園の体は自由になる。彼女は柊から少し距離を取ると、祟人の位置と柊との距離を確認したあと、地上への被害を減らすべく氷の膜を張った。戦うための土俵が整ったのも同然。柊のテンションはマックスになっていた。

祟人の放つ、いくつもの氷の矢。そのうちのひとつが柊の腹部を貫通した。

「柊……っ」

春園は、初めて柊の命の危機を感じた。その瞬間。

「アッハハッ、……永劫」

柊が呪説を唱えた。


***


祟人は柊の対処によって亡くなった。が、その直前で放った彼の呪説は非情なるものだった。どんな祟人であれど一瞬で意識を失うほどの電気量が身体中に流れ、身体中には殴られたような痕が残る。出血量も並ではない。一般人であれば失血死と判断される量、いや、それ以上の量が祟人から流れていた。

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