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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第十八話 進化は不安へ

「やぁやぁグッドモーニング。みんな朝食済んだら現場ね〜」

「分かりました」

「今日からしばらく二、三人で行ってもらうからね」

「了解!俺頑張る!」

「場所は?」

「東北〜」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


「じゃ、今日は凪沙の風で向かおうかな」

「おうね!」

朝食後、急いで現場服に着替えた俺たちは、先生のもとに集まる。瀧田の風で移動しながら先生からの指示を仰ぐ。

「対象は火属性ね、あとの役割は自分たちで考えてみてよ」

「分かりました。対処はどうする、七森でいいか」

「そうね、火属性に火属性や風属性を当てるのは頭が悪いものね」

「了解。そんじゃ、補助は俺かな」

「そうだな、頼む。俺は保護誘導に回る。対処は七森、補助は瀧田、保護誘導は俺です」

「はーい。じゃ梛桜、これね」

「了解」

七森は先生からナイフを受け取る。そう話しているうちに、現場に着く。

「じゃ、僕が危険だと思ったら手助けはするから、三人だけで頑張ってみよ〜う」

『はい!』

七森は瀧田の風に乗り、ふたりで上空へ。先生も、俺たちの様子を見るために少し離れたところにいた。俺は保護誘導だ。一般人に声をかけながら、怪我をしている人がいないか見て回る。現在、祟人は一般人にも見えるほど凶暴化が進んでいた。

「みなさん下がってください、できるだけ離れて!」

祟人の様子を見ながら大きな声を出して声をかける。祟人から少しずつ離れていくその群衆に気付いたのか、祟人はこちらに火を飛ばしてきた。マズい、七森の攻撃も間に合わない。このままでは一般人に甚大な被害が出てしまう。

「クソ、クソッ」

「柳瀬!火!」

切羽詰まった状況に、瀧田の声。咄嗟に、呪説を唱えた。

「散華」

ポッと小さく出た火に力を込める。でも、こんな小さな火では祟人に太刀打ちできるわけがなかった。その瞬間、俺の体がフワッと浮く。瀧田はまだ上空。俺のもとへ向かっているとはいえ、こんなに距離があれば瀧田の風には乗れないはずだ。俺はそのまま瀧田のほうに寄せられ、勢いよく飛んでくる瀧田に体当たりの感覚で腰を掴まれると、俺の火に自らの風を呼び起こした。いつの日かと同じように、瀧田の風により大きくなった炎を、瀧田は祟人に吹きかけた。祟人は、うしろから飛ばされていた七森の氷の攻撃をもろに食らう。力なく地面に倒れ込んだ祟人は、七森によって対処された。


***


「みんな筋いいね」

「ほんと?!」

「うん。だれかに危機が迫れば、だれかが頭を働かせてそれを助けることができる。三人が三人であったからこそ、連携が取れていたね。次から要請が来た場合、三人にお願いしようかな、僕の引率がなくても大丈夫なようだし」

「分かった!俺頑張る!」

「お前は加減考えろよ、三人にひとりしかいない風属性なんだ。移動にもお前の力を使うし、対処や補助では必ずお前の力が必要になる。ペース配分ミスると、生きて帰れなくなるかもしれないんだからな」

「分かってるって、これからはそういうことも考えていかないとだもんな」

「……というかお前、あのときどうやって俺の体浮かせた」

「あ〜、この前の実力テストのとき先生に教わったんだ。七森にはもう使えるけど、男に使ったのは柳瀬が初めて。へへ、うまくいってよかった」

「いつの間にそんな練習を……」

瀧田の風により関東本部に着いた俺たちは、祟人を連れて安置所へ向かう。処置後の祟人は医務室に連れていくが、対処後の祟人はもう亡くなっているので安置所で遺体の保管作業を行う。祟人対処は大抵ここまでが仕事だ。

『ご苦労様でした』

全員で手と声を合わせる。これで俺たちの仕事は終わりだ。

「んじゃ、各自シャワーにでも入ってゆっくりしててね〜。午後から授業にしよっか」

「分かりました」

『りょうか〜い』


***


「俺たち三人のときの指示役は柳瀬かもな」

「そうね、今日の現場でも張り切って振り分けてたし、アンタでいいんじゃない?」

「いや待て、そんな適当な決め方よくないだろ。ていうか張り切ってたってやめろ、恥ずかしい」

「なによ、事実じゃない」

「ちげえ」

「はいはい、言ってなさい。まぁ、それはともかく、あとはアンタ次第よ。アンタがそれでよければ、あたしたち三人だけの現場のときは指示役になるけど。なにかやりたくない理由でもあるわけ?」

「いや、そういうわけではない。ただ、……お前たちはいいのか」

「え?俺たち?」

「俺じゃあ頼りねえだろ。正直お前らと違って現場での対処経験が多いわけでもないし、役に立てたことも少ない。そんな俺が威張ってお前たちに指示なんて出せねえよ」

「指示役は経験が多い呪人がなるポジションじゃねぇよ、実際俺は何度か対処の経験があるけど、今日の柳瀬みたいにみんなの意見をまとめたり指示したりできる自信はない。多分こういうのは、俺より頭がいいふたりのどっちかがやったほうがいいと思う」

「……」

俺たち三人は現場終わり、各自シャワーを浴びて話し合いのために俺の部屋に集まった。特に俺たちのような未成年の指示役は、プロである大人の呪人とちがう点がいくつもある。まずは祟人発生後の状況。単独で動く呪人は、その情報を専属の眼人から聞き、現場をこなす。が、俺たちのように複数人で動く未成年の呪人はまず指示役が眼人から情報を受け取り、現場まで行くとそこで役の振り分けをする。そして現場後は指示役が眼人に報告。未成年であれば担任にも報告する。

「でも、俺にはお前たちのようなコミュニケーション能力はない。指示役は多くの呪人や眼人とコミュニケーションを取らないといけない。俺と違って、お前たちにはその能力があるだろ」

「コミュニケーション能力なら問題ないわね」

「だな、柳瀬は充分コミュニケーション取れてるよ。特に大人とのコミュニケーションな」

「え、いや、それはないだろ」

「アンタは体弱いんだからいちばん大人と話してんじゃない。少し癪だけどあたしたちより頭の回転早いんだし、アンタが適任だと思うけど?」

「ん"ん……」

「柳瀬がどうしてもいやなら俺がやるよ、どうする?」

「……分かった、俺がやる。ただ、少しでも俺ではダメだと思ったらすぐに言ってくれ」

「ははっ、りょーかいっ」

半ば強制的に決定した俺の指示役就任。俺は不安で仕方がなかった。

「じゃあ俺、先生と眞部さんに結果報告してくる!」

「いや待て、お前が行くとおかしいだろ、俺が行く」

「あ、そう?じゃあ一緒に行くよ、七森も一緒に行こ!」

「はいはい」

こんな俺に、指示役という重要な役が務まるはずがない。


***


「……と、いうことで……俺が指示役になりました」

「そうですか、ご連絡ありがとうございます。では三人での現場の場合、柳瀬さんにご連絡いたしますね」

「はい、お願いします」

「ですがやはり柳瀬さんが指示役ですか、こちらとしても安心して現場を任せられそうでよかったです」

「え〜ナベさん、それって遠回しにあたしたちのこと貶してません?」

「え、あ、い、いえ、失礼しました。決してそういうわけでは……」

「おい、やめろよ」

「はは、冗談冗談」

「すみません眞部さん。俺、頼りないですけどなんとか頑張りますので、その……見捨てないでほしいというか……」

「いえ、頼りになりますよ。それに、頼りにしています」

「……」


***


第十八話【 進化は不安へ 】


***


「俺が指示役になりました……」

「へ〜颯真が」

「……はい」

「どうやって決めたの?」

「一応、話し合いで……」

「そっかそっか。颯真はど?できそ?」

「まあ……善処します」

「自信はないようだね」

「そりゃそうでしょ……」

「そっか。まぁ頑張ってよ」

「他人事ですね……」

「他人事だしね。颯真は大丈夫だと思うよ」

眞部さんと先生への報告を済ませ、三人で部屋に帰る。報告だけですでにヘトヘトだ。

「柳瀬やっぱり頼りにされてるな!」

「なんでそう思うんだよ……」

「だって、先生にも眞部さんにも、柳瀬は大丈夫って言われてたよ。それって頼りにされてるってことだろ」

俺にはお世辞としか感じなかったそれを、瀧田は随分と素直に受け取っていた。瀧田には俺のそういう感覚がないのだろう。疑うことを知らない。

「お前はもっと危機感持てよ」

「え?なんの話?」

「……べつに」

「アンタたち、このあとどうするのよ。午後の授業まではまだ少し時間があるけど」

「ん〜、特訓入れる予定ないし、ジムでも行く?」

「俺は本読む」

「そっか〜。七森は?」

「そうね、ジムにでも行こうかしら」

「じゃあ俺もジム行こ!すぐに行く?」

「えぇ。もう動けるもの」

「……俺も行く」

「え?柳瀬本読むのは?」

「それはいつでもできるだろ」

「ジムもそうけど……」

「うるせえ行くぞ」

「あ、はぁい」


***


「なぁ、颯真の自己肯定感が日に日に低くなってるように思うんだけど、どう思う」

「ふふ、同じくらいお前のあの子に対する心配性がひどくなっていることには気付かないか」

「お前いちいちひとこと余計なのどうにかならないの?」

「お前には言われたくない言葉だね。柊はもう少し自分を客観的に見る練習をしたほうがいい」

「余計なお世話だっつの……」

「おっと、話がズレてしまったね」

「だれのせいだよ」

ここは医務室。柊が倉田の作業する医務室にヅカヅカと入り込み、脈絡もなしに話し出した。よくあることなので倉田はなにも突っ込まず、柊の話に順応する。

「さて、颯真の自己肯定感についてだったかな」

「そう。この前だって……」

柊はそう言うと、以前交わした柳瀬との会話を思い出す。

『男は百八十以上ないと人権ないらしいよ〜、んへへ、颯真は人権ないね』

『は?なに言ってんスか、呪人にはもともと人権なんてないでしょう』

『……颯真、その考え改めな?』

『はあ?最初に人権ないって言ったのアンタでしょ』

それは、柊が柳瀬にさりげなく言った冗談で柳瀬の考えが垣間見えた瞬間だった。

「全面的にお前が悪い」

「なんでだよ!!」

「成長期、思春期、反抗期。子どもが大人になっていく、繊細で大切な段階の時期にそんなことを言えば言うほど自身の自己肯定感が下がるのは当然だ。成長期だからと過剰に対話を試みれば反抗され、思春期だからと上っ面だけの会話をすれば中身の成長はせず、反抗期だからとあまり干渉しなければ甘ったれた性格になる。子育ての正解はひとつじゃない。そもそも、子育てには正解がないのかもしれないな。特にあの子たちは、呪人であるという一般人とはちがう特徴を持っている。多感な時期の子どもたちだ。一人ひとりに合った接し方を探さないと、取り返しのつかない成長をする可能性だってある」

「……」

倉田のそれに、柊は机に突っ伏した。

「颯真には、どう接したらいい」

「それは自分で考えな。あの子の親も同然なんだ。世間一般的な親のように悩みに悩んで育てればいい」

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