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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第十二話 レッツ、東京観光!

「お金の授業はしたことあるから分かるだろうけど、これすっごく高いんだからね、大事に使いな〜」

『はーい!』

「はい……」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


結局、納得いかないまま休みになった。先生にお金をもらって三人で施設を出る。現場以外で施設を出るのは初めてのことだった。

「でも、なんで突然……」

「課外学習みたいなもんね、町を知りなさいってやつよ」

「カガイ学習……?」

「……なぁ、これの使い方知ってるか」

先生にもらったお金をふたりに見せながら俺がそう言う。歩きながら話していた俺たちは、足を止めた。

『……知らない』

俺たちは今日、生きて帰ることができるのだろうか。


***


「よし、瀧田、風貸せ」

「よっしゃ!」

関東本部にある施設といえど、その場所は山奥だ。徒歩ではとてもじゃないが辿り着かない。

「で、どこ行く?」

「とりあえず都心に行ってみましょ、行けばなんとかなるわよ」

「計画性に欠けるがやむを得ないな。七森の言う通りまずは都心に行ってみよう」

この休暇は、現場のために施設の外で実際に祟人の処理を行う歳になったら必ず取らないといけないらしい。絶対に同い年の呪人と同じタイミングで取らないといけないうえ、休暇を与える時期は担任が決めるという決まりがある。ちなみに、施設外に出ないといけないという決まりもある。つまり、部屋でゆっくりするための休暇とはわけがちがう。これは休暇と呼べるのだろうか。

「なんだか、安全な町って変な感じね」

「俺たちが外に出るときはいつも非常事態だもんな」

「燃え尽くされてるか、水浸しになってるか、氷が刺さってるか、風で吹っ飛ばされてるかだもんな〜」

「改めて考えてみれば可笑しなもんよね」

「瀧田、そのビルの裏に降ろしてくれ」

「了解!」


***


「で?こっからどうするのよ」

「まずは歩いてみるほかねえだろ、観光で来たことなんてねえんだし」

「なぁ〜まずはなんか食いに行かね?腹減っちゃった」

瀧田の提案で食べ物を探しに行くことになった俺たち。町を歩いてみるが、普段人が多いところを歩かない俺たちは、三人揃って気分が悪くなっていた。

「う……もう帰りたい……ほんとに気分悪いわ……」

「俺、呪人でよかったって思った……」

「あんななか普通に歩けるなんてすごいな……」

「瀧田の風で移動したい……」

「いやダメだろ、力は施設と都心との移動以外の使用は禁止だ」

「分かってる……だから言ってんだろ……」

「俺だって使っていいなら使いたい……」

ヒトケの少ない小道に入り、全員が肺にある空気を精一杯吐き出す。

「このままじゃ一生飯食えねぇよ……どうする?」

「こうなったら、だれかに教えてもらうしかないわね」

「え、だれかって、だれ?」

「知らないわよ。歩いてる人取っ捕まえて、おすすめの食堂でも案内してもらいましょ」

七森の提案で通りすがりの人におすすめを聞くという作戦を実行することになった俺たちだったが、そんなことができるような度胸を持っているヤツはここにはいない。

「アンタ行きなさいよ」

「なんでだよ、提案したお前が行けよ」

「な、なんであたしが……瀧田!」

「う、うぇぇ……呪人だって怖がられたら俺立ち直れねぇよぉ……」

「ったく、女々しい野郎どもね……」

小道でコソコソと言い争っていると、背後から近づいてくる足音に気付く。

「こら〜、女の子を脅したらダメだろ?」

そこにいたのは体の大きな男。俺とほとんど変わらないが、比べると俺のほうが少し大きいだろう。が、瀧田のように筋肉がある。筋肉量に関しては瀧田のほうが上だろうか。

「お、俺たちはどちらかというと脅されてるほうというかなんというか……あ!!おすすめの食堂教えてください!」

初めはオドオドと自分の無実を訴えていたが、ハッとすると大きな声でそう叫んだ。瀧田のその言葉に一瞬戸惑った男だったが、次の瞬間には優しく笑いかけて言った。

「なんだ、飯屋探してたの。もちろんいいよ、俺のオススメの場所に連れてってあげる」

「アザース!」

あれよあれよと進む話に追いつけないでいる俺と七森。その男と瀧田は、俺たちに気付かず歩いて行こうとしていた。

「ば、ま、待て瀧田」

そんな瀧田の腕を引く。

「ん、なに?」

「な、なんで急にアイツに頼むんだよ、悪いヤツだったらどうする」

「大丈夫!優しい人だよ!」

「馬鹿者!人はしっかり見極めろって言われなかったか」

「え?言われたことないけど」

「え?」

瀧田の衝撃的な言葉に先生の顔が浮かぶ。あの人、なんで瀧田には言ってないんだ。瀧田は善人だから一般人全員がいい人だと勘違いしているのかもしれねえのに。

「まぁ行こ!多分あの人いい人だよ」

「わ、ば、馬鹿!」

瀧田にそのまま手を引かれ、七森も同じように腕を引かれた。抵抗なんてできるはずもなくうしろをついて行く。

「あ、俺、幾田智樹」

「俺、瀧田凪沙!こっちが柳瀬で、こっちの女の子は七森!よろしくな!」

「よろしく。東京には修学旅行かなんかで来たの?」

「シュウガク……?えっと、うん!そんな感じ!」

俺たちをおいてあっという間に仲良くなるふたり。コイツらのコミュニケーション能力どうなってんだ。

「ここだよ、俺のオススメの店」

「わ!めっちゃいい匂いするな!」

「だろ?友だちとよく来るんだよ。入ろうぜ」


***


第十二話【 レッツ、東京観光! 】


***


おすすめされて入った食堂は定食屋さんだと言われた。入るとすぐに大きな箱が置いてあった。俺の背よりも高いものだった。男はその箱になにかを入れ、ボタンを押して出てきた紙をおばさんに渡す。

「なにこれ」

「俺に聞くな」

「アンタ読書でなんの知識を培ってんのよ」

「少なくともこの箱の使い方は学んでねえ」

「どうしたの?」

俺たちがその箱の前で当惑していると、男がこちらにやってくる。

「あ、えっと……」

こちらを覗き込んだ男は、俺たちがこの箱を知らないと分かったのか、ひとつひとつ使い方を教えてくれた。

「なに食べたい?」

「あ、俺、は……」

「俺生姜焼き定食!」

「じゃああたしは野菜炒め定食」

「柳瀬は?なに食う?」

「あー……唐揚げ」

「じゃあ、ここにお金入れて」

お金、と言われて思い出す。ここでお金を使うのか、とポケットに入れたお金を取り出し、男が指差す場所に入れた。

「わお、万札?金持ってんね」

「うえっ、え……」

お金を入れれば音が鳴り、吸い込まれていった。お金が吸い込まれればボタンが赤く光る。

「唐揚げ定食だっけ、ここ押して?」

唐揚げ定食と書かれたボタンを指差す男。言う通りにそこを押すと、紙が出てくる。ほとんど同じタイミングでジャラジャラと音が鳴り、丸い金属が落ちてくる。俺が入れたお金とは少しちがう紙も出てくる。

「はい、じゃあお釣り受け取って、この紙をおばさんに渡して」

「あ、ああ……」

男がオツリ、と言うそれを取り、ポケットに入れる。そして言われた通り、おばさんにはその紙を渡した。

「席、適当に取っといて〜」

男の言葉を聞き、四人で座れる席に腰掛ける。施設なら食事までにここまでたくさんの工程は必要ない。自分たちがどれだけ施設に甘やかされて育ってきたのか実感する。

「なんか、飯食うのって大変なんだな」

瀧田が男にそう話しながら七森も連れて三人でやってくる。七森を俺の隣に寄越し、自分は七森の目の前に座る。必然的に男は俺の目の前であり、瀧田の隣に座ることになった。

「さっきおばさんに渡した紙、半分に破られたものもらっただろ?ここに番号書かれてるから、自分の買った定食と番号が呼ばれたら取りに行くんだ」

「唐揚げ定食十四番でお待ちの方〜」

男が説明すると同時に俺の番号が呼ばれる。立ち上がろうとしたら瀧田が俺の紙を奪うように取った。

「へへっ、俺が取ってくるよ」

「え、いや、いい」

俺がそう言ったのに、構わず光の速さで定食を持ってくる瀧田。コイツ、どこまでお人好しなんだ。

結局、有無を言わさず全員分の定食を瀧田が持ってきて、全員のご飯が目の前に揃った。

『いただきます』

全員で手を合わせてご飯を食べる。

「ん、んまい」

「本当ね。ま、おばさま方には負けるけど」

「ん〜!うんまい!」

俺たちがそれぞれの反応を見せるなか、静かに食べていた男は口を開いた。

「三人は幼馴染なの?」

「ちが」

「そう!特に俺と柳瀬は十年くらい幼馴染!」

俺が否定しようとするとすかさず瀧田が言葉を挟む。七森は会話に入ろうとせず、ひたすら食事を続けていた。

「そうなんだ。あ、最初はごめんな、勘違いとはいえ、失礼なこと言っちゃって」

男のその言葉に、最初にかけられたそれを思い出す。

『こら〜、女の子を脅したらダメだろ?』

「全然いいよ、気にしてない」

「背が高い上にガタイが良かったからナンパじゃなくて脅しかと思っちゃったんだけど、どっちでもなくて良かったよ」

「ナンパ……?」

一般人と話をすると会話の中に知らない単語がいくつも出てくる。俺はここにいるふたりより教養があると思っていたが、まだまだ勉強が足りないようだ。

「幾田はこれからなんか予定ある?」

これからの行動を共にしようと考えているのか、瀧田が男にそう問う。が、その男は少し眉を下げて言った。

「ごめん、俺これから友だちと約束あるんだ。なかなか誘いに乗ってくれないようなヤツだからさ、今日はここまでしか案内できない」

「そっか〜、ありがとうな!おかげで餓死せずに済んだ!」

「あははっ、餓死って。役に立てたなら嬉しいよ、また会う機会があったら東京観光の案内させてよ」

「ほんと?!頼むよ!ありがとう!」

「こちらこそありがと、ひとりで済ませるはずの昼食がこんなに賑やかになるなんて思ってなかったよ。じゃあまたな」

店を出て、男と別れる。

「さて、こっからどうしよっか!」

瀧田のその元気な言葉に、先が思いやられた。


***


「なぁ、やっぱり僕、あの子たちの様子見に行こうかな」

「馬鹿を言うな、休暇を与えたのは自分だろうに」

「だってあれは決まりだから……」

「一日くらい放っておいたって死にはしないよ、お前のひどい特訓を受けても生きていられるんだ」

「……ひどい特訓ってなんだよ……」

倉田の入る医務室で話し込む柊。その柊の言葉に、倉田は律儀に答えている。コーヒーの匂いが漂う医務室は平和な時間が流れていた。

「まぁ、懸念するとすれば、あの子たちの顔だね」

「顔?」

「おや珍しい。柊はそうじゃなかったのか?あの子たちはみんな綺麗な顔をしているからね。思わぬところで足止めを食らうかもしれないよ」

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