表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/33

第十一話 一新

「柳瀬!おはよ!」

「ん、はよ」

「体調は?」

「大丈夫だ」

「そっか、今から飯?」

「ん」

「そっかそっか、七森も起きてるかな」

「さぁな」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


「そぉぉぉまぁぁぁぁ!!」

朝、朝食のために食堂に行くと、その道中で先生に会った。俺を見つけた瞬間、瞬間移動でも使ったのかと疑うレベルの速さで走って来る先生。その勢いでギュウギュウと抱き締められれば、俺は息が苦しくて仕方がなかった。

「ぐ、ぐるしい……」

「そぉま、会いたかったよ、体は痛くない?」

「い、痛くないです……お願いだから離れて……」

「そんな悲しいこと言わないでよぉ、僕ずっと颯真に会いたかったんだよ?」

「毎日会ってたじゃないですか……」

「そんなことないってぇ」

「んむ……いい加減に、離せ!」

堪忍袋の緒が切れれば、無意識に指を鳴らしていた。途端、先生は大きな声で叫んで俺から離れる。

「あっつ!ちょっと颯真!僕にそれを使うなんて!」

「アンタが離せって言う俺の言葉を聞こうとしないからでしょ」

「なにこの反抗期の息子を持った気持ち」

「はい?行くぞ瀧田」

「あ、うん」

先に歩き始める俺のあとをついて来た瀧田は少し心配した様子で言った。

「なぁ柳瀬ぇ、先生落ち込んじゃったらどうするの?」

「あの人があの程度で落ち込むわけねえだろ、鋼のメンタルだぞ」

「ん、んまぁたしかに……」

俺の言葉通り、先生は落ち込むことなく授業に来た。

「やぁやぁグッドモーニング。そろそろ実力テストの時期だね」

「ゲッ!」

先生の言う実力テストとはその名の通り、俺たちの体術を改めて客観的に見て実力を測るテストだ。このテストは定期的にあり、その結果をもとにその人のレベルに合わせた現場への出張が増える。

「順番はいつも通り颯真、梛桜、凪沙の順ね」

『はーい』

実力テストの予定は次の週。それまでにコンディションを整えなければならない。

「みんなのレベルがどれくらい上がったのか楽しみだねぇ」

「つっても先生、現場行くときいつも一緒だからもう分かってるでしょ」

「現場の緊張感とテストの緊張感はちがうでしょ?」

「んた、たしかに……」

「場所はいつも通り第一実習室。詳しい日程は眞部と決めるから決まり次第眞部から連絡させるね〜」

『はーい』

「それじゃあ授業を始めよう!さて今日の授業は!僕たちのお世話をしてくれている眼人についてだよ!」

「眞部さんとか雪姉さん!」

「そうそうそうそう大正解!眼人は僕たち呪人と違い、自分の人生の選択ができるのが特徴だね!」

「ほかにもっと特徴あるだろ」

「ほかにも!一般人と違い初期段階の祟人の発見が可能だよ!でも呪人と違って祟人の処置や対処はできない。祟人になったらあちらから触れてこない限り触れられないんだよね。それは一般人も同じ。だから祟人は僕たち呪人にしか処置も対処もできないんだ〜」

「でもこの前雪姉さん、祟人に注射打ってたよ?あれは?」

「あれは梛桜があらかじめ特効薬を打って祟人の力が弱まっていたからだね!梛桜グッジョブ!」

「フッ、当然でしょ」

「はぁ……頭に響く……」


***


「お前は本当に律儀だね、柊と血が繋がっているなんて考えられないよ」

「なんかすみません……いつもご迷惑かけてしまって」

「いや、悪いね。そういうつもりじゃないんだ。よし。体は大丈夫だろうけど、体力は減っているだろうから過度な運動や特訓は控えるように。念のため、柊と芳人くんにも事情は話しておくから」

「分かりました、ありがとうございます」

雪さんとそんな会話をして医務室を出る。医務室の外には眞部さんがいた。

「あ、眞部さん、お疲れ様です」

「お疲れ様です柳瀬さん。スケジュールについての確認をしたいのですが今から少しお時間よろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です」

眞部さんと食堂に移動し、椅子に腰掛ける。

「俺、いつから特訓してませんっけ」

「約五日前ですね、柊さんとの対人特訓が最後となっています。その日と翌日は柊さんに言われて私と医務室で休みを取っていましたし、その翌々日からは四半休でお休みになられていましたからね」

「そうですか……」

「この五日間はほとんど運動をしていない状況になりますので、三日ほどは特訓をせずに軽い筋トレなどの運動だけで済ますようにしてください」

「分かりました。明日はジムにでも行って少し運動します」

「あ、そのことでご連絡がありまして、先ほどそう言ったのになんですが、明日は予定を空けておいていただけますか」

「え?あ、はい」

「詳しいことはまた後ほどご説明させていただきますが、課外学習の予定を立てさせていただいております。柊さんと打ち合わせをしておりますので、決まり次第ご連絡させていただきます」

「課外学習?」

「はい、遠足のようなものです」

「エンソク……?」

「ふふ、まぁ楽しみにしていてください」

眞部さんの不思議な笑みに戸惑っていると、そこに瀧田と七森が来た。瀧田は特訓でもしてきたのか薄着でいる。

「あ、眞部さんだ〜お疲れ様で〜す」

「瀧田くん、七森さん。お疲れ様です。お二方、お時間よろしいでしょうか」

「お疲れ様です。スケジュール?」

「はい、スケジュールの確認についてです」

「俺は大丈夫!柳瀬の隣座ろーっと」


***


第十一話【 一新 】


***


「柳瀬、どっか行くの?」

「……べつに」

「え〜教えてくれたっていいじゃん〜俺も一緒に行ってもいい?」

「だめだ」

「え〜珍しい。あ!もしかしてふれあい広場だったりする?」

「……」

「ビンゴ!ならなおさら俺も行く〜!」

「……勝手にしろ」

結局瀧田は俺のあとをついて来た。着いた先はふれあい広場。ここにはにゃんこやわんこをはじめとする動物がいる。俺は疲れたときによくここにくる。

「柳瀬にゃんこのとこ行くだろ?俺ちょっとわんこと遊んでくる!」

瀧田はふれあい広場に着いたら俺にそう言ってわんこのところへ走って行った。まるで大型犬だ。

「あれ、柳瀬くん」

「あ、どうも、お久しぶりです」

「久しぶり。遊びに来てくれたんだ」

「はい、最近疲れが溜まっていて」

「そっか、ゆっくりしていって」

「ありがとうございます」

彼はふれあい広場管理担当者の朧さんだ。髭が生えているため特に小さい子には怖がられやすいが、この施設にいる人間の中ではいちばん穏やかな性格をしている。朧さんは瀧田のことを見つけると俺のときと同じように話しかけに行った。

「わっ、あ、あはっ、もこ、ふわ」

俺がそうやって朧さんに気を取られていると、足に顔をなすりつけるにゃんこが二匹。黒いほうがもこで、白いほうがふわという。ちなみに、俺が命名した。ここの動物たちには名前がない。みんながそれぞれに好きな名前をつけている。

「しばらく来れなくて悪かったな」

しゃがみ込んでその二匹の頭を撫でていると、俺に気付いたほかの子たちも寄ってくる。にゃあにゃあと甘えた声を出すその子たちに自然と頬が緩む。

「毎日ご飯は食べてるか?ちゃんと朧さんの言うこと聞いてるか?」

俺の言うこと言うことにそれぞれが自由に返事をする。この広い空間には呪いもなにもない。俺はこの場所が好きだ。

「やっぱり柳瀬にゃんこに好かれるよな〜」

うしろからそう言ってやって来たのは瀧田。服にはわんこの毛がびっしり付いている。

「お前、服」

「うん、でも柳瀬もよ?」

「えっ」

自分の服を見てみると、そこにはたしかににゃんこの毛が付いていた。

「白と黒の毛かな、あとお茶々もか」

柳瀬はこの子たちのことを色で呼んでいる。もこは黒と呼び、ふわを白と呼ぶ。人によって呼び方は様々だ。

「なぁ、ゆたかさんに会った?」

「会った」

ゆたかさんというのは朧さんの名前だ。

「んふ、そっか」

「それがどうかしたのかよ」

「ううん、ただ聞いてみただけ」

絶えずにゃんこを撫で続ける俺の隣に座った瀧田は、俺の撫でていたふわを抱き上げた。俺がそちらに気を取られると、瀧田はそんな俺の顔を覗き込んだ。

「疲れてた?」

その顔はあまりに不安そうで、子犬の耳が見えそうだった。

「……朧さんか」

「うん……」

「大丈夫だ、そんなに心配そうな顔するな」

「心配そうっていうか、心配なんだよ」

瀧田はたまに、自分の意見をはっきり言うことがある。今がそのときなのだろう。まっすぐ俺を見つめる目と吐き出されたその言葉には嘘なんてなかった。俺にはそれが眩しかった。

「悪い。なにかあったらすぐに言うから」

俺はお前の純粋な瞳に、絶えられなくなる。


***


『なにかあったらすぐに言うから』

俺の言葉にそう返した柳瀬は目を逸らした。その表情はまるで、だから今は勘弁してくれと言っているようだった。柳瀬は頻繁に本音を隠す。本当のことを話してくれない。それは俺のことを信頼していないからとかではないのはなんとなく分かるけど、なんで話してくれないのかは分からない。きっと俺が話して欲しいと言ってもそれは無駄になるだろう。だから俺は、柳瀬が自分から言ってくれるまで待とうと思っている。

「なんだ、今日は随分と甘えん坊だな」

膝に乗る黒を撫でる柳瀬は静かに笑った。こうやって笑ってくれているだけでいいのかもしれない。最近そう思うようになってきた。

「あ、いた」

入り口のほうから聞こえる耳馴染みのある人の声。目をやると、そこには七森がいた。

「探したわよ」

「え、ごめん、現場入った?」

七森がわざわざ呼びにくるなんて現場以外考えられなかったが一応質問をしてみる。

「いつもならそうだけど、今回はちがうわ」

「ん?えっと、じゃあおばさんたちからの差し入れ?」

「それでもない。いいから黙って話を聞きなさいよ」

「しゅみません……」

「休暇許可が出たわ」

「え?!」

俺の大きな声に驚いたのか、近くにいたにゃんこはビクッと反応し、逃げる子もいた。ごめんにゃんこさん。

「瀧田この野郎……」

「わご、ごめん……」

「……ったく。明日一日、休暇許可と外出許可が出たわ。明日はよほどのことがない限り現場に呼ばれることはないみたい。特訓も禁止。自由に過ごしていいって言ってたわ。それ伝えに来ただけだから」

「え、あ、ありがとう」

「……まさかそれ、俺もなのか」

「当たり前でしょう?なに言ってんのよ」

「いや、最近俺、現場どころか特訓もしてねえんだぞ。俺は論外だろ」

「休みっつったら休みなのよ、ありがたく受け取りなさい」

「もう充分休んだっつの……」

「なぁ!せっかくだし、三人で遊びに行こうよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ