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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
12/28

5. 迎えの馬車 ~The first victory~

妖広辞苑


デュラハン


 アイルランドやイギリスなどに棲む不吉な妖精の一種。

人が死ぬ前になると出現し、町中を走り回る。首のない全身を鎧に包んだ女性騎士の姿で表れ、コシュタ・バワーに引かれた二輪馬車に乗っている。町のあちこちを走り回った後目的の家の前に止まり、馬車の音に不審に思った家の者がドアをあけると桶一杯の血を浴びせるのだという。



神魔精妖名辞典より



 石屑が舞い、周囲に散乱する。


 やったか?


 満足げに振り向くが、ガーゴイルは左腹部が欠け落ちたにも関わらず襲いかかってくる。攻撃をかわすには距離が足りない。もう駄目だ、頭を伏せる。


 しかし何秒たっても来てもいいはずの攻撃が来ない。目を恐る恐る開くと、ガーゴイルは頭に矢が刺さった状態で倒れていた。更にその上にはディランが乗っかっている。


「大丈夫ですか仁さん?その方はもう戦えないので安心しても良いですわ。」


「ありがとう!ホント助かった」


「間一髪でしたからね。あの瞬間にサラが矢を放っていなければ危なかったですよ」


「ディラン!助けてくれるって言ったじゃん!」


「一体は倒しましたよ。一人一体がノルマでしょう?」


「そんなの助けたに入らないよ。第一、一撃で仕留めるって言ってくれたじゃないか」


「仕留めましたよ。ですが、全て僕が倒すと仁の出番が無くなっちゃうじゃないですか」


 ごちゃごちゃ言い合う者二人。ポカンとする者一人。そこに新たにもう一名が加わる。


「ちょっと走るの速いって!一応魔女の身体能力は妖怪より低いんだから」


「あはは……以後気をつけますわ。それより仁さん怪我してるじゃないですか。治療しないと。」


 サラはポケットからオロ●インによく似た薬を取り出した


「ちょっと沁みますけど我慢してくださいね♡」


 口は軟らかいのにやることは酷い。ただでさえ薬が沁みるのに力いっぱい擦り込んでくる。語尾のハートに騙されたああ!


「何その薬?薬草ってこんなに細かくなるまで、すりおろせるの?」


「僕も気になりますね。匂いもほとんど無いじゃないですか」


 そりゃオロ●インだもの、某製薬会社が責任もって作ってんだし、気になる匂いもないだろ。妖怪たちには知られてないのかな?


「これはエルフ族に古くからから伝わる伝統的な塗り薬ですわ。自然治癒能力活性化させて、傷口の修復を数十倍まで早める効果があります。」


 オロ●イン言ってすみませんでした!


「すごいね。もう出血が治まっちゃったよ!」


「ねぇ今度その薬の調合こっそり教えてよ。あたしも魔女しか知らない特別なの教えるからさ!」


「いいですよ。授業の空き時間にでもどうです?」


「やり―――!!約束だよ!」


「俺にも教えてよ!小さいころから怪我多くてさ(妖怪と戦うたびに大なり小なり負傷するだろうしね)」


 盛り上がる三人。テンションが上がるにつれ、声の音量も比例していく。


「みなさんの話に水を差すようで悪いのですが、まだ油断しないでください。ガーゴイルとは違う妖怪が近づいてきてます。足音からして馬車でしょうか」


「よく聞こえますね。私には全然聞こえないませんでしたわ。」


「僕は他の悪魔たちよりも耳と鼻が良いですから」


 突如として嘶きが森にこだまする。先ほどまで全くと言っていいほど聞こえなかったヒズメの音が徐々に迫りくる。接近するスピードが半端じゃあない。鎌、弓、剣、杖をそれぞれが手に取り、ピリピリとした空気が流れる。

 沈黙を破って前方の草むらから飛び出してきたのは影と表すべき半透明の黒馬。そして黒馬の引く馬車に乗り、こちらもまた黒いローブを羽織った女性だった。

しかし馬には首から上がない。


「デュラハン!!!入学試験にあんたみたいな中等妖怪まで出んの!?」


「全く失礼ね~。アタシは‘試験監督’よ。ニコラス先生に頼まれたの。合格おめでとう。ほれ校章よ」


 呆れられつつ渡されたのは、カモミールの花を象った銀色に光るバッチ。


「さてと、四人とも馬車に乗った乗った!」


 問答無用。一年どもは荷物と共に半ば強制的に馬車に押し込まれる。

 内装は二人掛けの椅子が向かい合う形で設置してあり、前席には騎手の座る椅子が背中合わせに付いていた。因みに左右の窓は共に大きくて景色が一望できた。オーシャンビューだ!!

 俺はサラと一緒に後部席に座った。


「準備はいい?校舎までかっ飛ばすよ~」


 けたたましい馬の鳴き声を引き金に馬車は凄まじい速さで駆け出した。




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