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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
11/28

4. カマイタチ ~Escape from powerlessness~

妖広辞苑


カマイタチ


つむじ風に乗って現れるイタチに似た妖怪。

両腕には鋭い鎌を持ち、通り過ぎると刃物で斬りつけたような傷を負う。時には骨まで達する場合もあるが、直後は痛みも感じないし出血もない。しかししばらくすると激痛が襲い苦しむことになる。何故か下半身を狙うことが多いそうだ。


画図百鬼夜行,全国妖怪事典 より



 湖の上空、二体のガーゴイルと一人の箒に乗った魔女が空中戦を繰り広げている。劣勢は魔女。爪、翼、尻尾による攻撃を交わすのに精いっぱいで反撃に移れない。翼で風を起こされてバランスが取りにくいうえ、絶え間ない連続攻撃が降り注ぐ。


(やっぱ1人で迎え撃つのは難しいかな。せめて陸のある所なら)


チラリと周囲を確認すると、じわじわと湖畔へと近寄る。それを察してか、一体が陸に背を向けてレベッカを挟み撃ちにする。


「しまった! ……とでも言うと思った?」


 レベッカがにやりと口元を緩めるや否やガーゴイルの背を光の矢が撃ち抜き、石の体をエメラルドの水の底へと沈める。


「相手は私たち二人ですわ。お忘れなく」


 彼女たちの作戦はこうだ。

 レベッカが空中でガーゴイルたちを陸の方へ背中を向けるよう誘導し陸では木に身を隠したサラが矢で撃ち落とす。誘導のタイミングの絶妙さ、矢の命中率の良さ。息の合ったコンビネーションと実力が無ければ成功しない。


 これが試験会場までの道に迷うというピンチを乗り越えたサラとレベッカの絆だ。


「待ってたよサラ。んじゃ、もう片方も倒そうか」


「言われなくても。今度は私たちが挟み撃ちにしてあげましょう」  

 

    

 ***



 前方を走っていたガーゴイルどもが急に歩みを止め、周囲の匂いを嗅ぎまわっている。標的(仁)を見失ったらしい。二体はすぐさま二手に分かれて捜索を始めた。

 ディランはそのうちの一体に目をつけ後を追う。木々はジャングルのごとくうっそうと生い茂っている。剣に灯してある炎は昼間ということもあり見えずらく、こちらには全く気付かない。



 やるなら今がチャンスか


 突如として湖から何かを粉砕する音が響く。ガーゴイルは俊敏に反応し、音の出先を向く。これを好機に忍び足で距離を詰めると、剣から一気に纏っていた炎を放出する。向こうが気配を察知して振り向くも、遅い。石像の体は赤い火に包まれ、ボロボロと崩れ去った。


「こちらは一体倒しました。女子の方も優勢と見えますし……僕は見学してましょうか。仁、君がどれくらいの潜在能力を持っているのか見せてもらいますよ。」


 そう呟くと黒髪の悪魔は剣を腰に収め、森の奥へと目をやった。




 ***




 ガーゴイルどもはしつこく俺を追ってくる。三メートルもの体長があれば木に引っ掛かってスピードが落ちるだろうと思っていたが、全くの間違いだったと身にしみる。邪魔な木をなぎ倒す、いわゆる森林破壊をしながらの猛進。更には減速するどころか、加速しているように感じてきた。もっとも疲れが出てきてこちらのスピードが落ちているだけなのだが。


 このままでは追いつかれると直感し、一旦近くの茂みに身を隠して息を整えた。ガーゴイルらがすぐ近辺を捜しているのは、奴らの発している石独特ともいうべき冷たい妖気が付近を満たしていることで百も承知している。



 少し前に北の湖の方角からは白っぽい光が二,三本空に向かって一直線に飛んでいくのが見えた。ついさっきは東のより近い場所から真っ赤な火柱が上がった。ディラン、サラ、レベッカの仕業だ。もしガーゴイルがそんな攻撃をできるならもうやっているだろうし、そいつを喰らったら俺はもうこの世にはいないだろう。

 仲間たちが次々と攻撃を仕掛けていくのに俺だけが何もできずに隠れているだけ。もともと自分の力ではどうすることもできないと分かってはいるが、悔しい。自分の無力を噛みしめる。これではあのときと同じじゃないか。俺たちは出会ったばかりだけど四人組。ひとつのチームだ。任せっきりにするというのも納得がいかない。1体だけでも倒したい。


 相手は石、打つ手はないか。意識を集中して考えを頭の中で巡らせる。



 ブンッ


 風を切る音が頭上から聞こえる。

 対策を練る。それ故に背後から拳を振り下ろしてきたガーゴイルに対して反応が遅れた。急所は外れたものの、左肩に痛みが走る。


 やられるわけにはいかない。冷静になれ


 自分に強く言い聞かせる。

 女子が二体、ディランが俺を追っていた内の一体と今頃戦っているだろう。もしくは倒しているかも知れない。なら、相手はこいつだけ。


 痛みを堪え太めのモミの木によじ登る。案の定、奴は追ってきた。タイミングを計り飛び下りざまに渾身の蹴りを叩き込む。硬いものを蹴ったことがある人は分かるだろう。何しろ反動が半端ない。自分蹴りの衝撃に自分で悶えつつ、体勢を立て直すと間髪を空けずに木の枝で殴りつける。

 不意打ちにより相手を怯ませることはできたものの、大きなダメージは与えられてはいない。うすうす感づいてはいたが、真っ向からでは敵わない。もう一度隙を窺おうと森のさらに奥へと走る。


―――― 頭が真っ白になった。


 数メートル行ったところで道が開けていた。目の前にはビル五階建ての建物程の崖が聳え立っている。行き止まりに追い込まれたのだ。背後からは獲物を捉えたとばかりに上機嫌(表情は分かりにくいが)の石像が迫る。

 戦って勝つしか道は無い。だが、妖怪相手に勝てるだけの力は無い。一歩一歩近づいてくるにつれ、間隔が徐々に狭められていく。仁は思わず後ずさったが終には背中に壁が当たる。


 しまった!もう逃げ場がない!


 冷や汗が頬を伝って流れ落ちた。その瞬間――――――




「勝ちたいか?」




 言葉が頭の中に直接響く。どこかで聞いたような声だった。


 気がつくと安全地帯に避難させておいた筈のキョウが右腕に乗っていて、眼だけがこちらを向き返事を待っている。訳が分からなかったが、「もちろん」と返答を返すと、そのイタチは鎌へと一瞬で姿を変えた。


 四十センチメートルほどか、銀色に鈍く光るそれは小さいながらに異様な威圧感を放っていた。


「意識を鎌に集中しろ。空間ごと切り裂くつもりで斬れ」


 力の加減、タイミング、考える前に体が動いた。助走をつけて強振すると鎌から風が渦を巻きながら噴出し、ガーゴイルの左腹部を斬る。同時に石の破片を数メートル先まで吹っ飛ばした。



 ***



 追いつめられてから反撃まで。その一連の動きをディランは見ていた。


「やっぱり妖怪だったじゃないですか。しかもカマイタチだとは。……ただ力を思うように使えていないようですね。後で三対一でレクチャーでもしますか。でないとこの世界では生き残れませんからね」







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