3. 4人の仲間 ~vs Gargoyle~
妖広辞苑
ガーゴイル
その昔キリスト教によって悪魔と言われ、おとしめられた異教の神々である。多くは、人間と鳥を合成し、コウモリのような翼と、とがった嘴を持った姿をしているが、中には翼を持ったドラゴンを象るものもいる。
彼等の特徴としては、普段は普通の石像のようにじっとしており、不用意に近づくモノがいると突然動きだし襲いかかる。
「幻想世界の住人達」 新紀元社 より
うまく丸めこまれ、試験とやらに挑戦する気にさせられた俺。今の気分をパーセンテージで表すと、不安が九十%を占めている。あとの十%は誤解を解いてしてほしいという切実な願い。と若干の期待。つまりは先行きが気が気でない。一体どうなるのやら。
試験は十時開始。今は四人が集まるのを待つだけだ。が、早めに到着したこともあって、十時の集合時刻にはまだ三十分もある。日が高くなり気温も上がってきたので、ディランと日陰に入って女性陣二人を待つことにした。
幾分かたった頃だろうか。俺とディランは気兼ねなく話せるようになり、心なしか肩の荷が下りたような感じがした。
男二人が話しこんでいる中、不意に背後の茂みを分けて、女子が現れる。
「すみませーん!迷ってて遅れちゃいましたー!」
「お待たせしてすみません。時間は大丈夫ですか?」
ハキハキとした調子で声を掛けてきた女子は茶髪にブラウンの瞳で黒いとんがり帽子を軽くかぶっており、もう一人は金髪に瑠璃色の目のおとなしそうな女子で、背中に弓を背負っていた。二人とも小さめのスーツケースを手に、息を切らしている。相当慌てたのだろう。誰かしら迷うと踏んでいた俺の予想は的中した。何となく感が冴えていることに我ながら感嘆する。当たってほしいものでは無かったが。
「まだ十分前なので大丈夫ですよ。では自己紹介しましょうか」
ディランは朗らかな笑顔で自己紹介を始め、仁もそれに続いた。女子二人も笑顔でそれに応じる。
「あたしはレベッカ・フリードリッヒ。魔女よ。これから宜しく」
「私はエルフのサラ・フルドフォルクですわ。お互い学校生活楽しみましょうね。」
妖怪同士とは思えないほどの脱力感漂う自己紹介と雑談が終わってから、あることに気づく。
二次試験が終わってないのに入学する気満々だし。落ちるかもしれないとは思わないのかな?それに悪魔にエルフに魔女ってどういう面子だよ。今更‘俺は人間です’なんて言える雰囲気じゃないな……
「あっ、荷物はここの木の下でいいよね?」
男子2人の荷物を見つけたレベッカが思い出したようにスーツケースを運ぶ。サラも隣に荷物を置きに後を追う。女子が荷物整理をし始める中、ディランが小声で話しかけてきた。
「イタチ君は戦えないなら、この木の上に隠れててもらった方がいいんじゃないですか? この先何が起こるか分かりませんよ」
「そうだな。やっぱり怪我はさせたくないからな~」
仁はそう言うと「連れてけ」と言わんばかりに見つめてくるキョウを太い木の枝に乗せた。
「試験に巻き込まれたら大変だから、ここに隠れてろ。でもピンチになったら逃げるんだぞ」
キョウは不服そうな顔をするが、おとなしく俺の指示に従う。本能で何かしらの危険を感じているのかも知れない。
「そろそろ試験開始時刻ですわよ。」
サラが弓を構えながら周囲への警戒を強める。
四人の緊張が高まる中、仁の持っていた案内書から薄い青色の光がこぼれ、十五cmほどの老人のホログラムが突如として現れた。俺はいきなりのことに驚くが‘女子のいる前でビビりたくない’という気持ちの方が勝ったため、慌てることなく、白い口髭をたたえたおじいさんの解説に耳を傾ける。
「みなさまこんにちは。私はベルナール高等学院教頭のニコラス・リンドマンでございます。本校の入学試験は十時より開始され、試験を突破した先着百組を生徒として迎えております。もちろん命にかかわるような危険は伴いませんのでご安心ください。
では開始のカウントをさせていただきます。準備はよろしいですか?
五,四,三,二,一・・・始め!」
開始の合図とともにホログラムは消え、代わりに湖の周りの大岩が石像妖怪:ガーゴイルへと姿を変え始めた。ガーゴイルの数は四体。蝙蝠のごとき翼で仁たちの元へ飛んでくる。
「石が相手な分、協力して威力をある技を叩き込んだ方がいいですね。二・二でばらけて一体ずつ順に倒しましょうか」
「その作戦ナイス!サラ、組もー」
「了解ですわ!私たちは右側の二体を倒しますから仁さんとディランさんは左側の二体をお願いします。」
そう言い残すと、サラは湖畔を走って行った。一方レベッカは早くも箒に跨り水上を飛ぶガーゴイルと対峙している。
「僕らも負けてられませんよ。いいですか?仁はできるだけガーゴイルの注意を引きながら逃げてください。僕の方で隙を狙って一撃で倒しますので、ご心配なく」
「えっ!? ちょっと心の準備がまだなんだけどっっ! 頼むからとっとと倒してくれよ! 絶対だからなぁ!」
俺はガーゴイルが近づいてきているのを見るや否や助けを懇願しながら森の中へ逃げる。我ながらインターハイにでも出れるんじゃないかと思うほどの俊足で。
一方ディランは二体の石像を引き連れて走っていく仁を見送ると、一本の剣に真っ赤な炎を灯もし、少し間を空けてから仁らが入って行った草むらへと追撃を開始した。
次話から本格的にバトルが始まります。
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