#022 : 開いた扉
「ただいまー」
大学帰り、美咲は何のためらいもなくカレンの家の玄関をくぐった。
手にはコンビニで買ったスイーツと缶コーヒー。
カレンがどんなに忙しい日でも、美咲はこうして入り浸る。二人の関係にとって、それはもう当たり前のことだった。
「おかえり。今日は早いじゃん」
奥からカレンの声が聞こえる。
「課題が意外と早く終わったからね。はい、差し入れ」
キッチンで受け取ったカレンは嬉しそうに笑い、お茶を入れるために背を向けた。
美咲はリビングに向かう途中、ふと廊下の突き当たりに目が留まる。
――あの部屋。
カレン曰く「物置」。
「荷物だらけで人には見せられない」なんて笑っていた場所。
いつもはぴったり閉じられている扉が、今日は数センチだけ開いていた。
何気なく近づき、視線を差し込む。
そこで美咲の足は止まった。
中は暗くない。
暖色の間接照明が優しく机を照らし、モニターが三枚並んでいる。
中央のモニターには配信ソフトらしき画面が開かれ、横の棚には高そうなマイク、ミキサー、そして複雑なケーブル。
壁には防音パネルが貼られ、椅子にはふわふわのクッション。
――物置、なんかじゃない。
息をひそめて見入っていると、背後からカレンの声が響く。
「美咲ー?お茶入ったよー!」
驚いて身体を引き、ドアをそっと閉める。
心臓が妙に早く打っていた。
リビングに戻ると、カレンが湯気の立つカップを差し出した。
「はい、今日のはジャスミンティー」
「ありがと」美咲は受け取りながら、何気ない顔を装う。
けれど、さっきの光景が頭から離れない。
――ローズバイト。
最近Fでよく見かける切り抜き配信者。
可愛さの中に鋭い毒舌を織り交ぜるトークが魅力で、短い動画でも人を惹きつける。
その配信背景の色味と、あの部屋のライト…妙に似ていた。
「ねえカレン」
ふいに声をかけてしまう。
「もしさ、友達が実は配信者だったら…教えると思う?」
カレンはマグカップを置き、少し首を傾げた。
「うーん、人によるかな。恥ずかしいって思う人もいるだろうし」
口調は柔らかい。でも、その視線が一瞬だけ泳いだように見えた。
その夜、美咲はベッドに横になりながらスマホでローズバイトの動画を再生する。
画面の中の彼女は軽口を叩きながらも、時折ふっと優しく笑う。
その笑い方と声の揺れ方が――あまりにもカレンに似ていた。
美咲はスマホを胸に置き、天井を見つめた。
(あの部屋…やっぱり物置じゃないよね)
胸の奥に芽生えた疑いは、静かに、しかし確実に膨らんでいった。
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