<十>その御魂は妖と名乗る(壱)
※ ※
比良利は眉を寄せていた。
赤い体躯を持つ妖用携帯のヒラから聞こえてくる、対の焦燥感を含めた怒号は。その場にいる者達の耳にも飛び込んでくる。喧しい物音を立てながら移動する白狐は銃声が上がる度に蔵の奥へ、奥へ、と声音を張った。
呼び掛けても応答はない。それどころか、向こうの妖用携帯が事態に怯えてしまったらしく、ついに電話が切れてしまう。
「比良利さま。翔さまは」
同胞を案ずる紀緒に、「弄ばれておるのう」
「ここまでくると腹立たしい気持ちも、いっそ清々しい気持ちに変わるものよ。揃いも揃って、わしを蚊帳の外に押しやりよって」
これも余興と呼ぶべき茶番だろうか。
『坊やを依り代にしたいわりには、以前よりも来斬達は派手に動くねぇ』
孫の危機にも関わらず、猫又は落ち着いた様子だ。
それは満目一杯に広がる群れ、のせいだろう。黒い浄衣を纏い、さも“誰か”を彷彿させる集団は、比良利の神経を逆撫でるのに十分すぎる。
「また、ですか。こうも次から次に出て来られると飽きてしまいますね」
まったくだ。比良利は流に同意を示す。
「我等は煽られているのじゃろう。楽しませてくれよって」
イチョウの並木道の向こうに見える、その群れに目を眇める。
さしずめ、あれは出来そこないといったところか。そんなものを因縁ある北の四代目に向け、小僧の南の十代目には凄腕の大妖を寄越す。甚だしい限り。
ヒラを通話状態にしたまま懐に仕舞うと、比良利は和傘を大麻に変えて、冷たく口角を持ち上げる。
「そろそろ、術策に嵌る振りもやめにするかのう。飽きてしもうた」
白狐のぼんぼんは、よく務めを果たしてくれた。この先は、兄やの赤狐が受け持とう。
※
「なんの嫌がらせで、来斬と弥助がワンセットで襲ってくるんだよ。まじ勘弁なんだけど。ひとりくらい、比良利さんの下に行ってもいいじゃんかよ」
少しは一息を入れさせて欲しいものだ。ギンコの背中の上で、ついつい愚痴を零してしまう翔は、背後を守ってくれる青葉に視線を配る。
常世結界を破るための銃声は、いつまでも蔵に響くばかり。
「来斬達は来そうか?」
「もう少しばかり、常世結界が持ちそうですが……」
「時間はない、ということか」
翔は先導するツネキと、その背に乗る天馬に「道はありそうか」と、声を掛けた。
返事が来る前に自分も周囲に視線を配る。
土と漆喰で塗り固められた四面の壁。湿気と泥が混じった、鼻につく嫌な臭い。暗夜を好むかのような、鬱然たる蔵内部。
二階建ての広々とした蔵の造りは、隅々まで見渡せるものの、造りに反して物らしい物は何ひとつない。それが余計に蔵の中を不気味に思わせる。
窓代わりの木格子からは、強い日の光が零れている。夜の訪れは遠そうだ。入り口右奥へ突き進めば、二階へ行けるであろう縄梯子がひとつ。幾年も使われているのだろう。足を引っ掛ける縄の部分が、やや弛んでいる。
「あっちは行き止まりくさいな」
反対側、壁の角にあたる左奥を確認する。そこには壁が切り取られ、木板が嵌められていた。立派な壁造りであるため、この木板は悪目立ちしていた。
金狐が独断で板に向かって体当たりする。
すると、糸も容易く力が掛かった方角に動く。隠し通路なのだろうか。それにしては分かりやすい。蔵に物を敷き詰めれば、侵入者の目も誤魔化せるだろうに。
壁穴を掻い潜る。
此処も四面壁に囲まれており、空間は極めて狭い。隠し通路はそこになく、蔦が這った古井戸が、つくねんとあるだけだった。蔵の中に隠し部屋ならぬ隠し古井戸。縄梯子が掛かっているのだから、随分と意味深長である。
いかにも、逃げ込む翔達を招いているようにも見える。蔵に誘導され、敵の術中に嵌りかけている今、古井戸に飛び込むなど罠に掛かれと言うようなものだ。
「かと言って、悠長に立ち止まることはできねぇ。ツネキ、下りるよな?!」
ツネキが振り返って鳴いてくる。それしか手はないようだ。
「青葉はナノミを。ナガミ、俺の下に来い。ギンコ頼む。飛び込んでくれ!」
自分の下にやってくるナガミを、しかと腕に抱き、垂直落下するギンコの背中にしがみつく。
古井戸は枯れ井戸だったようだ。底の土には水気がなく、さほど深くもない。
人工的に石が積まれた円状の壁の一か所には、大きな穴があり、延々道が続いている。迷うことなくツネキがその穴に進み、ギンコが後に続く。
しかし、その穴に飛び込んだ瞬間、むせ返ってしまう。
息もできない咳き込みは、枯れ井戸の空気の悪さと異常を教えてくれた。おかげで涙目になり、腕におさまるナガミと背後にいる青葉から、憂慮ある声を掛けられた。
大丈夫だと返すも、ここは非常に息苦しい。喉のイガイガが止まらない。
「瘴気が充満している。お前等、必要以上に空気を吸うなよ」
翔は瘴気に対して過剰反応を起こす一方、毒に対する免疫力は非常に強い。また反応があるからこそ、体の異常が目に入りやすい。
だが同胞はそれがなく、気付けば瘴気におかされていた、という可能性もある。
ある意味、同胞よりも翔の方が安全なのだ。だからこそ、翔は皆に呼吸の制限を指示した。
「わりと長いな。この横穴」
左右の土壁から突き出すように、松明が等間隔に整列している。
ごく最近まで人が手入れしていたのだろう。それがまた不気味さを醸し出している
ふとツネキが耳を立て、背後を振り返って来る。
その視線を察したギンコが加速し、金狐の隣に並んだ。翔も後ろを振り返り、持ち前の耳をよく澄ませる。
ザ、ザザ……ザザ……ザ、ザザザザザザザザザザ。
引きずるような、足音のような、それに似つかわしい音が聞こえる。無数の音が折り重なり、まるで波のように翔の鼓膜にそれが届く。
「げほげほ。来やがった。来斬の黒狐だ!」
この一本道で、黒狐の波に襲われてはひとたまりもない。急いで逃げなければ。
「一か八か、賭けに出ましょう。ツネキさま、御手をお貸し下さいませ」
錫杖を握り締めた天馬が膝立ちとなる。いったい何をする気なのか。尋ねる間もなく、ツネキの足が加速していく。クオーン、一声上げる金狐が勢いづいて天馬を宙に放った。
「オツネさま、気を付けて下さい」
彼は宙に浮けない翼をはためかせ、その翼で風を起こすと、天に向かって錫杖を突き刺した。
「翔殿。下を向いて」
青葉から無理やり頭を下げられる。それは翔の目を守るためだった。風力の勢いに乗った錫杖の力は土壁を砕き、瞬く間に土砂崩れが発生する。
顔を上げて振り返れば、半分ほど道が塞がっている。これだけでも時間稼ぎになる。
「出口です。ツネキさま、オツネさま、お心構えを」
宙を返って、ツネキの背に着地した天馬が向こうを指さす。
一本道の土壁の果てに見えてきたのは、緩やかな土の坂。土壁に沿うように掘って作られたそれは、上に向かって伸びている。
坂の頂上、そこの天井の穴からは縄梯子が垂れ下がっていた。
あそこから地上に出られるようだ。
だが、あまりに都合の良い展開だ。来斬と弥助に攻められ、枯れ井戸に飛び込み、黒狐達に追われ追われて此処まできた。
そして見えてくる出口。
断言できる。自分は誘い込まれている。
「迷っている暇はありませぬ。翔殿、例の狐達がやって来ます」
心を見透かした青葉が意見を出す。ご尤もな意見だが、無鉄砲に行けば痛い目を見る。ここは敵の本陣だ。
「捕まってしまうならば、いっそ罠へ飛び込めです」
翔が躊躇いを見せると、彼女がらしからぬことを言う。驚きのあまりの目を丸くしてしまった。
なのに彼女は、当たり前のように目で笑った。
「前後、どちらも地獄なら、先へ進む。翔殿なら、そう仰るかと思いまして。違いますか?」
つられて笑ってしまう。
「さすが青葉。俺のことをよく分かっているじゃないか」
つい、らしくないことを思ってしまったのだ。足手纏いがいるのに、罠へ飛び込むのはどうなのだろう、と。
「足を引っ張って、お前達に怪我をさせるかもしれない。だから臆病になっちまった」
「いつも私達を心配させるというのに、何を仰いますか。私は貴方様と生きると決めています。もちろん、オツネも」
この面子で南の地を見守ると決めたからには、どのような罠にも屈してはならない。
青葉は翔の背に手を添え、「行きましょう」
「例え罠が待ち構えていようと、私達が不自由な体を補佐します」
彼女は強く主張した。それが怪我の元になるのではないか、と懸念しているのだが、今は素直に心強いと思っておくべきだ。
また翔は気付くのだ。自分は対のことばかり頭を占め、彼女達のこと忘れていた。
「青葉が、ギンコが……お前達が傍にいてくれるだけで、こんなにも心強い。俺はもっと頼らないとな」
これから先、どのような苦難があろうと、この面子で乗り越えるのだ。それを決して忘れてはならない。
「どちらにしろ振り返る時間はないですよ。翔」
来た道を振り返った天馬が目を眇めた。
見なくとも分かる。おぞましい無数の奇声が、波のように押し寄せる音が、黒狐達の足音が、翔の耳を反応させたのだから。
黒狐達は瞬く間に地上を支配すると、四方八方に分散し、壁や天井を這い始める。重力など一切無視だ。翔達が出口である穴を目指すと、その背を追うために群れが押し寄せてくる。
黒狐達に同胞意識はなく、前へ出る狐の頭を踏み沈め、我先に前へ出ようとする。結果、それが波のような動きを見せる。
「散りなさい」
青葉が無数に癇癪玉を放る。爆ぜた拍子に黒狐が数匹達、波の中に沈んでいく。足止めにすらならない。
先導するツネキが螺旋状に宙を翔けながら、出口の穴に飛び込む。
数秒遅れてギンコが穴に飛び込むと、それに食らいつこうと狐達が飛び掛かってくる。ナガミとナノミが遠吠えと共に威光を放つも、影法師のように消滅してくれることはない。見せるのは怯みばかり。
「なんで、威光で消えないんだ。しつこい奴等だな」
「翔殿、あれは来斬の使い魔です。ただの妖ではありません。謂わば、来斬の分身。己の妖力を具現化させ、新たな使い魔を生みだしているのです」
来斬の分身。なるほど、だから威光を放っても消滅しないのか。
威光は生物をおそれさせる力であり、従わせる力。生きとし生ける者達だからこそ効く光なのだ。それが効かないのだから、あの黒狐達の正体が生物ではないことが証明される。来斬の術で生み出した分身だと聞かされたら、納得せざるを得ない。
追いついた黒狐達が上下左右の壁を駆けずり回る。そして、容赦なく飛び掛かった。標的は一匹に絞られているため、ある意味動きは読みやすい。
「甘いんだよ! 俺よりも遥かに強い奴等を無視できると思ってんのか!」
翔は身をかがめ、時に黒狐を玉串で祓い、頼もしい同胞に口角を持ち上げる。
「舐められたものですね」
両指に挟んだ癇癪玉を放った後、青葉が声音を響かせる。
「巫女の我が声に集え。我は宝珠に身を捧げる者。風よ、その身を悪しき者達を攫え」
爆ぜた癇癪玉が、青葉の唱えに反応して強力な爆風を生む。それこそ、ギンコごと攫いそうな爆風の流れに呑み込まれ、壁を這っていた黒狐達が落ちていく。
尚も追って来る黒狐がいると、ギンコの尾っぽに宿った狐火が群れに放たれた。錫杖を構えていた天馬が己の羽根を放ち、敵の四肢に飛ばしす。威光を放ち、目を晦ませるナガミとナノミもいる。翔自身も玉串で黒狐を祓う。
ほら、十代目ばかりに気を取られては、痛い目を見る。誰も彼も無視できない存在なのだ。同胞は強い、十代目よりも遥かに。
垂れ下がる縄梯子の終わりが見えた。
穴から金銀狐が飛び出すと、だだっ広い和室が顔を出した。日輪の社にある、憩殿の大間のような広い和室は一面畳張りだ。周囲を観察する限り、ここは別荘内部のようだ。あの穴は別荘と蔵を繋げる経路だったのだろう。
静まり返っている和室は大層不気味であった。畳ばかりの部屋は生活感がなく、両側には壁の代わりに障子が張られている。果てがない。
そして道があろう前後の襖。美しくも艶めかしい黒百合が描かれたそれは、翔達の訪れと共に後方で音を立てて開く。様子を見る限り奥の部屋にも襖があり、次の部屋にも襖が見える。
金銀狐が全開された襖に飛び込み、相手の誘導に乗った。それに異議を唱える者はいない。皆がそうするべきだと考え、また追っ手から逃れるためにも進むしかなかった。
部屋に飛び込む度に襖が開かれる。それは、なんとも歪な光景だった。ある時は上下反対に嵌められた襖が左右に分かれ、ある時は横に嵌められた上下に分かれ、またある時は左右の襖が交差して道を作る。
「なんだ、この空間。ただの別荘じゃねえってか」
目が回りそうだ。天と地が分からなくなってしまう。
「翔殿、常識にとらわれてはなりませぬ。ここは黒百合の本陣です」
「分かっている。いるんだけど……生きている時間が短いせいかな。どうしても戸惑っちまうんだ」
連なる壁代わりの障子、果ての見えない畳、意志を宿した襖。
永遠すら思えた、それの終わりがようやく訪れる。前方に見えた、今までとは違う薄暗い部屋が視界に入ったと思ったら、今まで自分達を招いていた襖達が順々に閉じられていく。
翔達が部屋に入ると、最後の襖が閉め切られた。振り返ったところで、襖は何事もなかったように静寂を保っている。
「よくぞ参られた、参られたことよ。若き白狐、我等が魂の同胞、このようなところまでご足労頂き誠に光栄、光栄ぞよ」
静まり返る空間に凛と響き渡る、若い声としゃがれた声。
急いで一室を見渡す。まだ日が出ているというのに此処は暗い。ただだっ広い和室とは違い、四面の壁と天井、床、すべて板張りで造られた空間だった。各々黒百合を象った印が描かれており、それはどことなく“日月の社”本殿を思わせる造りだ。
ゆるりと襖の対向側に視線を留める。
そこも本殿のように祭壇があった。左右の行灯が、ぼんやりと祭壇と祀られている鏡を照らし出す。相違点は黒百合が鏡に添えられるように飾られているところと、得体の知れない骨の山が捧げられているところ、だろうか。
(あの骨は一体……)
翔の浮かんだ疑問が脳裏を過ぎった時、ふっと苦い記憶が蘇る。
もみじのような小さな手を伸ばし、自分の助けに嬉しそうな笑みを零していた子供達の表情。冷たくなった体温。半開きになった眼。
「まさか……あの骨は、まさか」
こほん。零れる咳が空気の悪さを教え、予想が現実味帯びる。次第に翔の縦長の瞳孔が細くなり、怒りを宿し始めた。
グルル、低い唸り声を上げて尾の毛を逆立てる。
「翔殿。冷静を欠いてはなりませぬ」
青葉が落ち着くよう促してくるが、どうしても苛立ちが止まらない。
「ほっほ。なんと血の気の多い狐だろうか、狐じゃろうか。いや元はヒトの子と、呼ぶべき、存在か」
一呼吸置く度に入れ替わる若い声と、しゃがれた声が嘲笑した。姿は見えない。
「くそ。どこだ!」
一向に見えない姿に出てくるよう喝破すると敵は答えた――最初から自分は此処にいる、と。
気配のない部屋には、確かに誰もいない。部屋を見渡したところで姿形は見受けられない。なのに、輩は此処にいると答えた。どこに。
「翔。上です」
いち早く気配を捉えた天馬が天井を見上げた。
視線を持ち上げると、祭壇の真上に姿形がひとつ。重力に逆らい、その場で正座をしているその輩は、翔と同じ浄衣を纏うも、その色は臙脂で鮮やかなものであった。生き血を彷彿させる見事な色であった。
「元ヒトの子、三尾の妖狐、白狐の南条翔。お初にお目にかかる」
す、と立ち上がり、輩が宙を返って床に降り立つ。
向かい合うことで初めて、顔を拝むことが出来たが、輩の素顔は分からない。何故ならば面をかぶっていたからだ。それはそれは歪な面だった。獣を象ったであろう面は、鳥のようで、犬のようで、狐のようで。
翔は面の表情をなんと言えばいいか分からず、眉を寄せてしまう。
敢えて挙げるのならば、面は常に変化をしている。それこそ表情のように、一つ目の面となったり、鬼の面となったり、ヒトの形をした翁の面となったり。
不気味。相手の姿はそれが似つかわしい。妖気は感じられない。
「戸惑いか。ならば、顔を統一しようぞ」
そう言って狐の面になる、その輩の顔。
右半分は若き狐を、そして左半分は老いた狐を象徴した面持ちとなり、翔を真っ直ぐ捉えた。それらが両方喋ることにより、若い声としゃがれた声が交わって一つの声となった。
「名を妖御魂と申す。様子を見る限り、既に名を存じているようで光栄、まことに光栄なことよ。我等が魂の同胞よ」
オヨズレミタマ。
そう名乗る妖はくつり、と喉を鳴らすように笑った。黒百合の総大将、オヨズレミタマとは、この輩を指すらしい。
青葉に確認の意味を込めて視線を送ると、彼女の総身の毛が逆立っていた。あれほど落ち着けと自分に諭していたというのに、あれが親玉で間違いなさそうだ。
「オヨズレミタマ。そっちも俺のことを知ってくれているようで光栄だよ。お前らの同胞になった記憶は一抹もねぇけど」
遠回しに同胞と呼ぶな、自分は認めていない、と言葉の端々で棘を巻く。
ほっほっほ。オヨズレミタマが嫌悪する翔の態度をおかしそうに笑う。
「随分と、忌まわしき赤狐に吹き込まれている様子。何も知らぬ幼い白狐なのだから、それも仕方があるまい。齢十八の妖狐、元ヒトの子よ。しかしながら、其の御魂には確かに我等と同じ色が垣間見える。其方はまごうことなき、黒百合に相応しい妖狐」
ただ、其の御魂は幼さゆえに非常に未熟。
黒百合の求める神器となるには、永い年月を要する。そのため御魂は先代の九代目が選ばれた。そう、彼もまた黒百合と同じ色を持つ妖狐なのだから。
ならば、どうするか。安心して欲しい、“依り代”となった十代目の御魂は生き続ける。このオヨズレミタマの中で永遠に。輩はそう謳い、くつくつとまた一つ笑いを零すと姿を消した。
「どこを探しておられる」
煙のように行方を晦ませた、その輩は瞬く間にギンコの頭の上に乗ると、浄衣の袖を振って翔の身を落とす。
「い、いつの間に」
身構える間もなく、翔の身は宙に放られた。