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南条翔は其の狐の如く  作者: つゆのあめ/梅野歩
【第二幕ノ参】葛の葉のうらの百年
132/158

<八>先代達は煮え湯を飲まされた



 ※ ※



 今を去ること百年と一つ余り。

 第四代目北の神主、四尾の妖狐、赤狐の比良利は第九代目南の神主、四尾の妖狐、白狐の天城惣七と南北を統べていた。

 日月の社は対となる存在、如いては双子と称される存在。


 けれども頭領同士は非常に仲が悪かった。

 類を見ない犬猿の仲。大抵の流れは赤狐が白狐の意見に食い下がり、それに白狐が皮肉を浴びせるもの。過激が増せば掴み合いもあったが、いつものこと。

 数多の民は喧嘩ばかりする頭領二人を見て笑い、また喧嘩していると笑ったものだ。


 自分達は周りの目も気にせず、よく喧嘩をしたものだ。


「じゃから申しておろう。主の案は民達を惑わすと。何ゆえ、納める年貢を多くする。今年は去年に続いて不作。納めるのは民であり、我等ではない。ちと考えてから意見を申せ」


「お前こそ、最後まで話を聞け。これは今年来年に通す案ではない。五年以内に通したい案なのだ。来年、仮に豊作であれば、多めに蓄えを取って置き、仮に凶作の年を迎えてもこれで賄える」


「じゃが、俵三つ分は増やしすぎぞよ。今の世は火の合戦。人の世界では物騒な重機が増え、異国の地で戦をしていると聞く。農作の場が減っているのじゃ。主の理想は現実と見合っておらぬ!」


「南北の地は比較的農作に富んでいる。火の合戦が続くからこそ、ゆくゆくの蓄えは必要不可欠。目前の現実のみ考えては、いざという時対処できないではないか!」


 本当に真っ向から対立し、沢山の喧嘩をしたものだ。



 あの日も“月輪の社”本殿で喧嘩をしていた。

 神聖な日月神集、神や先代達の御魂が眠っているの御前にも関わらず、南北の年貢のことで言い合い、火花を散らした。

 平行線を辿る話し合いは収拾がつかず、巫女達の仲裁によって打ち切られる。


「もう少し妥協し合ったらどうです。まったく話が進みませぬ」


 紀緒の注意に比良利は匙を投げ、惣七も深い吐息を零した。馬が合わなさ過ぎて疲労ばかりが増す。それが両者の口癖でもあった。


「分からん奴だ。これだから“むこうみず狐”とは気が合わん。頭がおめでたいせいか?」


「戯けたことを申す奴よ。常に余裕を忘れた頭では、日々が地獄のように思えるじゃろうのう」


「女の尻と胸ばかり追う阿呆め」


「おなごの魅力が一抹も分からぬとは、やはり主には男色の気があるようじゃのう。見よ、この紀緒の豊かな胸を!」


 言うや、比良利は紀緒を強引に引き寄せ、両手で弾力ある胸を揉んで見せる。


「これほど幸せな感触があろうか!」


 比良利が大主張するも、己の右手首が鷲掴みにされるのは直後のこと。

 間の抜けた顔を作る比良利に対し、恐ろしいほど綺麗に微笑むのは紀緒であった。


「比良利さま。それなりの御覚悟があっての行為ですよね?」


 ようやく彼女の怒気の強さに気付き、ついつい誤魔化し笑い。未だに両手は胸を揉むという悪さをするものだから始末に負えない。

 瞬く間に手首が捻られ、床に身を叩きつけられる。後頭部を強打したせいか、目から星が出そうになった。

 これで終わるのならば恐怖も少ない。


「これ惣七、紀緒に弁解せぬか! お主のために、わしは身を張っておなごの魅力をッ アダダダダ!」


「はぁ。四代目北の神主の時代も、ここまでか。次の対は、これよりマシだといいが」


「何をっ、わしとてお主のような頓珍漢な狐と対になど……紀緒っ、もう少し手加減を!」


「せめて助兵衛じゃない妖と対になりたいものだな」


 こうして嫌味をぶつけあい、ついに二人は席を立つ。これ以上、話しても無駄だと理解していたからだ。


 それでも自分達は不思議と上手く南北を統一できていた。

 “月輪の社”は今までにないほど栄えており、それに劣っているものの“日輪の社”も上手く北の地を統べることができていたのだ。


 ただ、比良利は常に敗北を味わわせられている惣七に対抗心を燃やしており、いつか必ず鬼才から勝利をもぎ取ると心に決めていた。


 言い合った案とて悪いものではない。

 彼なりに、民を考えて考案したもの。通ればきっと、未来に備えた素晴らしいものとなるだろう。


 彼の出す案はいつだって魅力がある。


 比良利は悔しかった。

 自分には思いつかない案を、彼は先立って出すのだから。同時期に神主修行をし、揃って神主に就任したというのに敗北ばかり。劣等感に苛まれることは少なくない。

 性格が合えばまだしも、そりが合わない現状。鬼才とは常々嫌味な存在である。



 けれども、そんな鬼才も完璧な妖狐ではなく、一つだけ過ちを犯していた。

 それは焦りが生んだ過ちであり彼の罪。誰からも敬う鬼才は、唯一南の神使に毛嫌われていた。


「オツネは現れなかったか」


 たった今まで行われていた日月神集に、最後まで顔を出さなかった神使を思い、惣七は溜息を零す。

 比良利と喧嘩していた苛立ちも忘れ、彼は本殿を出ると何処かに銀狐は居ないかと目で探していた。


「そこにいたのか」


 銀狐は本殿の段裏に隠れていた。 

 それに気付いた惣七が片膝をつき、おいでと手を伸ばす。が、銀狐は耳を下げ、縦長の瞳孔を膨張させる。

 歯を剥き出しにして威嚇するオツネに臆せず、小さな頭に触れようとすると惣七の手が長い尾によって叩きつけられた。


「オツネ、駄目じゃないですか」


 若いわかい巫女、青葉がオツネの行為を諌めると、銀狐は脱兎の如く飛び出して本殿から逃げてしまう。

 「待て。オツネ!」比良利は追い駆けようとする惣七を止め、代わりにツネキに後を追わせる。


「お主が行ったところで、オツネは片意地を張るだけじゃよ」


 寧ろ突っ返されるのが関の山。

 かと言って姉妹関係の青葉、自分や紀緒が行ったところで知らん顔だろう。この場合、同じ立場にいるツネキに探させるのが一番なのだ。

 あの狐ならば些少ならず、心を開くだろう。


「今は双方、適度に距離を保て。無暗に他者の心に踏み入れても、オツネはお主を許そうとはせぬよ」


 比良利の考えを聞く鬼才は、必ずこのようなことをのたまう。


「並になりたいものだ。俺は出でた才の代わりに、他者の気持ちに疎い。庶民の気持ちが時折分からなくなる」


 惣七は鬼才ゆえにどこかずれている思考を持っている。

 凡才には分からない思考、だから凡の己には到底真似できないやり方で社を栄えさせることができるのだろう。


 だからこそ惣七の悩みでもあった。

 凡才であるオツネの心を傷付けないよう、接するにはどうすれば良いか、傷付けてしまった心を癒してやるにはどうすれば良いのか、いつも悩んでいた。


 比良利には簡単すぎる問題を、真剣に悩んでいた。




 これが百年前の日月の社の光景であり関係。これからも続くであろう関係と信じていた。


 だが事件は起きる。

 契機は日月神集を終えて暫しのこと。

 ある妖が日月の社に助けを求め、墓地裏の集落が神隠しにあってしまったのだと知らせてきた。一人二人の話ではなく、助けを求めに来た妖を除くすべての者達が集落が姿を消してしまったとのこと。


 北の地にある集落であったため、比良利が現地に赴いた。まことに妖一匹姿を消しており、これはどうしたものかと目を瞠ってしまう。

 目新しい手掛かりとして見つかったのは、家々に落ちていた黒百合だけ。

 報告を待っていた惣七に見せると、「挑発として置いて行ったのか?」不気味だと感想を述べていた。


 神隠しは続く。

 北の地から南の地に伸びる魔の手は、民達に得体の知れない恐怖を与え、いつ仲間が、そして己が消えていくのか。何処かに連れて行かれるのか。身を震わせながら日々を過ごすことになった。


 このままでは南北が恐怖に包まれる。

 比良利は惣七と手分けして、同胞を見つけようと奔走した。雲のように消えてしまうなど、この世にあるわけがない。何かしら同胞達の手掛かりが落ちている筈だ。



 風の噂で霊媒師が良からぬ動きをしていると耳にする。

 なんでも屋敷に山もりだくさんの妖を集めているそうだ。

 異変を感じられないのは、人間が護符で気を封じているせいだと、(かわうそ)の妖は青魚と引き換えに情報を提供してくれた。


「まことの話だとすれば、これは人間の仕業となるが」


 半信半疑に情報を反芻する惣七は、いまいち信用がないと唸る。

 比良利も珍しく、彼と同じ意見だった。話を鵜呑みにできるほどの信憑性はなく、あくまで獺の妖が教えてくれたのは噂の話。

 確信がない以上、迂闊な行動もできない。


「人間の屋敷に赴いて真実を確かめることが、最善の策じゃろうのう」


「ああ、だがそれは危険な行為でもある」


「しかしながら、火のない所に煙は立たぬ。噂が出ている以上、屋敷に何かしら事が潜んでいる筈ぞよ」


 謎に包まれる神隠しに頭を抱えていた惣七と比良利の下に協力者が現れる。


 名は四尾の妖狐、黒狐の来斬。


 当時“妖の世界”の旗薄の隊として活躍していたやり手の妖狐だった。

 口は荒いが事件があれば古今東西、其の妖達のために走る優秀な奴で、闇にまぎれる体毛を活かしては罪人を捕まえていた。


 比良利達は彼をよく知っていた。

 何故ならば昔、共に修行した同胞だったからだ。彼は先代の南北神主と繋がりのある狐でもあり、時期旗薄の隊の総大将として期待が寄せられている。

 ゆえに自分達が社に来た頃には、既にその姿があり、時に神主達と同じ修行をしていた。


 大変強く頼り甲斐のある狐で、鬼才と称された惣七でさえ、何度も敗北を味わうほど手腕のある妖狐だった。

 だからだろう、来斬は正真正銘の化け物だと比良利は何度も思った。

 共に修行した期間は短かったが、実力は自分達に並ぶもの。長年の顔見知りでもあったため、惣七も比良利も信じていた。彼を心の底から信じていた。


「話は聞いたぜ。人間様の屋敷に行くんだろう? 俺が行ってやらぁ」


 彼は自分がその屋敷に潜入して、様子を見に行って来ると申し出てくれる。

 有り難いことではあったが、危険と承知の上で一般の民を霊媒師のところにやるのは如何なものだろう。ここは我等が行くのが道理なのでは。


「おいおい、そういう心配は俺を負かしてからにしろって。惣七でも、比良利でも、二人がかりでも相手になってやるぞ」


「手腕のみならば、お主の方が上じゃろうよ。はぁー、何処からその馬鹿力が生まれるのじゃか」


「お前等が非力過ぎるんだよ。いっそのこと“旗薄の隊”に入ってみっか? 鍛えられっぞ。神主達の生活と違って、こっちとらぁ目覚めてすぐ走り込みだからな」


「……想像するだけで横っ腹が痛くなりそうだ。比良利、お前の穢れた精神を落とせる良い機会かもしれんぞ」


「その台詞、まんまお主に返すわい。隊に入れば、少しは頑固な頭が柔らかくなるのではなかろうか」


「相変わらずだな。仲が良いんだか、悪いんだか」


 豪快に笑う来斬が、比良利と惣七の腕を見るや小枝のようだとからかう。

 すぐに人の体と自分の体を比較する性格はなんとかならないものか。苦言を漏らしつつも、二人は同じ釜の飯を食べた同胞と笑い合う。


 頼れる来斬はやり手の妖。

 神隠しがこれ以上、広まらないように最善の策を取るのが先決。結局、二人は彼の厚意を受け入れ、協力を頼んだ。


 惣七の案により、一手は来斬が率いる旗薄の隊と同行。一手は南北に何か遭った時のための待機として組を作ることになる。

 当然、屋敷に同行するのは惣七であり、比良利は南北を任された。

 悔しいが実力は対の方が上だ。解決を優先させるならば、自分は待機に回るべきだと身を弁える。



「大変にございます。惣七さま、“鬼門の祠”の結界が!」



 しかしここで予定が狂う。

 なんと南の地の“鬼門の祠”に異変が起きたと、青葉が飛び込んできた。何者かの手によって第一結界が解かれているのだという。


「なんだと。祠の結界が? ……比良利、些か不安だがお前が行ってくれるか」


「お主は余計な言葉が多いんじゃよ。言われずとも、わしが赴くわい」


 南の地の“鬼門の祠”の結界を張りなおせるのは、其の地の頭領のみ。

 至急、惣七と役回りを入れ替え、比良利は旗薄の隊と紀緒達を率いて、夜更けと共に怪しいと睨んでいる人間の屋敷に向かった。


 霊媒師が住む屋敷に辿り着くや、待っていたのは夥しい妖の死霊。

 死者を甦らせると知られる反魂香(はんこんこう)と、常世を覗ける“玉葛の神鏡”を使い、その屋敷の当主は自在に死霊を復活させていた。

 やはり神隠しは人間の仕業だった。神隠しに遭った者達をわざわざ死人とし、それを甦らせて、効力を試していたのだ。

 霊媒師は自分達の気配に気付くや、妖の死霊を放ち、己は屋敷の奥に姿を隠してしまう。


「おのれっ、人間め。我等の同胞をよくも」


「落ち着け比良利。ここは二手に別れるぞ。俺は隊を率いるから、お前は別嬪巫女達と行け。屋敷は広そうだからな。全員で動くより、ずっと効率的だろう」


 異論はない。

 比良利は旗薄の隊と別れると、紀緒達と共に霊媒師の行方を探す。見境なく襲ってくる妖の死霊には申し訳ないが大麻で祓わせてもらった。

 かつて同胞だった者達には、後で祈りを捧げるつもりだ。己のことのように同胞の無念を噛みしめつつ、屋敷を隈なく探す。


 やがて霊媒師のいる一間の辿り着く。

 力任せに障子を開ければ、四面板張りの広い大間。向こうには“反魂香”を焚いた香炉と“玉葛の神鏡”を持つ人間。

 それから、あろうことに情報を提供していたあの獺が隣に立っていた。


 中に入った比良利は気付く。

 これはもしや罠だったのでは、と。


 予感が的中したと実感したのはツネキ渾身の捨て身、そして背後から放たれた銃弾が利き肩を貫く瞬きの間。

 霊媒師と獺に気を取られていた比良利は、その場で片膝をついてしまう。


「くっ、ぬかった」


 予測するに心の臓を狙われていたのだろう。

 ツネキのおかげで軌道が逸れたものの、肩をやられたことは不味い。大麻が自由に振れるだろうか。


「比良利さま!」


 血相を変える紀緒に、輩から目を放すなと命じる。

 自分は大丈夫だと虚勢を張り、撃たれた肩を片手で押さえる。止めどなく溢れる鮮血に顔を顰めていると、ツネキが忙しなく背後に向かって鳴いた。

 同時に笠をかぶった獺は歓喜し、成功だと比良利達の向こうにいる妖に告げる。



「これで我等は死者を呼び出せようぞ。人間畜生と手を組んだ甲斐があったな――来斬」



 煮え湯を飲まされた。

 何を言っているのか分からず目を白黒してしまう比良利に対し、予定が狂ったと来斬が冷笑。


 嘘だと思いたい。

 固唾を呑んでそっと振り返れば、まごうことなき黒狐が立っている。

 全身返り血を浴びている狐は見たこともないほど残忍に綻び、「説明不足だったなぁ」大袈裟に肩を竦める。

 本当は“惣七”を此処に呼び、祠に“比良利”を向かわせることで、鬼才の血相を変える顔が見たかったと黒狐。


「まさか“南の祠”に行っちまうなんざ、人間も早とちりしてくれたもんだ。ま、順序が書き換えられたってことか。これも運命よ」


「……来斬、お主」


 凝視する己の顔を、さも愉しそうに来斬は嗤う。


「比良利、貴様は運が良い。長寿と呼ばれた北の神主だからか? 南の神主は皆運がねぇ奴等ばっかだ。惣七もそうだ。運がねぇ」


 運がないこともひっくるめて、それが持ち前の力だと来斬は豪快に笑声を轟かせた。

 彼はいつものように笑っているつもりなのだろうが、全くの別人に見えて仕方がない。この男は己の知る来斬だろうか?

 「後は頼むぜ」軽く片手を挙げ、来斬は一間から飛び出す。ツネキが狐火を放つも、輩には届かずに終わった。


「何が、何が起きておる。旗薄の隊はどうした。他の者達は……」


 一刻も早く来斬を追わなければ。

 そう思えど追うことは叶わず、霊媒師が甦らせた、猿の顔、狸の胴体に虎の手足、蛇の尾を持つ奇抜な妖の鵺が行く手を阻み、比良利達を襲わせる。

 側らにいた獺の妖に至っては、同胞であろう妖の死霊達を“反魂香”を焚いた香炉を通して操る始末。


「来るぞよ。紀緒、ツネキ、構えよ」


「前線は我等にお任せを。隙が出来次第、飛び出して下さいまし」


 こうして混乱した頭のまま鵺と戦をする。

 強力な相手のせいか、悪戦の末に辛うじて勝利。霊媒師の首を刎ね、獺を生捕ることに成功する。

 けれども輩は死を恐れていないのか、己の役目は終わった。貢献できたと満足げに一笑を零し、以下のことを述べる。



「我等は“黒百合”を敬う者。南北の地は宝珠の加護ではなく、我等の加護を受けるべきぞ。宝珠など争いの火種に過ぎぬ。人にでも渡してしまえば良い。赤狐よ、今頃白狐はどのような目に遭っているであろうか」



 それはどういう――。


 一瞬の油断が獺の自決を許してしまう。輩は比良利達を突き飛ばすや、持ち前の爪で容赦なく喉を引き裂いてしまった。

 生け捕りにされることは死より苦痛を与えられることだと、獺の妖は知っていたのである。


「比良利さま、南の地にある“鬼門の祠”に向かいましょう。来斬が気掛かりです」


「分かっておる。輩達が使用していた神具は、此方で預かっておこう。もしや何処からか盗まれたものやもしれぬ」


 神具を回収すると、比良利は紀緒達と共に屋敷を後にする。


 その際、気になっていた旗薄の隊の安否が確認できた。

 彼等は屋敷の一角で全滅していた。雨あられに受けたであろう銃弾と長巻の刃傷が目立つ凄惨な光景には何も言えず、比良利は旗薄の隊の総大将や、彼等の家族になんと詫びようか、と重い嘆息を零すしかできなかった。


 哀れみを秘める心を抱いたまま、急いで南の地にある“鬼門の祠”に向かう。紅の宝珠の御魂が疼いたが気のせいだと言い聞かせた。言い聞かせつづけた。


 あれは鬼才。

 何があろうとくたばるような男ではない。凡才の自分とは違う。短命と呼ばれている南の神主達だが、あれは歴代の中でも群を抜いた鬼才。


「惣七なら、どうにか乗り越えてくれようぞ。必ずや乗り越えてくれようぞ」


 腹立たしい男だが、才能は確かなのだ。


 だからだろう。

 祠に到着した比良利は我が目を疑うしかなかった。

 飛び込んできた光景は祠から漏れる瘴気、巫女や神使の倒れている姿。祠に飛び込めば五方結界を破り、祠の中に祀られている五方の勾玉を掴む人間。

 そして浄衣を余すことなく血に染めた対の(むご)い光景。


「惣七っ!」


 霊媒師である人間が彼から宝珠の御魂を抜こうとしていたので、必死に止めに入り、人間の手から怪我人を救うことができた。

 五方の勾玉を奪い返し、祠の結界を解いた無礼者を祓うと惣七にしっかりするよう怒声を張る。


「これ、起きぬか戯け者。何を寝ておる。早う祠の結界を……」


 言葉が続かない、結界を張るべき南の神主は致命的な傷を負っていた。

 腹部に受けた複数の銃弾に大量出血、もう先が無いと教えてくれる。いや、そんなことはない。絶対に死なない。鬼才なのだ。死ぬわけがない。


「ツネキよ。先に戻って一聴を呼んでくれぬか。一刻の猶予もない」


 承諾の狐の一声は、怪我人の咳き込みによって掻き消される。


「比良利……いい。もう手遅れだ」


 意識を取り戻した惣七は力なく笑い、無様な姿と自嘲。

 まさか応援に来たと告げてきた同胞にやられるとは思いもしなかった。

 鬼門の祠をわざと荒し、自分をおびき寄せる人間の罠に嵌り、同胞の銃弾を受けるなんて本当に無様だと彼。


 気が付いた青葉やオツネが祠に飛び込んでくる。

 彼を慕っていた青葉は勿論、毛嫌っていたオツネさえも惣七に駆け寄って来る。死期を信じられずにいるのだろう。

 涙を零すまいと下唇を噛みしめつつ、すぐに一聴の下に行こうと巫女。神使はどうすれば良いか分からず、彼の右の指先を舐めていた。


「……すまない……青葉、オツネ……油断をしたばかり、お前達にまで怪我を」


 ごふっ、夥しい血を吐く惣七に有無言わせず、比良利は一聴の下に連れて行くと断を下す。

 まだ手遅れではない。傷を負って弱気になっているだけなのだ。

 けれども、惣七は運ぼうとする比良利の手を拒み、寧ろその手を掴んで忠告をする。


「来斬に、気を付けろ……あれはもう……俺達の知る妖狐ではない」


 来斬は己に致命傷を負わせるや、何処かへ消えてしまった。

 目的は分からないが、あれで終わる狐ではないだろう。惣七は眉根を寄せる。

 視界を遮るように瘴気が漂ってくる。それを目にした彼は、最後の大仕事をしなければと告げ、オツネが舐めていた指先を丸める。


「比良利、俺は今から……“御魂封じの術”を使い、結界から漏れる瘴気を封ずる」


「なっ、お主は馬鹿か。今のお主がそれを使用すれば」


「どちらにしろ果てる身だ。恐怖はない……お前には終わり次第、宝珠を抜いて欲しい」


 白の宝珠の御魂は正しき妖に受け継がれるべきもの。

 来たるべき時が来るまで、なんびとも触れさせてはならない。これを狙う人間は祠にいた者達だけではない。あれは団体として動いている。


 嗚呼、宝珠の御魂の導きにより、いつか、これを受け継ぐ妖は現れてくれよう。

 それを目にすることができないのは残念だが、きっと受け継がれてくれる筈だ。己の無念を残した御魂と共に。

 惣七は青褪めた顔のまま比良利に稀に見る笑顔を見せた。


 自己完結してくれるものの、頼まれる此方としては堪ったものではない。


「馬鹿を申すな。これは、主の手で次の十代目南の神主に受け継がせるものぞよ。わしはせぬぞ。お主が己の手で受け継がせるのじゃ。何故生き急ぐ。何故己の生を信じようとせぬ!」


 上擦った声を出すと、情けないことを言うなと一蹴。

 最後の最後まで意見の合わない妖狐だと苦笑し、惣七はそんな男に頼み事をするのは腹立たしいと憎まれ口をきく。

 そこで吐血しなければ、いつもの彼だった。



 祠に瘴気が充満する。

 五方の勾玉が欠損しているのだと気付き、比良利は急いでそれを祠に戻した。怪我人はそれを修復するほどの力は持ち合わせていない。

 惣七は比良利に体を支えてくれるよう指示する。すべて承知の上で、彼は切り札とされる術を使用するつもりなのだ。


「覚悟の上か。惣七」


「時間はない。無駄口を叩くつもりがあるのなら……」


 再び吐血する惣七を目にした比良利は悔いる。

 己にもっと腕があれば、来斬の銃弾を浴びなければ、怪我を負わなければ、今よりも早く彼を助け出せただろう。

 間に合わなかった現実が重くのしかかる。


「承知した。我が対の願いは、わしが叶えよう」


 比良利はついに惣七の願いを聞き入れ、上体を起こして、その背を支えてやる。

 どことなく満足げに口角を緩める惣七は、苦しいだろうに、辛いだろうに、大麻を召喚して最後の最期まで力を振り絞って第三結界まで張り直す。

 そして誰にも有無言わせず御魂封じの術”を発動。彼の御魂に溢れだした瘴気が吸い込まれていく。


 事を終えた彼は虫の息だった。

 呼吸すら消えそうで、けれど未だに苦しみが顔に貼りついたまま。

 比良利は脆いと思った。鬼才だからと高を括り、勝手に強いと思っていた彼は儚かった。生きとし生ける者は強いようで弱いのだ。それを初めて知った。

 そんな彼にしてやれることは、望みを叶えてやることのみ。


「オツネ、すまない。青葉、すまない」


 宝珠の御魂を抜くと分かった惣七は、過酷な運命を背負わせるお前を最後まで甘えさせることができなかったとうわ言を漏らし、泣きじゃくる青葉に寂しい思いをさせてすまないと二度謝った。


 抜けば消える命。

 抜かずとも数分の命。


 比良利はせめて対に、外の世界を見せてやろうと思い、祠から対を連れ出してやった。夜が明け始める空の向こう、小鳥が囀り、冷たい明けの風が通り過ぎていく。

 腕の中にいる対を地に下ろしてやると、彼は虚ろな眼を空に向け、昇り始める太陽に眩しいと感想を述べる。


「もう……二度と、朝陽を目にすることがないのだな」


 それはとても寂しいものだと惣七。

 これから先も朝陽と共に眠り、夕陽と共に目覚めて、あまねく妖達を見守ると思っていた。それがこんなことになるなんて、本当に残念だと彼は零す。


「比良利。お前とは本当に気が合わない……日々だった。出逢いも、修行の最中も、就任後も。何故お前と対にならなければ、と何度腹を立てたことか。だが」


 惣七は幸せを噛みしめるように比良利を見上げ、無念と悔恨を宿した感情を滴として一粒零す。



「とても、楽しかった……おまえと南北を見守れたことは、おれの誇りだ。比良利と対になれて良かった」



 らしくない、比良利は惣七にらしくないと悪態をつく。

 いつにもなく汐らしいではないか。あれほど己に嫌味を吐いていたというのに、気色の悪いほど大人しく感謝を述べる。そんなの惣七らしくない。


「わしは楽しゅうない……勝手なことばっかりしよって。残される我等の身にもなってみよ。わしはお主と対になれたことを、今も……今も……」


 いつものように“不幸”だと嘆いてみせなければいけないところで、言葉が詰まってしまう。

 明日から、否、今日から己に対はいなくなるのだ。

 もう二度と嫌味を吐き合うこともなければ、掴み合うほどの喧嘩をすることも、それこそ南北を二人で見守ることもできなくなる。

 これから先、どのように願おうと四尾の妖狐、赤狐の比良利と対であった妖狐は姿を現さない。彼の役目は此処で終えるのだ。


 喪失感に襲われる。

 そうか、自分にとって対とは、こんなにも。

 非常に腹立たしいが、この男と対になれたことは誤魔化しようのない幸あることだったのだ。


「……惣七?」


 比良利の思いの丈は彼にぶつけることができずに終わる。

 腕の中にいる対は目を開けているのか、それとも閉じているのか、もう微動だにしていない。体はまだ生温かいのに。


 走馬灯のように彼と過ごした思い出が蘇る。

 出逢い、修行、就任後、彼とは苦楽を共にしてきた。誰よりも遠い存在であり、誰よりも近い存在だった。

 鬼才と凡才、彼の存在に悩まされたことはあれど、まぎれもなく自分の対だった。まぎれもない同志だった。


「たわけもの。何ゆえに、このようなことになってしまったのか」


 本来は己が惣七のような目に遭っていたのだろう。

 己の悪運が強いのか、それとも彼に運がないのか。

 泣き笑いを零す比良利は最後まで勝手な奴だと愚痴を零し、彼の腹部に手を添えて宝珠の御魂を抜いた。

 それを持ったまま抜け殻を抱きしめ、血反吐を吐くように咆哮した。無念、怒り、悔恨、あらゆる激情を込めて。


 命は脆い。

 対の死に顔を目にして、改めて実感させられた。命は強くも脆い、鬼才も凡才もない。それはまるで硝子玉のよう。



 ※ ※



 語り部が一息つくことにより、部屋に静寂が訪れる。

 ただただ口を閉じて静聴していた翔は、百年前に起きた事件に悲しみを覚えた。

 不思議と腹部が熱くなるのは、体内に眠る宝珠が共鳴しているからなのか。先代の無念が呼応しているのかもしれない。


「惣七さんは最期まで、皆を守りたかったんだね」


 気の利いた言葉が見つからず、翔は思ったことを率直に伝える。

 微苦笑を貼り付かせる比良利は物言いたげに頷く。

 彼としては、最後の最期まで生きる選択肢を選んで欲しかったのだろう。生きる悪足掻きをして欲しかったのだろう。


「わしにしてみれば、ただの戯けた者じゃよ」


 憎まれ口も、限りなく弱弱しい。


「その後、わし達は黒百合の妖達、そして宝珠を欲する人間と対峙し、三年(みとせ)を費やして壊滅に追い込んだ。随分と大きな集団でのう。討つのにずいぶんと時間を要した」


 黒百合とは独自の宗教観念を持っており、自分達こそ南北を統べる者だと信じてやまない。無差別に妖の魂を甦らせ、己の中に取り入れることで力を得ようとする悪徳な者達なのだと語り部は唸った。


 煮え湯を飲まされた来斬もその一人で、自分達の知らないところで黒百合に所属。

 自分が長を務める旗薄の隊の部下を殺し、旗薄の隊自体壊滅に追い込んだ。


 挙句天城惣七に致命的な傷を与えた。

 彼だからこそ鬼才に傷を負わすことができたのだ。きっと惣七は油断していた。応援に来たと言われ、それを素直に信じ切ってしまったのだ。


「運命とは、かくも不思議なものよ。当初、来斬はわしを亡き者にし、惣七を煽るつもりじゃった。鬼才は最後に討とうと目論んでおったのじゃろう」


 だが、ちょっとした悪戯によって運命の指針は大きく変わる。

 亡き者にされたのは惣七で、煽られたのは比良利だった。文字通り、対を失った彼は怒り狂ったという。怒りは力に変え、糧となって来斬を討ち取った。黒百合とその人間達を壊滅に追い込んだ。


 寸前、数人の力なき黒百合の妖が逃げてしまう。

 惨劇を繰り返してはいけないと、血眼になって探したが彼等は見つからなかった。時間を費やし、探し回っても見つけることが出来ず、比良利は諦めたのだという。


 あれから百年、黒百合は力を蓄え、再び南北の地を脅かす。

 “玉葛の神鏡”は奪われ輩の手に。確かに討った筈の来斬も姿を現して、この世に両足で立っている。

 己の対は死の淵に追いやられ、自分は対の危機に間に合わなかった。百年前の悲劇は繰り返されようとした。


「わしは片割れを失う日々がまた来るのかと、訪れる夜と共に途方に暮れた」


 翔は瞼を下ろす赤狐の横顔を見つめる。

 自分の知らない九十九年、比良利は一人で南北を統一し、民達を見守ってきた。それは素晴らしいことに違いないが、彼自身はどうだろうか。


 対を失った九十九年、何を思って生きてきたのだろう。


 翔は思い出す。

 神主代行として修行をつけてくれた比良利との日々を。


 彼は厳しかった。本当に厳しい修行を己に与えた。

 並行して、二人で神主舞が踊れたあの日、彼は子供のようにはしゃいで己を褒めてくれた。大袈裟に褒めてくれた。

 大麻の修行も一つ一つの術ができると菓子を与え、自分に労いの言葉を贈ってくれた。まんま子供扱いだったが、比良利は構わず自分のことのように喜んでくれた。


 今も自分が立派な神主になれるよう、見守り支えてくれる。


 彼が隣にいなくなってしまったら、双子の片割れがいなくなってしまったら、自分は寂しくてしょうがない。助けられなかった思い出に浸って涙することもあるだろう。神主舞を一人で踊っては、物思いに耽るだろう。


 そして、それらをひっくるめて気持ちを隠し、神主として、民を先導し、昇る命を、沈む命を見守るのだ。なんて寂しいのだろう。


「来斬とは、親しい仲だったんだよね。なのに、どうして彼は二人を裏切るようなことをしたのかな。それだけでなく、旗薄の隊を壊滅させるなんて。何が彼をそうさせたんだろう」


 赤狐が目を開ける。

 開いているのかどうか分からない、その糸目を力なく和らげ、肩を竦めた。


「それは宝珠を持った我等にすら分かりかねぬ。何ゆえ、あやつは悪しき人間と手を組み、御魂を闇に染めてしまったのであろうか。今やわしとあやつは不倶戴天の敵。あやつはわしの対を殺め、わしはあやつを隻眼とし闇へ葬った」


 悲しいことだ。

 親しい仲が一変して、憎しみ合う仲に豹変したのだから。自分と幼馴染達も、そのような関係を築き上げる未来があったと思うと、やや胸が苦しくなる。


「同じ釜の飯を食した時代が色褪せておる。気付けば、わし一人となってしまっているのじゃからのう」


 来斬に殺された惣七、同志を殺めた来斬、その来斬を討った比良利。

 前者二人は既に亡き者となっているのだから、比良利の知らぬ過去に翔は心を痛める他ない。


「黒百合は何が目的なのかな。宝珠の御魂が此の地を統治することに不服を持っているようだけど。俺を狙う理由も、よく分からない。輩は宝珠ではなく、俺を狙ってきている」


「他者の御魂を取り入れることで、強き神に転生する。それが黒百合の思想。ぼんを狙う理由は読めぬが、良からぬことであろう」


 南北を統べる頭領として自分達は輩を討たねばならない。

 比良利は熱を入れて語ると、横たわる翔に近寄った。


「わしはもう迷わぬ。お主の強さは、この目でしかと見た」


 赤狐の柔らかな六尾が腹に乗る。視線を持ち上げると、彼は綻んだ。


「双子の我等は二人で一つ。あまねく子供達を見守る者。このような事で屈するわけにはいかぬ。民を導くため、交わした契りを守るため、共に闘おうぞ」


 口角を緩め、小さく頷く。

 対は許してくれた。百年前の事件と関わることを。

 そして求めてくれた。己の力が必要だと。未熟だと知っている上で、共に闘おうと言ってくれたのだ。これほどの喜びが何処にあるだろう。


 自分は小さい。来斬と会えば、また負けるだろう。


 けれど、自分にもやれることは必ずある筈だ。それを信じて比良利や同胞と、この危機を乗り越えようと思う。

 でなければ再び、宝珠に宿った先代が姿を現すことだろう。彼を安心させるためにも、比良利や皆と乗り越えなければ。


「比良利さん。後で俺と一緒に怒られてくれない? “月輪の社”に行きたいんだけど」


 己を救ってくれた天城惣七に、今度こそ感謝を述べたいのだと翔。

 本殿に祀られる先代達の御魂の中に、彼の御魂も眠っていることだろう。

 申し出に対は仕方がないと言わんばかりに一笑。六尾で翔の体を起こしてくれる。


「言い訳はお主が考えるのじゃぞ。でなければ、わしがコタマに叱られてしまうわい」


「だから一緒に怒られて欲しいんだって。どうせ、言い訳をしたって怒られる道は避けられないんだからさ」


 調子の良い奴だと頭を小突く比良利は、己を背に乗せると、迷うことなく窓から外に飛び出す。

 器用に片手で和傘を開き落下速度を遅くすると、一軒の平屋の屋根に着地した。


 満目一杯に町並みが飛び込んでくる。

 まだ眠る人間達を目覚めさせるように、空は白く染み渡り、太陽が昇る。朝陽だ。妖にとって眠りを教える光だ。

 これから夕陽が射し込むまで、妖は眠りに就く。


 当たり前に繰り返される光景に感動を覚えたのは、己が死に目に遭ったせいだろう。



「翔よ。我等と交わした約束はまだ果たされておらぬ。わしはお主を待つ。いつまでも、待つ。早う隣に来い」



 信じて待ってくれる対に、翔は満面の笑顔を浮かべた。


「必ず隣に立つよ。約束だからね」


 もしかすると比良利を追い越してしまうかもしれない、なんぞと生意気口を叩けば、彼の六尾が順序良く額を小突く。

 それは向こうの自尊心が許さない、らしい。


「惣七さんに馬鹿にされないためにも、頑張らないと。下手こいたら俺は先代に顔合わせができないよ。折角助けてもらったのに」


「わしは積もりに積もった九十九年分の文句を、あの頓珍漢にぶつけてやりたいわい。最期まで勝手な振る舞いをし、わしの意見をちっとも聞かんかったのじゃからのう」


 黄泉の国に行ったら、彼に挨拶がてらに拳を入れてやらなければ気が済まないと比良利。


 小さく噴き出してしまう。

 黄泉路で顔を合わせた惣七も、会いたいかという己の問いに、九十九年分の文句を吐かれそうだと肩を落としていた。二人は羨ましいくらい仲が良い。

 いつか、自分と比良利も、遠慮せず意見し合えるような、腹を割って話せるような、そんな対となりたい。


 翔は眩い朝陽を浴びながら、強く願った。



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