<二>危機迫る子供達
「翔。今宵は汚れても良い服装で稽古に臨んで下さい」
武術を指導してくれている新たな師、名張天馬に指示され翔は浄衣ではなく見習い用の白張に着替える。汚れても良い、そのワードが気掛かりだったため、彼に屋外で稽古をするのかと尋ねるが、そうではないと天馬は返事した。
場所は“日輪の社”の行集殿。
己の稽古風景を見にやって来た“妖”の家族が見守る中、稽古に条件を付けてきた天馬が着替えを済ませた翔と向かい合う。
再三再四、汚れても良い服装かと確認を取った後、彼は袈裟の袂に挟んでいた小箱を取り出す。それは朱肉のようで、天馬は躊躇なく己の手の甲や指先に紅を付けた。
瞠目する中、準備を終えた烏天狗は今から組手を始めると告げる。
いきなりの組手に戸惑いを見せるが、相手には何か目論見があるようだ。素直に肯定の返事をし、「来い」天馬の合図と共に床を蹴った。
まずは懐に入る。
腹部など大切な臓器を叩くことは、相手の弱きところを突くということだと教えてもらっている。加速して猪突猛進に天馬の懐に入ろうとするが、始めたばかりの武術の腕では回避されることは目に見えて分かる。
案の定、紙一重に避けられてしまった。
方向転換するためにつま先を相手側に向けると、素早く相手が足を払ってくる。つきそうになる尻餅は腕で支え、倒立後転して体勢を立て直す。
背中の衝撃が走ったが痛みはない。
再び相手と向き合うと、天馬から接近戦を仕掛けられる。
対応するために彼の胴を突こうとしたところで、「そこまで」背後に回った烏天狗から膝かっくん。今度こそ尻餅をついてしまう。
目を白黒にさせていた翔は、全然組手になっていないのでは、と首を捻った。
「天馬。加減しただろう。普段の組手よりも甘いんだけど」
強くなりたいがゆえに抗議の声を上げてしまう。
能面を貫いている天馬は「貴方の負けです」その場で正座をするように命じる。まだ負けていないと不貞腐れるが、彼は一貫して敗北している旨を伝えて膝を折った。
向かい合ったところで話が切り出される。
「何故、敗北なのかお分かり頂けますか?」
「膝かっくんで俺が転んだからか?」
態勢を崩されたのが敗因だろうと語気を強くして言うが、彼は静かに首を振り、己の白張を見るよう指さされる。
視線を落とせば、真っ白な白張が所々紅で染まっている。
「これは人体の急所です。心臓、肋骨、鳩尾、肩口、可能な限り色を付けました。ご覧ください、腿にまで色が付いています」
天馬は正座を崩させ、翔の太腿を軽く叩く。
もし此処を切られでもしたら立てなくなるだろう。
目を細め、彼は骨張った人差し指で肋骨部分を指す。この箇所を折れたら肺に突き刺さる可能性がある。鳩尾は呼吸困難に陥り、心臓は謂わず命の危機に曝される。
敗北の原因は急所を突かれたからである。
天馬が剣を持ってそこを突いていれば、まぎれもなく翔は正常に動けなくなる。賢い敵ならばあっという間にそこを突いて命を奪うだろう。
「貴方様は無暗に敵に突っかかり、己を蔑ろにしております。攻撃は最大の防御と言いますが、腕も熟していない翔にこの手は使えない。防御にすらなっていないのです」
敵を倒そうとするばかりで、敵の動きを見ていない。
急所を狙われていることすら念頭に入れていない。
動けなくなっても良いから相手を倒そう倒そう、そればかりが目につくのだと天馬は腕を組む。動けなくなってしまえば、敵の思う壺だというのに。
「貴方様は今、自分の身の安全を考えていませんでしたね? これは己を守るための武術だというのに。己すら守れない妖が、誰かを守ろうなんて甚だしい限り。これは貴方様の弱点です」
首を引っ込め、身を小さくする。ぐうの音も出ない。仰る通りである。
改めて師から負けを認められるかと問われ、翔は神妙に頷く。幾つもの急所を突かれたら、気持ちはあれど、体がついていかないだろう。
萎れる翔を余所に、天馬は立ち上がり、再び朱肉を手の甲に付けながら傍観者に歩み寄る。
「失礼。青葉さま、お相手願えますか? 翔に手本を見せてやりたいのですが」
巫女は前もって知らされていたのだろう。
さして驚くこともなく、大きく頷いて腰を上げる。
彼女が座っていた場所に腰を下ろすと、猫又から血の気の多い手合わせだったと笑われてしまった。
『お前さんの悪いところが全面的に出ていたよ。いい勉強になったねぇ』
「う、う、煩いな。ちょっと油断をしただけで」
『おやおや、神主が言い訳かい? 感心しないねぇ。ちゃんと自分の非は認めなさい』
あちらこちら朱肉の紅で汚れている白張を、おばばがまじまじと見つめてくる。
居たたまれなくなり、翔はギンコに味方になってもらおうと視線を流す。が、銀狐から意味深長に見つめられてしまい、言葉を詰まらせてしまうしかない。
しゅんと項垂れ、自分の非を認めた。認めざるを得なかった。可愛いギンコにそんな目を向けられてしまえば、認めるしかないではないか。
「そういやネズ坊達は?」
さり気なく話題を替える。
稽古が始まる前までネズ坊達の姿があったのだが。
おばば曰く、遊びに行ったそうだ。境内で遊ぶよう口酸っぱく言ってあるため、遠くには行っていないだろうとのこと。
子供はジッと物を見ることに退屈を覚えるようだ。始まるや物の見事に出て行ってしまったらしい。
「子供はいいなぁ」
胡坐を掻き、内腿の上で頬杖をつく。自分も遊び回りたいと愚痴を零せば、おばばとギンコから苦笑いを頂戴した。
さて青葉と天馬が向かい合う。
彼等は合図を翔に任せ、互いに準備ができたところで一礼。各々構えを取る。
「始め」
その声に反応した天馬と青葉だが、動く気配はない。
すり足で左右に動き、相手を睨みあっている。あれで勝負になっているのか、翔の呟きに、おばばがもう勝負は始まっていると答えた。
『あれはね。互いの動きを読みあっているんだ。出方を窺っている、といったところだね。右に走るのか、左に走るのか、正面から斬り込むのか。その動きを読み、より優勢な状況にもつれ込もうとしているんだ』
優勢になれば、相手の急所を突ける隙も多くなる。
天馬は名張家の嫡子として、次代当主として当然武術を学んでいる。並んで鬼才に才を見出された青葉も術や技は数回で呑んでしまう。
強さは同等、或は些少の差。だからこそ下手な動きが出来ず、動きを読みあっている。
『坊や、よく見ておくんだ。あれが武を知る者達の戦いだ』
先に動いたのは青葉だ。
左に体を流すかと思いきや、それは挑発。右に駆け出して相手の背後に回ろうとする。先読みした天馬も駆け出す。二人は行集殿内を駆け出した。
追いついた烏天狗が踵を落とすと、宙を返った青葉が着地と共に天馬の懐に入る。両者の接近戦、その諸手は双方の急所を突こうとするが、手の平が守りに入る。守りの手を弾いては攻撃を、狙われた急所に気付いては防御を、一進一退の攻防戦に翔は己の三尾を膨張。前傾姿勢で様子を見守る。
双方が素早く離れる。
構えを取りなおす二人だったが、視線が交わったところで、ゆっくり手をおろし一礼をした。勝負を着けるつもりはないようだ。
残念な気持ちに駆られる。折角なら勝負の行方を最後まで見届けたいものだ。
二人が歩んで来る。
口が開く前に各々手を持ち上げ、汚れ赤くなった腕を見せてきた。代わりに衣服はまったく汚れていない。
「青葉さまと自分の手合わせの結果です。彼女は急所を守りつつ、自分の急所を狙ってきた。彼女の腕ならば、防御をすべて攻撃に回すことで、その力を倍にすることも可能でしょう」
「翔殿、貴方様にはまずは敵の動きを捉え、相手の動きを読みあうこと。そして己を守り切ること。この段階を会得して欲しいのです」
呆けた顔で青葉と天馬を見やる。
武術のド素人に大変無茶苦茶な要求をしている。今のような手合わせを自分にしろ、だなんて到底無理な話だ。百年修行すれば叶う夢なのだろうか。
だが弱音は吐いていられない。強くなると誓ったのだから、やらなければ。
そこで翔は、膝を折った二人に助言を求めた。
今の手合わせで守りが大切なのはよく分かった。けれども、相手の動きを読む行為がイマイチ理解ができない。
「例えば俺が天馬と手合わせを百回するとする。そうすると、何となく癖や動作で読むことが可能にはなるだろう。けど、俺が青葉と初めて戦う際、相手がどう動くかなんて見当もつかないと思うんだ。んー、つまり、読んだとしてもまぐれっぽくなるいうか……言いたいこと分かるか?」
「はい。同じ手合わせの相手では、いずれ動きを読むことができる。しかしながら、初対面で動きを読むことは不可能ではないか、と翔は仰りたいのですね」
「そうそう、それ。俺の手合わせ相手といえば、天馬か青葉、比良利さんくらいなものだから」
ゲーム感覚で物事を考えている翔は、色んな者と対戦しなければ経験値が上がらないのではないかと考えている。ロープレだってレベル上げの際、同じ敵と戦うよりは色んな敵と戦って豊富な経験値を頂戴するもの。
尤も比良利や青葉、天馬を伸せるくらいにレベルが上がれば、自分は達人になれていそうだが。
「百手合わせをしていれば、知らず知らずと相手がどう動くか、考え、見通す力がつくものです。その力があれば初対面であろうと、力は通用するものです」
見通す力を、洞察力と呼ぶらしい。
相手の動きを読もうとする力など、己に身につくものだろうか。
考えて動くことが苦手な翔が唸っていると、「普段から訓練すれば良いのですよ」天馬が微かに口元を緩める。
訓練、頓狂な声を上げると彼は手ぬぐいで紅を落とし、朱肉の入った小箱を取り出す。その小箱を両手ごと背後へ。
「今、自分はどちらかの手に小箱を持っています。どちらに持っていると思いますか?」
唐突に出される問題。
翔は顎に指を絡め、天馬の全身を見つめる。正座する彼の両手は背後に回っている。まったく手は見えない。ということは言い当てた瞬間、入れ替えることも可能だろう。意地悪問題ではないのだから、相手がそのような事をするとは思えないが。
うんぬん考えて右だと答えた。当たりだと答える天馬は、その手を差し出し、澄んだ黒い瞳を翔に向けてくる。
「貴方様は今、どちらかの手に箱を持っているとお考えになり、自分の顔を何度も見ましたね。これが相手を読む、ということです」
「今のが?」
「ええ。大したことではないとお思いでしょう? しかし、大切なことです。相手が右に持つか、左に持つか、はたまた両手で持つのか、それを貴方様はお考えになった。動きを読もうとしたのです」
これを組手の場面に置き替えると相手が右に出るか、左に出るか、正面に出るか、動きを読もうとする先手を仕掛ける思考だと天馬。
相手を読もうとするその心は武を通さなくとも、訓練ができると説明した。
「これは翔殿は得意分野な筈ですよ」
「ええっ?! 青葉、嘘言うなって。俺は考えることが苦手だよ」
「いいえ。洞察力は武だけにあらず。例えば暑さで疲労している者を見かけたら、貴方様は気を遣って飲み物を差し出すでしょう。重荷を持っている者がいれば、頼まれずも手を貸すでしょう。これも見通す力にございます。相手を読み、して欲しいことを叶えています」
『坊や、お前さんは気配り上手だ。それはね、お前さんが無意識に人を見ている証拠なんだよ。反対に見ていなければ、気も配れないじゃないか』
おばばの言葉に深く頷き、青葉は翔にも洞察力は備わっているのだと言う。
武に関して素人なだけで人を読む力は潜在的に秘められている筈。自信を持って良いと眦を和らげられた。
「難しく考えないで下さい」
呆ける翔に、天馬も加担する。
「武の見通す力は自然と身につきます。同じ相手に百も千も手合わせをすれば、他でも些少ならず通用することでしょう。手合わせの数だけ感覚が磨かれます」
「そういうものなのかなぁ」
「先程、自分がした行為を遊び感覚でやってみるのも手でございます。相手の表情を見て読もうとする力は積み重ねが大切ですから」
なるほど、翔は早速家に帰ったらやってみると案を受け入れた。
「その時は手伝ってくれるよな?」
ギンコに同意を求めると、うんうんうんうん、退屈そうに話を聞いていた銀狐が嬉しそうに頷いた。構ってもらえるならば何でも良いようだ。
相手の動きを読むことについては解決である。
後は急所、もとい己の体を守ることを徹底する修行をしなければ。これについては実戦あるのみだろう。天馬に意見を仰いでも自分と同じ考えを返された。
ならば早速――師の出しかけた言葉は行集殿に飛び込んで来たネズ坊によって中断される。
鳴き喚いているネズ坊は五吉、六吉、末助。
七兄弟の中でも幼い類いに入るネズ坊達である。
ビィビィ、チュウチュウ、慌てふためき、出入り口の近くにいたギンコの尾を引っ張る。
『なんだって、姉兄達が突然倒れた?!』
通訳者のおばばが頓狂な声を出す。
うんうん頷く三匹が助けて、来て、早くと鳴くものだから稽古は中断せざるを得ない。場所を尋ねると、やや身を小さくして“表の社”だと答えた。“表の社”は此処“妖の社”を出た先にある“人の世界の社”を指す。
どうやらおばばとの約束を破ってネズ坊達は花を摘みに出掛けたらしい。そこで姉兄が倒れたそうだ。
お叱りは後にし、翔は妖型に変化した俊足のギンコの背に跨る。おばばとネズ坊達を腕に抱くと、青葉と天馬に命じた。
「青葉、医師の手配を頼む。天馬、申し訳ない。事を紀緒さん達に伝えてくれ」
こうして行集殿を飛び出した翔達は倒れた旧鼠達の下に向かう。
確かに子供達は“表の社”にいた。社殿の裏の茂み近くに倒れていた。上四匹全員がその場に倒れており、急いで子供達を抱いて連れて帰る。
医師が到着するまで比良利に診てもらうが、彼の知識では到底手に負えないようだ。高い熱を出していると顔を顰め、下手に薬草も擂れないと苦言した。
四匹が一斉に熱を出すなんて奇怪である。
何者かにやられたのかもしれない。その線を考え、小さな体躯を調べるが外傷はないとのこと。
手配した医師の一聴が到着する。
彼は元聴診器、付喪神である。両手指が聴診器である妖は、それをネズ坊達に当て、四ツ目をぎょろぎょろと動かす。
容態を聞くが、暫く様子を見ないと一聴にも原因は分からないという。それだけネズ坊達の高熱は異常だった。
『わたしがちゃんと見ていなかったのが悪かったんだ。まさかこんなことになるなんて』
自責するおばばを慰め、翔は残りの三匹も一応診察してもらうことにする。
摩訶不思議なことに五吉、六吉、末助は健康そのもだった。
七匹は揃って“表の社”に行ったはず。なのに、何故この幼い三匹は熱を出さずにいるのだろうか。
しょげてしまっている三匹に姉兄達と一緒にいたのでは、と尋ねると子供達は顔を見合わせて尾を垂らす。
「ふうむ。どうやら、この三匹は“表の社の”社殿内にいたようじゃ。花摘みに飽き、全員でかくれんぼをしておったらしい」
この幼い三匹は隠れることを大変得意としており、見つかりそうで見つからないであろう社殿に潜っていたそうだ。
しかし待てど暮らせど鬼が来ないものだから、様子を見に行ったら姉兄達が倒れていたという。
社殿には神が祀られている。
何らかの厄災が姉兄達の身に降り注いだとしても、社殿にいた彼等は回避することができたのだろうと比良利は推測を立てる。
一聴の判断で解熱剤を頂戴し、これを飲ませて数日様子を見ることにした。それしか翔達には手がなかったのだ。
自宅に帰ると翔はティッシュ箱を切り、タオルを強いて手製の寝床を二つ作る。
即席で申し訳ないが病人をハムスターハウスに寝かせるわけにはいかなかった。看病がやりづらくなる。
できるだけ真新しいタオルを使用し、寝床にネズ坊達を寝かせた。
四匹とも苦しそうに呼吸している。林檎を擂り、汁を飲ませてみるがあまり口にしない。林檎は大好物だというのに。
「五吉、六吉、末助。ご飯食べよう」
姉兄達が倒れてしまったことがショックなのか、下三匹も食事を取ろうとしない。林檎を差し出しても尾を向けてしまう。
本来ならば、勝手に境内の外へ出ていた子供達を叱るところだが、落ち込んでいる姿を見るとその気にもなれない。
不安なのだろう、チュウと鳴いて三匹が親を恋しがる。
瘴気事件から一年、彼等の傷は癒えていない。
誰より親恋しい気持ちは銀狐が分かるようだ。
ギンコはベッドの下段に飛び乗ると彼等に向かってクンと鳴き、おいでおいでと手招き。いや前足招き。甘えたい気持ちを見抜いたのだろう。
泣きそうなネズ坊達が一目散に銀狐の下に走ると、柔らかな胴に顔を押し付けていた。スンスン、鼻を鳴らす子供達を尾で包み、ギンコは優しく旧鼠達を慰めている。後からおばばが三匹の下に歩み、銀狐と共に子供達に寄り添った。
三匹はおばばとギンコに任せ、翔は青葉と四匹の看病に当たる。
「体温計はあるけど、獣には使えないし……大体ネズミって平熱は何度なんだ?」
スマホで調べるが、ネットで良い情報は得られない。
調べても、出てくるのはネズミが伝染病を運んで来るだの、菌があるだのなんだの。お手上げである。
検索したキーワードが悪いのだろうか。悩むものの、ネットの知識はアテにならないと判断し、検索を打ち切る。
「病人食と解熱剤を混ぜてみましょうか」
青葉がティッシュ箱にいるネズミ達の頭を撫で、先程のすり林檎の汁と薬を混ぜて与えてみようと意見する。
しかし容態の回復は見込めなかった。
看病は徹夜で行われた。
熱は一向に下がらないため、次の夜から青葉と交代制で看病に当たる。付きっ切りで看病をしたいものの、遺憾なことに翔は神主。青葉は巫女。ギンコは神使。どうしても抜けることがあり、その時は雪之介や天馬に連絡して来てもらった。
三日も経てば焦りも積もり始め、もう一度、一聴に診てもらうことを検討する。高熱を出したまま、容態が変わらないのだ。
このまま高熱に魘され続ければ、子供達は死んでしまう。
そう思った矢先のこと。
「十代目、お助け下さいませ。息子が高い熱を出して倒れたのです」
「比良利さま。妻が高い熱を患い、治らないです。お腹には子供がいるのに」
妖達が“日月の社”に助けを求めにやって来る。
どれも子を持つ妖、もしくは親となろう妖、妊娠している妖。その中には蝶化身、白木夕立の姉、白木時雨の姿もあった。
「翔さま。もう生まれても良い我が子の体温が冷えていくのです。腕の良い医者に心当たりはないでしょうか」
初夏頃に生まれる予定の我が子の卵を抱え、彼女は翔に助けを求めたのである。
これは異常事態であった。
事を見かねた“日月の社”総責任者、第四代目北の神主が日月の者達に招集を掛ける。
同刻、医師の一聴がこのような報告をしたのだった。
「申し上げます。患者の体液を調べた結果“霊力”と“瘴気”の二つが検出されました」




