エピローグ?
「藤巻さん、お食事中ですか」
昼休み。ミースは藤巻さんの席にきていた。
「かまわないわ。なに?」
「日直日誌を提出したいのです」
「ありがと。あとで確認しておくわ」
そう云う藤巻さんの手には、透明の袋に入った売店のあんパンが握られている。
「――藤巻さんは、あんパンがお好きなのですか」
「ええ。昼間はこれだけあればいいわ」
「もう少しお食べになった方が……。脳への糖分の供給が不足するのではありませんか」
「昼間は食欲がわかないの。朝はきちんと食べているから、それで足りてると思うけど」
「そうなのですか? でも小麦より米のほうが体内での糖分供給時間が長いですから、せめておにぎりあたりになさったほうが」
「でも私はあんパンが好きだから。このほうが午後からのモチベーションが上がるの。そういうことも大事じゃない?」
「……たしかに、好きなものを食べることでアドレナリンの分泌量を増やし、脳を活性化させることも、一理ありますわね」
うなずいているミース。すっかり藤巻さんとの会話も板についてきている。
結局、俺と藤巻さんの約束は、「貸し」ということになった。
藤巻さんがミースと友だちになることは最後までかなわず、でもそのときに俺にすぐ妙案が思い浮かばなかったので、とりあえず藤巻さんに「貸し」をひとつつくることにした。ようは、いつでも何かの願いを藤巻さんが聞いてくれる、ということだ。
でもよほどのことがない限り、俺のほうでそれを使うことはないと思う。もともと藤巻さんの秘密をばらすつもりなんてなかったし。
そんな藤巻さんが、左手に持っていたあんパンをミースにみせる。
「売店のあんパン、原料は全部国産で、あんも手づくりなの。みんな知らずに食べてるけど、いまの日本ではとても貴重なあんパンなのよ」
「えっ、そうだったのですか? それは興味深いですわ。では、わたくしいまから売店に――」
すると、藤巻さんが持っていたあんパンを少しだけ右手でつまんでちぎり、ミースに差し出した。
「……少し分けてあげるわ」
「――藤巻さん!」
ミースは感動して瞳をうるませた――ようにみえた。
「わたくし、藤巻さんの優しさに触れることができて、感動の極みです!」
「単にあんパンをあげただけじゃない。なにもそこまで――」
「ありがたく頂戴します!」
ミースは藤巻さんのあんパンを手にし、すぐさま口にした。よかったな、ミース。藤巻さんと仲良くなることができて。俺もそんなミースをみることができて、感動の極みだ――
「って、ちょっと待て!?」
気づいたときには、もう遅かった。
もぐもぐとあんパンを食べるミース。だがその挙動が突然止まる。
「うっ……」
苦もんの表情を浮かべ、ぶったおれる。驚いて藤巻さんが思わず席を立つ。俺もかけ寄る。
「衿倉さん!?」
「ミース! あんパンはダメだって言っただろ!」
「み、壬堂さん……すみません。藤巻さんの優しさにふれることができ、ついうれしくていただいてしまいました……」
藤巻さんが戸惑う。「な、なんであんパンで……!?」
「俺にもわかんねえけど、ミースはあんパンを食べるとこうなるんだよ!」
「壬堂さん、いままでありがとうございました。わたくし、壬堂さんのことは決して忘れません……」
「なに最終回的な展開になってんだよ! ってかこれ最終話か」
「いままでありがとうございました。どうかわたくしのことは忘れないでくださいね。バタッ」
「ミースーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
俺とミースのドタバタな高校生活は、これからも続きそうだ。
「メカプリンセスっ!Mk-II ~プリンセス様、もう学園を壊さないでください~」を最後までお読み下さり、ありがとうございました。
前作「メカプリンセスっ! ~プリンセス様、もう勘弁してください~」の続編として書かせていただいた本作、いかがでしたでしょうか。
あいかわらず毒にも薬にもならない駄菓子屋的なコメディ小説です。ポテチをつまむつもりでながめていただけると幸いです。
本人的には「ちょっと書きすぎたかな?」という感があるのですが……。もう少し短くまとめてもよかったかなと反省しております。藤巻さん以外のキャラの掘り下げもちょっと足りないかな、なんて。
でも自分の書きたいことがめいっぱい書けたので、後悔はしていません。前作同様自分なりに創作を楽しめたかなと思っています。あとはお読みいただいた方に少しでも楽しんでいただいていたら……と思う次第です。
「メカプリンセスっ!」の今後ですが、もしお声があれば、また続きを書かせていただこうかなと思っています。
もしまた書く機会をいただけるなら、もっともっと楽しい話になるよう、がんばるつもりです。
まだまだ未熟者ですが、今後も精一杯、バカバカしい小説を書いていきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。
繰り返しになりますが、ここまでお読み頂いて本当にありがとうございました。
また読んでね!
<以下、創作メモ>
○マンガから入る導入部
情景描写がある時点でマンガじゃないよね、と思いながら書いてしまった導入部分。シリアス路線かと思わせて後のコメディとの落差を狙ったのですが、浅はかだよね(ぉ。
○ネオスカーレット・キャノン
己を犠牲にして世界を救うキャノン砲。人工衛星まで届くんだから、ミースの戦闘力やいかに。立派な軍事兵器だよ、ほんと。エルがその後どうなったかはだれも知らない。私も含め。
○CIAのおっさん
第2話の最後にCIAのおっさんが出てくる。実は今作のラストにこの人をすべりこませようとしたんだけど、コメディ小説の雰囲気が壊れるかなと思ってやめた。じつはアメリカにミースをつれていこうとしてるんだけど、ここだけの話。
○藤巻塔子(塔子様)
今回のメインキャラクター。最初は藤巻さんだけでなく、瓜生さんや射原さんや小野原さんあたりのエピソードを中心に書こうとしてたんだけど、ボリュームがとてつもなく多くなりそうだったので藤巻さんにしぼった。ツンデレキャラはじつは後付けで、そのままラストに採用してしまった感じ。
○瓜生沙弥香、射原小知火、小野原雲母
さやりん、ともちん、きらりんの三人組。今回のメインキャラ……だったはずがなぜか脇役に。特にともちんはほとんど出てきてないのでかわいそう。じつは一番設定がしっかりしているんでもったいない。今度どこかでこっそり出してあげよう。
さやりんは要所要所で顔を出すキャラ。いちおう自分の中ではレギュラー格なんだけど、今回はたいして見せ場をつくれなかった。残念。
きらりんは一番キャラが確立してたなと思う。通常の会話の途中でとつぜん演技に入るくだりは好きで、三回も入れてしまった。
○環田
今回ほとんど活躍しなかった男。まあミースと友だちになれたからいいだろう。じつはけっこう書きにくいキャラだったりして。
○小革先生
今回一番かわいそうな人。エピソードを書いたのはいいが、その後のフォローが全くできていない。。。だいじょうぶ、ちゃんと元気です。ミースにはいじめられるけど。たぶんやけ酒でも飲みにいってるでしょうw
○鹿ヶ瀬先生
今回一番書いててハマった人。第11話~12話で書いたが、ものすごく書きやすかった。この人だけであと5話くらいはいけそうだ。でもこの人が出ると、ミースのキャラが薄くなるんで困りもの。でもせっかくなのでスピンオフしようかな。
○田中雄弾
ミリタリーマニア。といっても私自身はミリタリーのことはみじんも知らないので「こんな感じかな?」と勢いで書いたw なにごとにも突っ走るタイプ。
○木打嶺
オカルトホラーオタク。常になにかが乗り移っていそう。
○壬堂光一
あいかわらずミースにふりまわされるかわいそうな主人公。でもその過程で自分の成長について考える機会ができることが今作の根幹の部分。基本、自分の世界にこもりがちな人間。私と似せている部分もある。
○衿倉ミース
学生服を着ていろんなことを学んだのでちょっとおとなしめになったかな? でもとりあえずいろいろ破壊させることにしたので学校はぼろぼろ。
ラストのあたりのくだりはこの作品の当初から狙っていたもの。ミースが学ぶことで壬堂君が成長する様を描ければ、と思った。
○演劇部の件
第13~14話の桃太郎部分が今作で一番自信の無かった話。演劇の台本っぽくすればよかったのかもしれないが、そうすると文章量がどかんと増えるので避けた結果があれ。ちなみに「大人の桃太郎物語」は完全に創作です。
○あんぱん
完全に思いつき。どうせならわけのわからないことでぶっ倒れるのがいいなと思ってこれにした。ちなみに藤巻さんがあんぱん好きなのはラストを書く直線に思いついたこと。おそるべしあんぱん。




