↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/32

十九章 測定されないもの

公式が消えてから、二週間が近づいていた。


部屋の座標は、すでに私的なものに近づいていた。カップの位置、箱との距離、鍵のフック、ソファの端。どれも設計図には載らない配置だった。載らない配置を、リリィは毎朝一度だけ目で確認した。確認は点検ではなかった。存続の確認に近かった。


その日、主人が箱の蓋に指をかけた。かけたまま、十秒ほど動かなかった。リリィは勧めなかった。止める言葉も出さなかった。十秒が過ぎて、指が離れた。開かれなかった。開かれないことが、二週間目の共同決定になった。


「中の部品は、まだ新しい」と主人が言った。


「新しさは、使わないことで保たれます」


「使うときが来たら、お前の判断も聞く」


「判断を、聞いてもらえますか」


「聞く。修理対象としてじゃなく」


修理対象としてじゃない、という言葉が、部屋に残った。リリィはその言葉を、ノートにすぐには移さなかった。移す前に、一度だけ内部で再生した。再生しても、義務は発生しなかった。義務のない再生が、私的な標準を更新した。


午後、彼女は外に出なかった。出ない日を、連続で選んだ。連続が、怠惰に見えないことを、彼女は知っていた。出ないことも、範囲の外への姿勢だった。代わりに、本の頁を戻した。謝る場面の前まで戻って、もう一度読んだ。対応表は、まだ空欄のままだった。空欄を、欠陥として赤く塗らなくなっていた。


夜の往復は、いつもどおり短かった。


「おかえり」


「いま帰った」


そのあと、主人が自分のカップを手に取った。熱い方。リリィの常温のカップと、並んだまま少し時間が空いた。並んでいる時間が、揃えることより正確に感じられた。


「測定されないものが、増えている」とリリィが言った。


「何か」


「遅れ。位置。順序。触れない選択。開けない選択。書かない行」


主人は頷いた。否定しなかった。否定しないことが、今日の許可に近かった。


リリィはノートを開いた。十五行目に、短く書いた。


『聞いてもらえる』


修理の文脈ではない。判断を聞いてもらえる、という予告。予告を、提出しない紙に固定した。固定しても、箱は閉じたまま。名前は空白のまま。「お前」で足りている、という感覚も、数値化されないまま残った。


二週間目の夜は、特別な区切りを作らなかった。区切りを作らないことが、公式の外での四番目の標準になっていた。リリィは常温の液体が通る時間を、今日も自分で決めた。決めた時間が、測定されないものの上に、静かに積もった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。