第20話 顔合わせ
「お待たせしました」
侍女長のグレースさんが、ここ離宮で働いている皆を食堂に集めてくれる。離宮の大きさに比べて意外と少ないように思えた。
「皆さんお忙しい中集まって頂きありがとうございます。挨拶が遅れてしまいすみません」
「いえ、食事の方を優先にとディフェクト様からも言われておりましたので。私共も自己紹介が遅くなって申し訳ございません」
グレースさんと謝罪し合っていると、一番先に顔を合わせていたドレイヴさんが皆の事を教えてくれる。
「エストレア様。改めて皆の紹介をさせて頂きますね。私はドレイヴ、執事としてここの離宮を任せて頂いております。ディフェクト様とイティルラ様、お二人が幼い頃からお世話をしております」
(それってだいぶ昔から仕えているって事よね)
大きくなっても一緒なのだから、余程信頼が厚いのだろう。
(それにしても幼い頃からか……どんな赤ちゃんだったんだろう。すっごく可愛いかったろうな)
もしも絵姿があるのなら見てみたい。
「何かあったらドレイヴに何でも言ってね。エストレアのドレスなどを手配してくれたのも、実はドレイヴなんだ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
あんなにも大量の衣服を準備するのには、時間も人手もかかっただろうな。感謝の気持ちでいっぱいわだ。
「いえいえ、陛下より命を受けておりますので。エストレア様にご不便を掛けぬように、何でも願いを叶えるようにと」
それはさすがに大げさね。ディフェクト様とイティルラ様が不自由ないようにって意味……よね?
「さて、それでは紹介の続きをしましょう。侍女長のグレースです」
「グレースでございます、私はイティルラ様の乳母をしておりました。役目を終えてからは侍女長として働いております」
(グレースさんが乳母? そうなるとドレイヴさんのように二人が小さい頃から知っているって事よね)
「グレースさん、よろしくお願いします。良ければですけど、今度二人の小さい時のお話を教えてもらえませんか?」
「もちろんよろしいですよ。ディフェクト様とイティルラ様のあんな事やこんな事など、話題はたくさんありますから」
それを聞いてディフェクト様とイティルラ様が慌てだす。
「グレース、エストレアに変な話をするのはやめてね」
「そうですわ。エストレアに失望されたくないもの」
二人の取り乱す様子にちょっとだけ可笑しくなってしまう。グレースさんには頭が上がらないんだなぁって思うと、なんだか可愛らしいわ。
「ふふふ、それはディフェクト様とイティルラ様の生活態度次第ですね。エストレア様に話されたくなかったら、規則正しい生活をなさってくださいな」
それって、普段はもっとだらけているって事かしら。なんだか意外だわ。
(でもここで過ごしてきたって言ってたし、それってつまりここが実家なわけだもの。そりゃあある程度は気を抜いて生活しちゃうわよね)
私も実家にいる時は怠けてしまう、なので気持ちはわかるわ。
「話はその位にしましょう。これでは紹介が終わりませんから」
ドレイヴさんが三人をたしなめ、次の人たちを教えてくれる。
「こちらの三人の侍女ですが、左からミオ、キーア、ロエです。屋敷の掃除や洗濯などは彼女たちが行ないます」
「「「よろしくお願いします、精一杯務めさせていただきます」」」
三人はそろってぺこりと頭を下げる。どの子も皆とても可愛いわ。
「シルバーニュ領からきたリーレンにも、エストレア様の身の回りの他、屋敷内の仕事を覚えて頂きます。他のメイド達をここに入れる事はしたくないので、よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
緊張した面持ちで礼をするリーレンに、ちょっと心配になるわ。新しい生活も始まる中で仕事も人間関係も変わるから慣れるまで大変よね。
私が支えないと。
「そして、料理人のホムラです」
「よろしくお願いします、エストレア様。食事はお口に合いましたかな?」
「えぇ、とても美味しかったです」
ホムラさんはとても大きくて、屈強な人だ。厳めしい見た目だけれど、穏やかな雰囲気が感じられる。
「シルバーニュ領には昔寄ったことありまして。自然豊かなところで、野菜が美味しかったですな」
「シルバーニュに来てくれた事があるんですね」
自分のところを知っていると言われ、とたん嬉しくなる。
「だいぶ前にですが、伯爵にもお世話になりました。と、長くなってしまいますから、その話はまた今度しましょうか」
「えぇ、ぜひ」
お父様とも知り合いとは、どういった縁があったのかしら。でも、一気に親近感が湧くわ。
「さて次は庭師のライリーですが……ライリー、隠れてないで出てきなさい」
「は、はい……」
ドレイヴさんに呼ばれ、ライリーさんが前に出る。
(いるのに全然気づかなかったわ)
ホムラさんの後ろにすっぽりと隠れていた為に、全く見えなかったのだ。
「庭師のライリーです。見ての通り臆病でして、人前に出ることを好みません。エストレア様と関わる事も少ないと思いますが、紹介だけでもと思いまして」
「……よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、またホムラさんの後ろに隠れてしまった。
「よろしくお願いします、ライリーさん」
「はい、ぜひ……!」
声はすれども顔は見えない。
ドレイヴさんが大きめなため息を吐いた。
「このような者ですので、庭についてのご要望がありましたら私にお話しください。ライリーには私から伝えますので」
「は、はい」
人見知りなのは私も同じだから仕方ないと思う。折角ならば少しずつでもお話出来たらいいな。
「そしてディフェクト様の従者であるレイズです。学園に通う時はこの者も一緒についていくようになります」
「よろしくお願いします」
背の高いこの人、ディフェクト様とお話している時など近くで見守ってくれていたわよね。まともに話すのは今回が初めてだけれども。
「改めてよろしくお願いします」
「俺の方こそ、よろしくお願いします」
これから一緒に登校するようになるのだから、これからはお話しする機会も増えるわよね。
何だか近寄りがたい雰囲気だけれど、大丈夫かしら。
「ディフェクト様の護衛騎士カルラと、イティルラ様の護衛騎士レノル、エストレア様の護衛騎士アトリーです。この離宮内での皆様の警護や、登下校時の守備を担います。曲者や不審者を見かけましたらすぐにおっしゃってください」
ビシッと敬礼をしてくれる三人に、私も自然と背筋が伸びる。
(皆、強そうね)
眼光も鋭いし、表情もきりっとしている。
それにしても専属の騎士なんて、大仰だわ。私にまでなんて本当に申し訳ない。
女性の騎士はなり手が少なく、けれど警護に欲しいという事で人気が高い。同性の方が安心するという令嬢や貴婦人が多いからだ。
(それなのに私の為に来てくれたなんて)
こんなにも手厚い配慮を受けられるのは、王族との婚約があるからだけれど……。
(その事に負けないように、もっと自分を磨いていくわ)
ディフェクト様の妻となるならば、責任を自覚しないとね。
まずはここの人たちに認められるように、一生懸命顔と名前を覚えていかないと。




