キス 完結
オレはアルバイトを終えてひとり自分の部屋に。オレは、妹のヤエの逃げた旦那やその両親のことを考えている。以前までは怒りを覚えるものだったが、今ではもうよいのだと思う。オレは妹の笑顔と赤ちゃんのミユを守りたいという感情に包まれていた。オレは自分の部屋のドアを開けっぱなしにしている。オレは妹のヤエがやってくるのを待っている。そう、聖母マリアがやってくるのを待っている。
「お兄ちゃん、帰っていたの? おかえりなさい」
「ああ。ただいま」
妹のヤエはひとりでオレの部屋にやって来た。妹がドアを閉める。オレは妹のヤエを見つめる。妹の笑顔が少しだけ不安そうな影を見せている。妹のヤエはオレのとなりに座る。オレは視線を天井に向ける。妹のヤエがオレの手をぎゅっと握る。ああ、わかっていたよ。いつかはこうなると。聖母マリアはオレのことを全て知っている。オレは聖母マリアにキスをした。短いその時が、長く感じられた。オレは妹のヤエの表情を見た。聖母マリア、いや、妹のヤエは目に涙がたまっていた。そして笑顔だった。オレはその涙の理由がわからない。オレはそっと妹のヤエを抱きしめる。オレは妹のヤエを泣かせるようなことはしない、けれども泣かせてしまった。聖母マリアはオレの腕のなかで泣いている。オレは妹のヤエをぎゅっと抱きしめるままで言葉は言わない。あるとすれば、この兄と妹の愛を誰も止められないのだろう。そう、誰が止められようと出来ようものか。妹のヤエはオレを抱きしめ返す。オレもこの両手を抱きしめ離さない。オレと妹のヤエはお互いに確認したであろう。オレたちは小さい子どもの時に抱いたあの感情、愛を。
「お兄ちゃん、私のことをキライにならないでね」
妹の言葉と笑顔に、オレはどんな罪も背負うと決める。聖母マリア、妹のヤエは聖母マリアなのだと。すると、赤ちゃんのミユの泣いている声が聞こえる。オレと妹のヤエは手をぎゅっと握る。立ち上がり、赤ちゃんの元へと。オレと妹のヤエは手をつないだまま、お父さんとお母さんの前に立つ。お父さんとお母さんは目を大きく開かせている。オレは聖母マリアと赤ちゃんのミユのこれからを真剣に考えることにした。オレは妹の手をぎゅっと握る。オレはお父さんとお母さんが怒鳴る声を聞いた。