朝活
「おはようございます。」
音もたてずに生徒会室に姿を現したのは、春藤明弧である。
しかし、
「おや、メイ君、早いな。」
明弧は、部屋の中に初瀬と咲楽の姿を認め、やや戸惑った様子で部屋に入った。
咲楽の言葉通り、初瀬が朝の時間帯に明弧と会うのは、今日が初めてだった。
昨日の、理事会との対決騒動から一夜明けて。生徒会室には平穏が戻っていた。
初瀬は、珍しく目が覚めたので、咲楽とともに早めに登校してきたのである。なお、普段の初瀬はあまり朝型とはいいがたいので、始業前に生徒会室に寄らないことも多い。
「会長もおいででしたか。てっきり、副会長だけかと思っていました。」
珍しく、始業前に4人が揃ったことになる。初瀬は、咲楽や市歌に振る舞っていたコーヒーを、明弧にも淹れた。初瀬は、店番を任されることもあるため、ある程度ならコーヒーを淹れることができるのである。部屋の中に、コーヒーの渋くも甘い香りが立ち込める。
皆が落ち着いたところで、おもむろに、明弧が口を開いた。
「ときに、会長。」
「何だね、メイ君。」
咲楽は、会長のデスクで、優雅にコーヒーカップを傾ける。
「理事会には、いつ斬り込むのですか。」
今にもコーヒーを吹き出しそうな顔で、咲楽がうめいた。
「メイ君、ここは新鮮組ではないのだ。理事会と喧嘩をするとしても、文書を出して、ということになるだろうよ。」
「それをさっきから、準備してるのよー」
先ほどまで、静かにパソコンを眺めていた市歌が、はーい、と左腕を上げた。咲楽も無言で頷き、手に持っていた書類に目を落とした。
「何か、手伝いましょうか?」
「ありがとう。しかし、もうすぐ始業のベルも鳴るだろう。朝のうちは、コーヒーでも飲んで、ゆっくりしていてくれ。放課後になったら、すべきことは山のように出てくるだろうからな。」
咲楽は、少し微笑み、初瀬をちらりと目で見た。おおよその意図は、初瀬にも理解できた。一年生に責任のかかる仕事を回さないようにという、会長と副会長の気遣いなのだろう。
「春藤さん、ささ、コーヒーのおかわりもありますよ。」
「ん? ありがと。」
素直に、カップを差し出す明弧。相変わらず、ヒラヒラのいっぱい付いた忍者装束を着ている。
「ところで春藤さん、何で、朝から忍者のカッコをしてるの?」
「え? だって私、忍者部だよ?」
真顔で聞き返され、初瀬は言葉に詰まった。
「あ、春藤君も、忍者部の活動に興味あるんだ。いいよ、いつでも見学歓迎だよー。放課後はここの活動もあるから、お昼ご飯を食べたら、忍者部に集合、ってことで。」
明弧は、初瀬のすぐ傍まで歩み寄って、初瀬を見上げた。
「ふむ。クラブの見学、と。いいではないですか、初瀬殿。様々な世界を見ることは、決して無駄にはなりませんゆえ。」
心なしか、咲楽の視線が強いような気もしたが。
(いや、そんなに興味あったわけじゃないんだけどな。)
何となく断りにくくなり、初瀬は、昼休みに忍者部を見学することになったのである。
春藤明弧は、最後に登場した生徒会役員なのですが、登場が遅かったこともあって、まだ謎が多いと思います。
このあたりで少し出番を増やそう、という流れです。




