第九十二話 最強の召喚術師
4人が並んで疾走する。その上から2人が並んで飛翔していた。
光は時折、レーヴァテインのコピーを放ちつつ、地上を走る4人に道を開ける。孝治は手に持つ弓で空にいる相手を叩き落としていた。
「お姉ちゃん、数が多くなってきたね」
由姫が小さくつぶやく。その言葉に音姫は頷いていた。すでに髪の毛を止めるリボンを外しているので長い髪の毛が後ろに流れている。
「このまま、行きたいけど、そうはいかないか」
前方には貴族派が作り出したように思えるバリケードが存在していた。それを見ながら音姫は光輝の柄に力を込める。
このまま白百合の剣技で破壊するつもりだ。だけど、それを悠聖が手で制した。
「オレに任せてください」
「でも」
「オレなら確実に行けます」
そう言って悠聖は召喚術式を展開する。召喚する属性は闇。ただし、ディアボルガを召喚する時間は今はない。
「限定召喚。ディアボルガ!」
すると、悠聖の手にディアボルガが持つ錫杖が握られていた。膨大な魔力を操ることが可能な錫杖が。
加速しながら地面を蹴り、悠聖が錫杖を振り上げる。
「吹き飛べ!」
そして、錫杖を振り下ろした瞬間、バリケードを中心に光の塊が落下した。そして、その光は炸裂すると周囲に衝撃波を撒き散らして吹き飛ばす。そのまま悠聖は一番乗りでバリケードがあった地点に乗り込んだ。
「聖なる刻印を纏いし者。光の道を指し示せ。光の剣聖『セイバー・ルカ』!」
周囲にいる魔物の数を確認しながら悠聖は召喚術式を展開した。呼び出すのはセイバー・ルカ。乱戦の中でも活躍できる剣士だ。そこに音姫達が到着する。
「凄い数だね」
その数を見た音姫が足を止めた。周囲にいるのは500程度だろうか。確かに、このまま突破するにはあまりに数が多すぎる。
「防護服β リロード」
悠聖はその中で笑みを浮かべながら新しい防護服に代えていた。
「ここは任せて先に」
「・・・。うん、わかった」
音姫が悩んだのは一瞬。そして、音姫は走り出す。その直線状の敵を焼き払うために光はレーヴァテインを構えた。
「吹き飛べ!」
大量のコピーが放たれて直線状にいた魔物が一斉に吹き飛ぶ。だけど、吹き飛んでいない魔物も多い。特に、人型は。
音姫は光輝を鞘から抜いた。それと同時に衝撃波が直線状にいる残った敵を吹き飛ばす。
白百合流薙ぎ払い『結閃』。
直線状の点と自分のいる位置を線で結び、その空間に敵を吹き飛ばす技。ただ、溜め時間が少しだけかかるため少々使いにくい。
タイミングによって開いた道を悠聖以外の五人が通り過ぎる。それを見ながら悠聖はにやりと笑みを浮かべていた。
「さーて、今まで散々活躍していなかったけどな、オレは強いぜ」
その言葉と共に悠聖は召喚術式を展開する。属性は炎。
「赤き力を統べる者。出でよ、灼熱の地獄より。イグニス!」
現れるのは炎を身にまとう魔人。赤い体と筋骨隆々の体を誇らしげにするように腕を組んでいる。
「純粋な欠片を示す者。来よ、清らかな水辺を映す鏡より。レクサス!」
一言で表すならマーメイド。その手に握られているのは琴。そして、宙に浮いている。
「大いなる証を刻む者。猛れ、母なる大地より。グラウ・ラゴス!」
巨大な岩が出現する。否、岩ではなくゴーレム。その手に握られているのは巨大なハンマー。
「封印の証を作る者。集え、儚き結晶より。アルネウス!」
今度はどこからどう見ても人だ。ただし、その手に握られているチャクラムの周囲では水分が凍結しているが。
「雷雲より生まれし者。響け、遥か彼方の空より。ライガ!」
それは紫電の塊。だが、その形はどう見ても鳥。サンダーバードとも言うべきか。
「遥か深遠より来る者。我が呼び声に答えよ。闇の帝王『ディアボルガ』!」
そして、悠聖は最後の精霊を召喚した。手に持つディアボルガの杖をディアボルガに返す。ディアボルガはそれを受け取った。
貴族派の誰もが動けないでいる。何故なら、精霊を操れるのは本来、多くて4体と言われているからだ。むしろ、それ以上を操っている人が発見されていなかったというべきか。だが、悠聖が呼びだしたのは7体。もう、限界なんて遥かに超えている。
でも、悠聖はこれが普通だと思っている。何故なら、精霊は操るものではなく、一緒に戦う存在だから。言うならば、戦友。それが、今までの召喚術師とは一線を期す理由だった。
「みんな、勝利条件は敵の全撃破。そして、みんなと合流すること。頼むぜ、オレの相棒達」
理由ならもう一つある。
『ほう、我に対してそんなこと言うのか』
『じゃ、イグニス放っておいてみんなで頑張ろう。おーっ!』
『こら、アルネウス。我は頑張るとは言っておらん』
『堕弱』
『ライガちゃん、本人の前で本当のことを言わないように。傷つくからね』
『レクサス! 聞こえておるわ!』
『いい加減にしろ』
『いや、そのですね、ディアボルガ様。私めはそこまで戦いたくないとは言っていないのでして』
『なら、イグニスは一人で戦え。我らはみんなで戦う』
『そんな殺生な』
簡単に言うならこういうことだ。召喚できる精霊の個性があまりにも強すぎるため操ることが出来ない。そもそも操るつもりはなかったので苦にはならないが。ただ、すぐに独断専行する奴が一人いる。会話を見ていたらわかりそうだが。
「あのな、緊張感持てよ」
悠聖は小さくため息をついた。ちなみに貴族派は完全に呆然としている。さっきとは別の意味で。
「さあ、行くぞ」
次の話も悠聖の話です。