第九十一話 狭間市の長い一日 ダークエルフ
足下についてあるペダルを操作して悠人は背中から出るエネルギー粒子の量を調節した。
迫り来る刃を紙一重で回避して変わりにエネルギー弾を叩き込む。
「さすがに辛いかな」
パワードスーツのスラスターを微調整しながら悠人は動き回る。バリケードの外を。
一定の攻撃力ならパワードスーツの装甲が守ってくれるが、悠人の周囲にいるのはほとんどが上位の魔物。
アーマーリザードマンの攻撃がパワードスーツの装甲にかすった。
「マズいね」
悠人は飛び上がる。そのまま壁を蹴ってさらに飛び上がりつつライフルの設定を変える。
「これで、どうだ!」
ライフルの引き金をひくと散弾が吐き出された。地上にいた上位の魔物が散弾によって穴だらけにされる。
「装甲が9%損傷。エネルギーバイパスは二ヶ所か。出力20%低下。仕方ない」
悠人はブースターを全開にして飛び上がる。そして、スラスターを展開してホバリングに移った。
「ムックさん、ムックさん」
『なんじゃ坊主?』
すぐさま通信を開いて悠人は機体の整備士に話しかける。
「ダークエルフの出撃は可能ですか?」
『大丈夫だ。後は坊主が乗るだけさ』
「ありがとうございます。今からそっちに向かいます」
機体を傾けてブースターを全開にする。パワードスーツは一気に加速して避難所区域があっという間に見えた。もちろん、避難所区域の中央にあるメンテナンスドックも。
悠人がホッと一息吐いた瞬間、何か嫌な予感が駆け抜ける。そして、悠人は振り返った。向こう側、山の麓近くで胸騒ぎがする。
パワードスーツの視界を拡大して悠人はその場所を見た。そこには、巨大な魔術陣。ただ、攻撃用のものじゃない。召喚用。
「アル・アジフさん!」
悠人はすかさずアル・アジフに通信を開き、見たデータを直接送りつけた。
『これは、くっ。悠人、ダークエルフで向かうのじゃ。おそらく、ドラゴンが来る!』
アル・アジフからの声に悠人はパワードスーツを加速させた。そのままメンテナンスドックに到着する。
「坊主、かなりやられたな」
「ごめんなさい。でも、今は緊急なんだ。すぐにダークエルフを出すから」
「おいおい、そこまで急がなくても」
だが、周囲のざわめき、いや、絶叫が整備士の声を遮った。二人がそっちを向くと、そこにいるのは高さ20mほどにもなるドラゴンが二体いた。
悠人はスラスターを操作してメンテナンスドックに入り込む。
メンテナンスドックの中にあったのは体育座りに近い体勢で動きを止めている大きな人型の機械。フュリアスだ。
悠人はブースターを微かにつけて飛び上がり、ぽっかり開いた胸の部分に入り込んだ。
パワードスーツの足の部分が固定される。さらに、パワードスーツの一部が外れた。そして、コクピットが閉まり、悠人はレバーを握りしめる。
「ダークエルフ、発進するよ」
操作が今までとは違う。今までは足下にあるペダル二つによって操作していた。一つはブースターの操作ペダル。一つはスラスターの操作ペダル。だけど、ダークエルフはペダルは四つあるが、スラスターの操作のみ。凄まじく細かい操作が可能になる。
代わりに、ブースターを動かすのは右手のレバー。押したり引いたりすることで出力を上げることが出来る。
左手のレバーも動かすことが出来るが、これは少し種類が違う。
そうなると両手両足を動かすものは何なのかになるが、これは精神感応を最大まで使ったものにある。だから、ダークエルフのパイロットは頭で両手両足を動かしながらスラスターの操作やブースターの操作を行わないといけない。
ダークエルフが起き上がる。そして、自分の足で歩いた。
装甲は完全に真っ黒。背中には二つのメインブースターと四つのサブブースター。特徴的なのは腕にある巨大なデバイスと腰のベルト。ベルトにはいくつもの長方形がある。エネルギーバッテリーだ。
「最大稼働時間は2時間53分。前より2時間半伸びてる。腰のバッテリーかな。でも、ありがたいよ」
悠人は目を瞑った。そして、精神感応を完全にリンクさせる。
視界に映るのはこちらに向かって来るドラゴン。速度はそこそこ。一体だけだ。もう一体は別の場所に向かって、あっ、頭が落ちた。何が起きたかわからないけど、ドラゴンは一体だけ。
「いくよ」
悠人はダークエルフを飛び上がらせた。まずは普通にジャンプして、そして、ブースターの出力を上げる。街中で戦闘をすれば被害がかなり出る。なら、外れればいい。
ドラゴンがいる場所はまだ住宅地に入っていない。だから、悠人は虚空からライフルを取り出した。それだけで稼働時間が30秒ほど減少する。二つなら1分の減少。
ダークエルフがライフルをドラゴンに向けて引き金を引く。だが、放たれたエネルギー弾はドラゴンの皮膚に弾かれた。でも、それで十分。
「こっちだよ」
ブースターを最大まで起動させてドラゴンを住宅地から離れさせるように動かす。ちょうど、最初に攻撃したダークエルフをドラゴンは狙っているようだった。
ドラゴンの口から開くと同時に魔術陣が展開される。ダークエルフは振り返りながらスラスターを使って着地した。
ドラゴンが魔術を放つ。様々な大きさの炎弾だ。ダークエルフは虚空から取り出した盾で炎弾を受け止めた。
「っつ、威力が高いね」
悠人は受け止めた衝撃に冷や汗をかきながら左のレバーを動かす。そして、ライフルの引き金を引いた。
放たれたエネルギー弾がドラゴンの翼を貫く。ドラゴンはそのまま地面に落ちた。
「今の状況で最大威力の武器は、よし」
悠人は新たな武器を取り出す。ライフルと盾を戻し、取り出したのがガトリング砲。魔力の使用率が高く、期待するほどの戦果が見いだせないとしてぽんこつ扱いされた武器。
だが、ダークエルフが取り出したガトリング砲はたくさんのエネルギーバッテリーがついていた。だから、使える。しかし、ダークエルフはガトリング砲の引き金を引けなかった。
ドラゴンがまるでトカゲのようにダークエルフに飛びかかる。ダークエルフはガトリング砲を放り投げてドラゴンの体を受け止めた。
ダークエルフの大きさは18m級。ドラゴンと比べれば明らかに小さい。だから、のしかかりにはかなり不利だ。
さらにドラゴンはダークエルフの肩に噛みつこうとしている。悠人はなんとか食い止めているがこのままでは危ない。
「負けて、たまるか!」
ダークエルフがドラゴンの腹を蹴り上げた。もちろん、スラスター全開で。ドラゴンの体が浮かび上がり、ダークエルフは回し蹴りでさらにドラゴンを蹴り飛ばす。
そのまま後ろに下がって放り投げたガトリング砲を構えた。引き金を引く。
凄まじい勢いでエネルギー弾がドラゴンに叩き込まれていく。だが、2秒ほどでガトリング砲は止まった。エネルギー切れだ。
「うん。どう足掻いても使えないね」
ガトリング砲を提案したのは悠人だったため少し悲しい気分になっていた。でも、戦いはまだ終わっていない。
「早く避難所区域に戻らないと。他の大型が出た場合は」
悠人がダークエルフを歩かせ、避難所区域に向かって飛ぼうとした瞬間、激しい衝撃が悠人を襲った。前方には何もない。だから、後方のカメラを見ると、そこにいたのは体中傷だらけのドラゴンだった。
ドラゴンが勢いよく体当たりをしてダークエルフは吹き飛ばされる。
「くっ」
すかさず手をつき飛び上がって着地をした。だが、今の衝撃でブースターの一部が故障した可能性がある。
「あれで死なないのか。さすがドラゴンかな。でも、僕は負けるわけにはいかないんだ!」
飛びかかってきたドラゴンに対し、悠人はブースターを全開にしてドラゴンとぶつかった。凄まじい衝撃に悠人の体が揺さぶられる。でも、ダークエルフはドラゴンを吹き飛ばしていた。
「これで」
虚空から武器を取り出す。巨大な剣。対戦艦用の剣だ。ダークエルフはそれを振り上げた。
「終わりだ!」
対艦剣がドラゴンの体を両断する。
悠人は乱れた息を整えていく。稼働時間は後2時間弱。ちょっとの間しか戦闘をしていないのに消費が激しい。
「これだと、30分しか持たないね」
悠人は小さく笑って避難所区域に向かってダークエルフを飛ばした。
ペダル4つなんて操作出来るわけがないと思いますが、悠人だけが使えます。それ以外のフュリアスはもっと優しい操作方法です。




