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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第八十八話 狭間市の長い一日 始まり

前半の最終決戦が始まります。

エレノアはゆっくり立ち上がった。そして、周囲に控えている配下に向かって尋ねる。


「クラリーネは?」


「街とは反対側の方向でシグナルロスト。数人向かわせましたが同じように報告が途絶えました。一瞬でなくなったことから相手はかなりの実力かと」


「そうか。なら、仕方ない。今宵、余達は世界を統べるための行動を開始する。だが、『GF』は余達が送った分を無視して増援を送ってきた。これより、狭間の街に攻撃を加える。躊躇する必要はない。滅ぼし、壊しつくせ。指揮はクラインに任せる」


「はっ」


クラインが頭を下げながらにやりと笑みを浮かべる。


「結界を解け。そして、進軍しろ!」


『おぉーっ!!』


貴族派たちの声が狭間市に響いた。






浩平がライフルのスコープから目を離した。今、結界が消えて浩平の視界に都の姿が映る。


「リース、起きろ」


浩平はすばやく横にいたリースに声をかけた。リースはすぐに目を覚まして浩平の横から身を乗りださせた。確かに、リースの視力でも山の中間部が見えるようになっている。


浩平はライフルに特殊弾頭を詰め込むとそれを空に向かって打ち上げた。


特殊弾頭はひゅるひゅると高い音を上げて大きな音で爆発した。


「ついに始まったか。リース、気合い入れて行けよ。絶対に住民に被害は出させないからな」






「始まったか」


アル・アジフは病院の屋上から上がる特殊弾頭を見ながら呟いた。近くには『ES』のメンバーが半分近く集合している。隣にはパワードスーツを着込んだアル・アジフの姿。


アル・アジフは一回深呼吸をして面々の顔を見つめた。


「我ら『ES』はこれより『GF』と共同戦線をとる。今回の敵は利益に目をくらんだ『ES』過激派ではない。魔界の貴族派じゃ。我らは、狭間市の皆を守るために戦う。勝利条件は誰も死なないこと。死なせないこと。犠牲になることも許さぬ。それが、今回の勝利条件じゃ。我ら『ES』の力を『GF』に見せてやれ!」






「始まったね」


音姫は静かにそう言った。すでに第76移動隊の突撃部隊は狭間市の中心にある広場前に集まっていた。ここから目的地まで一直線。実にわかりやすい。


音姫が身につけているのは光輝。最初から全力であることの証。


そして、第76移動隊の突撃部隊全員はいつもと服装が違っていた。魔力によって編まれた服である戦闘服。孝治と悠聖以外が黒と白の戦闘服を身につけている。孝治は全て真っ黒で悠聖は真っ青だ。


「光、大丈夫か?」


孝治はそばにいる光に尋ねていた。光は小さく頷いてレーヴァテインを握りしめる。


「大丈夫や。今回の作戦はうちらがキーポイントやしな」


孝治と光の二人は空からの援護射撃と空の敵の清掃。最悪の場合、光が囮になることが決まっている。


「ああ」


孝治はそう言って腰のポーチの中にあるエネルギー体の数を確認する。ポーチの中にあるのは単三電池の数は約100。その内の3つを孝治は黒い剣の柄につけた。


「キーポイントね。というか、オレの活躍をみんな見ておけよ」


悠聖はにやりと笑みを浮かべる。実際に、悠聖がこの狭間市に来てからほとんど活躍していない。


確かに能力は強力はだが、使えば鬼を呼び寄せるため使えなかった。


『大丈夫。周さんも私もみんな実力は知っているから』


亜紗がスケッチブックを捲り、悠聖を慰める。だけど、首を傾げたのは由姫だった。


「悠聖さんは強いんですか?」


「そりゃ強い、はずだと思う。うん、自分でもわかんね」


そう言って悠聖は笑った。笑ってデバイスである指輪を見つめる。


「強い弱いの問題じゃない。自分の意志でやるかやらない」


悠聖は拳を握りしめながら言う。


「それだけだ。自分が後悔しない道なら、例え死んでも悔いはない。まあ、死ぬわけにはいかないよな」



そう言って悠聖が見るのは微かに見える病院の屋上。孝治は頷いた。


「行くぞ。周に顔向け出来ない戦果は作る気はない。第76移動隊出撃」






その頃、周の病室内はすごいことになっていた。周の病室は個室であるため窓は完全に開いたままである。そこの近くでは病人が退避していた。


「うへっ、臭い」


周が眠るベッドの近くで鼻を摘みながら七葉が言う。七葉が言っているものは琴美の手の中に握られていた。


ほぼ黒に近いドロドロの液体。


琴美が配合した薬らしい。ただ、今回のは特別性。


「琴美さん、これ、周兄は死なないよね?」


その言葉に琴美は全力で顔を逸らした。


とりあえず、漢方やら独自の薬草やら家にあるありとあらゆりものを配合した上に、気つけ薬としての成分を入れて完成したもの。滋養強壮の効果があるものもバカみたいに入っているため時間が経てば即戦力として戦える可能性がある。ただ、


「それに、どうして2Lくらい作っているのかな?」


琴美の額に汗が流れていた。


量が凄まじい上に色が真っ黒で臭いがヤバい。これでマズくなければおかしいとしか思えない。


「体にはいいわよ。体には」


「ちなみに、材料は?」


「聞きたい」


「止めておきます」


多分、聞いたら七葉は全力で止めていただろう。何故なら、地味に毒まで入れてある。もちろん、致死量なんてほど遠いくらい少ない。


「都を助けるには起きてもらうしかないわ。だから、恨まれても構わない」


「ある意味叩き起こすより凶悪かも」


琴美はそれを別の容器に移し替えると、そのまま周の口の中に突っ込んだ。


周は無意識のまま喉を動かし、そして、吹き出した。


「ぶほっ」


シーツやら壁やらに黒い物体がへばりつく。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。悪夢だ。悪夢を見てた」


「周兄!」


起き上がった周に七葉は飛びついた。周はわけもわからず七葉を受け止める。


「あがっ」


そして、痛みのあまり悶絶した。


診断はされていないが、周の体にはいたるところにひびが入っている。『強制結合』でくっつけているだけだが、痛みまでは隠せない。


「周兄?」


「すまん。離れてくれ」


脂汗をかきながら周は七葉をゆっくり離した。その時にようやく現状を理解する。


「状況は?」


「今さっき、貴族派の侵攻があったよ。みんなは貴族派の儀式場に突入している」


「音姉が援軍を要請したか。突撃ってことは貴族派の面々と鬼を倒すつもりだな。突撃する場所はおそらく中央から。空からの爆撃をしつつ囮を出して儀式場に到着。アル・アジフ達『ES』面々は市民の護衛。違うか?」


「あなた、本当に今まで寝ていたの?」


確かにそう言われかねん言葉だった。まるで、今まで全てを理解していたかのように。


「推測しただけだ」


「そう言えば、あなたの異名に『絶対必中の占い師』というものがあったわね」


「否定はしない」


ちなみに、それは裏業界で使われることで、意味は、海道周が相手にいるなら普通に戦え。そっちの方が被害が少ない。というものだ。


簡単に言うなら状況がどうなるかを推測するのが得意ということになる。


「そうだとしたら、行かないとな」


「周兄、今まで意識が無かったんだよ。それなのに」


周は近くにあった薬の入った容器を掴む。


「効果は?」


「滋養強壮。痛み止め。気つけ」


「完璧」


周はそれを一気にあおった。もちろん、一瞬で青くなるのはご愛嬌。でも、周は必死に中身を飲みきり、そして、口を離した。


七葉も琴美もポカンとしてそれを見つめ、周は一回だけ吐き出しそうになりながらも息を整える。


「マズい。苦い。飲み物じゃねえ。薬でもねえ」


周の顔は真っ青だが周はレヴァンティンを掴んだ。レヴァンティンがそれに反応して剣を形取る。


「七葉は防衛に参加してくれ。クラインの『影写し』に対して最も効果的な武器は頸線だからな」


「うん。でも、周兄は大丈夫?」


周はレヴァンティンを腰に身につけた。


「戦闘服、リロード」


周の服装が変わる。色は青色。だけど、白い部分も多い。


「みんなが頑張っているのにオレだけ戦わないのは嫌だ。それに、都は待っている。オレ達を」


オレは息を吐いた。


「待ってろよ、狭間の鬼。お前はオレがぶっ潰す」


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