第八十七話 アル・アジフの考え
アル・アジフの目の前には巨大なコンテナがある。大きさは大体20m弱ほどの大きさだ。
先ほど、ここまで輸送された。費用はかなりかかったがそれに応じた戦果は出るであろう。
「対魔物に使えるかどうかじゃな」
アル・アジフはコンテナを見上げながら言う。コンテナの中身はある意味データ採集のためだ。そうでなければこれほど強力なものは使わない。
「これが、第三世代型フュリアスですか?」
その言葉にアル・アジフは振り返った。そこにいるのは愛佳と刹那の二人組である。
愛佳達がアル・アジフの横に立ち止まる。
「そうじゃ。第三世代型フュリアス『ダークエルフ』。フュリアスの中で実戦配備する初号機じゃ」
「これが噂のフュリアスッスか。噂のパイロット君はどこッスか?」
「もう寝ておる」
そう言ってアル・アジフは空を見上げた。そこに輝いている月を愛佳と刹那も見上げる。
アル・アジフは小さく息を吐いた。
「明日、じゃな」
「そうッスね。日本で起きる戦いの中ではかなり大規模な戦いになるッスよ。『GF』、『ES』、そして、魔界。三勢力が戦うのは初めてではないッスか?」
確かに歴史上この三勢力が同時に戦ったことはない。実際は『GF』と『ES』が出来たものの、それから魔界からの侵攻がないだけだ。魔界も勝てる勝算の無い戦いはやらない。
アル・アジフは小さく息を吐いた。
「本当なら、こんなものは使いたくなかったのじゃがの」
「そういうもんッスかね。まあ、身内が戦っているのでどうこうは言えませんが。でも、第三世代型。『ES』で極秘裏に試験がされている第二世代型を差し置いて実戦投入ッスか。ある意味凄いッスね」
アル・アジフからすればそのことの方が驚いてしまう。確かに、第二世代型フュリアスが完成していることは知る人は知る。だけど、試験が行われているのはとある地下にある訓練場であり、その事実を知る者は本当に一握りしかいない。
アル・アジフの視線に気づいた刹那が小さく笑みを浮かべた。
「自分の独自ルートッス。一応、これでも『雷帝』と呼ばれる身ですから」
そう言って刹那は肩をすくめた。
アル・アジフはまたため息をつく。
「おそらく、そなたが知るフュリアスとは機動性が桁違いじゃぞ。ただ、パイロットが本当に限られてくる」
「そうですね。精神感応システムに適応した人物で、かなりの反射神経を持つ人物。この街で適合するなら海道周ただ一人」
「悠人の場合は才能じゃ。機体動作から細かな作業まで間違うことなく手足のようにやりおる。それが、フュリアス、いや、パワードスーツを使っていてどれだけ難しいかも理解しておらぬ」
パワードスーツを使う場合、最大の弱点となるのがその機動性だ。防御力や攻撃力はけた違いに上がる可能性もあるが、機動性だけはどうにもならない。今のところ、試験運用がされているのは砂漠や草原など広大な面積を誇る場所。つまり、一番の防衛戦で重要となる街中での戦いでは細かな制御が出来ず使用できない。しかし、それは乗る人によって完全に化ける。
「我の考えでは、悠人は全て感覚で操っておる。それがなんであれ、天性の才能としか言えぬ。あの初期型パワードスーツで『ES』過激派主力部隊を全滅できるわけがない」
あの時の戦いをアル・アジフはしっかり見ていた。
はっきり言ってどこかの物語にあるチート主人公とでも言うべき機動性だった。そして、それを軽々と操ったのは乗ってから時間の経っていない子供。だから、アル・アジフは悠人専用のパワードスーツとフュリアスをオーバーテクノロジーを駆使して作り出した。
「我は悠人に希望を見つけたのじゃ。そなたらが周に希望を見つけたように、悠人なら、今の世界でたくさんの人を救う主人公になれる。我の勝手な妄想じゃがな。でも、周や悠人を見ていて思うのじゃ。我の役目はそろそろ終わりではないかと」
「アル・アジフは、やることを成し遂げたと思うのですか?」
「どうじゃろ。でも、我が夢見る世界は周の夢見る世界と似ておるはずじゃ。誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うこと。昔、我が出来なかったことを、周はしようとしている。そのために強くなっている。そなたらは知っておるか? 周の友好関係を」
二人は首を横に振った。それはそうだ。知っていたら驚くだろう。
「我が調べた限り、主要な国家の人物と知り合いじゃ。もちろん、『GF』内を通してや、それぞれの国家の若手実力者を通して絆を深めておる。周はやろうとしているのじゃ。不可能と思えるような夢を、それを現実のものにするために」
「子供の頃にある夢に似ていると言えば全て済みますが、彼が目指すスタイルは器用貧乏ではなく『完全無欠の万能』とするなら現実味が出ていますね。でも、それは」
「難しい。本当に難しいことじゃ。でも、そんな未来を目指しても我は良いと思うのじゃ」
空を見上げるアル・アジフの顔がほんのり赤くなっていることに愛佳はクスッと笑った。
「もしかして、恋、したとか?」
その言葉にアル・アジフの顔が真っ赤に染まる。言った本人すらそんなことが起きるとは思っていなかったのか呆然としていた。
アル・アジフは落ち着かない動作で愛佳を見ている。
「そ、そんなことはないぞ。わ、我はまだ誰にも恋したことはない。だから違うのじゃ。そこ! 腹を抱えて笑うな!」
笑い転げている刹那に向かってアル・アジフは魔術書を開いた。
夜は深まっていく。決戦の日を待ち遠しいという風に。
次から始まります。
新たな未来を求めての前半最終決戦です。




