第五十六話 準備
戦闘準備ではなく入学準備です
明日。それは特別な日だ。そう、本当に特別な日。人生で一回しかない特別な、
中学校の入学式。
だから、オレ達はその準備をしていた。正確には制服の採寸など。
「なんでこんな切羽詰まった状態で採寸なのか説明を求める」
浩平はかなり不満そうだった。というか、お前もオレが昨日気付くまで忘れていたよな。
そう。遅れた理由は完全に忘れていたから。ちなみに、女子全員採寸はすませてあり、オレらが採寸するついでに制服を取りに来たのだ。
「どうせ、夏になったら学校が変わるんだろ。俺らがここのを買う理由はあるのか?」
「だから、学園都市でも使っている制服を作ってもらうんだ。忘れていたことはオレの責任だから何も言い返せないけどな」
「くっくっくっ、ついに周が俺より馬鹿になったか」
「周は元からだ。ただし、馬鹿と天才は紙一重というレベルだ」
「見方を変えれば天才になるのが周隊長の凄いところだな」
「あれ? なんか四面楚歌じゃね?」
「大丈夫だ。問題ない」
「周! 問題しかねえだろが!」
浩平が喚いているがオレはそれを無視して採寸をする。そう、自分達で採寸する。
採寸したものはデバイスから業者に依頼が転送され、すぐに作り始めてくれるようにしている。
「で、明日には来んのか? そこのとこだけはっきりしてくれよな。業者と言っても一日で作るのは可能だとしても、他に仕事があるだろ」
「来るぜ。頼んだ業者はSSだからな」
オレの回答に浩平は固まった。孝治や悠聖なら知っているだろうが浩平は知らない。
SSは通称で株式会社エンターが展開する衣料品関連の言い方だ。エンターの中で里宮家と白百合家の二つが協力して設立した部門。だから、SSと呼ばれている。
「どんな繋がりがあんだ?」
「SS部長に白百合雅也、オレの義理の父親がいるからだよ」
そのため、料金は少し高くなるが即日で作ってもらえるように依頼したのだ。ただ、受け取りに行かないとダメだが。
ちょうど、音姉と由姫が家に帰っているので、戻ってくる時に持って来てくれるようになっている。
「SSだしな、不思議じゃねえな。つか、採寸は業者に頼めないのかよ」
「そんな金あるか」
正規部隊だから『GF』からの入金があるとは言え、そこから学費やら色々払わないといけない。おかげでお金は常にピンチだ。
一番の理由はデバイスのメンテナンスを業者に任しているからだけど。
戦闘で使うデバイスはその安全上、月一でメンテナンスに出さないといけない。料金は一回で一人11万5000円。もちろん税15%込み。
業者は業者で登録料やらその他もろもろでかなりお金を必要とするから業者だけが儲かるシステムではない。
ちなみに、制服の依頼だけで会計は赤くなっている。後一人増えたら正規隊員が二桁になるから入金はかなり増える。今は無理だけど。
「そんなに金ピンチなのかよ。つか、俺らが注文する備品とかどうなってんだ?」
「給料から天引きに決まってるだろ。大体、この人数でここまで金を使う正規部隊は少ないぜ」
「だろうな。だが、問題ない」
「孝治は問題ないとか言うけどさ、周隊長はどう思ってるんだ?」
「部隊のお金に関してはマズいな」
お金に関してはかなりマズい。どれだけマズいか言ったらこのまま行くと赤が膨れ上がるくらいマズい。
まあ、オレのポケットマネーやら悠聖のポケットマネーやら使えば十年くらいは持つけど。
「まあ、今回中の任務じゃ問題にはしないさ。さて、採寸終了」
オレは全員分の採寸をレヴァンティンを繋げた記録デバイスに打ち込んだ。それをレヴァンティンで使って転送する。
これで、夜には来るだろう。
「さて、ちょっとやってみるか」
オレはレヴァンティンを外して手のひらに置いた。
「モードⅡ」
オレがそう言いながらレヴァンティンを取り出した。だが、形は剣ではない。槍だ。
「よし。成功だな」
「あれ? 周隊長の武器って剣じゃなかったか?」
「モードⅠはな。基礎部分はそのままにしてパーツを取り出してから組み立てるように変えてみたんだ。おかげで、デバイス二個を繋げているけど」
オレは槍になったレヴァンティンを見せた。
槍の柄の部分にはレヴァンティンとただのデバイスが繋げられている。こうしないとこういうものは出来なかった。
レヴァンティンを戦闘特化。デバイスを構成特化。これでようやくこの理論が出来上がった。
「双剣を練習していたのはこういう理由か」
「そういうこと。まあ、モードⅡまでしか無いけど。モードⅠ」
レヴァンティンが槍から剣に戻る。
「周隊長は小手先に走るか。まあ、周隊長らしいな」
器用貧乏が入った異名を持つオレからすれば大量の武器形式を使える方が器用貧乏らしい。
オレはレヴァンティンをデバイスに戻した。もう一個のデバイスは収納している。
「あらゆる状況下でそれに合った戦い方をする。自分が出来る範囲で、みんなの力を借りて」
「変わったな」
孝治が笑みを浮かべながら言う。
「お前は今まで自分が頑張らないといけない。そう考えて切羽詰まっていた。あんまりわからなかったがな。だが、今ではみんなの力を借りてか。いつか、オレが抜かされる日が来るかもな」
「絶対に追い抜かしてやるよ。第76移動隊隊長として、負けられん」
「期待している」
オレは笑みを浮かべた。
「さあ、訓練に行くぞ。今日は軽めに行くから安心しとけよ」
「周隊長の軽めは軽くないからな」
「あるある。手加減してくれよな。本当に」
「それが周だ」
オレは小さく溜息をついた。
「とっとと行くぞ」
学校始まります。