第五十五話 新たな力
音姉の持つ真新しい刀をオレの腕は弾いた。そのままレヴァンティンを振り切る。しかし、その場に音姉はいない。
「今のでも抜けないんだ」
音姉は感心したようにオレが纏う『天空の羽衣』を見ていた。
オレが持つレアスキル『天空の羽衣』。能力は限定的絶対防御。絶対防御という響きはいいが、絶対防御としては欠陥品である。
理由としては魔術は素通り。
絶対防御として発揮するのは通常の武器からの攻撃に対してのみで、魔術に対しては空気のように素通りする。つまり、乱戦では全く使えない。
だからと言って、ひたすら近接していてもいいというものじゃない。
音姉が地面を蹴る。
オレはレヴァンティンを構えた。あの動きから来るのは紫電一閃。だから、オレはその動きを見切り音姉の紫電一閃を受け流した。
だが、音姉の体は回転している。
オレは素早くレヴァンティンで音姉が振り下ろした刀を弾いた。
白百合流の怖いところだ。例え受け流しても、その力すら利用して次の技を繋げる。
雲散霧消を終えた音姉は一歩を踏み出して刀で地面をえぐる。
オレはとっさに後ろに下がった。オレの『天空の羽衣』をかするように音姉の刀が振り上げられる。
白百合流姿返し『無常の太刀』。
ちなみに、まともに食らえばあらゆる防御魔術を砕かれる。もちろん、紙のようにスパッとだ。
オレはさらに後ろに下がった。この次に来るのはわかっている。
白百合流燕返し『無名の太刀』。
無常の太刀で倒せなかった相手を追い討ちとして叩きつける奥義。ちなみに、威力は無常の太刀よりも高い。
オレはどちらも回避して息を吐いた。
「音姉、本気だよな」
「練習かな。連撃の」
練習だけで一撃撃破が基本の技を放たないで欲しい。
音姉は刀を鞘に収めた。オレもレヴァンティンを鞘に収める。
「行くよ」
そして、音姉が地面を蹴る。
最初に来るのは紫電一閃。オレもまるで鏡の動きをするかのように紫電一閃を放った。
だけど、レヴァンティンが大きく弾かれる。
弾かれた技を利用して回転しながらの振り下ろしである雲散霧消を放つが、音姉が放った紫電逆閃とぶつかり、オレの体が少し後ろに下がった。正確には地面を滑った。
紫電逆閃でぶつかったレヴァンティンを握る手が痺れている。だが、音姉は止まらない。
音姉はそのまま無常の太刀を放ってきた。痺れる手で刀の軌道をそらすが、レヴァンティンは空に弾かれる。
オレは後ろに下がった。
『天空の羽衣』をかするように音姉の刀が動く。だが、無名の太刀ではない。
白百合流鞘戻し『楓残月』。
威力は低いが鞘に戻すための攻撃。
オレは後ろに下がった足を止め、一気に前に出ようとする。
音姉は腰をひねり、柄を握りしめた。
そして、鞘から刀が抜かれる。
その瞬間、二十もの剣閃がオレに襲いかかっていた。
音姉の横を駆け抜けようとしたオレに鬼払いが直撃する。だが、衝撃はほとんど『天空の羽衣』に吸収され、『天空の羽衣』が消えた。そして、オレと音姉の動きも止まる。
オレは音姉の鳩尾に下から肘を叩き込み、浮き上がった瞬間に手を取って背負い投げた。
音姉が何が起きたかわからないとでもいうかのように呆然としながらオレを見ていた。
「これが『天空の羽衣』だ」
「そっか。ライフがあるんだ」
「その言い方はどうかと思うけどな」
オレは手を引いて音姉を起こした。
音姉の言うようにライフというかダメージ上限がある。どれくらいが上限かわからないが、一定ダメージを超えると副作用と共に消える。
オレは『天空の羽衣』を展開してみるが、効果は発動しない。
「消えたら使えなくなるみたいだ」
「どれくらい?」
「さあ。やったことないからな。まあ、効果は確認できた」
「力の消滅だね」
全ての運動エネルギーを消し去る副作用は地味に強い。自分が知っていれば対処出来るが、知らないなら対処することは難しい。急に動きが止まるからだ。
「チートじゃないかな」
「音姉に対しては有効だな。音姉に対しては」
音姉は魔術が使えないから音姉に対してはかなり使える。だが、魔術が出来るなら全く使えない。空気の壁と同じだ。まあ、それでも十分に強いけど。
アル・アジフやリースとの戦いだと確実に意味ないよな。
「弟くんに負けた。今まで一度も負けたことがなかったのに」
「相性が悪いから仕方ないと思う」
「新しい連撃を考えたのに」
「生身に使ったらダメだからな」
というか、いつの間にか鬼払いを簡単に使えるようになったんだ?
あの日まで五分の溜めが必要だと言っていたのに。
オレが小さく息を吐いてみんなの方を向くとぽかんとしながらみんな固まっていた。
「孝治、どうだった?」
「また、強くなったな」
「孝治。強いっていうレベルを超越してると思うんやけど」
中村が呆れたように言う。
まあ、物理攻撃に関しては絶対防御だからだけど。
「あれを破るにはどうすればいいかな? 悠兄はわかる?」
「さあ? 威力の高い攻撃を叩きつけまくるくらいか?」
「やべえな。周に勝てなくなった。リースは勝ち目あるか?」
「ある」
リースはおそらく『天空の羽衣』の特性についてよく知っているはずだから断言した。
アル・アジフは小さく笑っている。
「それが、そなたのレアスキルか」
「ああ。オレの新しい力だ」
「ふむ。これは強いの。リークする範囲は?」
「最後を除いて全て」
「兄さん、どういうことですか?」
由姫が不思議そうに首を傾げる。
「リークする、は確か、情報を流すということでしたよね。どうして隠すべきものを流すのですか?」
「簡単に言うなら意図的に情報を与えておくんだ。弱点を込みで。亜紗は気づいているよな」
亜紗は頷いてスケッチブックを開いた。
『相手はその弱点を攻めてくる。でも、周さんならその程度は乗り越えれるからあえて誘導する』
「誘導することで相手の行動を制限する。制限することで相手の攻める幅を少なく出来るからな」
「我らは新たな情報を売ることが出来る。そなたらは敵を誘導出来る。見事じゃな」
「アル・アジフこそ、よくオレの企みがわかったな」
オレは笑って、真剣な表情に戻した。
「また鬼は現れると思う。貴族派も来ると思う。今度はオレ達が勝つ。だから、力を貸してくれ」
オレは拳を突き出した。みんなも同じように拳を突き出す。
これは『GF』の第一特務がよくやることだ。みんなの意識を高めるためのやり方。
「みんなは強い。だけど、オレは弱い。でも、みんながいるからオレは頑張れる。守ろう、この街を」
『了解』
みんなの声が重なった。




