第二十七話 意志と行動
これからの方針は決まった。
アル・アジフが狭間に干渉するための時間が必要だ。それまでの間に作戦を練らないといけない。もちろん、オレと亜紗のコンビネーションに関してではなく、援護射撃について。
そう、作戦を練らないといけないのにオレ達は、
「1のダブルで終わりだよ」
「また、俺が大貧民かよ。お前ら強すぎるぜ」
第76移動隊全員で大富豪を興じていた。地域によっては大貧民と言うところもあるらしいが、オレは大富豪と呼ぶ。
「つか、ありえないだろ。13戦連続で大富豪と大貧民が同じって」
ちなみにルールには都落ちという一位陥落システムがあるのだが、今の大富豪は強すぎた。
『そう?』
不思議そうに首を傾げながらスケッチブックを開く亜紗。そう、亜沙がずっと大富豪なのだ。オレは富豪か平民をぶらぶらしている。
「亜紗さんは運が良すぎます。兄さんが神がかり的な手札になったと思えば9のサルベージを最大限まで活用して圧倒しましたし」
ちなみに、オレ達がやっている大富豪は全ての札に効力がある。ローカルルールをひっくるめた大富豪とでも言った方がいいか。
9のサルベージは出した枚数だけ使った札から回収する効果。さっきはそれを使って圧倒された。
「そもそも、九人でやるようなものじゃねえだろが。これ」
全て大貧民の浩平が小さく溜息をつきながら言う。
人数が多ければ多いほどトランプで遊べるものは少なくなる。七並べではいきなり3ターンで三人がパスを使い切り破綻する結果になったし、ババ抜きは二十分ほど時間がかかった。
「むか。浩平から『夜と言えばトランプだろ』って言い出したんだよ。我慢すること。私は疲れたから降りるけど」
「言ってることと行為が違いませんかね! ったく、周、どうする?」
「何がだよ」
「これからだよ。そのための対策会議に出ていたんだろ」
「ここで振るのかよ」
対策会議が終わり、宿舎に戻ったオレ達を待っていたのはトランプで遊ぶこいつらで、話をする間もなく本気を出してプレイしたのだ。
結局、話すのが遅くなった。
「方向性としては鬼を封印する方向で行くことになった。作戦を言うなら、動きを止めたところに音姉が斬る作戦だ。ウノでもしないか?」
「賛成。でも、動きを止める役目は兄さんと誰ですか?」
「オレは確定なのか?」
「そりゃそうだろ。周隊長の実力はよく知っているからな。最強の器用貧乏さん」
まあ、変な説明をしなくて済む分ありがたいけど。
「オレと亜紗。孝治と中村が空中から鬼が飛ぶことを防いで他はアル・アジフ達の守り」
『わかった』
亜紗がすぐに頷いてくれる。
オレは由姫が取り出したウノを受け取りながら頷き返す。
「危険な役目だぞ」
『百も承知。それに、私が頑張らないと周さんが傷つく可能性があるなら尚更』
「亜紗ちゃん、弟くんの代わりに怪我をするのは止めてね」
音姉の言葉に亜紗は頷いた。
そう。こいつには前科がある。二年ほど前にオレを庇って大怪我をしたのだ。その時は処置を誤れば死ぬ可能性の高い怪我をオレが戦場において治療することになった。
そのことはオレも亜紗も覚えている。
『今の周さんは強い。本当に』
「止めてくれ。オレが強いのは先手必勝とバランスの高さだけだ。総合的には弱い」
『私が強いと思うのはメンタルの方』
亜紗がスケッチブックを捲りながらにっこり笑う。
『どんなに過酷な状況でも、笑って助けてくれる。私には到底真似出来ない』
「常に笑ってるって変な奴だよな」
かなり不気味だ。
というか、オレはそんな役回りなのか?
『周さんの強さはメンタルの強さ。剣技の腕は私より劣っていても、メンタルの強さに勝てない』
「オレはそんな風に振る舞っていないけど」
「それが弟くんのすごいところだよ。弟くんの本当の強さはみんな知っているから」
「そうだな。周の一番の強さは剣技の腕でも魔術の技術でもない。俺達を惹きつけるまでの意志の強さ」
音姉も孝治も次々に誉めてくれるがあまり信じることが出来ない。
人を信じれないという意味ではないが、自分の実力は前々から疑問視していたからでもある。
本気を出せない今ならそこまで人を惹きつけることは出来ないのではないかと。
「後は、行動力かな。周兄って時々、すごい行動力をするし」
「確かに。前にあったろ。アルタミラで犯罪者を追いかけていた時、周隊長は時雨総長がたじろいだ高さから飛び降りたこと」
そう言えば、そんなことあったような気がする。確か、あの後にレヴァンティンを見つけたんだよな。
あの時は必死だったから、怖いとは思わなかったけど。
『周さんの強さは意志と行動力。それがあるから、私は周さんを守りながら守ってもらえる』
「オレの強さね。家系を見る限り納得出来ない強さだな」
家系を見ると、自分の圧倒的な力で相手を抑えつけて勝つ奴らしか見当たらない。
オレってやっぱり特別なんだよな。
「兄さんは剣技も十分に強いと思いますよ。双剣の型なんてかなりの連撃が出来ていますし」
「双剣?」
音姉が不思議そうに首を傾げた。
当たり前だ。双剣なんて白百合流には存在しないし、オレが戦場で使っている姿を誰も見たことはない。
「これも周の隠し事の一つか」
孝治はたったそれだけで納得したようだ。納得しない人もいるけど。
「弟くんって確か、いろいろな武器の造形について勉強していたよね」
音姉が唐突にそう言った。
確かにオレは武器の造形について勉強している。とある理由から。
オレは悟られないように一応勉強する理由として公言している内容を言うことにした。
「デバイスの調整ができれば楽になるだろ? それが理由だ」
「うん。弟くんはそれもあって勉強していると思うけど、本当は新しいデバイスの使い方を見つけたんじゃないかって」
「どんな方法だよ」
「さあ」
そこで音姉は肩をすくめた。オレも肩をすくめて返す。
「双剣を練習する理由は左でも武器が扱えるようにだ。別に他意はない」
「それが弟くんのいいところだよね」
その言葉に部屋にいた全員が笑いながら頷く。
オレは小さく息を吐いて自分の手を見つめた。
「意志と行動、ね」
それがオレの強さなら、オレが認められ始めている証拠なのかもしれない。
オレは小さく笑みを浮かべて、こぶしを握り締めた。
設定を作っている自分でも思いますが、周は秘密が多いですね。